私の名前はティナ・シグリス。
新米カプセラ、つまり、不死の宇宙船乗りです。
宇宙船が撃沈されても、搭乗しているカプセルが無事なら生き残れます。
たとえカプセルまで破壊されても、死の瞬間に脳の情報を転送し、安全なステーションに用意されたクローンへ再生します。
理屈の上では、何度でも蘇ります。
もっとも、その過程で自己同一性を保てる人間はごくわずかしかいません。
だからこそ、カプセラは選ばれた存在なのです。
私は訓練校で優秀な成績を修め、適性試験も突破し、つい先月、ようやくカプセラとして活動する資格を得ました。
……とはいえ、スタートラインに立っただけです。
実際にカプセラとして活動するには、莫大な初期費用がかかります。
新米カプセラが用意できる額ではありません。
なので普通は、政府か企業、あるいは既に成功した先輩カプセラの支援を受けます。
私の場合は、同じコープ――Parallax Structureの先輩、タスキ・サイモンでした。
CEOはC2ワームホールへの定住計画で飛び回っていて、その相方も巻き込まれてほとんど姿を見ません。
なので、新人教育まで面倒を見てくれたのは、実質的にはタスキ先輩でした。
……もっとも。このコープで一番逆らってはいけない相手も、たぶん、この人です。
先輩は海賊を狩り、アビサル・デッドスペースを潜り、危険な宙域で利益を掴む。
いわゆるエンフォーサー――執行者として活躍されています。
成功し始めて余裕ができたから、などと先輩はあっさりと言いますが、私にとっては人生を丸ごと差し出されるような額です。
だから、恩返しをしないという選択肢はありませんでした。
先輩が前線で戦うなら、私は後方を支える。
ミサイル、ドローン、時には艦船。
消耗するそれらを供給するために、私はインダストリアリスト――実業家になるつもりでした。
市販のブループリントオリジナルを買い集め、研究を進める。
地味でもいい。確実に利益を積み上げるのです。
そう決めていました。
本当に、そう決めていたのに。
先輩が長期のリゾート休暇に行ってしまいました。
その翌日、
「タスキ・サイモンからの送金がありました」
ウォレット管理アプリの通知音を聞いた瞬間、なぜか、嫌な予感がしました。
果たして。
休暇に出た先輩から届いていたメッセージには、
『休暇の間に、少し増やしておいて』
と、信じられないほど軽い一文。
そして、その下に表示されていた金額は、
5,000,000,000 ISK。
……。
ゼロ、多くないですか?
ええと。
カンマが三つ。
ということは。
5……B……?
5 Billion ISK!?
私は三回ウォレットを確認しました。
減りません。
夢ではありませんでした。
なお、この件についてCEOに相談したところ、
『ああ、タスキがそう言ったなら頑張って』
とだけ返ってきました。
助けてください。
改めて、少し、とは。
5B ISKをぽんと送金できるカプセラにとっての「少し」とは、一体いくらでしょうか。
少なくとも一割、500 Million ISK以上は期待されている気がします。
困ります。
本当に、困ります。
私の全財産は100Mにも届くかどうか怪しいのです。
とりあえず分かっていることは一つ。
この5 Billionは、返すだけでは足りません。
増やさなければなりません。
……できれば、かなり。
読んでくださりありがとうございます。
カプセラの方も、そうでない方も、感想をいただけるととても嬉しいです。
特に、実際にEVE Onlineを遊んでいるカプセラの方からの感想は、「あるある」でも「そこ違うよ」でも大歓迎です。
先着5名のカプセラの方には、ささやかですが 200M ISK(ベテランなら金策2〜3時間分、初心者にはかなり大きい額です)をお送りします。
この小説をきっかけにEVE Onlineに興味を持った方がいれば、ぜひニューエデンへ。
感想の際に、ゲーム内のキャラクター名を作者へのメッセージで教えてください。