Re:ゼロから始める異世界生活6章オットー同行if   作:樫ハット

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【1】再会

 ――都市プリステラを出た、ナツキ・スバル一行の竜車は、正午過ぎにロズワール邸に到着した。出発から十日ばかりを竜車に揺られ、まずは最初のチェックポイントに到着したというわけだ。

 

 この一行の目的地は、『賢者』シャウラとの話し合いを求めてアウグリア砂丘へ向かうことだ。その道行きの準備と、長旅の中継地点としての意味合いで、道中のロズワール邸へ立ち寄ることで話がまとまっていた。

 

 都市プリステラでの出来事や、『賢者』との話し合いに際しても、屋敷にいるであろう陣営の仲間と相談したいことが山ほどある。

 

 だが、スバルにとってロズワール邸に寄る理由はそれだけではなかった。眠り姫となったレムのことである。久しぶりに顔を見たいというのももちろん理由ではあるが、今回の旅の目的を考えればそれ以上の大きな意味がある。

 

 そんなことを考えながらたどり着いたロズワール邸で最初に出迎えてくれたのは──

 

「スバル!」

 

「おお、ペトラって、うおわ!?」

 

 客車を降りたスバルに、屋敷の方から駆けてきた小さなメイドが飛びついてくる。その勢いをスバルはなんとか受け止めると、優し気な笑みを浮かべ、腕の中の少女の頭を撫でる。

 

「いきなりだとびっくりするじゃねぇか、ペトラ。一ヶ月近く留守にしてたけど、元気にしてたか?」

 

「わたしは見た通り、元気にしてたよ? でも、スバル……様の方は大変だったんでしょ? 一昨日に手紙が届いて、ずっと心配してたんだから。またいっぱいケガしたんでしょ? 痛いの我慢してませんか?」

 

「こしょばいこしょばい」

 

 赤みがかった茶髪を揺らして、ペトラがぺたぺたとスバルの体を触って確かめる。その手つきにスバルが苦笑していると、他の面々も竜車から降りてきた。

 

「色々と込み入った事情もあるので、ナツキさんのことはまた後でじっくりお話しましょうか」

 

 スバルとペトラの会話を聞き付けたオットーが助け舟を出す。

 

「オットーさんも無事? ……じゃなさそうね」

 

 ペトラはオットーの足に巻きつけられた包帯と松葉杖を見て、心配そうに眉をひそめる。

 

 オットーはプリステラ防衛線の際、暴食の大罪司教ライ・バテンカイトスと会敵したものの、『白竜の鱗』の面々やフェルトやベアトリスと協力し、辛くも退けることに成功した。しかしその際に負った足への負傷は、本来この旅への同行を不可能にするはずだった。

 

「これでもフェリスさんに無理言って癒してもらったおかげでかなり良くなっているんですがね」

 

 同じく負傷が著しいガーフィールと合わせて周りが療養を勧める中、オットーは頑としてそれを拒んだ。そしてなんとかフェリスの協力を取り付け、最低限旅に同行可能な状態に持って行ったのだった。

 聞いた話では、切断面があまりに綺麗だったため、そこさえどうにかできれば後はフェリスでなくとも対処可能とのことだった。

 

「もっとも、道中エミリア様やベアトリス様に治癒魔法をかけていただかないと後遺症が残ると念を押されてはいますけどね」

 

 普段なら多くの人に借りを作ってしまうこのようなやり方はオットーの好むところではないはずだ。だが長旅とくれば、商人としての経験が必要になるはずだと譲らなかった。

 「それに、何か嫌な予感がするんですよね」、というオットーの発言は、スバルとしては当たってほしくないところだが。

 

「それより今はお客さんを優先した方が良さそうです」

 

 オットーが竜車の方に目を向け、次々降りてくる人々にペトラの意識を向けさせる。

 

「ほれ、ペトラ。ちゃんとお屋敷のメイドとしての役割を果たせ。じゃないと、ラムやらフレデリカやらに怒られるぞ」

 

「……はい。あとでお話、聞かせてね」

 

