サイバーエデン・オフライン〜サ終したゲームが現実に侵食してきたのでヒロイン達と共に平和のために戦います〜 × 聖王の冠 自己憐憫と清貧信仰の狭間で 作:光面線会
>皆、正義の味方になりたがる。
>銀行で、宇宙で、法定で、あるいはアリーナで。
>悪いやつを倒して平和を守る、それ自体は別に悪いことじゃない。
>………悪者にされた方からしたら、たまったもんじゃねーがな。
が元ネタです。
また「聖王の冠」ラーンがやたら長文で大演説するキャラなのは原作通りなので要チェック
ラーンの大演説シーン
セオベイターとなったオタク達が多数のモンスター型セオベイドを従えレベルゼロ本社に突入する。鉄パイプを振るい、モンスターたちに指示を出し、破壊活動は勢いを増してゆく。
社員と思しき人影がモンスターの吹き出す炎に包まれたかと思うと、次の瞬間には黒い炭塊となって転がった。社長は市民に紛れて逃げていると憶測の声が挙がれば、逃げ惑う市民に植物モンスターの蔓が迫り、その首を絞め上げそのまま捩じ切った。
「これはオタクの怒りだ。僕がニコライに向けたのと同じ、好きを守る為の力だから――僕は止めない」
九郎太は真剣な面持ちでその光景を見詰める。「僕たちオタクは大事なモノを護る為なら命を奪う事にも抵抗は無いんだ」と。陽キャ連中ほどモラルがなく暴力への抵抗がないわけではない、だが守りたい物の為なら幾らでも冷酷に、強く、格好よくなれるのだと、ニヤリと口元を歪ませ笑う。
そのオタクの1人である九郎太が、この「正義の裁き」を止めないのは当然とも言えた。
「弟くん……優しいね」
乙葉が九郎太の頭を優しく撫でる。
「当然だよ、クー兄ぃは誰よりも辛い人の気持ちが分かるんだから!」
「クゥちゃん……いつの間にか大人になったのね。でも……ママの事はずっと大好きでいてね♡」
続いてミーニャとセシリアが九郎太に抱き着く。豊満な胸が九郎太を押しつぶさんとする。
その一方でモンスターに引き裂かれた死体が宙を舞う。
「苦しいよみんな♡それにここ外だし……♡」
「場所なんて関係ないよ、弟くん♡」
3人の眼は獲物を狙う肉食獣の如く輝き、その手が九郎太の股間に伸びる。
一方でモンスターによって血溜まりに沈んだ母親を前に子供が泣きじゃくる。
「いただきま~す♡」
「乙葉お姉ちゃん♡ミーニャお姉ちゃん♡セシリアママ♡」
九郎太がヘコヘコと腰を押し付け、快楽の虜となる。
一方で瓦礫の中から妻と娘を助けようとしていた中年男性が、家族諸共大型モンスターの下敷きになる。
「うぅっ……あぁ……っん♡」
九郎太の絶頂と同時に、レベルゼロ本社は倒壊した。
「――もう、こんな所でやめてよ……」
九郎太は衣服の乱れを直すと、瓦礫の山の上で今尚レベルゼロ社長の比野氏を探し続けるオタクたちの一団に目をやった。彼らは辺りに動く影が見つけ次第、モンスターに命じて攻撃を続けている。
「結局、例の2人の言ってた神がどうとかは何も起こらなかったわね……」
「……違う、この感じ……弟くん!気を付けて!」
乙葉が叫ぶ。次の瞬間だった、地の底から幾多もの黒い触手が現れたのは。瞬時にそれを察知した3人は九郎太を抱きしめ、足元から出現した禍々しい黒の奔流を飛んで躱す。
だが、目の前のオタクたちにはそれが叶わなかった。反応出来た時には多数の黒い触手が彼ら一団を丸ごと呑み込んでいたのだから。
オタクたちの苦悶の叫びが上がる。全身を絞め上げられながら皮膚を突き破られ、触手に体内をズタズタにされているのだ。
当然彼らのモンスターたちも主を助けようとその爪や牙を立てるが、一切意に介す様子も無い。
「ああっ、遅かった……!」
瞬間、空から光が降り注ぎ複数の人型を取る。その一団の中には例の2人……ジョイナスとルティアの姿もあった。
「それは……ゼードイルの邪触手です!欲望という邪心を持つ人々を餌食にします!どうか皆さん全ての欲望を捨てて……!」
