呪術結社鷹の爪 作:わさびにんにく
「うーん。吉田くん。正直言ってこれはあまり良い考えでは無いと思うのじゃが・・・」
現在総統と吉田は集英少年院の待合室の椅子に座っていた。総統は眉の端が下がり、落ち着きのない様子を見せる。一方で吉田は自信満々と言うばかりに堂々とした佇まいである。
「何言ってるんですか総統。さっきも言いましたけどこれほどまでに呪術師を牽制できる秘密基地はありませんよ。それに今の鷹の爪団は少人数ですが世界征服の一番の近道は人材確保です。ここにいる物は皆非行に走ってしまいましたが僕らと同じで世間に不満があることに変わりはありません。更正途中で上手く誘導できれば強力な戦力に変えられますよ」
「まあそうなんじゃが・・・。不良少年達と相対したらどうせわし等は一切手綱を握れず液状化するまでいたぶられるんじゃ?」
吉田の一通りの説明に納得はしている総統ではあったが自分達の実力を鑑みてそんな大それたことは流石に出来ないと思っている。
「ええ。確かに何も考えず接触したらそう言う展開になることは容易に想像出来ます。でも御安心を。実はそうならない為の特級呪具を博士に開発してもらっているんです」
「なに?もう不良少年を対処する術も用意しておったのか!」
総統は吉田に策があることを知ると驚くと共に途端に顔が明るくなった。
「では、吉田くん。その呪具を早速見せてくれたまえ」
総統は期待が籠もった目で吉田を見る。しかし吉田から発せられた内容は予想外すぎる物だった。
「ああ。それなんですけど実は今回持ってくるのを忘れてしまいました」
吉田のその発言に総統はその場でズッコケかける。
「何で忘れるんじゃね?一番大事な物じゃろ」
「ええ、実は今日は調子が悪くて朝からうんちが出てないんですよ。そのせいですっかり忘れてしまいました」
「そんな理由で大事な特級呪具を忘れるかね?」
総統はいつものことながら吉田のポカに対しツッコミを入れる。
「仕方がない・・。博士、フィリップ、菩薩峠くんちょっと秘密基地まで戻って呪具を取りに行ってきてくれ」
このまま二人で現状に対し文句を言っていても進展しない。総統は博士とフィリップ、菩薩峠に指示を出した。総統と吉田の二人は三人が戻って来るまで少年院で待つことにする。
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三人が戻ってくるのを待つこと10分。やることもなく吉田はふと窓の方へと目を向けた。
「総統。見て下さいよ。一雨来そうですよ」
「本当じゃ、こんなことなら博士達に洗濯物を取り込んで貰うように頼んでおくんじゃったなあ」
朝、出発したときは晴れていたのだが現在空はどんよりと曇っている。貧乏呪術結社の鷹の爪団のうち特にお金に困っている総統と吉田は残念ながら携帯電話を持っていない。因みにフィリップは最新式、博士は自作のスマートフォンを持っている。
今にも降り出しそうな空の様子を二人は少し後悔した顔でぼんやりと見入る。
ズズズズズズズズッ
「んん?何じゃ?」
突如として曇った空に何かが浮かんでいた。いや正確には空から何かが下りて来たのだ。神々しく光っているがそこには一切の温かさや人を導くような安心感がない。グラウンドにいる数人の在院者もその存在に気付きざわざわと騒ぎ出す。
「総統!もしかしてあれって・・・!」
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(死ぬなよ。虎杖、釘崎!)
