呪術結社鷹の爪   作:わさびにんにく

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第二十話 共同戦線

 

 

 

 とある山奥にある秘湯。道もほとんど舗装されておらず山に慣れた登山家でも中々踏み入れない危険な場所。そこには二人の特級呪霊と一人の呪詛師が集まっていた。

 

「吉野順平の家に置いてきた宿儺の指は高専に回収させる予定じゃ無かったのか?」

 

 大地から生まれた呪霊漏瑚は冷たい視線を額に縫い目のある塩顔の男に向ける。

 

「その予定だったんだけど吉野順平の家に高専よりも先に来た呪詛師集団が偶然いたみたいでね。指はそいつ等の手に渡っちゃったんだよ。ご丁寧に呪霊に襲われた吉野凪の治療をしてから去って行ったよ」

 

 額に縫い目のある男は去年百鬼夜行を行った最悪の呪詛師夏油傑・・・

 

 

 

 ・・・の身体を乗っ取った羂索と言う呪詛師。彼は岩場に腰をかけて二人に事の経緯を説明する。

 

「治療?呪詛師がか?」

「いや呪詛師とは言っても絶対的じゃ無く相対的な呪詛師だ。その上、貧乏で頭悪くておまけに不潔で意気地が無くて、どうして生きていられるのか分からない位の駄目組織だよ」

 

 羂索はその組織に対しこれ以上無いと言うほどの酷評を下す。

 

「ハア・・・まったくどうなっているんだ?順平と言うガキを利用しての縛りも失敗したと言っていたな。貴様の立てた計画がことごとく失敗しているではないか」

 

 漏瑚は現在自分達の作戦が失敗続きなことにため息をつく。羂索に対して嫌味の一つでもぶつけ無いとやってられない。

 

「じゃあ次はどうすんの夏油?取りあえずその駄目組織を壊滅させて指を取り戻す?」

 

 お湯に浸かりながら身体を伸ばす真人は羂索に質問する。

 

「いや。指を高専側に回収させるのが失敗した以上高専襲撃には別のプランが必要だ。そこでその駄目組織に協力させようと考えている」

「はあ?そいつらとんでもない馬鹿なんでしょ?そんな奴等役に立たないでしょ?」

 

 真人の考えはもっともであるが羂索はそのことを全く意に介さない。不適な笑みを浮かべ、道ばたに落ちてる小石を拾う。その小石を指で転がしながら自らの考えを述べる。

 

「馬鹿とハサミは使いよう。如何にボンクラでも適切な役割を与えれば必要以上の力を発揮出来る。彼らはそんな人材の集まりだよ」

 

 そう言うと小石をお湯の中に投げ込んだ。

 

 

 

 

**********

 

 

 

「総統、総統、大変です!!」

 

 鷹の爪団の秘密基地で総統は世界征服資金を稼ぐためにシール貼りの内職をしていた。そこへ吉田が声を張り上げながら駆け寄って来た。

 

「何じゃね吉田くん?西瓜が果物じゃないことは昨日聞いたぞ」

「違いますよ。これです、これ。この雑誌を見てください」

 

 吉田の手には有名な漫画週刊誌が握りしめられていた。そして一つの連載作品を吉田は指し示す。

 

「この漫画が何だと言うんじゃね?」

「覚えてますか総統。去年僕が作った『呪霊単眼猫』について。実はこの漫画の作者がその『呪霊単眼猫』の受肉体みたいなんですよ」

「何じゃと!?」

「何でも僕たちがあの呪霊を手放した後に漫画賞の受賞、連載と進んで今じゃアニメ化も決定してるみたいです」

「むぅ・・・わしらがあの呪霊を手放さなければ今頃潤沢な資金で世界征服に勤しめていたのか・・・」

 

 

 

 

  ピンポーン

 

 総統は現状の貧乏生活を憂いて唇を噛んでいると玄関の呼び鈴が鳴った。

 

「誰じゃねこんな時に?」

「デラックスファイターじゃないですか?」

「デラックスファイターが律儀に呼び鈴を鳴らすわけが無いじゃろ」

「じゃあ新聞の勧誘とか、何かのセールスですかね?」

「嫌だな~。この前来たセールマンには蟻塚と脱穀機を二つずつ計30年ローンで買わされたと言うのに」

 

 総統は出たくないと言うがお人好しの性格が災いし無視することは出来ない。重い足取りで玄関へと向かう。

 

   ガチャリ

 

 

「やあこんにちは。鷹の爪団の皆さん」

「あれ?貴方は去年、わし等の作った呪・・・怪人をまとめ買いしてくれた・・・」

 

玄関に立っているのはセールスマンでは無かったがセールスマン以上に胡散臭い笑顔を浮かべる男であった。

 

――――――――――――――――

 

 羂索は秘密基地に案内され鷹の爪団と相対していた。

 

 

「なるほど須藤さんも呪詛師だったのですか。どうりでわし等の怪人を呪霊と見破ったわけじゃな」

 

「ええ私は呪力を持って生まれたが故に非術師に虐げられる人がいる現状に憂いておりまして。呪術師も非術師も誰も尊重出来る世界を目指しております。そんな中で鷹の爪団さんの存在を知りまして。人に地球似優しい世界征服のモットーにする皆さんを大変尊敬しています」

 

 羂索は須藤という偽名を名乗り口から出任せをつらつらと並べる。如何に鷹の爪団が馬鹿だとは言え余計な情報を言うのは危険。羂索は本来の素性や目的は伏せて鷹の爪団を懐柔することを謀る。

 そんな相手の心中に気付くはずの無い総統は満更でも無い顔をして羂索の話を聞き入る。

 

「そうかね。そうかね。わし等に尊敬してるわけかね」

「良かったらサイン差し上げましょうか?」

「あっ大丈夫です」

 