「……駄目、こうなってしまっては……。そもそもこのモンスターフレンズというゲームに現を抜かしている時点で、欲望の虜なんだわ。罪もない動物を支配し、自分の武器として利用するなんて……モンスターの気持ちも考えない一方的な搾取、人間中心主義の極致と言えます。そして目指すはリーグ優勝……スポーツにも言えるけど、競争して上を目指す事になんて何の意味も無い、それどころか向上心も勝利も悲劇しか生まないというのに……。こんなゲームをやっている時点で救いは無いの。それに、この会社も『資本主義社会という兵器』に歪まされて、売り上げの為なら幾らでも他人を不幸にするような存在……誰一人として救われはしない。もはや楽にしてあげるしか……」
「そうだな……これも『聖王の冠』と創造神エルメシオンに選ばれた俺達の使命だ。助けられる奴だけ助けるぞ!」
叫んだルティアに続き、仲間であろう緑髪の中性的な青年と荒々しげな風貌の男性。同じくエルメシオンの使い、ラーンとディックだ。
「た、助けてくれ……」
邪触手に捕らえられているのはオタクらだけではなかった。散り散りになって逃げだしたレベルゼロ社員もまた数人、黒い邪触手の餌食となっていたのだ。
「助かりたければ欲望を捨ててください、出世も勝利も要らない、全てを弱者の為に捧げると……それが出来れば自ずと助かるはずです」
「そうだそうだ!進歩も成長も学校も、人には要らないもんだ!」
ラーンとディックが詰め寄る。
「わ、分かった……なんでもする!何でも捨てるから助けてくれ!」
だが社員が助かる様子はなかった、触手が首筋を貫かんとする。
「……駄目、心の奥底まで欲望に支配されて……出世する事が全てだという考えが抜けないみたい」
そして叫びと共に社員の身体は黒く霧散していく。邪触手に吸収された者は跡形すら残らない。
「……仕方ないわ。取り敢えず、跋扈するモンスターたちを何とかしましょう。全部は無理でも少しでも減らさないと」
ラーンが懐の中から出したカードの束を掲げる。すると、その束から光が放たれカードの1枚1枚が姿を変えていった。
「セオベイド――妖精王ダイヤモンドストーム!そして、妖精剣士チャッピーと妖精技師ポレンを召喚!」
カードから人型の上半身と異形の下半身を持つ妖精王とその配下たちが出現する。これはカードゲーム「バトルデュエラーズ」――そのデジタル版、「バトルデュエラーズ・アリーナ」の登場カードの1枚だった。
無論これもセオベイドであるのだが、九郎太の乙葉のような人型個体ではなく一束のカードデッキの形をした群体型セオベイドとでも呼ぶべき存在だ。
ラーンの持ち物であるこのセオベイドだが、本来はセオベイターでありつつそれを隠して暮らしていた一般人男性――江洲 英須(えす えす)を「平和の為」と恐喝――もとい説得して奪ったものであり、彼がゲーム内で使用していたデッキがそのまま実体化したものであった。
ラーンの操る妖精たちが「モンフレ」のモンスターと刃を交え、少しずつ打ち倒していく。
そんな光景を見ていた九郎太であったが、次第に眉間に皺を寄せていく。彼が漠然と感じていた不快感。その元は邪触手ではなく、彼らの言葉であった。彼の不快感を洗脳ヒロインたちは敏感に察知し、代わりに言語化する。
「クー兄ぃ、あいつら……上から目線で説教して生意気じゃない?」
「うん。僕も丁度そう思ってたところ」
すると怒りは自ずとそちら――エルメシオンの使徒たちに向かう。
「弟くん、やろう。あの触手だってあいつらの自作自演かもしれない」
「”アレ”で行きましょ、クゥちゃん」
「うん……!行こう!メガフェンサー!」
九郎太が声を張り上げると、戦車や戦闘機――4機のマシンが戦場に襲来する。例の冗長な合体バンク気取りの描写は省くが、何はともあれ4機のマシンは一つに重なり合い、巨人の姿を形成した。
これが九郎太が持つセオベイターとしての力、メガフェンサー。乙葉たちのような意思(九郎太の傀儡ではあるのだが)を持っているわけではない、純然たる彼の”暴力”である。