呪術高専一年生の三人、虎杖、伏黒、釘崎は任務として生存者の保護に来たが現在最悪と言って良い状況に陥っていた。少年院内の宿舎の中では生得領域が展開され迷路のように入り組んだ状態となり、釘崎は穴に飲み込まれ姿を消し、虎杖は時間稼ぎとして特級と対敵している。
伏黒は消えてしまった釘崎を探す為に玉犬に先導させる。何としても二人を助けるべく伏黒は領域で長くなった廊下を全力で走る。
走ってる最中、廊下の先に思わぬ存在がいることに伏黒は気がついた。
(話し声がする。・・・生きてる在院者がこの先にいるのか)
二人の男の話し声が伏黒の耳に入ったのだ。ここに来た理由は5人の在院者の生存確認と保護。つまりそのうちの二人がこの先にいるのだと予想した。だが伏黒は在院者を助けると言う選択を早急に切り捨てていた。
自分が助けたいと思う人間を助けることを心に決めている伏黒にとって少年院にいる人間など真っ先に見捨てる存在。たとえ相対したとしても通り過ぎるだろうと思いながら廊下を右に曲がった。
「!!」
だが声の主を見て伏黒の足は思わず止まる。
「ポッポルポー、ポッポッポー、ポッポルッポー」
「どうじゃね吉田くん。出口は分かりそうかね?」
「駄目ですね流石に鳩たちも出来たばかり領域内がどうなっているかは分からないそうです」
「もうどうするんじゃねぇ。呪胎が現れた時に直ぐ逃げれば助かったかもしれないのにわし等完全に領域に閉じ込められてしまったぞ」
「いやあすいません。突然うんちがしたくなってしまったもので。でもあのままトイレに駆け込まなかったら絶対に間に合わなかったと思うんですよ」
確実に少年院に入る様な年齢の二人の男が呪胎、領域と言う言葉を平然と使っている。さらには小柄な方は鳩と僅かな呪力を発しながら会話をしていた。間違いなく二人は呪霊を認識できる呪術界の人間であることは明らかだった。
「おい、アンタ等」
「ん・・・?おお!吉田くん見ろ。あの制服は呪術高専の生徒じゃ!助けが来たぞ!!」
「まさに、棄てる神いれば、拾う神ありです」
「アンタ等、呪術師か?」
二人の男は大喜びで伏黒に近づいてきた。伊地知から呪術師が自分達以外に居ること何て聞いていない。となると考えられる可能性は偶然居合わせた呪術師か総監部が認知していない潜りの呪術師であると予想する。だがその答えは意外すぎる物であった。
「いいえ。わし等は呪詛師です。ちょっと新しい秘密基地の内見に来ていたらこんなことに巻き込まれてしまいまして。外に出ることも出来ずに途方に暮れていたんです」
「はあ!?呪詛師ぃ!」
「はい僕らは世界征服を目論む悪の呪術結社の鷹の爪団といいます。こっちの靴下に四か所以上穴が開いてるのが総統で。ぼくが島根の吉田です」
呪術師として今すぐ捕らえなければならない対象が目の前に居る。秘密基地の内見とは何だ。何故正直に自分たちが呪詛師であると名乗るのか。いろいろと気になる点はあるが今の伏黒にはこの二人に相手する時間は無い。
「・・・・。じゃあ悪いが今はお前等に構ってる暇は無い。今回は見逃してやるから逃げるなり好きにしろ」
伏黒は二人を置いてこの場を去ろうとする。
「ちょと待って下さい。お願いします。わし等を助けて下さい!」
「Hな本を差し上げます。Hな本を差し上げます」
「何で助けるんだよ。呪術師にとって呪詛師を取り締まる対象。助ける義理なんて一切無い」
だがそんな冷たい言葉で食い下がる程総統と吉田は余裕のある人間じゃ無い。総統と吉田は恥も外聞も捨て去り涙を浮かべながら伏黒の足にしがみつく。
「いや。わしら言うほど悪でもない。こう見えて善良な悪の呪術結社なんです!!」
「悪いのは家計事情と総統の膝位です!」
「やめろ、すり寄るな!仲間が捕まってるんだよ。急がないと手遅れになる!!」
伏黒にはこんな呪詛師を助ける余裕なんてこれっポッチもない。今こうして話している間も虎杖と釘崎の命は保証されていないのだ。一刻も早く伏黒は釘崎を救出し虎杖にそのことを報告しなければならない。
「何?!ならばわし等も協力する」
総統は伏黒の話を聞き心配そうな焦った口調へと変わる。
「協力って・・・。あんた等呪詛師だろ?」
「呪詛師であることが命の危機にある人を救わない理由にはならん」
「なっ!?」
「それに吉田くんは術式により鳩と会話することが出来る。さっきまでその力を使って出口を探していたんじゃ。人を探す何て領域の出口を探すよりは簡単じゃ。そうじゃろ吉田くん」
「任せてください。僕は島根一の捜索ボーイです」
伏黒の現状を把握すると総統は何の迷いも無く協力することを告げ吉田もそのことに同意する。吉田は鳩と向き合い伏黒が最初に見た時の様に再び会話を始めた。
「ポッポッポー、ポッポルポ、ポッポルポー」
呪詛師なんて信用できる立場の人間のはずがない。協力するなどと言うのはただの方便で騙そうとしている可能性の方が確実に大きい。しかし、伏黒は何故かこの二人を信じてみようと言う思いに至ってた。
限られた時間の中、釘崎と虎杖を救う為に藁をもすがる思いから。見るからに頭の悪そうなこの二人が脅威に感じられないから。切羽詰まった顔を見るに嘘をついている様には見えなかったから。
いや信じた理由はどれでもない。本質的に呪詛師であると自称したが伏黒はこの二人を潜在的に善人であると感じったからである。
「分かりました総統。ここから500m先を右折して、さらに300mを左折したところに女子生徒がいるそうです。沢山の呪霊に囲まれているそうでかなり危ない状況らしいです!!」
「本当か!」
伏黒は吉田の話を聞き終わったと同時に全速力で走り出す。それにつられ総統と吉田も伏黒の背中を追いかける。
何故少年院の中に鳩がいたのかはご都合展開と言うことで許してください。