呪術結社鷹の爪 作:わさびにんにく
「うむぅ・・・。なんだか物騒な場所じゃなあ。吉田くん本当にこの道であっているのかね?」
「ええ須藤から貰った地図だと集合場所はこの先になっています」
鷹の爪団の五人は須藤こと羂索に指示された目的地に向かっていた。その道はとても人が踏み入れて良いような場所に見えない深く暗い地下。掘削作業をして作られたばかりのような洞窟の道は広いが舗装されておらず歩きにくい。
「しかしこんな怪しくて立地の悪い場所を指定しなくても良いと思うんじゃが。バス停からもう40分も歩いておるぞ」
「そうですね。どうせなら文化ホールの会議室とかをレンタルしてくれれば良かったのに」
総統と吉田は指定された場所に対して文句を言う。公共の施設や交通機関を基本的に使用している鷹の爪団にとってわざわざ不便な場所に集まり作戦決行をすることに何のメリットも感じられない。
その様に思考しているとようやく鷹の爪団の進行方向に共同戦線を張った須藤と名乗る男、羂索が見えてきた。
「来ましたか鷹の爪団さん。待ちわびましたよ」
「すいません須藤さん。まさかこんな入り組んだ場所とは思わず時間がかかってしまいました」
「おかげで靴がだいぶすり減ってしまいました」
「いやあすみません。呪詛師なものでリスクは極力少なくすることが染みついているんですよ。まあ早く此方へ」
羂索は胡散臭い笑みを浮かべながら丁寧に鷹の爪団に応対する。そして鷹の爪団を洞窟の更なる深い最深部へと案内する。
更に歩くこと10分、鷹の爪団はようやく目的の集合場所へと到着した。そこは学校の教室くらいの大きさであり蝋燭の明かりが今回協力する須藤の仲間達を照らしていた。
総統は集まっている須藤の仲間達の顔を見てなんとも微妙な顔を浮かべる。
「何か思ってた仲間と違うんじゃけど・・・」
呪術師も非術師も誰も尊重出来る世界を目指している言っていたのだから総統はてっきり平等を目指すガンジーの様な穏やかな気性の仲間達を予想していた。
しかし集まってる呪詛師は上裸エプロンの色黒スキンヘッドやワンショルダーの金髪サイドテール。おまけに2人とも何かテンションが異様に高く目がイッている。そして何よりも驚くべき事は仲間の中に明らかに呪霊がいるからであった。
「おっ!君らが鷹の爪団?」
総統が集まっている今回の協力者達に不安の目を向けていると、鷹の爪団の存在に気付いた真人はヘラヘラと笑いながら近づいてきた。そして団員それぞれの顔をじろじろと穴の空くほどのぞき込む。
「・・・・うわあ聞いてた通りだ!まあ今日はよろしくね」
「ああ。これはどうも・・・」
真人は総統に対し握手をしようと右手を出す。何か含みがある様な言葉に総統は少し引っかかりを覚えたが握手を断るわけにもいかず総統も右手を差し出した。
「真人。鷹の爪団は協力者なんだから手荒なことはよしなさい」
お互いの手が触れあおうとした瞬間、羂索が真人を少し低めの声で制止させた。
「ちぇー。ちょっとしたレクリエーションのつもりだったのに」
その言葉に真人は手を引っ込めるとふくれっ面を浮かべる。総統は行き場を失った自身の手をどうすることも出来ず呆気にとられその場で固まる。
「それでどうですか鷹の爪団さん?例のものは持ってきて頂けましたか?」
「えっ・・・はい。博士出してくれ給え」
総統の呼びかけでレオナルド博士は懐からスマートフォンを取り出し一つのアプリを提示する。
「おう。半径1km圏内にある呪力の位置を地図上で指し示すことが出来るアプリ。『ジュー・ピー・エス』だ!」
「これを使えば天元様の忌庫と言えど簡単にその場所を突き止め最短ルートで向かうことが出来ますぞ」
「さらには呪力量や術式、残穢、果てはその呪力に秘められた悲しき負の感情まで色濃く映し出してくれます」
鷹の爪団は意気揚々と呪具を披露し吉田は自信満々の表情を浮かべる。羂索は目の前のスマートフォンの呪具を見て思わず目を丸くする。
鷹の爪団には最初、忌庫を探し出すための呪具を作って欲しいと言う依頼をしただけだったのだが期待以上の分析力を持つ呪具を用意してくれたのだ。術式や呪力量を分かってしまうなんて最早やっていることは六眼と同じ。それをレオナルド博士はものの一週間も経たないうちに作り出してしまったのだ。
鷹の爪団に所属するレオナルド博士の技術力は想像以上であることに驚き、尚且つ何故こんな無能な上司の下で働いているのか羂索は心底理解出来なかった。
「・・・。では早速鷹の爪団には今回の作戦について詳しく説明させていただきます」
その様な思考が頭の中で繰り広げられるが直ぐにスイッチを切り替え今回の作戦の説明を羂索はすることにした。
