呪術結社鷹の爪 作:わさびにんにく
呪術高専の交流会で突如起きた呪霊達による襲撃事件。呪術高専でこの事件に関与した呪術師達は一つの部屋に集まり事件の全容を伊地知から聞いていた。
「口が硬い訳ではないのですがまともじゃない、要領の得ない発言が多いです」
補助監督の伊地知は捕らえた呪詛師「組屋鞣造」の事情聴取の結果を説明する。重要な証人ではあるがどうやら捨て駒だったようで組織の重要な部分が抜け落ちている。
「ただ彼の発言から鷹の爪団は今回の件の首謀者じゃない事は間違いなさそうです。計画直前に説明も無く合流、終始情けない泣き言を上げてて嫌々参加。物凄くうっとうしかったとだけ言っています」
「当の本人達は何と言っている?」
楽巌寺学長が伊地知に質問する。今回の事件で全員が注目している存在、鷹の爪団。その組織のトップが天元様の忌庫にて発見されたと言うことは間違い無くこの計画でメインを担っていると判断できる。
「嘘をつくわけでも、反抗的なわけでもないのですが・・・・とにかく話を聞ける状況じゃないと言うか・・・」
質問をされた伊地知は物凄く青白い、悲壮感漂う顔で答える。普段から疲れた顔をしている伊地知ではあるが今回はその比ではない。そんな顔を浮かべる伊地知から鷹の爪団の異質さに拍車をかけた。
伊地知は自分が鷹の爪団のトップ二人の事情聴取をしたときのことを思い出す。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
2時間前・・・
伊地知は事情聴取をするために一つの部屋の前にいた。この先に今回の事件の重要な容疑者である総統と吉田がいる。
伊地知が総統と吉田と対面するのは今回で二回目になる。前回は二人の雰囲気に飲まれ伊地知は完全に油断してしまった。そのせいで何者かの術式にかかり退職願を提出するまでに追い詰められてしまったのだ。
次はその様な轍は踏まないと心に引き締め伊地知は部屋に入る。
「・・・・久しぶりですね。鷹の爪団」
中にはあの日出会った二人。伊地知は敬語を使ってはいるが威圧感を与えるために堂々とした立ち振る舞いで声をかける。
一方、二人の目は完全に泳いでおり、身体はブルブルと震えている。
歯をガチガチと鳴らす一斉に叫び出した。
「違うんです!これは誤解なんです!家電売り場は3階です!」
「お慈悲を、お慈悲を下さいぃぃ!」
「いや。ちょっと・・・」
伊地知が尋問をするよりも早く総統と吉田は命乞いを始める。前回会ったときはおとぼけた頭の悪そうな存在だったが、今回は物凄く矮小な存在に成り下がっていた。
「「う゛あ゛あ゛あっぅうっう゛う゛っう゛うわあ゛あ゛!!」」
「あの、落ち着いて下さい!」
二人は目から大量に涙があふれ子供のように泣きじゃくる。
「「うっう゛っ!」」
総統と吉田は泣きすぎた影響なのかえづき始める。そして___
「「うっ!!・・・・・ボロロロロロロロロロロッ!!!!」」
「うわっ吐いたあああ!!!」
___総統と吉田は同時に胃袋の中身を吐き出した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
話など聞ける状況ではなく伊地知を含めた数人の補助監督はその吐瀉物の処理に当たった。多くの血生臭い後処理をしてきた補助監督達が始めて行った酸っぱ臭い後処理。もう二度もそんな業務に当たりたくないのは補助監督達の総意である。
ただ何の収穫も無かったわけではない。伊地知は手に持っていた資料から紙を五枚取り出すと全員に行き渡るように配る。
「鷹の爪団の総統が持っていた物のコピーになります。どうやら安易にサインしたことで縛りが作用。今回の計画に抜け出せなくなったと思われます」
それは鷹の爪団が襲撃前に羂索と縛りを結んだ契約書であった。全員が契約書に書かれていた内容に目を向ける。
・須藤は鷹の爪団に対し報酬として200万円を先に支払う
・鷹の爪団は高専にある忌庫から呪物の奪取に成功するまで須藤達に協力すること
・お互いに素性を第三者にバラさない
この契約書を書かれた三つの縛りを結んだことが事実であれば確かに鷹の爪団は雇われただけと見てもいい。更に首謀者について自白をしない理由は縛りに抵触しないためとも考えられる。
「この須藤と言う男を調べてみたのですがめぼしい呪詛師はいなかったので恐らく偽名だと思われます」
伊地知が須藤について説明しているところへ縛りの内容を見た五条は思わずツッコミを入れる。
「いやいやいや、高専の呪具を盗み出すのに200万円って。忌庫の中には1億、2億もする呪具があるのにこんな割に合わない縛りを結ぶ馬鹿いないでしょ」
尤もの意見である。
