「待て、悪鬼ディオ・ブランドー! これ以上の狼藉、波紋の戦士として見過ごせぬッ!」
鋭い声と共に、一人の男が空中で体を独楽のように回転させながら急接近してきた。ダイアーだ。彼は着地するやいなや、手足を十字に交差させる独特の構えを取る。
「受けてみよ、攻防一体の必殺奥義! 稲妻十字空烈刃(サンダークロススプリットアタック)ッ!」
ダイアーの体から、激しい波紋の火花が散る。顔面を防御しつつ、鋭い手刀で相手を切り裂く、逃げ場のない一撃。
だが、対峙するディオの瞳は驚くほど冷めていた。彼は眉一つ動かさず、突進してくるダイアーの四肢の角度、そして波紋の波長を「計測」する。
「……なるほど。腕を組むことで防御を固め、同時に相手を誘い込むというわけか。だが、その関節の接合部……波紋が途切れる『空白のコンマ五秒』がある」
ディオは回避すらしない。
彼はダイアーの拳が鼻先に触れる寸前、自身の波紋の周波数をダイアーのそれと完全に「逆位相」に調整した。
「計算終了だ。……消えろ、鈍物」
ディオの指先が、ダイアーの「十字」の交差点に、パチンと弾くように触れた。
瞬間、ダイアーが全身に纏っていた波紋の輝きが、まるで鏡が割れるように霧散した。ディオの波紋が、ダイアーの生命エネルギーを物理的に「打ち消した」のだ。
「な……ッ!? 私の波紋が、相殺された……だと!?」
防御を失い、無防備に晒されたダイアーの胸元へ、ディオは容赦なく拳を叩き込もうとした。それは「打撃」ではなく、相手の細胞そのものを破裂させるための「共鳴」だ。
「死ね」
「待てい、ディオッ!」
激突の直前、横から割り込んだツェペリが、自らの波紋でディオの腕を無理やり逸らした。
ディオの拳から放たれた衝撃波は、ダイアーの横を通り抜け、背後の巨大な岩を粉塵も残さず消滅させた。
「……なっ、岩が……蒸発した……!?」
ダイアーは腰を抜かし、冷や汗を流して絶句した。
「ツェペリ、邪魔をするな。こいつは俺の計算を邪魔した『ノイズ』だ。消去して何が悪い」
ディオは不快そうに腕を振り払い、ツェペリを睨みつける。
「加減を覚えろと言ったはずだ、この馬鹿者がッ!」
ツェペリは肩で息をしながら、ディオを叱り飛ばした。
「ダイアーは味方だ! ジョナサンを止めるためにチベットから駆けつけた、ワシの学友なのだぞ!」
「味方だと? こいつの波紋の出力を見ろ。ジョジョの足元にも及ばん。……計算の邪魔になるだけだ、捨てていけ」
ディオの冷酷極まりない言葉に、ダイアーの隣に控えていた若き波紋使い、ストレイツォが戦慄する。
(……なんという男だ。悪を倒すための『勇気』ではなく、ただ効率のみで波紋を操っている……。ジョナサン・ジョースターが『白き虚無』なら、この男は『黄金の破壊』……。我らは、二つの怪物の間に立っているのか)
「……フン、次は間違えるなよ、師匠(マスター)」
ディオはダイアーを一瞥もせず、再び歩き出した。
「ジョジョの城が見えてきた。……あの『真っ白な悪夢』をぶち壊す数式は、もう俺の頭の中で完成している」
ストレイツォと、立ち上がれないダイアーを残し、ディオは黄金の火花を散らしながら闇の中へと消えていく。ツェペリは頭を抱えながら、ジョナサンの「慈愛」とディオの「冷徹」、どちらがより恐ろしいのか、答えを出せずにいた。
ディオたちの行く手を阻むのは、霧に包まれた巨大な城門。
そこには、伝説に謳われた「黒騎士」ブラフォードと「殺戮者」タルカス、そして彼らを慕う五十七人の騎士団が、生前よりもはるかに整然とした隊列で待ち構えていた。