呪術結社鷹の爪   作:わさびにんにく

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 今回長いですが前後編に分けると区切りが悪いと思い一話にしました。



第十九話 奇跡

 

 

【__________以上、『真実の愛 ―結婚式での花嫁の奪い方―』をお送りしました。次回の猿でも分かるアカデミーは『僕らの青春 ―負けた高校球児の砂の持って帰り方―』をお送り致します。お楽しみに】

 

「次回は砂の持って帰り方かあ。見逃せないなあ」

 

 吉田は秘密基地のリビングルームでテレビを見ていた。呪術的にも一般的にも役に立たない内容ではあるが吉田は真剣な顔で画面を凝視していた。

 

「吉田くん!!」

「何すか総統?」

 

 そこに朝刊の配達バイトが終わった総統が秘密基地に戻って来た。

 

「何すかじゃないわい吉田くん。今日は朝から外で世界征服をすると言っておったのに何を部屋でテレビを見ているんじゃね」

「ああそれなんですけど今日は午後から雨が降りそうだったので中止にしました」

「そんな天候の一つで断念するくらい君の世界征服に対する熱意は低いのかね!」

「でも靴のつま先が濡れたら気持ち悪いじゃ無いですか」

「吉田くん。ここ最近君からは世界征服へのモチベーションが全く感じられん。君はそんな気持ちで本当に世界征服が出来ると思っているのかね」

 

 総統が吉田の世界征服に対する向き合い方に対し不満を言う。

 

「モチベーション一つで世界征服を達成する可能性が変わる物なんですか?それにモチベーションの低さで言えば僕の方がまだ良いですよ。博士なんて呪術師の下請けやってますからね」

 

 吉田は部屋の隅にいるレオナルド博士を指さす。巨大なベルトコンベアの機械を前にデータ入力をしている。そしてベルトコンベアからはゆっくりと日本刀が流れていた。

 

「博士!!何をやってるんじゃ!!?」

「おう。日本刀型の一級呪具を300個作っているんだ」

 

「そうではない。何故呪術師の下請けやっているのか聞いているんじゃ!」

「うるせぇなぁ。金が欲しいんだよ。術師の中でも特に御三家は金払いが良いんだよ」

「しかしそんな物を作ったら巡り巡ってわし等自身の首を絞めることになるじゃないかね!」

 

 鷹の爪団は独立採算制のため各々が個人的な活動を行い資金調達することが許されている。総統はレオナルド博士のあまり命知らずな行動に咎めるがレオナルド博士は一切意に介していない。

 

「うう何てことじゃあ吉田くんだけじゃなく完全に団全体で世界征服への情熱が冷めきってておる。これはどうにかせんといかん」

 

 総統は仲良くテレビを見る4人を見て頭を抱える。

 

 

 

―――――――――――――

 

 

 

 翌日

 

 

「鷹の爪団、集合!」

「何じゃね?騒がしいぞ吉田くん」

「君が吉田くんじゃ!吉田くん!」

「ああそうでした」

「俺は忙しいんだ。納品が今日なんだよ」

 

 総統のかけ声と共に鷹の爪団は全員集められたが吉田は寝ぼけており、レオナルド博士はイライラした様子。あまり総統の話を聞く気が無い様に見える。

 

「いいか諸君、今鷹の爪団は由々しき事態じゃ。あまりに停滞する世界征服のせいで最早世界征服が記念受験。達成したらラッキーぐらいの心持ちになってしまっておる」

 

 だが鷹の爪団現状を重く考える総統はそんなことでは諦めない。真剣な顔つきで鷹の爪団の問題点を指摘する。

 

「そこで皆に世界征服に対するモチベーションがどれだけ大事かを教えて貰うために先生をお呼びした。二子玉川から来た新人先生じゃあ!」

 

 総統の紹介と共に異常に目が綺麗な野球のユニフォームに上着を羽織った男性が現れた。

 

