始まりの逃走劇
「はぁ、疲れたー。早くふかふかのベッドで休みたいよー。ウチらの開拓の旅って初日はいつも大変だよね」
「お前がはしゃぎすぎるからだ」
「まさか信用ポイントが使えないなんて。見たかったなぁ、劇場」
「そもそも今は開いてないんじゃなかった?」
永久凍土の星『ヤリーロ─VI』に訪れた星穹列車の一行。進路を阻む「星核」を取り除くために、星、なのか、丹恒、セイルの4人は雪降る存護の都『ベロブルグ』にやって来たのだった。
街を治める「大守護者」に会い、一通り街を見た彼らは身体を休めるため、案内されたホテルに向かっていた。
ゲーテホテル。ベロブルグ1を誇るだけあって、そのロビーは豪華でありながらも人をもてなす温かさが満ちていた。壁一面の大きな窓からは石畳の広場と懸命に生きる人々の姿が見える。
「セイル、あの「
「え、丹恒も感じた?」
周囲を見て話しかける丹恒。どうやら話すタイミングを探していたようだ。
セイル自身、カカリアには統治者として好印象を抱いてた。しかしどこか違和感を感じていたが、どうやらそれは1人だけではないようだ。
「統治者なんだから政治的な思惑の1つや2つあるんだろうね。ただ、星核の話になった時になんか敵意? 悪意? を感じたような」
「そう? 普通のいい人そうに見えたけど。こんな豪華なホテルに泊まらせてくれるんだし。でもあの人の目、ウチらと話してても遠くにある何かを見てたような……」
「もしかして、気づかなかったのは私だけ?」
静かにショックを受ける星。こればっかりは仕方ない。初めての開拓の旅で全てを疑えというのも酷な話だろう。
協力の言質を取れたのもまた事実、今から探りに行くのは芳しくない。しかも、慣れない雪道を歩いてきたのだ、『開拓』の力があれども疲れが相当たまっている。
「何も無ければいいが……。早く休もう、明日に備えて英気を養っておけ」
丹恒の言葉で話を切り上げ部屋に向かうナナシビトたち。背後の窓から覗くベロブルグの空は分厚い雲に覆われていた。
「セーイールー! 起きてー!」
「起きてる! 起きた! 起きたから! 扉を叩くのはやめてくれ星!」
ガンガンガンガン、と破壊しかねない勢いで響く鈍い音で目を覚ましたセイル。まさか列車以外でこんな起こされ方をするとは思わなかった。扉が内側へへこんでいるように見えるのはきっと勘違いだろう。
アタッシュケースを抱えて部屋を出ると、星となのかが廊下にいた。欠伸を噛み殺しているセイルに対して、彼女達は眠気などすっかり目が覚めた様子で待っていた。どうやら何か起きたらしい。
「ごめん、待たせた」
「おっそーい! あんたねぇ、まさかまた夜更かししてたんじゃないの?」
なのかの言葉にギクリとするセイル。列車の夜更かし常習犯としては耳が痛い。くっ、冷静に行けば流れで誤魔化せると思ったのに。
だが時間を削ったかいはあった。この星が
「ま、まあまあ僕のことはいいじゃないか。それよりも、何かあったんだろ?」
「外にシルバーメインが集まっている、好意的な感じはしないな」
階段を登ってくる丹恒。いつもと変わりなく落ち着いていた。
「どうする? いっそのこと裏口から出るかい?」
「やめておこう、どうやら建物を囲っているらしい。俺たちを逃す気はないようだ」
「絶対お出迎えじゃないよこれ!」
頭を抱えるなのか。セイルは昨日の会話を振り返ってみるがやっぱり気にかかることはなかった。
「私はとりあえず会いに行くべきだと思う」
「そうだな、ここで考えても時間の無駄だ。会ってから考えよう」
星の言葉で歩き出す4人。階段で響く足音は冷たく響いていた。
「大守護者代理としてあなたたちの行動と発言の権利を一時的に剥奪する。裁判団があなたたちを裁く時、反逆を目論む罪人たちに弁明の機会が与えられる」
「……ちなみに弁護士はこちらで用意しても?」
「その必要はない。裁きの場で大守護者様は公平な判断をなされるでしょう」
はーそんなことやっちゃいますかカカリア様。
石畳が続く大通りへ出た4人はシルバーメインの隊員たちに取り囲まれ、告げられたのが先程の言葉。
昨日今日でアクションを起こすのは効果的だが、そりゃ「星核」について知ってますって言ってるようなものだ。さて、どうしたものか……。
「これくらいならバットでぶっ飛ばせるけど、やる?」
「いつもならそれもいいけど、場所がね」
朝早いとは言え大通り、野次馬の数もぼちぼち増えている。アタッシュケースに納めてある
「はぁまた牢屋行きかぁ。なんでウチらの開拓は毎回毎回こんなことになるのかな」
「それはお前がいつも急に熱くなって、計画もなしに行動するからだろう」
「ウチだって成長したんだよ! 今だって計画を考えてるし……あっ、あそこ!」
「なるほど、『裂界』か実現可能な計画だな」
セイルの後ろで、なのかが封鎖された路地を示す。その奥には歪んだ空間の景色があった。
裂界、
『運命』の力を得ているならともかく、一般人には危険だ。だが、今はそれが活路となる。
「3人とも、逃げる準備だ」
「へっ、本当にいいの? 適当に言っただけなんだけど……」
方針は決まった。適当なのはどうかと思うが、これがベストだろう。
「……よし。ブローニャ様、あなたたちの言う事はわかった。案内してくれ」
「話がわかって助かるわ。ついて来なさい」
歩き始めたセイルは、誰にも気付かれないよう袖口から細い糸を石畳へ滑らせた。
「挙一明三──」
シルバーメインたちに囲まれながら歩く4人。丹恒は近くにだけ聞こえる声で合図を呟く。
「君命無二──」
不自然にならない程度に指を動かし糸を操作する。周りの反応はない、
「──一意専心!」
「ぐあぁっ!」
その言葉でバットを取り出し囲いを崩す星、槍を掴んだ丹恒は柄で足をなぎ払う。
駆け出した4人は作戦通り裂界を目指す。その最中、セイルは垂らした糸を引っ張った。
「逃げたぞ! 追──わぺっ」
「なっ、銃が凍った!?」
糸に足を取られて転ぶ兵や、銃が凍りついて驚く兵の声が背後から聞こえてくる。どうやら準備していたのはセイルだけじゃなかったらしい。
「ではでは皆さんおっさきー!」
べー。と言うなのかを先頭に裂界へ突入する4人。ナナシビトたちは勢いを落とすことなく飛び込んだ。