そして九郎太の乗り込んだメガフェンサーは光の刃を展開し、今も尚オタクの一団――うち半数以上の命は潰えているが――を捕らえている黒い触手にその切先を当てる。
高熱の刃からバチバチと火花が散り、邪触手を焼け焦げさせるが同時に捕まっているオタクたちも苦しみの叫びを上げる。
「……邪触手に捕まった者は邪心を捨てない限り助からない。触手の方を傷つけようとするとそのダメージが捕まっている方にも入ってしまう」
「僕たちのような澄んだ心を保っていられる人でないとこれを回避できない」と付け加えるのはエルメシオンの使徒にして九郎太の所にメッセンジャーとして来た客人、ジョイナスだ。
「澄んだ心、の持ち主ですか。”あなた方基準の善人”の間違いではないですか?」
「お前たちや捕まっている人たちのように、自分の為に何かを欲しがる邪心を持たない、その為に決して暴力を振るわない人間だ」
乙葉の鋭い物言いに飄々とした態度で返すジョイナス、メガフェンサーとジョイナスの視線が交錯する。九郎太は最早この男の声を聴くだけで苛立ちが募っていた。
「その力だって、人には要らねえよな!ここまで言って分かってくれないのなら……俺たちにも覚悟はあるぜ!」
ジョイナスの仲間の一人、盗賊槍士ディックが手を翳す。するとその手から光が放たれ、彼の手の中には1本の槍が握られていた。これもセオベイド由来の武器であり「Faith/nightmare」というアダルトゲーム――ただし、その大人気ぶりから最高峰の現代ファンタジーと称賛され、シリーズ通して幾度ものアニメ化・幾つも外伝が発表された――において「ブルーランサー」と呼ばれていたキャラの持つ「聖具」であった。
――当然であるが、これが彼が自身に従わなかったセオベイターをやむを得ず殺傷して奪ったものである。
「弟くんに手は出させない!」
乙葉が刀を振り翳し、形ある斬撃を飛ばす。ディックは聖槍の穂先に作り出した力場でそれを弾き飛ばすと、大きく逸れた斬撃は建物をいともたやすく両断する。そして返しに槍から撃ち込まれた光の束が乙葉の刀によって弾かれ、偶然そこにうずくまっていた負傷者を無惨な肉塊へと変貌させた。
「クー兄ぃ!あたしも手伝う!きっとこいつらが触手を操ってるんだ!」
ミーニャが叫ぶと、メガフェンサーの半分程度のサイズであるが赤い巨大な影――巨大人型兵器「オファニム」が降り立ち、自動操縦で彼女をその手に載せるとコックピットに収容した。
そのままオファニムは携行した電磁ライフルでエルメシオンの使徒たちに発砲する。人など一瞬で血煙にする程の衝撃波が断続的に発生するが、それによって使徒たちを傷つける事は叶わなかった。
「やはり――あなた方は欲望にまみれたその手で弱い人たちの喉笛を締め、その足で人を踏みにじって生きてきたのね。どんなに力があっても、全てに勝つ事は出来ない。いずれ滅ぼされる時が来るというのに」
ラーンの操る妖精たちがシールドを形成し、その弾を無力化していたからだ。
「――ッ!あたしたちが……踏みにじった?」
「はい。例えばあなたのロボットの銃、例えばあれを人の多い空港なんかで撃ったら……大変な事になるくらい分かるわよね?そう、人は必要のない物まで生み出してきた……。銃、爆弾、核兵器――そして資本主義社会。あなたの力もそれと同じ……人と世界を蝕む猛毒」
ラーンは淡々と語る。それと対照的にミーニャの声は震えていた。
「アンタが……アンタにあたしたちの何が分かるのよ!クー兄ぃはSEOという唯一の居場所をニコライに潰されて!現実という地獄に叩き落とされた!あたしは何も出来ずにクー兄ぃの心が死んでいくのを見てただけ!!そんな世界が正しいって言うなら……あたしが壊してやる!!逆らう奴がいるなら、代わりに全部殺してあげるんだから!!!」
ミーニャのオファニムが光の剣を展開し、ラーンを切り刻まんと急接近する。その巨体が高速で動いたことによって発生したソニックブームは、周囲の木や車、瓦礫を吹き飛ばし数キロ先に避難していた人々に降り注いだ。
