呪術結社鷹の爪 作:わさびにんにく
「どうせなら一級以上の術師をよこしてもらうようお願いします。・・・まあいないと思うけど」
「努力いたします」
釘崎を助け出すことに成功した伏黒は補助監督の伊地知に任せ宿舎に戻る。伊地知は伏黒の指示に従い釘崎を病院に連れていくために車のエンジンをかける。
助手席に座る釘崎の様子を見ると呼吸は落ち着いており命に別状はなさそうである。そして今度はバックミラーを通して後部座席の方へと目を向けた。
「あのぉ。補助監督さん・・・さっきも言いましたがわし等今回の件とは無関係何じゃし、そろそろ解放してくれても・・・」
「いえ、先ほども言いましたが重要参考人として来てもらいます。それに伏黒くんから貴方達は呪詛師と聞きましたので処遇については高専で決めさせていただきます」
伊地知が運転する車の後部座席には総統と吉田が座っていた。伏黒に協力した総統と吉田だったが領域から脱出した後、伏黒は特に迷いもせず二人を伊地知へ引き渡した。
確かに捜索に協力してくれた恩はあるし彼らのことは善人であると伏黒は感じた。だが善人だとしても呪詛師を名乗るなら捕縛するのは必然だと考え彼らの処遇については高専に任せることにしたのだ。
「確かにわし等は呪詛師で世界征服を目論んでおりますが、わし等は人に地球に優しい世界征服を目指しております!ここはどうかお慈悲を、お慈悲を下さいぃ~」
「言い分は分かりましたから。ですから総合的な判断は上に任せます」
実はこのやり取りは総統と吉田が引き渡されてから何度も繰り返されている。伊地知も良い年した中年の醜態にツッコミを入れることに疲れてしまい、もう事務的な返答しかしなくなっていた。
伊地知の頭の中は既に補助監督として次に自分がするべき仕事は何かを整理していた。総統の言葉などもうほとんど頭に入っていない。
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車に乗ること15分、目的地である病院に到着した。
「では私は釘崎さんを連れて行ったら直ぐに戻りますので大人しくしていて下さいね」
伊地知はそう言って車を降りると釘崎に肩を貸しながら病院の本館へと向かう。既に総統と吉田の一挙一動に呆れていた伊地知は呪詛師であるはずの彼らをぐずっている子供を見る親の目で見ていた。
大人しくしろと言われた総統と吉田だったがその手には動きを封じる呪符が貼られている。おかげで暴れることはおろか勝手に車を降りることすら出来ない。
「総統、どうしましょう。高専なんかに連れて行かれたら絶対碌なことになりません。最悪一週間は拘束されるんじゃないですか?」
「高専での監禁生活・・・。きっとご飯は水溶き片栗粉のスプーン抜きで布団はアルミホイルじゃぞ」
「最悪っす!」
総統は呪術高専で待ち受ける監禁生活を勝手に想像する。嫌だけど呪詛師にしてはショボすぎる報いのイメージ。それは如何に鷹の爪団が間の抜けた集団かを物語っていた。
しかし高専に捕まることは本気でイヤだと思っているのは事実。吉田も総統もどんよりとした暗い表情を浮かべる。
コンッ コンッ
「ん?」
総統と吉田が時間の無駄をしているところに車の後部座席の窓を叩くものが現れた。音に反応して窓の外を見るとそこ立っているのは厳つい強面男性、肌が紫色の子供、そしてクマ。
「おおっ!!博士にフィリップ、菩薩峠くん!!」
「悪いな、遅くなった。至る所にいる補助監督の応対で時間がかかったんだ」
そう秘密基地に戻って特級呪具を取りに行ってた鷹の爪団の優秀な方である。三人は補助監督達によって少年院付近は封鎖されたことで総統達と合流するのに何時間もかかってしまったのだ。
三人の助けでようやく総統と吉田は車から降りることが出来、呪符を剥がしてもらったことで自由な身となった。
「いやあ助かった。もう駄目かと思ってたわい」
「よく補助監督達を撒くことが出来ましたね」
「おう。少年院内のガキ共を対処するために開発したこの特級呪具が役に立った」
そう言ってレオナルドはそう言って白衣から白い手袋の見た目をした呪具を取り出した。
「おお!これが吉田くんの言ってた呪具かね。いったいどんな効果があるんじゃ?」
総統はレオナルド博士が見せる特級呪具にテンションを上げる。
「ちょっ、誰ですか貴方たち?」
そこにタイミング悪く伊地知が戻ってきてしまった。総統と吉田が車から逃げたしている。さらには個性豊かすぎる見た目の三人を見て目を見開いていた。
「チッ、面倒くせえな。丁度いい」
レオナルド博士は流れる様に手袋の呪具をはめる。そして一切の躊躇無く掌から光線を伊地知向けて発射した。
