Re:ゼロから始める異世界生活6章オットー同行if   作:樫ハット

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今更ながら、本作には原作のネタバレが含まれます。
特にアニメで追っている方は、今回ネタバレ注意です。


※9話で餓馬王のいる部屋に別の出口が見当たらないと書いていましたが、原作を読み返したところ普通にありました。この辺り、構造を勘違いしていたので修正させていただきました。今回は修正後の9話に基づいて話を展開します。


【14】知恵比べの結末

 全会一致で分かれ道を左へ進むことになった、チーム『非戦闘員』。

 

 右の道へ進めば瘴気に呑まれ、殺し合いに発展する不和が生まれることは身をもってわかっている。それだけに、左の道を選ぶのは極々自然なことで、間違ってはいない。

 それはスバルにとって答えの出ている問答でもある。が、ならば左の道が安全策なのかといえばそういうわけでもないのだから出題者は意地が悪い。もしこれが自然にできた罠なのであれば、自然も意地が悪い。

 

 右の道が精神的な罠だとすれば、左の道に待ち構えるのは物理的な罠だ。

 あの炎を纏う異形の魔獣――ケンタウロスとの遭遇はできるなら避けたい。

 

 それは戦っても勝ち目が薄い、というわかりきった戦力差だけが問題ではない。今の心境で魔獣と遭遇したとき、心からここにいるメンバーたちと協力して戦うことができるかどうか、自分で自分に自信が持てないことが理由だ。

 

「実は砂丘で遠目にすげぇ魔獣を見たことがあってさ。パトラッシュみたいな体の首から上が人間の胴体になってて、その胴体の胸から腹にかけてでかい口が開いてる。んで、人の胴体の頭の部分はでかい角が生えてて……」

 

「えぇ、なにそれ……めっちゃ気持ち悪いやん……」

 

「正直、ひいたわ」

 

「そのような魔獣がいるとは……僕の知識にはありませんが」

 

 前回の魔獣話の流れを踏襲し、自然な展開でケンタウロスの生態の説明に入れた。それに対する女性陣二人――パトラッシュ含めて三名の嫌な反応はそのまま。オットーは自前の知識を参照するが、それらしい情報には思い当たらないらしい。

 スバルとて、好んで説明したいわけではない。それでも、左の道に進み続ける以上、奴との遭遇は七割方避けられないと考えるべきだった。

 

「ひかれるのは予想してたけど、とにかくヤバそうな奴なんだ。一応、ケンタウロスって勝手に呼ぶけど、見た目がキモイだけじゃなく、背中に生えてる鬣とかがメラメラ燃えてて……すげぇ強そうだった。控え目に言って、勝てなそう」

 

「なんでそんな魔獣、見つけてそのまま放置したの? 死にたいの?」

 

「ああ?」

 

 できるだけ感情を波立たせずに説明したが、普段通りのラムの軽口にすぐに怒りが込み上げる。わざわざ注意してやったのに何様なのか。

 いつも偉そうに人を見下して、と内心で憤懣が憎悪に変わりかけるのを感じ、スバルは大きく深呼吸。激情を静め、落ち着くのに躍起になる。

 

「クソ……! 最悪だ、この場所」

 

「難儀ね。ラムも比較的、言葉は選んでいるつもりだけど」

 

「今ので選んでるつもりなら、たぶん、何の足しにもならねぇよ」

 

 自分の感情を持て余すスバルに、ラムの声と視線が同情を帯びる。

 もっとも、その態度が哀れまれているようでますますスバルを苛立たせるのだから、まさに何をしても逆効果と言わざるをえなかった。

 

「今のナツキさんとラムさんは相性が悪い――」

 

「――――っ」

 

「パトラッシュちゃん?」

 

 パトラッシュが立ち止まったのに気づき、オットーが言葉を切る。

 地竜は進路を睨みつけ、目つきを厳しくしながら小さく唸る。オットーは足を止め、地竜をなだめようとする。

 

 立ち止まったスバルがカンテラを掲げながら、気づく。正面、通路は緩やかに左に向かって折れ、微かに風が吹いてくる。

 

 どこもかしこも変わり映えのしない砂の壁だが、そのいきなりな曲線と、漂う風に混じる『焦げ臭さ』には強烈に覚えがあった。パトラッシュが反応したのはそれだ。

 ここまで辿り着くのにかけた時間は、前々回に比べればいくらか早かったはずだ。それでも遭遇するからには、おそらくあの場所は魔獣の巣穴なのだろう。

 

「焦げ臭い、肉を焼いた臭いね」

 

 わずかに熱気を孕んだ風に、ラムが端的な感想をこぼす。

 

 焼きすぎなぐらいに火を通した、黒焦げの肉の臭いが通路の奥から流れている。

 

 この香りが、炊事に勤しむ誰かがいる証拠で、友好的に接触することが可能かもしれない――などと、無知だったとはいえよく考えられたものだ。むしろ、今よりそのときの方がよっぽど頭がおかしかったのではないだろうか。