 戻って早々ではあるが、すっかりペトラの信用は損ねてしまったらしい。

 

 とはいえ元々結晶石を譲ってもらうための話し合いに出かけていったはずなのに、その先で都市全体を巻き込む騒ぎに巻き込まれたとあれば、ペトラの心配もさもありなんというものだ。

 

「お客様、長旅お疲れさまでした。当家でメイドをしております、ペトラ・レイテと申します。これよりお屋敷へご案内させていただきます」

 

 スバルとの抱擁を終えると、ペトラは何事もなかったかのように堂に入った仕草で口上を口にする。

 

 ユリウスと、彼に手を借りて竜車を降りたアナスタシアも感心した顔だ。心なしかエミリアとベアトリスは、自慢げな顔つきにも見えた。

 

 それからペトラとベアトリスの再会の抱擁も終わり、それからペトラが「では、ご案内します」と歩き出した。

 

「んじゃ、ようやく屋敷に……の前に」

 

 ペトラに少し待ってもらうように言い、スバルは竜車へと向き直る。そして竜車を引いて走った二頭の地竜の内、漆黒の美しい地竜の方に歩み寄る。

 

 スバルの愛竜であるパトラッシュだ。地竜はスバルと視線を合わせ、「ようやく私の気持ちがわかったかしら?」とでも言いたげな鳴き声を上げる。

 

「お前にもペトラと同じくらい心配かけてたんだよな。今あらためてそのことを思い知った気がするよ」

 

 魔女教防衛戦の終了後に地竜の厩舎に迎えにいったとき、パトラッシュの機嫌は悪かった。その場でなんとかなだめようとしたものの、結局どこか機嫌を損ねたままプリステラを発つことになったのだった。

 

 ロズワール邸への道中でもそれは続いた。スバルはてっきり、騒ぎの中でほったらかしにされて心細い思いをしてたのが不機嫌の理由かと思っていたのだが、それを話したところ尾のフルスイングをぶち込まれてしまったのだった。

 それを見て苦笑したオットーからこう言われた。

 

「ナツキさんは本当に鈍いですねえ。パトラッシュちゃんはいつでもナツキさんを心配してくれているっていうのに」

 

 パトラッシュは顎を撫でるオットーの発言に同意するかのように鳴き、スバルを睨んできた。だがスバルにはいまいちピンと来ていないのを見て取り、オットーはため息をつく。

 

「言われないとわからないようなのではっきり言ってあげます。パトラッシュちゃんはあの騒動の中でナツキさんの助けになれなかったこと、ナツキさんが助けを求めなかったことを怒っているんですよ。まあ助けられなかった自分への怒りの方が強いようでもありますが」

 

「なんなのそれ、どんだけヒロイン力上げてくるの、やめろよ」

 

 自分の気持ちがようやく伝わったことを理解したのか、パトラッシュは矛を収めてくれたように見えた。内心ホッとしたスバルが改めてパトラッシュと目を合わせようとするが、相変わらず地竜は顔を背ける。

 

「なんだよ、照れてるのか? 胸がときめくから、たまににしてくれ、パトラッシュ」

 

 声をかけ、おっかなびっくり手を伸ばすと、パトラッシュがようやく頭を下げ、その固い鱗に覆われた体に触らせてくれる。数日続いた冷戦は、どうにかこれで終わったと見てよさそうだった。

 

「もういい? もう大丈夫?」

 

「ええ、ナツキさんにちゃんと伝わったことをパトラッシュちゃんも理解していますよ」

 

そんな一幕があって、スバルとパトラッシュは再びよりを戻したのだった。

 

「おっといけねぇ、そろそろ戻らないとラム姉様にまた怒られて……」

 

 しばらくパトラッシュを撫でまわしていたスバルだったが、他の人たちを待たせていたことを思い出し、屋敷へ向き直ろうとしたときのことだった。

 

「――その心配ができるなら、あともう少し努力が足りなかったわね」

 

「ぴゃ――!?」

 