鷹の爪団の総統が情けない姿を平気でさらし頭が残念なことは伏黒の話から五条は聞いていた。しかしメンバーに菩薩峠と言うとんでもない呪詛師がメンバーにいることからその醜態はただの呪術界を偽る仮の姿。この契約書も偽物で本来は冷酷で計画的、馬鹿のふりをして油断させている可能性すらあると考えていた。
だがそれは完全な取り越し苦労。鷹の爪団は間違い無く馬鹿なのである。
「あの結局鷹の爪団って何なんですか?」
そんな中で皆が一様に抱いていた疑問を歌姫が伊地知に質問した。全員が中途半端に鷹の爪団については知っていたがどの様な目的を持った呪詛師なのか詳しいことは知らない。
「今回この件について調査するに当たって、鷹の爪団についても一通り調査し情報を整理しました」
そう言うと伊地知は一度部屋を出る。そしてキャスター着きのホワイトボードを引きながら戻って来た。ホワイトボードには何枚かの写真が貼られており細かな説明が書かれている。
「まず交流会会場にて捕らえて頂いた危険度の高い三人の団員達について皆さんと情報を共有させて頂きます」
ホワイトボードに示される菩薩峠、レオナルド博士、フィリップの写真が貼られている。そして各三名の有能さが書かれていた。
菩薩峠 → 五歳にして特級になり得る呪術の才能の塊
レオナルド博士 → 高い技術力により御三家や総監部をも顧客とする天才
フィリップ → 世界経済にも影響を及ぼす時代の寵児
「うわっ!何これ?」
鷹の爪団の中で危険なのは菩薩峠だけだと思っていた五条は思わず苦笑する。鷹の爪団に所属する三人が三者三様それぞれ別の側面で呪術師達を牽制していると言える。確かにこんな存在が揃っていたら保守派の総監部は無闇に手を出そうなどと考えないだろう。
「ではここからは鷹の爪団の目的。そしてこの組織の最大の問題点についても解説させて頂きます」
伊地知はそう言ってホワイトボードを裏返す。そこには先程の三人とは違うメンバーの写真が貼られている。伊地知は眉間にしわはより深くなり手元にある資料を読み上げ始めた。
「鷹の爪団とは人に地球に優しい世界征服を掲げる悪の呪術結社。世界の国境を取り払い、格差を無くし全ての子供を自分の子供のように大事に出来る世界を目指しているそうで、現在は東京都千代田区麹町○○―○―○にあるアパートを拠点としています」
「ちょっと待て。悪の呪術結社なのに現住所、既に割れているのか?」
夜蛾がツッコミを入れる。いきなり鷹の爪団の説明の中に驚きの事実が交じっていた。
「はい。Googleマップにも載っていました」
「Googleマップに載ってるのか!?」
流れる様に繰り出される衝撃の事実。一つのことに驚くと更に驚く事が追撃で飛んでくる。
「それと申し訳ありませんがこの時点で驚いていてはこの先話が一切進まなくなりますので質問は最後にお願い致します」
そう前置きをする伊地知の目はどこか遠くを見ている様だった。伊地知はホワイトボードに貼られた背の低い目付きの悪い男の写真を指さす。
「彼が鷹の爪団の戦闘主任兼呪霊製造主任の吉田・ジャスティス・カツヲ。島根県雲南市吉田町出身。底抜けの無責任男で玄関の鍵はいつも開けっ放しにして遊びに行ったり、電話をシャワーに改造にするなど組織ではやりたい放題しています」
ツッコミどころが多すぎるが質問は最後にする様にと伊地知に言われたため皆何も言わない。
そして伊地知はホワイトボードに貼られた最後の写真を示す。写っているは地下鉄職員のような格好をした赤い服の中年男性。
「最後に此方の中年男性が鷹の爪団の総統の小泉鈍一郎。涙もろくて臆病、挙げ句の果てに国民年金すら払っていません。部下達からは『死にかけ顎太郎』、『碌でなし顎太郎』と呼ばれているそうです」
とても呪詛師集団のリーダーとは思えない威厳も権威も感じられない説明。伊地知は総統のことを今までのメンバーの説明の中で最も酷くこき下ろした。
「総合すると団員達は確かに国家転覆をすることが出来る実力を有しています。しかしその三人を率いる総統と主任が組織の強力な足かせとなり、脅威は驚くほど低下。呪術界、世界全体でのメリット、デメリットの比率から総監部から奇跡的に見逃されている呪詛師集団です」
そう言って伊地知は鷹の爪団は説明を締めくくった。ここからは質問をすることが出来るのだが誰一人として発言する者はいない。正直言って全員が頭の中が整理できていないのだ。
「いやどんな呪詛師集団?!!」
そして沈黙が五分ほど続いた後に五条がようやくツッコミを入れた。
因みに鷹の爪団は食べログにも載ってるらしいですよね。
4話連続で総統と吉田くんは命乞いしかしてません。自分でも流石に予想外でした。