 

「エミリア様たちが迂闊にも火を焚いて休息中……その線はあると思う?」

 

「否定はできませんが……あの話を聞いた後では」

 

 そう言ってオットーはスバルに目を向ける。

 まずいな、あまりにも都合の良いタイミングで知識を出したことで不審がられたか? これが原因で不和を招きかねない。むしろスバルがこの状況を手引きしたと勘繰りされても――

 

「ナツキさん、何か、例の魔獣について思い出せることはありますか?」

 

 また歪み始めたスバルの思考に、オットーが割り込み待ったをかける。

 そうだ、被害妄想に振り回されている場合じゃない。スバルは今おかしくなっているのだ。そんな思考に振り回されてやる必要なんてない。

 地上でもそうだった。ラムにエミリアにユリウスにオットーも、スバルが勘だと言ったことを真剣に受け止めてくれたじゃないか。スバルの方が疑心をもってどうする。

 

「……推測混じりだが、いくつか情報はある」

 

 迷いを振り切り、スバルは『死に戻り』で得た情報をできる限り伝えることにした。ある程度根拠がある発言になるようにカモフラージュを加えつつではあるが。

 

「遠目で見たところ、奴には頭がなかった。そして、目もなかった」

 

「なるほど、夜行性……というより洞窟性の生態をしている可能性が高いと」

 

「そうだ。話が早くて助かる。それでなんだが、奴は多分音で周囲を把握するんだと思う」

 

 これは前々回のスバルがその命をもって持ち帰った情報だ。最初、ケンタウロスがカンテラの光に反応する様子はなかった。こちらを捕捉したのは、スバルが声を上げてからだ。

 あの性格の悪い魔獣のことを思い出すと、それすらブラフではないかと疑いたくなるのは考えすぎだろうか。

 

「地下で穴を掘って生きてるような動物には、土を伝う振動で獲物の位置を把握するやつもいる。俺は、そこが勝機だと思う」

 

「つまりナツキくんは、音を出さんようにしたら出し抜けるて言いたいん?」

 

 アナスタシアはそう単純に行くものだろうかと否定的なニュアンスを込めてそう言った。その点についてはスバルも同意できる。ただ静かにしているだけでやり過ごせると思えるほど、スバルは気楽ではない。

 

「いや、正直それだけじゃ怪しいと思う。もっと目立つ音とかで気を引くのが現実的なんじゃないか? 音に敏感な奴なら、小さい足音とかでも見つけてくる可能性が高い」

 

 例えば手持ちの水の容器なんかをスバルたちと反対側に投げ込めば、しばらくはそちらに気を取られてくれるだろう。

 あとはオットーが持っている魔石なんかも有効だろう。攻撃に使ってもあの再生能力ですぐさま回復されてしまうことは既にわかっている。ならそれは陽動に使うのがこのチーム非戦闘員のやり方だろう。

そう思ってオットーに魔石の在庫を確認しようと顔を向けるが、先に口を開いたのはオットーの方だった。

 

「待ってください。僕はその作戦、危険だと思います」

 

「安全な方法なんてないのはわかってる。俺の地元でも虎穴に入らずんば虎子を得ずってことわざがあるくらいでな――」

 

「いえ、そういうことではありません。――問題は反響です」

 

「っ! そうだ! 俺はなんで忘れてたんだ!」

 

「洞窟性の動物、例えば蝙蝠なんかは、自ら発した音が跳ね返ってくるのを聞いて獲物や障害物との位置関係を把握します。つまり、こちらから音を出さなくても、相手が出してくる音でこちらの位置が知られるってことです」

 

 エコーロケーションまで思いついていたのに、スバルはその可能性を忘れていた。思いついた攻略法に飛びついてしまうのは悪い癖だ。

 前々回スバルが静かに後ずさりしたのに位置がバレて焼かれてしまったのも、おそらくそれが原因だろうと今になって気づく。ケンタウロスの咆哮と同時に、スバルの位置を把握されていたのだ。

 

「なら一体どうすれば……」

 

「一つ、僕に考えがあります」

 

「マジか! さすがオットー! うちの自慢の武闘派内政官!」

 

「ふざけてる場合ですか……まあ、考えはありますが、実行可能かどうかは実際に状況を見てみないとわかりませんね。それに、賭けの要素も大きいです」

 

 スバルのヨイショに呆れるように苦笑すると、オットーは顎に手を当て計算するように考えつつそう言った。

 

「結局うまくいかないアイディアでも、出すだけ出せば何かの役に立つかもしれねぇ。――オットー、その考えってやつを教えてくれ」

 

 スバルが頼み込むと、オットーは一つ頷き、その作戦を説明し始めた。

 

 

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 魔獣が巣くう大空洞の入り口で、一行はじっくりと機を伺う。

 勝負は一瞬。手元が狂えば失敗する。だが話し合って、一番可能性が高いと踏んだ案だ。

 魔獣は大空洞を我が物顔でゆったりと歩き回る。出口はここから見えている。

 

