呪術結社鷹の爪 作:わさびにんにく
「くそっ!どうしてこんなことになった!?」
夏油は激しい動揺を隠すことが出来ない。呪術高専に宣戦布告をした夏油が自らの根城の宗教施設に戻って目撃したものを信じられないでいた。
自分がここを出発する前にその部屋には確かに呪霊を多数離してあったはずだ。しかし現在部屋には呪霊は一匹も残っていない。部屋にあるのは呪霊の残穢と生命力の高い呪霊の身体の一部が残ってる程度。
出かける前に入った菅井家の姿もなく部屋には彼らが持ち込んだのだろうか調理器具や調味料が地面を転がっていた。
「まさかあの黒人一家、呪術師だったのか?」
思い浮かべるは閉じ込めた5人の顔。呪いを祓えるのは呪いだけ。つまり菅井家は呪力が扱う術を会得していたと言うこと。このことが分かっていたら喜んで夏油は彼らを家族として迎え入れていた。
しかし今はそんなことを後悔している暇は無い。今しなければいけないのは早急に失った呪霊を補強すること。只でさえ百鬼夜行での勝率は3割だったのにも関わらず之で此方が勝つことは最早絶望的になってしまった。
自ら堂々と呪術高専に宣戦布告しておきながら日程をズラして欲しい等と言うのはあまりにも格好悪すぎる。というかそんな交渉に行ったら引っ捕らえられるに決まっている。どうにかして呪霊を百鬼夜行決行の日迄に補強しなくてはならない。
どうすれば良いか夏油は頭を抱える。今から有名な心霊スポットに行って呪霊をかき集めるか、それとも手持ちの呪霊に信者を食わせて強力にするか。どちらも充分な戦力になるかと聞かれたら心許ないと答えてしまう。
「あああ!!!どうすれば良い・・・」
夏油は膝をつきながら頭をかきむしる。そしてとあるものが目に入った。それはこの問題の現況である菅井家が置いて行ったのであろう薬味の一つ。
「唐辛子・・・」
そして夏油は呪術界の末端に属するある集団のことを思い出した。
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「わにゃ、わっわにゃっわにゃわにゃわにゃ」
「アッハッハッハ。抜糸したらメロンパンw、抜糸したらメロンパンw」
鷹の爪団の秘密基地ではレオナルド博士がジョークを披露し、それを聞く吉田、フィリップ、菩薩峠が爆笑している。
「吉田くん!今日は天気も良いというのに何をこんなところで爆笑してるんじゃ」
「あっ総統、実は博士の話が面白すぎるんですよ」
「そんなに面白いのかね?どれ、わしにもちょっと聞かせてくれないかね?」
世界征服もしないで遊んでいることを注意する総統だったが、レオナルド博士の話に思わず興味を示す。
「わにゃっわにゃっ、わわにゃっわにゃわにゃわにゃ」
「ヌワッハッハッハ。ドブカス芋虫w、ドブカス芋虫w」
「やっぱり博士のジョークは最高ですよwww」
総統も思わずレオナルド博士の話に爆笑してしまう。しかし数分もすれば総統は冷静に戻る。悪の秘密結社に暢気に笑っている時間などあって言いはずが無い。
「って、笑っている暇などないんじゃぞ。分かってるのかねわし等は今年こそ世界征服を達成しようと目標を立てたのにも関わらず、あと二週間ちょっとで来年じゃぞ」
「まあ仕方ないんじゃ無いですかね?また来年頑張りましょうよ」
「吉田くん。物事を引きずらないメンタルは大事じゃが、駄目なら次に頑張れば良いと言う適当な考えじゃいかん。そんなモチベーションじゃからわし等はいつまで経っても世界征服が進まないんじゃぞ」
「はあ・・・」
「それに現在、世界征服資金は2300円しか残っておらん。最早世界征服はおろか鷹の爪団恒例クリスマスパーティーも今年は厳しいのじゃぞ」
「2300円!!何でそんなに無いんですか?!」
総統の話にいまいちピンと来た様子を見せていなかった吉田だったが資金がほとんど無いことを聞いて大声を出して動揺する。
「忘れたのかね。一昨日デラックスファイターが来て、わし等が必死になってバイトで稼いだ25万円を奪い取ったじゃろう」
「ええ!それじゃあ、もしかして今年はクリスマスパーティー中止ですか?」
吉田は残念そうな声を上げ、隣にいる菩薩峠とレオナルド博士は肩を落す。落ち込んだ顔をする3人を見て総統はいたたまれない気持ちになる。総統自身も世界征服に対するモチベーションと団員同士の結束力を高めるためクリスマスパーティーは必要不可欠だと考えている。
「いやあきらめては駄目じゃぞ。早急に資金を稼げば世界征服は出来なくてもクリスマスパーティー位は出来るかもしれん」
「早急に資金を稼ぐ?そんな方法があるんですか?」
「そうなんだよねぇ。それが問題なんだよねぇ」
総統と吉田は眉間のしわを深くし腕組みをしながらどうすれば良いのかを思案するのだった。
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百鬼夜行決行の12月24日まで残り5日と差し迫った日、夏油は千代田区麹町に来ていた。町中を歩き呪力の残穢が濃い場所や、特徴的な残穢の場所が無いかを探す。
(本当にこんな町に奴等がいるのか?)
夏油が麹町に来た理由は一つ。呪詛師集団鷹の爪団に会うためだ。夏油は鷹の爪団の存在については噂でしか聞いていない。この世から国境を取り払い、争いやいがみ合いを無くす為に世界征服を目論む悪の呪術結社。夏油の狙いはその鷹の爪団の有すると聞く高い技術。何でも人工的に呪霊を作るのに成功していると眉唾ではあるが呪詛師のネットワークでそうささやかれている。
彼らの力が噂通りであれば失った呪霊の補填をすることは充分に可能だ。夏油にとって最早鷹の爪団は百鬼夜行決行のための最後の希望になっていた。しかし今のところ残穢はおろか呪霊の数すら平均的。呪詛師がいるとは思えないごく普通の町。夏油の内心で焦燥感が高まっていく。
実は鷹の爪団のアジトはGoogleマップで検索してもヒットするぐらい情報がバレており、近所の住民にも呪術についてはよく分かってないが世界征服を目指しているおしゃべり仲間とは認知されている。しかし非術師を嫌う夏油は非術師が多く集まるコミュニティをあまり使用したがらないためそのことを知る由も無い。
町を歩き回ること1時間。全く手がかりが見つからない焦りと多くの非呪術師とすれ違う事で夏油のイライラは募っていく。反射的に周りにいる非呪術師に手をかけそうなのを何とか抑えながら歩いていると少し大きめの広場にたどり着いた。地域住民が集まりフリーマーケットを行っているようで人が多い。
(猿が・・・・)
こんな非呪術師が密集している場所には一刻も早く抜け出したいと考え、夏油は足早に去ろうとした。しかしここで予想外の声が夏油の耳に飛び込む。
「さあ、寄ってらっしゃい。見てらっしゃい。我ら鷹の爪団が作った秘密兵器と怪人達!これで貴方も明日から目指せ、世界征服!」
思わず声のした方向に夏油は振り向く。そこでは『鷹の爪団』と言うのぼり旗が掲げられ呪具を秘密兵器、呪霊の取り憑いた受肉体を怪人という名目で売っていた。
「・・・蚤の市」
夏油は目の前の現実に理解が追いつかずその場でしばらく動けなくなった。
長くなったので二話構成にしました。
菅井家は本編でも貞子を美味しいと言いながら食べてたので一級位は平気で祓えると思っています。