呪術結社鷹の爪 作:わさびにんにく
「え?肉まんを脇の下で温める新サービス?」
「何の話をしているんじゃ吉田くん。まだわしは過去を一言も語ってないぞ」
「ああそうでした。で何があったんですか」
「うむ当時32歳のわしは呪術師ではなく派遣の補助監督として働いていたんじゃ」
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若き日の総統、小泉は京都にある和の装いの屋敷の門前に来ていた。高い塀に囲まれ、歴史を感じさせる門の前で屋敷の住人のお爺さんと小泉は会話をしていた。小泉の傍には段ボールを積んだ台車が置いてある。
「すいません派遣補助監督の小泉といいます。こちらが頼まれていた墨汁になります」
「えぇ・・・なんじゃあ・・もっと大きな声で話してくれんか・・・」
「ですから!発注を受けた墨汁を持って来たんです!!」
「新聞ならぁ…間に合ってるがのぉ・・・」
「駄目だ・・・この老人耳が遠すぎる」
小泉は補助監督と言う立場でこの屋敷に発注を受けた墨汁を10L分届けに来ていた。しかしお爺さんはどうにも話が通じず中に入れてもらえないでいる。小泉はどうしたらいいものかと頭を抱えた。
「おい超光学千里呪具の準備は出来ているのにまだ依頼した高熱線射呪砲は届いていないのか」
「時間としてはそろそろ来ても良いはずなのですけど」
「まったく。これだからモグリの呪具職人は嫌になる」
「分家とは言え我ら禪院を舐めているのか?」
一方で屋敷の中では数人の男たちが中庭で会話をしていた。ここは呪術界の御三家の一つ禪院家の屋敷であった。しかし住んでいるのは分家の者達であり立場としては一般の呪術師より少し待遇が良い程度。本家からは気に留められていない存在である。男たちは皆イライラとしながら不満を言い合う。
「おいあれじゃないか?」
するとその中の一人が門前にいる小泉の存在に気づく。禪院の男の一人はすぐさま小泉の下へと行きはお爺さんを押しのけた。
「おいジジイ何足してんだ!耄碌してんだから勝手に出歩くんじゃねえっていつも言ってるだろ!!」
小泉はようやく会話が出来る住人が出て来たことに安堵する。
「いやあ助かりましたよ。そちらのお爺さんが全く話を聞いてくれなかったもので。どうもこちら発注を受けた・・・」
「ああ挨拶は良いから。場所はこっちだ。早く来い」
言葉を遮り男は屋敷の中に小泉を誘導する。少し戸惑いもあるが由緒ある家系であることを理解していた小泉は言われた通りに男の後ろに付いていく。掃除の行き届いた屋敷の廊下は靴下を通して足裏に冷気を伝えてくる。
「ここだ」
そしてとある部屋の前にたどり着くと男は足を止めた。障子で閉められたその部屋は他の部屋と同じはずなのにどこか重苦しいオーラを放っている。
「他の物の準備は出来てるから。さっさと取り付けを行ってくれ」
「え?」
男は障子を開けると有無も言わさず部屋の中に小泉を押し込む。そして流れるように障子をピシャリと閉めた。
「ええ!ちょっと待ってよお!」
小泉は訳も分からず叫ぶが障子の向こうの男にはもう何も届かなった。取り残された小泉は部屋の中を見回す。壁全体には大量の呪符が貼られ、電気もつけられず部屋の中は暗い。
「何じゃこの部屋は・・・」
物々しい不気味な内装に小泉は身震いする。そして部屋の中心に設置された薄く光を放つ何かに気が付いた。
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「ハハッ五条家の敷地一帯にドデカイのをおみまいしてやろうぜ」
「おう。これで本家の方にも良い点数稼ぎになるな」
小泉が部屋の中でおののいているときに禪院家の者たちは一安心とばかりに緊張感もなく会話をしていた。これから自分たちが実行する計画で起こることを想像し微笑を浮かべる。そんなとき屋敷の門をくぐり配送業者の様な格好をした見慣れない男が入って来た。そして男は明るい笑顔を浮かべ禪院家に挨拶をする。
「すいませーん。依頼を受けた高熱線射呪砲をお届けに参りました」
この一言で屋敷の住民たちの顔が固まる。
「何?!ちょっと待て。じゃあ今あの部屋にいるのは・・・・!?」
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部屋の中心に置いてあるのは超光学千里呪具と呼ばれる水晶の見た目をした呪具。一度使用すると壊れてしまうがその水晶には見たいものを何でも映し出すことが出来る。その上、映し出した映像に何かの外傷を与えれば、その実物にも同じ外傷を与えることが出来る。
小泉は何かに導かれるように手を伸ばし水晶に触れる。その瞬間、目をくらますほどの光を水晶は放ち部屋を真っ白に染め上げる。小泉は突然の光に驚き思わず手で目を覆い隠す。
「いったい何が起こったんじゃ・・・?」
一呼吸おいて息を整えてから小泉は目をゆっくりと開ける。そして目の前の光景に驚愕することになる。そこに広がるのはテレビで見る様な宇宙から見た地球が存在した。そして小泉自身の体は宇宙に浮遊している様な独特の感覚を味わう。
「美しい・・・何て美しいんじゃ・・・・」
小泉は目の前の地球から目を離すことが出来なかった。
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「当時の呪術界は五条家に六眼と無下限呪術の抱き合わせが生まれたことで混沌としておった。そこで禪院家の一部の人間は全てを見通すと言われる水晶の呪具と高熱線射呪砲を使いその子供の暗殺を画策しておったのじゃ」
呪術師の世界では術式と呪力による強さが全てで、明確な格差が存在している。しかしあの時見た地球の光景には国境もなければ結界もない。宇宙全体の規模で見たら人間と言う存在はほんのフケにも満たない小さい存在であると小泉は実感した。その小さい存在が上下を勝手に決めることなどあってはならない。
「呪術師も非術師も男も女も大人も子供も皆が幸せにならなければいけない。全ての人間が平等に生きるには世界を統べる存在が必要だと思ったのじゃ」
「なるほど。そんなことがあったんですね総統。その初心を忘れずにこれからも僕たちは頑張らないといけませんね」
「そうだぞ吉田くん。わしは必ずや世界中の皆を幸せにしてやるぞ!!!」
総統はそう叫び、鷹の爪団の全員は世界征服に向け気を引き締め直した。
ギャグが少なくてすみません。