――奇しくもこれによって、かつてミーニャが空港でニコライ殺害を目論んだ際に出た市民の犠牲者と同数の人間の命が奪われたと後で明らかになった。
「そうやって人の話に耳を貸さず、自分勝手な怒りや憎しみを並べ立てるだけ。あなたが可哀想な境遇だったとしても、あなたの癇癪に巻き込まれる弱者の事なんて考えた事ある?どうして競争社会から抜け出さず、今度は自分が上に立って誰かを踏みにじる側に立ちたがるの?欲望なんて全部捨てて、気に食わない事も我慢して呑み込んで、身の程を弁えた小さな人間として優しい生き方をすれば良いのに……!そうやって自分の都合しか考えない競争主義の人たちがいるから――!」
何度も何度もラーンはスピーカーの如く同じ文句を繰り返し続け、その思想に基づいてミーニャを断じる。と同時にラーンの妖精王が巻き起こした突風を合図にオファニムに向かっていく妖精たち。
そのほとんどは粉々に切り裂かれ、もしくは機体に衝突して粉砕されていく。だがその1体の残骸が、ほんの一瞬だけ機体メインカメラを塞ぎミーニャの視界を奪う。
その一瞬を突いてラーンはカードを使用。妖精王もろとも自身の位置を大きく移動させ、ミーニャの背後を取った。
「妖精王ダイヤモンドストーム――融合進化、妖星竜ヴァルカン!これであなたを……欲望から解放してあげるわ!」
鎮座していた異形の妖精王が光と共に姿を大きく変え、西洋竜の姿を取る。元がDCGのカードであるこの群体セオベイドは、そのカードプレイングによって自由自在に姿を変えていくのだ。
ヴァルカンと呼ばれた竜はすかさずミーニャのオファニムに向けて、口内から熱エネルギーの奔流を照射する。
「この……ッ!生意気!そうやって上から目線で――自分の言う事ばっか押し付けてきて!クー兄ぃが人並みの愛を受け取るのが悪いって言うの!?何の価値も無い、偉いだけの人間の下で蔑まれてれば良いって言うの!?クー兄ぃ以外……こんな世界には守る価値の無い奴らばっかり。あたしたちはクー兄ぃと世界のどっちかを選ぶなら……クー兄ぃの為にみんな殺してクー兄ぃを選ぶ!!」
九郎太によって九郎太の為だけに作られ、九郎太の為だけに存在するミーニャはその魂のままに叫ぶ。そしてオファニムはすんでの所でスラスターをふかした急制動を行い射線上からその身を翻した。
結果、放たれたエネルギーはオファニムの左腕部を僅かに融解させただけで、偶然射線上にあった遠く離れた街と人々を焼き払うに留まった。
「――なるほど、分かったわ」
爆炎の中で向き合うオファニムとヴァルカン、ミーニャとラーン。
「アンタは――!」
「あなたは――!」
「――ただの傲慢な加害者よ!!」
2人の声が、重なった。
「欲望のままに力を振るう人達……お前たちも愛するお姉ちゃんを攫い、肉欲の捌け口として犯し尽くして捨てた借金取りの男共と同じだ!だから同じ目に遭わせてやる!」
ミーニャとラーンの戦いの一方で、セシリアもまたエルメシオンの使徒と相対していた。セシリアはセオベイドとしての力――艦装具と呼ばれる武装を纏い、2人の使徒にその砲塔を向けて砲弾の雨を撃ち込む。
「セオベイド……このような武力で解決しようなどと……我が子と同じ道を辿ってしまったのですね。せめて安らかにわたくし達の手で……」
セシリアの方に向かってくる小柄な影、マーシー――徒手空拳を武器とする中性的な少女。そしてその後ろに控えて力を増幅する老修道女、アメシスト。この2人も当然の如く、強奪したセオベイターの力を行使していた。
縦横無尽に飛び回るマーシーは仮面を付けており、その後方に出現した大柄な人型の幻影が砲弾を受け止める。信管が衝撃で起動しないよう速度を殺し、手で掴んでは投げ返すのだ。
この力は人気少年漫画「ジェイクの奇異なる仮面」シリーズに登場する「心象(ビーイング)」という能力だ――更に言えば、これは「シーズン5」の「プラチナム・アルセーヌ」――パワーだけでなく精密な動作に特化した心象。
作中で主人公が自身の心象に逆支配された暴力教師の「鴨田」に殺されかけた際に発現した。そしてその主人公によって操られ街に潜む社会権力や凶悪犯を心象で裁いていく――という活躍が有名である。