 そして魔獣がその出口から遠ざかったタイミングで――

 

「――――」

 

 スバルが無言でカンテラを持ち上げたのを合図とし、隣でオットーとラムとアナスタシアがそれぞれ魔石を投げ入れる。同時に、スバルたちは全員で大空洞の中へと走り出す。

 

「――――ッ!!」

 

 オットーとラムが投てきしたのは水の魔石。それぞれケンタウロスの下半身に当たり、ガラスが割れるような音とともに、奴の足を凍結させる。ケンタウロスは遅れてそれに気づき、怒りの絶叫を上げる。

 

「第一段階成功……!」

 

 とはいえ油断はできない。これはあくまでスバルたちの初動を有利にしただけ。凍結の効果も無限ではない。相手が動けないでいるうちに空洞の出口まで潜り込めれば理想だが……。

 

「嘘だろ!?」

 

 全力で走りながら横目でケンタウロスを確認していたスバルは度肝を抜かれた。

 

 ケンタウロスが自分を足を手に持った槍で切断した。

 

 直後ケンタウロスはバランスを崩すが、数瞬のうちに断面から泡立つように足が再生する。そして、走り抜けようとするスバルたちの方を頭のない胴体で睨みつける。

 ケンタウロスはそのまま残りの足を切断し、今にも飛び掛からんと一本目の足をジタバタと動かしている。

 

「ラム!」

 

「――フーラ!」

 

 前方、パトラッシュに乗ったまま先に出口までたどり着いたラムが、風の魔法を飛ばす。その軌道はスバルには見えないが、数秒の後、火の魔石を両断する。

 

「――――ッ!!」

 

 空洞が震えるような爆発音の直後、ケンタウロスから再び絶叫が上がる。何事かと振り返るが、そこには誰もいない。

そこにあったのは、アナスタシアが既に投げ込んでいた魔石だ。それに遠隔からマナの一撃で着火し、スバルたちの配置を誤認させる。

 

「――――ッ!!」

 

 魔獣は再び不快な鳴き声を上げ、そこにいるはずの何者かを探そうとするが、無駄だ。

 そうこうしているうちに、遅れてオットーとスバルも出口に滑り込む。

 

「っしゃ! 第二段階突破ぁ!」

 

「バルス、無駄口叩かないでさっさと走りなさい!」

 

「言われなくてもわかってる!」

 

 奇襲に次ぐ奇襲で、ケンタウロスの方は大混乱だろう。もっともその混乱の効果も間もなく終わりそうだ。

 ケンタウロスはまんまと出口まで逃げおおせたスバルたちに怒り狂い、その下半身の馬の脚力をもって地の果てまで追いかけようと向かってくる。

 

「こっちの準備はばっちりや。後は……」

 

「ああ、俺が合図したら、魔石に着火してくれ」

 

 スバルたちの立てた作戦名はずばり、「ケンタウロス封印作戦」だ。これは、どうにかしてスバルたちが通路に逃げ込み、入り口を火の魔石で爆破して塞いでしまうというものだ。

 砂が押し固められてできた柔らかい壁や天井は、火の魔石で容易に崩れる。それで入り口を崩落させれば、スバルたちはこのまま出口まで逃げおおせるという寸法だ。

 

 実際かなり危うい戦法だったが、なるべく静かに通り抜けようとするよりは可能性が高いと判断して採用した。実際成功させたのだから文句はない。それに、

 

「そもそも俺の体臭が魔獣を引き寄せちまう以上、静かに突破なんて無理な話だったんだ」

 

 スバルは直前まですっかり忘れていたが、『死に戻り』直後にスバルが発する『魔女の残り香』は強力な魔獣誘因作用がある。ここまで小一時間歩いたとはいえ、まだまた薄れていないはずだ。

 そのことを考慮しても、ケンタウロスの行動を完封して出口まで走りこむ方が勝率は高かった。

 

 ともかく、スバルたちはなおも急いで空洞を奥へと進む。後ろからケンタウロスの声が響き、狭い空洞に反射する。そろそろだ。

 

 スバルは立ち止まり、胸の内側から力を呼び起こす。生まれ出でた黒い掌は快哉を叫び、空洞の入り口に向け空気を引き裂くように走る。

 

「インビジブル・プロヴィデンス――!!」

 

 不可視の手はスバルの意思に従い、薄く引き伸ばされるように、入り口を塞ぐように広がる。

 

「今だ!」

 

「ジワルド!」

 

 スバルの合図に従い、アナスタシアの指から、白い光線が飛び出す。その熱光線は不可視の手を素通りし、入り口の壁に差し込まれていた火の魔石に着火する。

 

「――――」

 

 目を閉じ、耳を手で塞ぐが、体の芯まで打ち抜くような爆発音と衝撃にスバルは倒れそうになる。事前にわかっていたこととはいえ、この爆発の威力は凄まじい。なにせ魔石三個分を束ねていたのだから。

