サイバーエデン・オフライン〜サ終したゲームが現実に侵食してきたのでヒロイン達と共に平和のために戦います〜 × 聖王の冠 自己憐憫と清貧信仰の狭間で 作:光面線会
――そこは町はずれの田舎道だった。そこでフラフラとした足取りで歩いていたのは、一組の老夫婦。夫の方は息は上がり、膝は震え……遂にはその場に座り込んでしまった。
「婆さんや……儂はもう駄目だ。だが……お前だけでも頼む。こんな時代だが最後まで子や孫たちと生きてくれ……こんな所で人生を終えるのは儂だけで十分……」
がっくりと項垂れる夫、舗装こそされているとはいえ、老人にはきつい山道。長年の山仕事で足を悪くしていた夫は、己の限界を感じていたのだ。このままセオベイド災害で自分は死ぬ。だが愛する妻だけは、助けたい――既に独立した子供たち孫たちの所で、人生を全うしてほしいと。
「何言ってるんですかお爺さん!まったくあなたは本当に大袈裟なんですから……若い頃、あれだけお前は俺が一生守るとか威勢の良い事言っておいて……分かりました。ここで休憩にしましょうね」
「婆さん……儂という荷物をこれ以上支えんで大丈夫と言っとるんじゃ。お前を束縛する権利は儂には無い……」
「弱気になるとこうなのは若い頃から変わりませんね、まったく……。来月の、結婚50周年の記念日は特に期待してくれって言葉、忘れてませんからね。――せっかくだし、最期まで一緒に生きましょうよ」
妻の方も、一緒に座り込む。柔らかく笑いかけ、夫も少し遅れて笑い返す。2人の中に巡る、沢山の思い出。偶然出会って気が合って、一緒にいる時間が長くなっていった。意見が合わず何度も喧嘩した事だってあった、それでもそれ含めて相手を受け入れれば、それが相手の1つの魅力であると感じられるようになった。そして――気づけば家族になっていた。
それからも、長かった。お互い苦しい時に相手を責めてしまった事もある。お互いの理解が浅くて、傷つけあってしまった事も多い。でも――その度にお互い成長して進んできた。今はそれら全てを、自分たちの歴史として胸を張って肯定できる。だから。
「もう少し……最後まで頑張ってみよう」
若い頃のように、2人は手を叩き合わせる。気合を入れて困難に立ち向かう合図だ。そのまま2人は手を握り締めて立ち上がり――。
「世界がこうなったのは――全部!」
その瞬間に響く轟音。そして空中からの、九郎太とジョイナスの2人の声――。
「女がクソだからだ!!!」
「男がクソだからだ!!!」
発生した衝撃波。――支え合う老夫婦はその望み通り、最期の時まで一緒だった。
「くたばれゴミカス!!」
「大丈夫だよ弟くん。君は間違ってない――!」
メガフェンサーとネビュラマンの戦い。最初は拮抗していたものの、その巨体を操る術を熟知していたのは九郎太の方。徐々にネビュラマンは圧されていく。
このままでは勝てない。隙を伺うジョイナスだが、間髪入れずに九郎太は光の剣を振るって距離を詰めてくる。
「俺達は負けてしまうのか……?こんな所で……」
しかし、その時であった。
「ジョイナス……あなたの手助けをします。これは、人の可能性を開く手伝いです」
エルメシオンの声がジョイナスたちの脳内に響く。
「トドメだ!リーマーインフェルノォォ!!」
目の前に迫るメガフェンサーを前に、ネビュラマンが黄金に染まり始めた。そして光の粒子を全身から拡散すると、後方にメガフェンサーを吹き飛ばし、空間そのものが「変化」を始める。
ジョイナスは知る由もないが、とあるネビュラマンシリーズ作品の最終回で起こった、全人類が光を得る自身の可能性の発露であり――そして。
「これは!?」
「まさか……」
セオベイド、それはSEOより生まれた電子生命体。それが現実世界に現れた原理は解明されてはいなかった……。
だが、そこには人類の把握していない未知の物理法則が存在しているのは確かだ。
その物理法則を元に、世界そのものの法則を改変するエルメシオンの力が加わった時。
――SEOは現実の物となった。
世界を染め上げる電子空間。キャラクターだけではない。マップ地形も、オブジェクトも。全てが現実に現れたのだ。
「か……帰ってきた……僕の……ここは僕のSEOだ!皆……ただいま……!!」
そして、それはモノだけではなかった。人にも次々とその変化は現れる。――SEOは、同じ電子空間上に人と人を繋ぐツールでもあったのだ。
物理的な距離を無視して、世界に生ける人々の意思が集ってくる。この時2人の歩みは、ステータスとして拡散され全ての人間がそれを知る事が出来た。
「ジョイナス……優しい人々の意思を、力に変えて集めるのです。そして、あなたの求める世界を!」
ネビュラマンが腕を掲げると、そこに光が集まってゆく。
「――大嘘潰し(フィクションデストロイヤー)」
――そうだ、優しい人たちなら理解できるはずだ。俺達の守るべき世界が何なのか。
ジョイナスが掲げたそれは、かつてセオドイルに向けた虚構を否定し消し去る力。自分が生き残る資格ありと選定した優しい人々の意思を、そこに込めてゆく。
「ここは……そうだ!僕の居場所だ!僕と同じ……現実に居場所がない弱者の為の場所なんだ!!」