「子供のため、世のため人のため。そうは言っても結局あなた達は気に食わない人たちが自由にしてるのが気に入らないって事じゃないのよ?違う?そもそもあなた、同じ目に遭わせてやるって……殴り倒して借金を踏み倒したの?」
「父さんが倒れて貧乏になったボクたち姉妹には生きる金が必要だった……だが奴らはそこに付け込んで利子なんて悪魔のようなシステムで何もかも搾り取ってきた!そういう借金取りなんて奴らに払う金は無い!」
アルセーヌがトランプカードをセシリアに投げ付けるが、セシリアには軽く躱される。しかしそのカードは地面に"着弾"すると同時に青い爆炎を吹き出しその衝撃波がセシリアを一瞬よろめかせた。
「そう、彼らもまた欲望に心を支配された悪人だったのです。私たちのように愛と平等の元に、己の身を呈してでも弱者を救うのが正しい人の道だというのに……。私の息子も弱者を虐げる道を選んでしまい、最後までその心を改めなかったが故に引導を渡し、そして息子は不幸な最期を迎えました。そうなりたくなければ――」
アメシストが手を翳すと、走ってくるマーシーの足元のアスファルトに次々とヒビが入る。セオベイドの力とは違う、元々彼女が己の世界で行使していた身体強化の術だろう。
「――そう。あなたたちって本当に……ろくでなしね。だったら容赦なんて要らないわ。『魚雷』!」
拳を掲げ迫るマーシーの足元が、突如として爆発する。後方に吹き飛んだマーシーであったが宙返りしながら体制を整え、瓦礫の上に降り立った。
「まずあなた――おチビちゃん。利子の事とか何も知らずそんなおかしい所からお金を借りたの?社会福祉とかそういうのも知らなかったの?子供でも常識がなさすぎるところを見るに――あなたのパパ、相当ダメだったみたいね。そしてオバサン……あなた、自分の子供の教育に失敗して、子供が思い通りにならなかったから捨てて命を奪ったのね。親として――あり得ない。何が愛?平等?――ふざけてんじゃないわ」
セシリアが2人に向けて砲弾の雨を降らせる、直撃を狙わずその周囲に打ち込まれたそれはマーシーのアルセーヌによって受け止められる事は無かった。
「おチビちゃんの方はちゃんと謝ったら許してあげる。ママたちのモッツァレラ小隊に来なさい。けど……そのオバサンは別」
「……ッ!何が許すだ!そうやってお姉ちゃんと同じ目に……性欲の捌け口にする癖に!」
マーシーが九郎太ハーレムへの誘いを一蹴した瞬間、爆炎が一帯を包み込む。アルセーヌによって守られているマーシーらに致命的ダメージが入る事はなかったが――瓦礫が飛び散り、煙幕が立ち上った。
「……そう、じゃあ駄目ね。救われない。SEOを失い、社会的なスキルが無いからって理由だけで親や上司に怒られ世間に冷たくされてきた理不尽なクゥちゃんの不幸とは違う……あなたたちの不幸は全て――何もかもが自己責任よ!!!!」
セシリアは艦装具の力で高速移動しながらCIWS...自動火器を放った。セオベイドが同サイズの人間を殺傷するならこれだけで十分の火力、先ほどの砲弾によって辺り一面は煙幕で包まれている。セシリアだけがレーダーで相手の位置を正確に捕捉出来る状態で、常に位置を変えながらターゲットに向けて銃弾が放たれ続ける。これはマーシーであっても対処出来る術は無い――そうセシリアは思っていた。だが。
「光を司る程度の力――」
アメシストによってその手から放たれる力。電波の流れを歪ませ、認識を狂わせるセオベイドの力でセシリアはその術中に嵌っていたのだ。
光を司る程度の力――忘れ去られた者たちが集う遠い星を舞台にしたSTG「楼方planet」に登場する能力だ。二次創作を完全許容したスタイルの個人製作インディーズゲームとして古くから長期に渡って愛され、奇しくもセシリアの出典元――少女艦隊×プリティーフリートとも双璧を為す美少女コンテンツとしてオタク向け動画サイト、そしてオタク系サブカルチャーの顔であった。
