呪術結社鷹の爪 作:わさびにんにく
土曜日の昼、特級術師乙骨憂太は1人駅で人を待っていた。今回乙骨はとある一級呪術師に同行し仕事の見学をする事になっている。何でもまだ呪術界に足を踏み入れて日の浅い乙骨に呪詛師について詳しく知って貰うために五条がその一級呪術師にポケットマネーを支払ったらしい。どんな人物なのかを乙骨が質問すると五条は苦い顔をして
『呪詛師については学んでもそいつから人として何も学んじゃ駄目だよ』
と言われてしまった。五条自身もとても人としてマトモではないのにも関わらず、そんな五条から注視される人間に対し不安感が乙骨の心の中で渦巻いていた。
しかし何であれ五条の心意気に答えるためにもしっかり学ばなければいけないと乙骨は気を引き締めその呪術師の到着を待つ。
「おうお前が乙骨か?」
待つこと数分、乙骨は背後から声をかけられた。直ぐにその人物が話に聞いていた呪術師であると判断する。乙骨は急いで後ろを振り向き礼儀正しく挨拶をする。
「よ、よろしくお願いします。デラックスファイターさん」
その日、乙骨は呪詛師に最も詳しく、最も近い呪術師に出会った。
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鷹の爪団の秘密基地で総統は如雨露を片手に植木鉢に水をあげていた。
「いやあやはり花は良いねえ」
「ええ。荒んだ心が浄化されていく気がします」
「おお吉田くんも花が好きなのかね?」
「何言ってるんですか総統。僕は島根一の花ボーイですよ。子供の頃は毎日チューチュー吸っていました」
「吸っちゃだめじゃろ」
間抜け面をぶら下げて長閑な会話をしている姿とても世界征服を画策しようとしている集団には見えない。何も知らない人から見れば彼らをただの愉快なお喋り仲間だと答えるだろう。
和やかな雰囲気を醸し出している5人。そんな5人の前に突如デラックスファイターが入ってきた。
「おら鷹の爪団。邪魔するぞ」
「うわあ!!デラックスファイター!!どうやってここに入って来たんじゃ!?」
「玄関からだ」
「吉田くんまた玄関の鍵を閉め忘れたのかね!」
「うっかりしてました」
吉田と総統いつもの言い合いをしているがデラックスファイターからしたら見慣れた光景なので気にすること無く話しかける。
「・・・で今日はどんな悪巧みをしてたんだ?」
「わし等はお花に水をあげてるだけで悪巧みなんかしてないぞ」
総統はビクつきながら正直に答える。その事実を聞いてデラックスファイターは明らかに不機嫌な顔になる。
「はあ?何でしてねえんだよ。デラックスボンバーで吹き飛ばすぞ」
「えぇ何も悪巧みしてないのに!?」
「こいつ言ってることが滅茶苦茶ですよ」
デラックスファイターのとても呪術師とは思えない発言に鷹の爪団は驚愕する。そこでデラックスファイターは舌打ちをした後玄関の方に声をかける。
「チッ。仕方ねえ・・・。おい入ってこい!」
「何じゃ?今日は一人じゃないのか」
「しっ、失礼します」
デラックスファイターに呼ばれて乙骨がキョロキョロと周りを見回しながら部屋に入ってきた。元来、人付き合いが得意では無い乙骨は他人の家に勝手に上がること自体に抵抗を持っている。
「あのデラックスファイターさんこの人達は・・・」
「こいつらは世界征服を目論む呪詛師集団の『鷹の爪団』だ。そんでここは此奴らのアジトってわけだ」
「そうですか・・・。世界征服ですか・・・。世界征服!!!?」
デラックスファイターはナチュラルに鷹の爪団の紹介をされ乙骨一瞬スルーするが直ぐさま驚いて声が裏返る。呪術師が取り締まる対象である呪詛師がごく当たり前のように目の前にいるのだから驚くのは仕方ない。
「おいデラックスファイター。誰だよその白ラン不健康フェイスは?」
「乙骨特級呪術師だ。特級とは言えまだ新米だから今日は俺の仕事の見学に来てるんだよ」
「ええっ乙骨特級術師じゃと!?それって噂で聞く死刑保留中と言う・・・・?!」