 だが、展開していた魔手は絶やさないように全神経を集中させる。これが爆発の際の命綱だ。スバルがここで耐えなければ、仲間が死ぬ。

 

「ですが問題は、爆発の余波です。先ほどまでの空間ならともかく、この先はさらに狭くなることが予想されます。その場合爆発の衝撃や、破片が当たって怪我をするなどの被害が懸念されます」

 

 作戦立案時、オットーが挙げた問題点はこれだった。

だがそれでも任せてくれと言ったのはスバルだ。スバルには、この『インビジブル・プロヴィデンス』がある。これで爆発の余波を防げば作戦は比較的安全に実行できる。

 

 前回の最悪な『死』の中で、一つだけ収穫があったとすればこれだろう。スバルには『インビジブル・プロヴィデンス』が使えるということを思い出せたことだ。

 もっともそのせいで現在もスバルの精神が不安定になっているので、プラマイマイナスというところだが。

 

 爆発の砂煙が収まると、その先にあったはずの入り繰りはほぼ塞がっていた。

 その向こう側で怒りの声を上げるケンタウロスの声が、壁越しにくぐもって聞こえていた。

 

「ドーナ!」

 

 オットーが土の魔法でダメ押しし、通路を完全に塞ぐ。先ほどまで漏れ出ていた赤い光は消え、スバルたちが持つカンテラの白い明かりだけで空洞が照らされる。

 

「これで作戦完遂だ! よっしゃ――」

 

「喜ぶのはまだ早いわ」

 

「さっさと逃げましょう」

 

「せやね、いつまで持つかわからん」

 

 三人は態勢を立て直し、せっせと空洞の奥に進もうとする。万一ここを突破された場合に備え、十分距離をとっておく必要があるからだ。もし奴が本気で迫ればどれだけ距離を稼いでも追いつかれる予感はあるが。

 

 そうして皆駆け足で進むが、後方から聞きたくない音が聞こえてきた。それはバーナーで金属を溶かすようなゴーッという焔の音だ。

 

「嘘……だろ!?」

 

 振り返ったスバルが見たのは、入り口を塞ぐ岩や砂が赤熱している様子だった。中心部分は既に液状になり、そこから円形に穴が広がりつつあった。そこからケンタウロスの口が覗き――

 

「――ッ! 走れ走れ走れ走れ!!」

 

 まずい。ここまでの速さで突破されることは想定外だった。

 この作戦に賭け、魔石は既に全て消費している。

 

 大部分が赤熱した障壁を、ケンタウロスは手に持った槍で力任せに打ち破る。その勢いで焼けた砂が周囲の壁に飛び散り、ジュウジュウと音を立てる。

 ついにこちらを追い詰めたケンタウロスは、嘲笑するかのような鳴き声を上げ、迫る。

 

「クソ……!」

 

 数十メートルは離したはずだが、その距離は嘘のように一瞬で詰められる。

 

 だが、この程度の絶望に膝を折るようなスバルではない。

 これで勝った気になっているのならお笑いだ。スバルが直接戦闘できないとでも思っているのか?

 

「――――」

 

 立ち止まった腰に手をやり、鞭を抜く。

 

「何を――」

 

「見てろ」

 

 疑問を挟むオットーを一言で黙らせる。するとオットーは口を閉じ、じりじりと後方のラムたちと距離を詰める。

 

 スバルは鞭の柄の感触を手に馴染ませ、その先端で軽く砂を弾く。ケンタウロスは哄笑を止めて、その風を薙ぐ鞭の音に興味深げに耳を澄ませた。

 

 おそらく、魔獣にとって初めて聞く音なのだろう。

 だが、スバルの本命はそちらではない。仮に直撃しても、こいつには回復されてしまうだろう。鞭はあくまで、陽動だ。

 

「――インビジブル・プロヴィデンス」

 

 魔獣への憎悪を、スバルの胸の中にそのまま下ろし、燃料とする。

 それに指向性を与え、ケンタウロスの手足を引き千切るための力に変換する。馬鹿の一つ覚えのような使い方だが、構わない。誰にでも通用するワンパターンだ。

 

「――――」

 

 鞭を頭上で振り回し、高速で風を切る音を聞かせてやる。

 魔獣は初めての音に興味津々のようで、薄暗い空洞を滑るように進む不可視の魔手には気づかない。その手はするりと魔獣の胴を駆け上がり、人間の胴の角へ狙いを定めた。

 魔獣にとって角は重要器官だ。折られればその人間に服従するという習性もあるらしい。鞭に気を取られている間にその無防備な角をへし折ってやれば、あとは煮るなり焼くなり好きにすればいい。その無様な最期を想像し、スバルは我知らず笑みがこぼれ――。

 

「――!? ぎ、あ、がぁ!?」

 

 そこまで考え、いざ誅罰を実行しようとした瞬間だった。

 スバルの頭部に、想像を絶する痛烈な衝撃が走る。頭皮を剥ぎ、頭蓋に直接錐を打ち込むような痛みに一瞬で白目を剥き、スバルは黄色い泡を吹いてその場に膝を突いた。

 