「どうも・・・。新人先生ですっ!」

 

「新人?そんな新人で大丈夫何ですか?」

 

 吉田は紹介された新人先生に疑いの目を向ける。

 

「吉田くん。この新人先生は病的な情熱だけで心の力を解放させ落ちこぼれの生徒たちを甲子園に連れて行くと言う奇跡を起こしたのじゃぞ」

 

 総統が新人先生のキャリアについて説明すると新人先生は感極まったように声を震わせて語り出す。

 

「心の力を解放することで自己肯定力、人間力、そして精神的回復力を活性化させます。情熱はまさにエネルギーっ。そしてエネルギーに満ち溢れれば人は奇跡まで起こせるのですっ!」

 

 新人先生の綺麗すぎる眼差しに鷹の爪団は取り込まれていく。先程まで全くやる気のなかった吉田も既に世界征服に対するモチベーションを取り戻し始めていた。

 

「どうじゃね吉田くん?あの目を見ればなんだかやれる気がしてきたじゃろ?」

「はい。何か呪術界に未曾有の事件が発生しても食い止められる気すらさえしてきました」

 

 鷹の爪団もやる気が高まったところで新人先生による奇跡の教育が始まった。

 

「では皆さん。奇跡を起こすエネルギーは情熱だと説明したと思いますが、では奇跡を起こすトリガーは何か分かりますか?」

「トリガー?うーん・・・やはり集中力や決断力ですか?」

「髪型をロングにしておでこにバラを巻いて大衆の面前で宣言するとか?」

「違います!情報を事細かに開示することです」

 

 総統と吉田はそれぞれの考えを言うが新人先生はそれを否定する。

 

「情報の開示?それは自己紹介ですか?」

「いいえここで情報を示すのは自分ではなくナレーションにやらせるのです」

 

 新人先生の答えを聞いてもあまりピンと来ていない五人は小首をかしげる。

 

「いいですか。小説においては絵が無いため文章だけが頼りなのです。そこで細かい現状を読者に伝えることで読者を作品ないに没頭させるのです。そして読者の気持ちを盛り上げるだけ盛り上げることが来たる奇跡への布石となるのです」

 

 新人先生は嬉々として熱く語る。

 

「では実際に見せてあげましょう。今から先生はこのコップを床に落として粉々にします。そして情熱がどんな奇跡を起こすのかをその目でしかと刻み込みなさい」

 

 新人先生はゆっくりと机の上にあったコップを手に取る。

 

「ええっ!ガラスのコップを!」

 

「床に落す!」

 

 新人先生の発言に鷹の爪団は衝撃を受ける。そして新人先生は小指から薬指、中指と順番にコップに触れた指を離していく。

 全ての指が離れた瞬間、コップを支える物が無くなり自由落下の力が作用した。

 

「ああ!!!」

 

「コップが!!!」

 

「床に落ちてく!!!」

 

 コップは旋回しながら地面へと向かっていく。重力加速度の影響でコップが下へと向かう速さは大きくなっていく。徐々に、徐々にコップと地面との距離は近くなる。

 窓から差し込む太陽の光をコップは屈折させキラキラと光っていた。幻想的に見せていくその光の屈折は多くの人間が抱える儚さを含んですら見える。

 

 

「俺のコップ・・・・」

 

 フィリップは小さくつぶやいた。

 

 

 

************

 

 

 

 

「まだ自分が質問を質問で返せる立場だと思っているのか」

 

 里桜高校の体育館では多数の生徒が気を失っていた。その原因である少年吉野順平は特級呪霊により呪力に目覚め恨みを晴らす為にここに来た。今彼の目の前には自分を今まで嫌と言うほどいじめてきた伊藤が倒れながらうめいている。そんな声を気にする事無く順平は伊藤を何度も蹴りつける。

 

「ごめ・・んな・・・さい」

 

 順平が式神を使い自らの視線まで伊藤の身体を持ち上げると伊藤は泣きながら順平に対し許しを請う。

 