「今回の作戦では主に2つのチーム、妨害班と捜索班に別れていただきます。内通者の情報から今日呪術高専は姉妹交流会を行うことになっている。そこで妨害班には交流戦の最中に乱入、高専側の視線を交流会会場へと向けさせる。此方にはレオナルドさん、フィリップさん、菩薩峠さんに参加して頂きたい。その隙に小泉さんと吉田さんが捜索班として忌庫へと侵入し。呪具を頂くという寸法です」
羂索の作戦は至って単純な物であり説明時間は一分にも満たずに終了した。目的や役割もしっかりとしており作戦に関するおかしな点は一つもない。
しかし総統は少し飲み込めない顔を浮かべる。
「あのお須藤さん。一つか気になる点があるんじゃけども····」
「何ですか小泉さん?」
確かに鷹の爪団にとってこの作戦にはおかしな点は無い。おかしな点は無いのだが不安点があった。
「いくら高専側が交流会会場に目を向けてるとは言え戦力の振り分けがちょっと・・・」
そう。総統と吉田の戦力としての問題だ。総統も吉田も自分たちが鷹の爪団の中で最も役に立たないことを自覚している。よって戦力になる他の三人が前線の妨害犯になることは当然。
しかし捜索班でも呪術師と相対すことになる可能性はゼロじゃない。
「幾ら呪術師達が会場に目を向けてるとは言え見張りの者への対処がわしと吉田くんだけで出来るとは思えんのじゃ」
「自慢じゃ無いが俺たちはネットの非術師からは芋虫でも勝てそうと言われているんだぜ」
吉田は悲しい現実を飄々として言う。すると羂索は落ち着いた調子で返答する。
「安心してください。捜索班には我々の方から特級呪霊の真人が参加しますから。戦力としては申し分ありません」
「そうですか。特級呪霊が・・・。なにぃ特級呪霊!!!」
総統は思わず声が裏返って叫ぶ。
鷹の爪団も呪霊製造マシンを使って呪霊を仲間としているがそれは主従関係が結べるような呪霊に限る。軽弾みに特級呪霊などを作れば反逆されて内輪で壊滅という笑えない末路を辿っても不思議じゃないからだ。よって総統は目の前にいる真人も良くて一級位だと予想していた。
「総統間違いありません。ジュー・ピー・エスの情報によると呪力量は十二分に特級並、術式が無為天変と言って魂に触れることで身体を作り変えることが出来るみたいです!」
吉田はスマートフォンの画面を見て総統へ報告する。
「何じゃと!そんな危険な特級呪霊がわし等に協力してくれると言うのか!?」
総統が悲鳴を上げていると当の真人が会話に入って来た。
「うわ~。俺の術式当てちゃってるよ。気持ち悪っ。まあ、だから安心してよ呪術師何かいたら俺が芋虫に変えてやるからさ。アンタ等忌庫への案内までは守ってやるよ」
真人は悪びれることなく発せられた残酷な言葉に総統は何一つ安心する暇などない。今度は別の不安点が生まれたからだ。
「ちょっと待ってください須藤さん。それだと見張りの呪術師の方々の命はどうなるんですか?!」
「まあ。お亡くなりになりますね」
羂索の口から出たのはまさかの無関心に近い返答。
「冗談じゃないぞ!」
人を犠牲にしてしまうあまりにも非人道的な作戦に総統はキレる。
「わし等は悪の呪術結社でも罪の無い人間の命を奪うことなどはせん!こんな計画ならわし等は降りさせていただく!!」
総統は声を張り上げこの場を去ろうとするがそれは叶わなかった。
「そういうわけにはいかないね」
羂索は落ち着いた面持ちで懐から一枚の紙を取り出し総統の眼前に掲示する。
「それは・・・・」
「小泉さんも控えは持ってますよね。この縛りを結んだ以上鷹の爪団は私たちの計画が終了するまでは協力して頂きます」
それは以前羂索が鷹の爪団の秘密基地を訪れた時にサインした契約書。総統はこの時初めて自分が縛りを結んでしまったことを自覚した。
「つまりわし等が計画に参加しなかったら縛りを破ったことになりその代償を支払うことになる・・・。須藤あんたは呪術師も非呪術師も尊重できる世界を目指しているんじゃ無かったのか?!今の呪術界を支える呪術師をその中に含まないでどうするのかね!!」
総統は最初に聞いていた話とかけ離れた彼の考え方に真剣な顔で憤慨する。しかし当の羂索はプッと噴き出すとお腹を押さえて笑い出す。
「アッハッハ。いやあ本当に単純すぎて笑っちゃうね。尊重できる世界?そんなのはあなたたちを今回の計画に協力させて縛りを結ぶための方便でしかない」
「何じゃと!?」
「適当に煽てたら気持ち悪い位乗ってきてさ。君等本当に面白いよw」
羂索の笑い声を聞き総統は唖然とする。自分達が現在置かれた状況に頭の中は真っ白になった。
「僕たち完全に騙されちゃったわけですね」
「そんな呑気に言ってることではないぞ吉田くん!!」
吉田のあっけらかんとしてはいるが現実を見据えた言葉によって総統をいつもの調子に戻された。
次回遂に鷹の爪団が呪術高専に足を踏み入れます。