「が、ぁぁ!? ぐ、あぎぃ!」

 

 膝を突いたまま両手で頭を抱え、こめかみを強く抑えるが、あまりの激痛に触れているのか触れていないのかすらわからない。砂の地面をのたうち回りながら、鋭い痛みに対抗するためにこめかみを殴る。

 下半身を焼き焦がされた痛みも、眼球の水分が蒸発する苦痛も、この激痛には敵わない。頭蓋の中に生じた棘だらけの地獄が脳を刺し貫くように転げ回り、スバルは砂の上で悶絶し、訳もわからず砂を噛んだ。

 

「痛ぇ! あぁがぁ! 痛い痛い痛い! 痛いィ!!」

 

 奥歯が割れそうなほど強く噛みしめ、痛みに抗おうとする。だがその痛みからは僅かにも気をそらす助けにはならない。思考の全てを白く、赤く、激痛で染め上げ、それ以外のことが何も考えられない。

 どれだけのた打ち回ろうが、絶叫しようが、どこを殴ろうが、どう力を入れようが、激痛は一瞬たりとも引かず、スバルの脳内に巣くい続ける。

 

 当然、インビジブル・プロヴィデンスは、ケンタウロスに毛ほどの影響すらも与える前に掻き消えた。

 魔獣はスバルの様子に拍子抜けしたように、そのまま火球でスバルを焼死体へ変えようとする。

 

 生み出される大火球が空間の冷気を追い払い、小規模の爆熱が世界を熱くする。

 それはそのまま、ナツキ・スバルを消し炭に変質させ――、

 

「――――ッ!」

 

 その直前に、猛然と飛びかかる漆黒の地竜が魔獣の腕を噛み千切った。

 

「――――」

 

 闇に同化する体色の地竜は、音もなく魔獣に忍び寄って痛烈な一撃を加えた。腕を無くしてバランスを崩した魔獣は、頭上へ掲げていた火球をその場に取り落とす。

 即ち、魔獣は自らが生み出した火球の熱を足下で爆ぜさせ、超至近距離の爆風を浴びて吹っ飛ぶこととなった。

 

 爆裂を浴びて魔獣が爆ぜ、腕の傷から血をこぼしてケンタウロスがひっくり返る。それに目もくれず、砂の上を疾走するパトラッシュはのた打ち回るスバルの衣服を口にくわえ、即座に撤退するために走り出した。

 腰のあたりを噛まれたまま、ぶら下げられるスバルは左右に揺らされ、血の巡りの悪さと消えない頭痛に苛まれながら背後を見る。

 

 パトラッシュの後ろで、ケンタウロスはよろよろと起き上がろうとする。だが――。

 

「ドーナ!」

 

 突如地面から突き出した岩の塊がそれを妨げる。先ほどまでケンタウロスがいた大空洞より狭い通路で展開されたそれは、ケンタウロスの馬の胴体を壁に押し付け、身動きをとれなくする。

 

「――――ッ!!」

 

 ケンタウロスは絶叫を上げながら脚をジタバタさせてもがくが、不完全な姿勢ではその脚力もまともに発揮できない。

 

「今のうちです! 角を!」

 

「――エル、フーラ!」

 

「ジワルド――!」

 

 畳みかけるように角を狙って放たれる不可視の風の刃、片方は白く収束する高温の熱線が、態勢を立て直すことを許さない。風の刃は角に命中したが、あと一歩、両断するには至らなかった。熱線の方は角をわずかに逸れた、ケンタウロスの上の胴体に風穴を開ける。

 

「――――ッ!!」

 

 ケンタウロスは再び怒りの声を上げる。そして残っている方の腕で自分の腹部を抉り取り、無理やり岩の拘束を抜け出した。

 

 そうしている間にも、つけたはずの傷口は泡立ち、次々再生していく。パトラッシュに噛み千切られた左腕を生やし、角を再生し、熱線で空いた穴を塞ぎ、自らが胴体につけた傷も塞ぐ。その化け物じみた再生力は、どんな攻撃も無意味だとあざ笑うかのようだった。

 

「ラムさん、まだ魔法は使えますか?」

 

「使えるわ」

 

お互いに視線はケンタウロスから外さず、端的に意思疎通を行う。

この絶望的な状況であっても、お互いにまだ諦めていない。それだけ確認すると、オットーは威嚇するように口角をつり上げ、次の作戦を指示する。

 

「僕が気を引きます、その隙に今度こそ角を!」

 

「――死ぬんじゃないわよ」

 

 どうやって、という問いをラムは無理やり引っ込める。彼女はパトラッシュの方へと駆け足で向かう。

 

 パトラッシュに後方まで運ばれたスバルは、そのやり取りを激痛で朦朧とした意識の中で聞いていた。終わらない頭痛による永遠に思える責め苦はなおも続き、スバルの意識はもはや手放される寸前だ。こんなに痛みと苦しみに苛まれるぐらいなら、いっそ死んだ方が――。