「あなたがどう言おうと、私たちは学んだのです。この世には欲を持った人間がいる限り平和は訪れないと。今より良く、快適な暮らしを――そんな歪んだ心で為されてきた進歩と発展がどれほどの自然を破壊し、科学技術と便利な道具がどれほど人の心を狭めて優しさを奪ってきたか分かりませんか!?息子は――それを最後まで理解しなかったから自業自得の最期を迎えただけです!!」
アメシストは血肉を分けた自らの子の事に対し悲しむ素振りは何ら見せず、ただただこの世を憂いる方向だけに感情を向けている。そこに親子の情という物は一切見て取れなかった。
マーシーのアルセーヌの投げ付けるカードが、アメシストの力によって幾多にも増えて見える。光を司る力も多重には使えないのか、コストパフォーマンスが悪いのか……肉眼で目視出来る幻影にレーダーの電波を誤魔化す力は無かった。
しかし、目視出来る幻影とレーダーにのみ現れる幻影の二重攻撃に少しずつセシリア側に疲弊が見え始める。視界とレーダーを照らし合わせて幻影かどうかを判別し、本物は前後左右に避けるかCIWSで迎撃する、相当に神経を消耗する防戦だ。
「それに、自己責任っていうのも競争社会、資本主義の作り出した愚かな考えだ!人は人に助けられなきゃ何も出来ない……それを分かってたからお父さんもお姉ちゃんも優しかった!お前の大好きなセオベイター……九郎太は、ボクたちと同じように苦しんできた癖に何も優しくないだろ!見てみなよこの瓦礫と死体の山……沢山人が死んでるのに、知らんぷりなんだぞ!」
マーシーが吠え、その瞬間に煙幕を突き破って飛び出す。マーシーとアルセーヌの拳が重なり、白金に輝く拳となってセシリアに迫る。これは幻でも何でもない、紛れもない本物。
――だが。
「クゥちゃんが……優しくない?」
セシリアは鋭い眼光を向けると、至近距離に迫るマーシーを前に手を広げて向き直った。
「この距離なら、回避は出来ないわね……!」
次の瞬間、その腹に拳を受けながらセシリアはマーシーを力一杯に抱擁する。九郎太に対する好意とは全く逆の、地獄へと誘う怒りの抱擁。そして――。
「しまっ……!」
「欲望が悪?進歩や科学が悪?資本主義が悪?よくそんな下らない時代遅れの考えで生きてこれた物ね、被害者気取りでサイコパスな原始共産主義のエコテロリストさん。……だから貴女がたの頭も進歩や成長が無いのかしら?」
全艦装具の砲塔を自身に向ける。全身を捕まれたマーシーに逃げる術はない。
頼みのアルセーヌでセシリアの関節を狙おうとするも、今現在の攻撃態勢を解くのに一瞬手間取ってしまう。その隙はセシリアにはあまりにも十分過ぎた。
「オバサンも覚えておきなさい。子をバカにされて、怒らない親は……親失格なのよ!!!」
九郎太の為のママ、セシリアは己の命を懸けるのになんの躊躇も無い。盲目的に自身の主に奉仕し甘やかすのが彼女を含むSEOのAI、セオベイドの最高目的だからだ。
実際のところ――現実逃避でフィクションに耽溺する九郎太の方にだって進歩や成長があるとは言い難い。優しいと言いながら言い返せない気弱なだけの他責思考で自ら他人の為になるような事は特にこれと言ってしていない。病気で仕方なくとはいえ迷惑を掛けた時だって謝る気も持っていなかった。だがセシリアにはそんな理屈は必要無いのだった。
耳を劈く爆炎と衝撃波。マーシーを助けに駆け寄ったアメシスト諸共、それに巻き込まれて吹き飛んで転がる。そして――。
熱と光が収まり、煙が晴れた所に辛うじて立っていたのは、セシリアだった。
「う……うぅ……っ!」
すんでのところでアメシストに追加の身体強化を受けていたものの直撃を受けたマーシー、距離を取っていたもののその余波に巻き込まれたアメシスト。
そして、マーシーが壁となる位置関係であり、尚且つ軍艦の擬人化キャラとしての強固さを備えてはいたもののその火力を決して無視は出来なかったセシリア。
互いに満身創痍、3人全てがギリギリの状態だった。
版権図鑑 番外編②