ビビビビッ
「うわああああ!!!」
人に地球に優しい世界征服を目指す鷹の爪団にとって罪の無い人間を無闇に傷つけることは御法度。光線を受け、叫び声を挙げる伊地知に総統は大慌てになる。
「博士!だ、大丈夫なのかね!!!」
「大丈夫だ。ちゃんと見ろ」
博士は光線を浴びた伊地知に指をさす。伊地知の身体は傷どころか服すら焦げておらず五体満足の姿でそこに立っていた。ただ何故か表情だけが何処かうかないものになっていた。
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「ちょっと残念」
呪術高専東京校の医師である家入硝子の目の前には先程までの虎杖の死体があった。
伏黒は伊地知と別れた後、少年院に虎杖を助ける為に急いで戻ったのだがそこでは両面宿儺が虎杖の身体を支配したままであった。両面宿儺は心臓を抜き取り虎杖を人質に取ったが虎杖は宿儺から肉体の主導権を奪い自らを犠牲にしたことで死んでしまった。
しかし解剖を始めようと準備をしている途中で虎杖は突然の復活。何も無かったかのようにゆっくりと身体を起こしたのだ。
「悠仁、おかえり」
「おっす、ただいま」
パンッ
五条と虎杖はハイタッチをかわす。上層部に対し怒りを露わにしていた五条はいつもの楽天的な明るい表情に戻っていた。
「あと硝子。悠仁を解剖しなくてすんだわけだし、ちょっと先に直して欲しい人達がいるんだよ。伊地知もその一人なんだけどさ」
「伊地知もか?」
「実は多数の補助監督が被害に遭っていてね。命に別状は無いけど重傷なんだ。隣の部屋に皆いるよ」
五条と家入は隣の部屋に行く。部屋には4人の補助監督がおり何をするわけでもなく全員大人しく椅子に座っていた。傷なんて一切見られず、顔の血色も良い健康体そのもの。何処が重傷なんだと家入は疑問を浮かべる。
「別に皆元気そうだけど?」
「まあ話してみたら分かるよ」
五条が言った通り学生時代から面識のある伊地知がその中にいたので、家入は彼に声をかけることにした。
「伊地知、五条から重傷だって聞いたんだけど?大丈夫か?」
「あっ。家入さんお疲れ様です。実は誠に勝手なのですが今日限りで補助監督を辞めさせて頂こうと思いまして」
「は?」
補助監督を辞める。突如として伊地知から発されたその言葉に家入の脳は一瞬フリーズした。伊地知の目は虚空を見ているがごとく重く、ハイライトがない。しかし絶望をしている訳では無くどこか晴れやかで自問自答繰り返しているように見える。
普段から気力や体力、自己肯定力にあふれた目をしているわけでは無いが長いつきあいの中でこんな目をした伊地知を見た事が無い。
「おいどうした伊地知?ついに五条のパワハラが限界に達したか?」
「ちょっと硝子、酷くない?」
五条はナチュラルに家入の発言にツッコミを入れる。
レオナルド博士が伊地知達、補助監督に放ったのは『特級呪具ノーアイデンティティ』。光線を浴びた物は一時的に自己のアイデンティティを失ってしまい、「自分はこのままで良いのか?」、「これは本当に自分がやりたいのか?」と自問自答を繰り返す。仕事や趣味など何かに情熱を燃やす物や己の軸をしっかりと持つものには絶大な効果を発揮する呪具であった。
「アイデンティティの消失?」
「そう。僕の六眼で見るにどうやら何者かに術式による攻撃を受けていてね。その呪いによって仕事に対するアイデンティティが皆無くなっているんだ」
五条は目元に巻いている黒い布を持ち上げ青白く光る瞳で伊地知を見る。五条の持つ六眼は補助監督達にかかった呪いの情報を鮮明に映し出していた。
「見たところ永続的ってわけじゃなくて一時的みたいだからさ時間が経てばそのうち治るだろうけど今は人手不足だからね。硝子の反転術式で早速、治療して欲しいんだ」
「精神的に相手を操作する。とんでもない術式だな・・・・」
暴力行為を一切使わずに一時的とは言え呪術師を無力化する。平和的だが極めて恐ろしく凶悪な術式。
「個人なのか、集団なのか、どんな目的かも分からないけどさ。ハッキリ言って呪詛師なら相当ヤバいよね~」
五条は明るい調子で説明するがその存在を危険視していた。もし此方と敵対する意思があるなら生半可の呪術師じゃ止められないだろうと五条は考える。
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そんな噂の存在は・・・・
「と言うわけで
「早いよお!!!!」
ドーーーーーーン
特級呪具【ノーアイデンティティ】
元ネタは秘密結社鷹の爪ゴールデンスペル第4話にて登場ました。