 

「死ぬんじゃない、バルス! レムが泣くわ!」

 

「――ぉ」

 

 ラムがパトラッシュに乗り込む直前、耳元で怒鳴りつけられて、その声はスバルの痛みを越えて脳に届いた。

 レムのことを忘れているくせに、お前に何がわかる。

 

 ――わかったような口で、俺とレムのことに口出しするな。

 

「――――ッ!!」

 

 怒りを滾らせるスバルの思考を遮ったのは、ケンタウロスのあのおぞましい鳴き声だった。無数の赤ん坊が一斉に泣き喚いたような、そんな高くひび割れた鳴き声。その声は――。

 

 オットーから発せられていた。

 

「――――」

 

 ケンタウロスは困惑したようにオットーの方に胴体を向け、固まる。

 赤熱した思考の中で、スバルは即座にその仕掛けの仕組みに思い当たる。

 

 『言霊の加護』だ。

 

 ありとあらゆる動物と音による意思疎通を可能にするその加護は、このおぞましい魔獣の声を模倣することすら可能にしたのだ。

 この場にいないはずの同胞の声を聞き、目が見えないその生き物は混乱に陥る。

 

「――エル・フーラ!」

 

 スバルすら固まっていたその一瞬、パトラッシュに騎乗したラムは音もなく魔獣へと迫り、再び風の刃をもって角を両断しようと試みる。詠唱を終えたラムの額から、血が流れ出る。いよいよマナ残量は限界に達している。

 

 果たして、その角は根元から断ち切られ、そのまま放物線を描いて砂の地面へと突き刺さる。

 

「やった――」

 

 喜びの声を上げかけたオットーを遮ったのは、壁に物凄い勢いで物が叩きつけられる轟音だった。

 

「がっ――!」

 

「ッ――――!」

 

 接近に気づいたケンタウロスが即座に槍を振り回し、その膂力でラムとパトラッシュを薙ぎ払った。

 勢いよく壁に激突したラムとパトラッシュは苦鳴を上げ、地面にくずおれる。

 

「そんな、角は折ったはずやのに! っ……ジワルド!」

 

 熱線がケンタウロスの胴体を貫く。即座に再生する。ラムが折ったはずの角も、既に完全に再生している。ケンタウロスはアナスタシアに一瞥もくれることなく、槍を構えてラムとパトラッシュに迫る。

 おおかたこれまでの戦闘で見積もった脅威度に従って、攻撃要員に止めを刺す腹積もりだろう。もはやラムに攻撃をする余力が残っていないことなど、魔獣にはわからない。

 

「ふざ、けんな……!」

 

 依然として弱まることのない激痛の中で、スバルは怒りに任せ、ケンタウロスを睨みつける。握りしめた手からは血が滲み、噛みしめた奥歯はもう何本か折れているかもしれない。だが、怒りを燃料に、スバルは地面を這いずり、ケンタウロスを止めようと手を伸ばす。

 

 ふざけるな。「死ぬんじゃない、バルス! レムが泣くわ!」、だと?

 何を言っていやがる。そんなことを言って――。

 

「お前が死んでも、レムは泣くだろうがぁ――!」

 

 怒りのままに感情を解放し、スバルは涙で掠れた視界の中央、ラムとパトラッシュに迫るケンタウロスに割って入るように、漆黒の魔手を叩きつける。

 角を折られても回復する反則の魔獣だろうと構うものか。お前には誰一人殺させてやらない。

 途端、生じる頭蓋を噛み砕く激痛の荒波――それに呑まれて意識が食われる前に、スバルの『見えざる手』が二人に迫る魔獣の槍を止め、先端をへし折り、一矢報いる。

 ――だが、か細い抵抗が届くのもそこまでだ。

 

「――――ッ!!」

 

 ケンタウロスは苛立つように地面を踏みしめると、槍を再生させる。今度こそ、二人を確実に絶命に至らしめんと魔獣が槍を振りかぶり――。

 

「――――」

 

 次の瞬間、恐るべき速度で放たれた白い光が、魔獣の上半身を消し飛ばしていた。

 

 

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 炎の槍を掲げた魔獣の肉体が、恐るべき光によってこの世から消し飛ばされる。

 

「――――」

 

 その光はスバルの頭上を通過し、次々とケンタウロスの肉体へと殺到する。

 ケンタウロスの角、牙の並んだ口、腕、馬の胴体、脚、全ての部位が瞬きの内に消し飛ばされる。

 

 その威力に魔獣は体を傾けるが、直後傷口が泡立ち、傷口は超再生を遂げる。

 蠢く肉が盛り上がり、失われた人の胴体が再形成。即座に人体が作り上げられ、その両腕には早々と炎の炸裂弾が生まれている。

 

「――――!!」

 