「で・・・?・・・だから!?」

 

 今までの立場がふとした切っ掛けで逆転してしまうことは特別珍しいことでは無い。部下が上司に、傍観者が当事者に。そして被害者が加害者に。

 

 

 悲痛な謝罪に耳を傾けること無く自らの復讐心に導かれ順平は伊藤にトドメさす_________

 

 

 

************

 

 

 

 

「ガラスのコップが!!!」

 

「床で!!」

 

「粉々に!!!」

 

「・・・・パパ」

 

 

 今まで繋がっていた物がふとした切っ掛けで離れてしまうことは特別珍しいことでは無い。

 それは物だけじゃ無く人との縁や命もその一つ。

 そして壊れる瞬間が今鷹の爪団の目の前で起ころうとしていた。

 

 コップは地面と接触し粉々になる____

 

 

 

 

 

 

 

_________事は無かった。

 

 コップはフィリップによってキャッチされ割れることは防がれたからだ。

 

「何しとんじゃあああ!!!」

 

 新人先生は抉るようなアッパーをフィリップの顎にたたき込んだ。

 

 

 

************

 

 

 

 バタンッ!!

 

「何してんだよ!?」

 

 

 

 順平が最後の一線を越えようとしたその時、虎杖が体育館のドアを開けて乱入。順平の意識がそちらに向いたことで伊藤の命は助かった。

 

 

 

************

 

 

 

「コップが割れるのと追い詰められた人間のレッドラインがシンクロしてるんだよ!!!分かんねえのかよ!!」

 

 新人先生はフィリップをタコ殴りにしながら自らの考えを説明する。

 

「良いか?こう言う余計な悲劇的ストーリーやバックボーンを交えることで奇跡は起こるんだよ!奇跡は起こすんだよ!!」

「新人先生落ち着いて下さい。それ以上殴るとフィリップの中身が出てきてしまいます」

 

 吉田の呼びかけでようやく新人先生は冷静さを取り戻した。新人先生は肩で息をしながら荒い呼吸を繰り返す。

 

「すいません。つい取り乱してしまいました。先生は奇跡の途中で腰を折られることが一番嫌いなんです」

「いえ。それ位の熱意が無いと奇跡は起きないことがわしらも身に染みて分かりました」

 

 

 総統が新人先生の指導への感想を述べたところで秘密基地にいつもの乱入者が現れた。

 

「ハーハッハッハ。今日もお前達の作戦は失敗だ!」

「そ、その声は!」

「そうだデラックスファイターだ」

 

 最早鷹の爪団の秘密基地に来すぎて何の新鮮味のないデラックスファイターがそこにいた。

 

「わしらは自己啓発してるだけで悪巧み何かしていないぞ」

「関係ねえよ。食いたかった限定水羊羹が売り切れてて俺はムシャクシャしてんだよ」

「八つ当たりかよ!」

 

 デラックスファイターはイライラとした様子で掌を鷹の爪団に向けて突き出した。

 

「ま、待て。今日は客がいるんじゃぞ。一般人を巻き込んでデラックスボンバーを放って良いと思っておるのか!」

 

 総統の言葉にデラックスファイターは新人先生の存在に気付く。

 

「あ、客ぅ?お前等に一体全体どんな客が来るってんだよ?」

「病的な情熱から奇跡を起こすことに定評のある新人先生じゃ。」

「最近、団全体でモチベーションがイマイチなもんで指導してもらってたんだよ」

 

「新人先生ですっ」

 

 新人先生は純粋な瞳をしてデラックスファイターに挨拶をする。デラックスファイターは新人先生の顔を一瞥すると鼻で笑い呆れ顔を浮かべる。

 

「おいおい新人先生とやら。此奴らが何者なのか分かってて指導なんてしてんのか?此奴らは悪の呪術結社。呪術で世界征服を目論む問答無用な集団だよ」

「呪術・・・」

「おい勝手なこと言うなよ。それに問答無用なのはいつもお前の方じゃ無いか」

 