 吉田がマジックペンを取り出すが羂索は華麗にスルーする。

 

「それで須藤さんわし等に用と言うのはいったい?」

 

 総統が質問とすると羂索は真っ直ぐで真剣な表情を作る。数百年生きている羂索にとってその時その場で最も適した表情を作り出す事など造作も無い。それが生活をする中で最も

 

「実は私達は組織の戦力増強を図る為に近々呪術高専にある忌庫に侵入し特級呪物を盗み出そうと考えております」

「高専に侵入!それは随分と思い切った計画じゃな」

「難易度半端ないっすね」

 

 羂索はあえて一呼吸置き次の言葉を紡ぐ。

 

「そこで鷹の爪団さんにはこの計画に協力して頂きたく仕事として依頼に来たんです」

「何!!わし等に仕事の依頼じゃと!?」

 

 総統は羂索の発言に思わず目を丸くする。いくら好印象を持たれ現在良好な話し合いを出来ていたとしてもお互いがそれぞれ世界征服を目指している身。だとすれば敵対関係であると言える。そんな相手に仕事の依頼などあまりにこの須藤と言う男は破天荒すぎると総統は思う。

 総統の顔が驚きで固まっている中冷静に羂索は話を進める。

 

「まあ確かに総統さんの言いたいことも分かりますよ。お互いがそれぞれ別の理想とする世界がある以上、好敵手になり得ても仲間にはなれないと言いたいのでしょう」

「ええまあ・・・」

「でも考えてもみて下さい。私達は世界征服を目指す以上、呪術高専や総監部と言う共通の敵がいると言う現実があります。なればこそ呪術師達を討ち取る迄は共同戦線を張ると言うのは妙案だと思いますよ?」

 

 羂索の見事な交渉術により徐々に総統は籠絡されていく。

 

「ううむ・・・」

「総統まさか了承するんですか?呪術高専何かに忍び込んだら僕らなんて2秒で消し炭にされるだけですよ」

 

 総統が迷っている顔をしているのに気付いた吉田が声をかける。

 

「ううむ。しかし現在の鷹の爪団の財務状況は非常に厳しい。最早今月は新しい歯ブラシ代はおろかトイレットペーパー代を捻出することすら気が引ける」

「でも勝ち目の無い戦いに挑むことは勇気とは言わず篠崎教授に全部(無謀)って言うんですよ!」

 

 中々同意すること渋っている総統に対し羂索は最後のダメ押しをぶつける。

 

「勿論報酬は前払いですよ。200万円キャッシュでいかがでしょう?」

 

 羂索の発言で総統と吉田の顔は一瞬で固まる。そして数秒間お互いの顔を見合わせた後に羂索の方へ向き直る。

 

「「須藤さん。是非よろしくお願い致します」」

 

 口を揃えて総統と吉田は誘いに乗り深々とお辞儀をした。

 

「ありがとうございます。鷹の爪団の皆さんの協力があれば百人力です」

 

 口から思ってもいないことを並べ総統達鷹の爪団を乗り気にさせる。そして懐から一枚の紙とボールペンを取り出した。

 

「では早速こちらに一筆お願い致します」

「うむ?何じゃねこれは?」

「まあ契約書みたいな物ですよ。一筆いただければ直ぐに報酬はお支払いしますよ」

 

 吉田は大喜びで総統にサインすることをせがむ。

 

「総統サインしましょう。直ぐにしましょう!」

「分かった。分かった。そう慌てるな吉田くん」

 

 総統はテンションが上がりまくる吉田を宥めながらも内心は浮き足立っている。

 勿論これはただの契約書では無く縛りである。本来であれば呪術師にとってこの様な紙での縛りなどする必要など無い。だが鷹の爪団の様な頭の弱い奴等には口で縛りを結ぶよりもこの様に文書での縛りを示した方が有効だと羂索は考えたのだ。

 呪術師同士の縛りはお互いの認識にズレが生じていると成立しない。しかし契約書があれば認識にズレがあってもそれは本人の確認不足と言うことになる。サインのある現物を見せれば縛りを再認識させ有効にすることが出来る。

 

 又、紙での資料によりビジネスとしての協力関係を印象づけ自分達が実直で真面目な団体であると思わせると言う狙いもあった。

 

 案の定彼らは前払いと言う言葉に完全に目がくらみ禄に読みもせずにペンを走らせる。

 縛りの内容は『須藤は鷹の爪団に対し報酬として200万円を先に支払う』『鷹の爪団は高専にある忌庫から呪物の奪取に成功するまで須藤達に協力すること』『お互いに素性を第三者にバラさない』の三つ。

 この縛りの中で重要な点は『-成功するまで-』と言う文言。これによりたとえ羂索の本来の目的や正体が明らかになったとしても鷹の爪団は仕事を投げ出すことは出来なくなった。

 

「須藤さん書けました」

「ありがとうございます。ではこちらが契約書の控えと報酬の200万円になります」

 

 羂索は総統から契約書を受け取ると懐から二つの札束を差し出す。紙幣はピン札で帯封が巻かれており銀行から降ろしてきたばかりのことが見て取れる。

 

「では具体的な作戦内容が決まり次第連絡致しますね」

 

 そう言って羂索は秘密基地を後にする。彼らの馬鹿すぎる一挙手一投足に笑いを堪えながら。

 

 まさか鷹の爪団がこんなにも考え無しで危機意識が低い集団とは思わなかった。こんなことならもっと一方的な内容で縛りを結べばよかったと羂索は少し後悔するもその足取りはこれ以上無いほど軽い物であった。

 

 

 




 因みに奇跡の復活をした順平くんは非呪術師に戻ってしまいました。なので前回でクランクアップになります。
 全国の順平ファンの皆様申し訳ありません。
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