 ケンタウロスが吠え、無数の赤子の嬌声が冷たい空間に響き渡る。

 そのまま身を翻す魔獣は今まさに殺そうとしていたラムとパトラッシュをさておき、自らの上体を消し飛ばした新たな害敵に向き直る。腕に数多の火球を生み出し、次々と投げ込む。生成されただけでスバルの肌をじりじりと焼くような超高熱の火球だ。だが――、

 

「――ッ!?」

 

 魔獣の生み出す火球は、そのことごとくが正面から迎撃される。

 それを成し遂げるのは、恐るべき正確さで火球を真っ向から穿つ白い光だ。光の速度は尋常ではなく、威力は明らかに火球を上回る。

 

 その光を生み出した存在は、悠々とケンタウロスに歩み寄る。這いつくばるスバルの横を通りすぎ、右斜め前まで来ると立ち止まる。

 辛うじてスバルの視界に収まったその存在の下半身は、人の脚のように見えた。

 

 投げ込まれる火球の数を上回る白光は、何度もケンタウロスに突き刺さり、そのたびに魔獣は傷口を蠢かせて再生する。一度失われた部位は、より強大に再生される。まるで、殺すのに足りないなら殺せるまで進化すればいいとばかりに。

 

「――――」

 

 人間部分の形が変わり、二本の腕は四本に増え、胴体にあった口腔からは鋭く長大な牙が覗く。馬の下半身も脚を増やし、八本の脚力は単純計算で倍だ。

 さらに焦げた肌は黒光りする硬質なものへ変化し、一見すれば鎧を纏った存在に見えるかもしれない。

 そして増えた腕のそれぞれに、炎の剣を、槍を、槌を、斧を構え、魔獣は短期間で信じられない進化を遂げ、白光の主だけのために自らを変えた。

 

「――――」

 

 それを見ればわかる。スバルたちを相手していたさっきまでは、この魔獣にとって遊びに過ぎなかったのだと。傷つけられた部位があれば元通りに再生するだけ。それで事足りる相手だと軽んじられていた。否、実際にそれで全滅寸前まで持ち込まれたのだ。

 スバルたちが持ち掛けた知恵比べなど、遊びに付き合うようなものだと言うかのようだった。その気になればいつでも殺せたのだと。圧倒的な力を前にしては、知恵など些末なことでしかないのだと。

 

 スバルたちには目もくれず、魔獣に恥を掻かせた白光の主を確実に殺さんと、ケンタウロスは轟然と雄叫びを上げる。四本になった前足を掲げ、蹄を噛み合わせ、甲高い音を立てて、勢いを駆って走り出す。

 

「――――ッ!!」

 

 倍の脚力と強靭になった硬質な皮膚で突っ込んでくるその様は、まるで鋼で武装した列車だ。スバルなど、かすっただけでひとたまりもないだろう。仮に白光の主が耐えたとして、傍に居るスバルの命が危うく――。

 

 砂が蹴散らされ『白光が突き刺さる』、炎の熱波『白光が突き刺さる』をたなびかせ、魔獣は猛然と『白光が突き刺さる』突き抜ける。『白光が突き刺さる』炎の熱はこれまでと『白光が突き刺さる』比べ物にならない『白光が突き刺さる』ほどに火力を増し、地獄の業火『白光が突き刺さる』さえもかくや『白光が突き刺さる』と言わんばかりであった。一瞥する『白光が突き刺さる』だけで『白光が突き刺さる』どんな存在であろうと『白光が突き刺さる』震え上がる『白光が突き刺さる』ことは避けられない『白光が突き刺さる』異形と異貌は『白光が突き刺さる』まさに砂海の王『白光が突き刺さる』『白光が突き刺さる』『白光が突き刺さる』『白光が突き刺さる』『白光が突き刺さる』『白光が突き刺さる』『白光が突き刺さ』『白光が突き刺さ』『白光が突き刺さ』『白光が突き刺』『白光が突き刺』『白光が突き刺』『白光が突き』『白光が突き』『白光が突き』『白光が突』『白光が突』『白光が』『白光が』『白光が』『白光』『白光』『白光』『白光』『白光』『白光』『白光』『白光』『白光』『白光』『白光』『白光』『白光』『白光』『白光』『白光』『白光』『白光』『白光』『白光』『白光』『白光』――。

 

 

 ――。

 

 

 ――――。

 

 

 ――――――――。

 

 

 ――――――――――――――。

 

 

「――――」

 

 そうして、凄まじい量の光が迸った直後、そこにはもはや何も残っていなかった。

 

 あれほどの猛威を振るった魔獣は、その肉片まで含めて全てが光に消し飛ばされ、この世非ざるどこかへ吹き飛ばされてしまったのだ。

 

 砂の上に残るのは、魔獣を掻き消すために放たれた無数の光――その源である、白く細長い針だけ。それも、すぐに風化するかの如く粉になる。

 

「――――」

 

 それを愕然と見届け、スバルは頭痛も忘れていた。

 