 総統は文句を言うがデラックスファイターは気にせずに続ける。

 

「そんな奴等のモチベーションアップに協力なんてアンタもいわば同罪の呪詛師だな」

 

 自分も呪詛師である。その言葉に思い空気が漂い新人先生は顔を下に向ける。そしてしばらくの沈黙の後再び顔を上げてデラックスファイターに向かって言い放った。

 

 

 

 

「・・・・何言ってだお前?馬鹿じゃねえのか?」

 

 

 

 嘲笑の目をデラックスファイターに向けていた。非術師の新人先生からしたら呪力だの呪詛師だのいきなり言われても訳が分からない。この反応は別におかしいことじゃない。

 だがこの発言によってデラックスファイターの怒りは沸点まで一気に駆け上ったのだが。

 

 

「デラックスゥーーーーー_______

 

 

************

 

 

 

「初めましてだね。宿儺の器」

 

 里桜高校の校舎内で虎杖が順平を説得しているときその呪霊はやってきた。その呪霊の名は真人。

 人が人を恐れ憎む負の感情によって生まれた呪霊で順平に力を与えレッドラインを越えさせようとした黒幕である。

 

 真人は自らの身体を変形させて虎杖を壁に拘束すると。

 

「逃げろ!順平!!」

 

 虎杖は順平を逃げるように説得するが順平自身は真人のことを既に信用してしまっていた。

 真人は順平の背後に立つとゆっくりと順平の肩に手を置く。そして真人は順平の耳元で小さく囁いた。

 

「順平って、君が馬鹿にしている人間のその次くらいに馬鹿だから_______」

 

 

 

************

 

 

 

_____ボンバァーーーーーー」

 

 デラックスファイターが放った呪力は鷹の爪団と新人先生に襲いかかる。デラックスボンバーによる強大な呪力放出は秘密基地にある物を多数巻き込んで吹き飛ばす。そこにはフィリップによって破損が防がれたガラスのコップもあった。

 今回はそのコップに待ち受けるであろう悲劇から助けられる人間はいない。コップは再び地面に向かって真っ逆さまに落ちていく。

 

 

 

      パリーーーンッ

 

 

 

 そして運命に抗うことも出来ず、地面と接触したコップは只の破片へと変わったのだ。

 

「奇跡起きないじゃないいいいい!!!!」

 

 総統はデラックスボンバーで吹き飛ばされながら叫ぶ。それは総統の心からの叫びであった。

 

 

************

 

 

 

________だから死ぬんだよ。無為転変」

 

 

 真人は己の術式を用いて順平の魂に触れる。

 

 

 

      グニィ

 

 

 

 そして順平の身体は水色に変色し完全な異形の化け物へと姿へと変えられた。完全に理性を失ってしまった順平は虎杖に襲いかかる。

 

「しっかりしろ!順平!!!!」

 

 虎杖は改造された順平の攻撃を避けながらも叫ぶ。それは虎杖の心からの叫びであった。

 

 

======================

 

 

 悲しき結末を迎えた一つの物と一人の人間。

 

 起こってしまった事象を変えることなんて出来ない。

 

 受け入れなければならない悲しき現実である。

 

 

 

 

 

 その時・・・・不思議なことが起こった。

 

 

 

 

 完全に砕け散ったコップと姿形が完全な異形へと変わってしまった順平は突然目を覆いたくなるほどの閃光を自ら放つ。

 光が治まったその先には傷一つ無い綺麗な状態のコップと順平がそこにいた。

 

 

「奇跡だ・・・・!」

 

 虎杖は目の前にいる人の姿に戻った順平を見てそう言うしか出来なかった。

 

 




 今回の話の元ネタは鷹の爪カウントダウンの第一話になります。

 かなり無茶苦茶ですが正直この方法での救済は書き始めた当初からやりたかったんです(笑)。
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