九郎太が「全体チャット」で呼び掛ける。あれを倒して、オタクたちの世界を作ろうと。邪魔する全てを消して、フィクションに耽溺出来る世界を作ろうと。
メガフェンサーのドリルが紫電を纏う。オタクたち、弱者たちの意思をそこに集めて力に変える。
「これで……終わりだ!!」
メガフェンサーが、ネビュラマンが、飛翔する。そして――激突。
九郎太とジョイナス。お互いに集めた力が――人々の意思が、一つに集う。
そしてその瞬間、世界は光に包まれた。
「――もう、いい加減にしてください」
人々の意思は、確かに通じた。それは、ジョイナスの「大嘘潰し(フィクションデストロイヤー)」を介し、世界を塗り替えていく。
「こんなのはもう沢山だ」
「害悪なのは両方です」
「これ以上私たちを苦しめないで」
だが、その結果は九郎太もジョイナスも全く意図しない物であった。自分と同じと判断したタイプの人間を集めた筈なのに、2人に共感し、その両方に協力しようという声は全くと言っていいほど上がらなかった。
「お前たちさえいなければ」
「私達の代表面するのはやめてくれ」
「家族を返して」
「なぜ、俺達を否定するんだ!」
「可哀想な僕を悪く言うな!」
九郎太とジョイナスはパニックに陥る、そして無情にも、大嘘潰しの光は広がって――。
「SEOも、エルメシオンも」
「九郎太も、ジョイナスも」
「私達には――要らない!!」
人々の意思がひとつとなり、光を大きく育てていく。
セオベイドやセオベイター、エルメシオンの使徒たちが起こした悲劇ごと、世界を塗り替え再構築する為に。
九郎太とジョイナスを肯定している仲間たちの姿が消え去っていく。
乙葉もルティアも、ミーニャもラーンも、セシリアもディックやマーシーも……元より実在しなかったかのように、彼らの脳内に思い描かれた自分に都合の良い妄想であったかのように。
そしてSEOもエルメシオンも、光の中で崩れ去り跡形も無くなっていく。
無理解な社会の被害者としてのポジションを得る為の仮想世界も、正しさを証明し敵対者を悪に貶める為の神の威光も、ただ彼らが気に食わない周囲の環境に向けた怨嗟とエゴイズムの発露でしかなかったかのように。
そして、九郎太とジョイナスの顔面が剥がれ、その素顔が露わになっていく。綺麗に塗装されたメッキが剥がれた先にあるのは、本質そのもの。
そこにいたのは、悪意に染まっただけの、ただの冴えない――。
――メガフェンサーとネビュラマンが翔けた空は、静寂に包まれていた。フィクションが現実と切り離され改変された世界は、正常さを取り戻していたのだ。
瓦礫の山だった街は喧騒を取り戻し、人々のささやかな暮らしと、彼らによって回る人間社会がそこには広がっていた。
決して良いニュースばかりではない。あぶれ者はどうしても暮らし辛い。幾ら科学が進歩して人1人が使えるエネルギーが何百倍になろうとも、競争相手である他者の条件も同じである。そして人そのものが抱く不幸せ、遺伝子上にプログラムされた苦しみはついて回る。
思想の多様化が進むにつれ、自由よりも窮屈さを感じる人間は増えていく。
……だがそんな中で、人々は歩み続けていた。
そんな世界の中に、彼らはいた。
倉庫バイトの先輩にどやされていた中年男性が、休憩時間にSNSを見る。今日も憂さ晴らしをしようと、自ら嫌いな界隈や悪いネットニュースを見て叩きに行く正義的行為に明け暮れようとした、その瞬間――自分の悪行が大勢に露見し否定されるイメージを見た。
その瞬間、男の脳裏に疑問が湧き出した。どうして俺はこんな不毛な事を?……と。
元来、自分は好きな物を好きと言いたかった筈だ。なのに、好きな物を否定される事の方が、そして否定者に正義を振りかざす事の方が好きになっていた。
……いつからだ?「好き」を攻撃の手段にし始めたのは……。男は、頭を抱えた。変わるなら……今しかない。
男は、スマホからSNSをアンインストールし、遠い空を見上げた。
「サイバーエデン・オフライン」――魂を束縛する楽園は、風の中に去った。
また、とある初老の男は積み上げた本を片付ける事にした。それは競争社会、資本主義、科学技術を批判する沢山の本。
苦境に立たされた就職難の時代に読み漁り、その時は単純化された勧善懲悪の悪の部分を自分の不幸に、そして自分の不幸の原因を現代社会に当て嵌めていた。
……だが、物事はそう単純ではないと、その社会に身を置き続ける事で分かったのだ。過去に作って記念に取っておいたゲームのデータもゴミ箱に移す。
優しい自分が報われないのはこの世界のせいだ、という思いで作ったゲームだった。だが本当に自分はその時、優しさの意味を理解できていたのだろうか……思えば恥ずかしい物を作ってしまったのかもしれない。
何故かそう思ったこの日だった。
「聖王の冠」――悪意と欺瞞の王権は、陽光の中に消えた。
一方、江洲 英須(えす えす)は裏でヘイト系二次創作を垂れ流してる事がバレて炎上した。こんな物を書いてる時点で最も愚かなので救いなどなかった。
彼らは歩み始めた、このどうしようもない現実を。ゆっくりと一歩一歩――。
【この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。 】