総統と吉田はガタガタと身体を震わせ顔を青くする。鷹の爪団にも乙骨の噂については耳に入っている。特級術師の乙骨憂太は秘匿死刑保留の身であり特級過呪怨霊の折特里香に取り憑かれている特級被呪者。そんな危険な爆弾とも言える存在が秘密基地にやって来たことで冷静な判断力を見失う。
「うわああぁぁあああ!!!優して殺して、優しく殺して!!!」
「もうHな本は読みません。Hな本は読みません」
総統と吉田は突然の特級被呪者の存在にビビり大声を出しながら命乞いをする。
「ちょっ落ち着いて下さい。デラックスファイターさん。本当にこの人達呪詛師なんですか?」
情けなく泣きわめく総統と吉田の二人を見て乙骨はどん引きした。
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デラックスファイターが今日ここに乙骨を連れてきた理由を諸々説明したことで総統と吉田はようやく泣き止んだ。
「なるほど。呪詛師について教えるための社会科見学かね」
「そうだよ。そこで現役の呪詛師であるお前達の所に仕方なく俺が連れてきて来てやったんだよ」
「仕方なく・・・」
デラックスファイターから発せられた心ない一言に乙骨は少し傷つく。
「そうは言ってもわし等今日はお花の水やりとホットケーキを作る予定しか立てておらんぞ」
「何で悪の呪術結社が仲良くホットケーキ作ってんだよ。良いから何か計画立てて実行しろよ。俺がそれを吹き飛ばすから」
「吹き飛ばされること分かってて悪事働く馬鹿がどこにいるんだよ」
吉田が至極まっとうなことを言う。
「よしじゃあこうしよう。乙骨、お前をここに置いて行くから呪詛師とは何なのかを此奴等から直接教えてもらえ。どうせ呪詛師について学べれば俺の仕事を見学しなくて良いんだからな」
「ええ?!デラックスファイターさん!」
「何でそうなるんじゃ。勝手に決めるなよ」
デラックスファイターの発言に乙骨は困惑し、総統は抗議する。
「デラボンッ!!」
ドーーン
デラックスファイターはデラックスボンバーで鷹の爪団の植木鉢を吹き飛ばした。
「あああ!!!わし等の赤白チューリップが!!!」
「ちゃんとやらないと鷹の爪団、次はお前等がこうなるからな。乙骨、此奴らを止めた方が良いと思ったら好きに吹き飛ばして良いぞ。じゃあ3時間後に戻るからな~」
デラックスファイターは有無も言わさず秘密基地を出て行った。残された鷹の爪団と乙骨の間になんとも言えない気まずい空気が流れる。
「クソう・・・デラックスファイターめ。何て横暴な奴なんじゃ」
「いや総統思ったのですがこれはチャンスではないでしょうか」
「何?どういうことじゃね吉田くん?」
総統がデラックスファイターに悪態をついていると吉田は一つの可能性を見いだす。
「良いですか総統。乙骨はまだ呪術師とは言え高校生。物事の流れに振り回され、心が移ろいやすい思春期なんです。そこで僕ら鷹の爪団が呪詛師とは何かを教え生き抜く術を身に着けさせるんですよ。さすれば敵対する立場とは言え協力関係を結べるかもしれません」
「なるほど。つまりわし等が今のうちに恩を売っておくわけじゃね」
「そうですよ。しかも特級ですよ、特級。そんなの普通なら世界征服をするのに目の上のたんこぶなのは間違い有りません。若い頃の恩が後々になっても人を縛る呪いとなるのは島根では良くあることです」
「吉田くん、君は実に小賢しい呪詛師向きの思考をしておる」
「島根一の小悪魔ボーイとは僕のことですよ」
総統は吉田の考えを聞いた後に乙骨の方に目を向ける。乙骨は一人残されてしまいどうすれば良いのか分からず苦笑いを浮かべている。そして少しずつ鷹の爪団に近づき、恐る恐る話しかける。
「あの皆さんは本当に呪詛師なのですか?申し訳ないのですが正直言ってとてもそうは見えないと言うか・・・」
鷹の爪団の秘密基地に訪れて乙骨が目にしたのはお花に水をあげて、大泣きしながら命乞いをする姿のみ。むしろ花を吹き飛ばしたデラックスファイターの方が呪詛師に見える。
「乙骨くんと言ったね。まあそうかしこまらないでわし等の活動を見ていくといい」
総統は大人としての余裕を持って乙骨に語りかけた。
時間軸としては0時点で京都交流会後、百鬼夜行前になります。