 そのとき、パトラッシュがラムを背に乗せ、よろよろとこちらに歩いてきているのに気づいた。パトラッシュはスバルの傍まで来ると、体を傾けてラムを地面に下ろす。パトラッシュが力なくよろけたと思うと、ラムを潰さないように気を遣ったのか反対側に倒れこむ。

 ラムとパトラッシュは目を瞑り、意識を失っているようだった。

 

 視界の端に映っていた白光の主が、二人を見つめるスバルの視界を遮るように立つ。朦朧とした意識の中、ゆっくりと体を起こし、その顔を仰ぎ見る。霞む目に映り込んだのは、人間だ。

 

「――――」

 

 女、だった。

 奇妙な雰囲気を持った女だ。

 

 砂の上に立つ足は大胆に腿まで剥き出しで、女の下腹部を守るのはギリギリまで切り詰めた裾の短いズボンだけ。そのすぐ上にはやはり露出した女の腰とへそがあり、細くくびれた胴の上には乳房を隠す胸当てのように布が巻かれるばかり。

 ただ、肩からはマントのようなものを羽織っており、それが白い肩と露出する体の大部分をかろうじて風から守っている。

 

 髪は闇に同化しそうなほど黒に近い褐色で、長く伸ばしたそれを一つに纏めたポニーテールにしている。

 そしてスバルたちを見据えるのは、ひどく濃密な感情に濡れる双眸だ。

 その薄い唇が横に裂け、女は獣性を帯びた笑みを浮かべ、言った。

 

「――見つけた」

 

 少なくとも、言葉は通じるのだな、とスバルは思った。

 思ったところで、スバルの意識は限界を迎える。

 

 砂の感触に受け止められ、スバルは無言のままに意識を手放した。

 

 

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 あまりに急な戦闘の終わりと、あまりに圧倒的な暴力に、オットーはしばらくその場で呆然と立ち尽くしていた。その困惑を無理やり中断させると、今度はスバルの前に立ちはだかった謎の人物へ対応すべく、勢いよく思考を回し始める。

 

 アウグリア砂丘にいるスバルたち以外の人間。その攻撃手段は地上で見たような白く光る針。これだけのヒントが与えられれば、目の前の人物の正体は誰にでもわかろうというものだ。

 しかし地上ではスバルたちをその針で攻撃し、殺そうとしていたはずだ。それを考えれば、さっきの魔獣の次は我々を殺す番だ、と想像することは自然だろう。

 

 だが気になるのは先ほどスバルに向けて発した「見つけた」という言葉だ。つまり、この人物はスバルを探していたということになる。その目的はわからない。砂丘への侵入者であるスバルたちを見つけ出し、確実に息の根を止めに来たのか。

 それにしてはなぜ即座に止めを刺さないのか。それを思うと、その人物は我々に対して中立ないし友好的であると、そう判断するのが合理的だろう。何が原因となったのかは不明だが、少なくとも地上でのように問答無用で殺されるということはなさそうだ。

 

 先ほどまでわずかに起き上がっていたスバルがガクリと倒れんだのを見て、オットーは意を決して声を発する。

 

『あなたが賢者ですか?』

 

 オットーは謎の人物にそう話しかけたつもりだった。

 だが実際に口から出てきたのは、ハサミをカチカチと鳴らすような音と、甲殻が軋むような音だった。

 

 その事実にオットーがハッと声を止める。声に振り返った相手も、同時に息を呑んだのがわかった。

 オットーは瞬時にその原因に思い当たる。

 

 『言霊の加護』だ。

 

 だが生まれてこの方この加護が誤作動を起こしたことはない。そして今オットーの口から出たのは、人の言葉ではない。それが意味するのは――この人物は人間ではないということだ。

 

「どうし――」

 

 彼女は思わずこぼれかけた言葉を、あわてて口を両手で塞いで止める。注意して聞いていたところ、その声は先ほどオットーの口から出たような音ではなく、きちんと人の言葉だった。

 

 その様子を見てオットーは思った。この推定賢者は意外とうっかりした人物なのかもしれない、と。




【第14話での相違点】餓馬王の攻略法。シャウラの正体を看破するタイミング。

 今回の話はなろう版原作第六章17に相当しています。

 『言霊の加護』が果たしてこのように作動するのかはわかりませんが、せっかくなのでオットーにはシャウラの正体に気づいてもらいました。そうでなくともヒントはあるのでオットーならそのうち気づいてくれると思います。


 本作から話が逸れますが、別サイトのpixivにて「Re:ゼロから始める商人と地獄の監視塔攻略」( https://www.pixiv.net/novel/series/15818760 )という六章オットー同行ifの連載小説作品を発見しましたので共有しておきます。
 こんなんなんぼあっても良いですからね。

 まあネタ被り感があって恐縮ですが、私は私で一つの解釈ということでこのまま書かせていただこうと思います。まだプロットが固まっているわけではありませんが、おそらく色々と違う展開になるかと思いますので。
 原作くらいの文量で書くというコンセプトなので進みが遅くなるかと思いますが、今後ともよろしくお願いします。
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