 屋敷の前庭にお客様を留まらせてしまいやきもきしていたペトラが、その声に悲鳴を上げて背筋を正す。振り返ったスバルの視線の先には、屋敷の方からやってくる桃色の髪のメイドがいた。

 疑いようも見間違えようもなく、ラムである。彼女はペトラを睨みつけて石像のように変えたあと、ゆっくりと客人やスバルたちの方を眺めて、

 

「最近はペトラも仕事ぶりが上達したと思っていたのに、ようやっと認められると思ったところでこの体たらく……ラムは本当に残念だわ」

 

「ご、ごめんなさい、ラム姉様……その、お仕事、認めてくれそうだったの?」

 

「ええ。ラムより料理もおいしいし、ラムより掃除も気が利くし、ラムより洗濯も上手になったし、ラムより早寝早起きだし、認めそうになっていたわ」

 

「そこはお前が自分に疑問を持てよ!」

 

 メイド歴一年ちょっとの少女に、ベテランメイドがどれだけ負けるのか。ペトラの呑み込みの良さを鑑みても、ハードルが低すぎて話にならない。

 

「はいはい、皆さんその辺りにしておきましょうか。そういう話は屋敷に入ってからでも遅くはありませんから」

 

 再会ついでのスバルとラムの気の置けないやりとりに苦笑しつつ、オットーが目的を再確認させる。

 

「そうね、いつまでもこんなところにお客様を放置しておいたらロズワール様に顔向けできないわ。無駄話はやめて早く屋敷に入るわよ」

 

「俺の記憶が正しければお前もその無駄話の参加者だった気がするんだが?」

 

 そうぼやきつつも、スバルは屋敷に入ることに同意する。これ以上ここに留まっていると、しまいにはフレデリカやロズワールまで顔を出しかねない。

 

「ロズワールはちゃんと屋敷にいてくれてる?」

 

 先導するように歩き出すラムが、ペトラの肩を叩いて硬直を解除する。その背中にエミリアが声をかけると、ラムは「はい」と振り返らずに応じた。

 

「幸い、手紙が届いた時点でお屋敷に御滞在でしたので、そのまま残っておいでです。プリステラのことの概要は手紙で……詳しくは積もる話もおありでしょう」

 

「そうね、ちょっと色々あったから……」

 

「色々あった、とはずいぶん控えめな表現ですね」

 

 松葉杖に頼りながら歩くオットーが口を挟むと、ラムはスバルたちをざっと見まわして言う。

 

「顔ぶれが変わっている上、見るからに負傷しているのもいるみたいですものね。――ガーフは死にましたか」

 

「死なすなよ! 死んでねぇよ! 負傷離脱で帰るの遅れてるだけだよ!」

 

 何をちょっと溜めていい声で言い出すのかと、スバルの突っ込みが裏返る。

 

「僕とガーフィールのことは一旦置いておいて、早速確認させていただきたいのですが、手紙が無事に届いていたということは……」

 

 スバルたちの出発に先駆けて、プリステラから屋敷へ送った手紙――その中にはスバルたちの帰還がただの帰還ではないこと、そしてこれからの動きのために必要な用意があることも書いてある。

 

「ええ、安心なさい。ロズワール様は御在宅……それから、『眠り姫』も『座敷牢』も、どちらも準備は整っているわ。もっとも」

 

 押し黙るスバルに、ラムはそこで言葉を切り、唇をそっと舌で舐める。

 赤い舌先が桃色の唇をどこか嫣然とした仕草で湿らせ、彼女は言った。

 

「どっちの準備も、ラムじゃなくてフレデリカとペトラの仕事だったけれどね」

 

「なんでそこでお前が自慢顔すんの?」

 

 ともあれ、一ヶ月ぶりの再会であっても、まぁ、彼女はそんなもんである。

 




【第1話での相違点】オットーと共にプリステラを発ち、ロズワール邸までの旅の間にパトラッシュと仲直りできた

今回の話はなろう版原作第六章1に相当しています。同じような展開はコピーを避けるため省いていますので、その部分は原作をご確認ください。
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