【バトルデュエラーズ/バトルデュエラーズ・アリーナ】
カードバトル漫画を原作としてゲーム・ホビー会社「タカナコミー」がリリースしたTCGであり、世界中で大ヒットを果たす。ライバルの「モンフレカード」に負けず劣らずの人気だが、その反面「裁定がテキストと一致しない」「定期的に壊れカードが暴れる」などのネガティブな意見も。
「バトルデュエラーズ・アリーナ」はそのTCGをスマホゲームにした物であり、一部カードやテーマに上方・下方修正が加えられてある程度環境が整えられている。
今回登場した「妖精デッキ」はマイナーカードにかなり極端な上方修正が行われてしまった「事故」とも言うべきテーマデッキであり、カードプールが広がれば広がるほど強化されていく性質も手伝って幾度も多重に制限が掛かる事となりその活躍から「エルフフェアリーズ・アリーナ」と揶揄される事も。
【Faith/nightmare】
「伝奇系ビジュアルノベル」として当初同人サークルとして活動していたグループ「category-SUN」によって書かれた現代ファンタジー作品。13人の魔導士が異界から呼び出した「守護霊」と共に聖剣を奪い合う「聖剣闘争」に巻き込まれ戦う主人公と異界から呼び出されたヒロインの剣士の活躍を描いている。
過去の出来事やその後、Ifを描いた様々なバリエーションのシリーズ作品がリリースされ、何度もアニメ化を果たしている他、近年ではソーシャルゲーム化も果たしている。
【ジェイクの奇異なる仮面】
「
少年漫画でありつつおどろおどろしい独自の表現で描かれており、特に高い年齢層から多大な支持を集める。メインギミックとして己の心を映し出し仮面によって実体として出現する能力「心象(ビーイング)」が存在し、これに影響を受けた作品は数多い。
「シーズン5」は「社王市」を舞台に、心象を手にして悪人の精神空間「キャッスル」に侵入し心の宝物を奪う事で世直しを行う「心の義賊団」を結成した主人公たちが公権力を敵に回しながらも陰で活躍するという内容。
また「権力を振り翳して相手を抑え込む大人」への若者の叛逆や「隠れ潜み破壊的な衝動を発散する凶悪犯」との対峙を通じて「立ち向かう勇気」「人の内面」が描かれる。
作中に登場した暴力教師「鴨田」は「最初の敵としてのヘイト役」と言われる反面、元アスリートでありながら結果を出せなかったコンプレックスから自身の「心象」に逆支配された哀れな被害者と考察する奇特な界隈も存在する。
【楼方planet】
日本の同人サークル「北京幻想楽団」によって製作されたインディーズゲームシリーズ作品。弾幕STGのひとつとして以上に、美少女ゲーム――ひいてはサブカルチャーの顔として長年愛されていた。作曲家を兼ねた作者による音楽的な評価も高く、これに影響を受けたゲーム作品として「below story」などがある。
それ故全盛期はかなりの厄介ファンを抱えており、その当時新たにブームとなった、セシリアの登場する「少女艦隊×プリティーフリート」とは対立関係を見出すファンが多数いた。特に楼方の二次創作をしていた作家が少女艦隊の二次創作に手を出す事は「裏切り」と言われ作品を愛するオタクたちのバッシングの的となった。
厄介な過激ファン・低年齢層を中心とした弁えない人間は「楼方厨」と呼ばれ様々な場所で暴れ回り、その内楼方の話題が出るだけで総叩きが行われる程にまで過激化した時期もあったほどである。
現在はブームも相当落ち着いてファンもアンチも当時の過敏さを失ってはいるが、争いの場が別のコンテンツに移っただけとも言われる。一方で、現在は一頭身にデフォルメされた楼方のキャラが物事を解説する動画が何故か流行っている。
【次回予告】
人ってのは色々あるもんだ。
何かを欲しがったり、気に入らない奴を憎んだり、あるいは銀行に行ったり。
でも一度考えた方が良いんじゃねえかな、目の前の相手も同じように生きて銀行で正義振り翳してるって事を。
次回「結局ブーメラン投げ大会に勝者はいねえんだよ」
このイベント、どう攻略する?