呪術結社鷹の爪 作:わさびにんにく
呪霊卒業アルバムは乙骨の背後から現れた里香によって粉末状になるまで殴られ続け塵も残らず祓われた。里香は呪霊卒業アルバムが消えたことでようやく静かになり、黒い影の中に再び消えていった。里香が落ち着きを取り戻したことに安堵した乙骨は先程までの蹂躙劇を見ていた鷹の爪団に視線を向ける。総統と吉田はガクガクと震えながら半泣きの状態で乙骨を見ている。
「あっあのお・・・」
「すいません。すいません。本当にすいません!」
「三べん回ってメスシリンダーって叫んでも良いです!」
「えっいや」
「「メスシリンダー!メスシリンダー!!メスシリンダー!!!」」
「えええ・・・」
総統と吉田は乙骨の言葉を全く聞こうとせずその場をグルグル回りながら大声で叫ぶ。またしても意思疎通することが出来なくなってしまった二人を乙骨はただ眺めることしか出来なかった。
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「と言うわけで、すっかりくじけてしまったが、わし等鷹の爪団の活動はただ単純に呪霊を作って暴れさせるような脳筋集団ではない。そうじゃろ吉田くん」
「その通りです。僕たちの世界征服はもっとストラテジック且つインテリジェンスそしてドメスティックバイオレンスなんです」
「ドメスティックバイオレンスって呪術界の業界用語か何かですか?」
現在鷹の爪団と乙骨は研究室から出て居間に戻って来ていた。6人は円卓を囲み目の前にはホワイトボードが置いてある。円卓の上にはお菓子とジュースが用意され、ホワイトボードには『世界せい服会議』と雑に書かれている。
「それでは鷹の爪団世界征服会議を行う。本日は我々が世界征服達成後の具体的なビジョンについて考えてみようと思う。皆さんお手元の画用紙にお描き下さい」
総統の指示と共に団員4人は画用紙にクレヨンを走らせる。傍から見るとやってることは保育園の児童と同じなのだが本人たちは大真面目である。
「ではまずフィリップ」
総統は先ず刺青の呪詛師フィリップに発表の指示を仰ぐ。
「ハイ。まず世界征服が実現したら・・・飢えに苦しんでいる人達にもご飯が食べられるように生産量の向上・・・、そしてインフラの整備にとりかかる必要があります」
フィリップの画用紙には教科書に載っているような食べ物が生産、供給されるまでの具体的な動きを図示されていた。その上画用紙の隅には具体的な課題、必要経費まで記載されている。先程まで鷹の爪団が見せていた醜態とは異なり至極現実的で社会に目に向けた真面目な意見。乙骨は自分が先ほどまで持っていた鷹の爪団に対して認識を改めなければいけ無いかも知れないと言う思考が巡る。
しかしそんな思考を総統の大きな声が切り裂いた。
「馬鹿モン!!」
「え?」
「今からそんな具体的な解決策を提示しても何の意味も無い。そんな物を胸に抱いていてもわし等の世界征服に対するモチベーションが上がることはないじゃろ!」
「そんな優等生みたいな回答ばかりしてるからお前は駄目なんだよ。今発表するべきは欲望やエゴと言ったこう・・・俗っぽい叫びなんだよ!」
「う、うっ・・・」
フィリップは総統と吉田に必要以上に攻められたことで心を痛め静かに涙を流す。
「じゃあ博士、発表してくれ」
「生肉」
「えぇ?」
「菩薩峠くん」
「福笑い」
「ええぇ?!」
「うむ、正直でよろしい」
「ちなみに僕はケーキ屋さんで働きたいです」
「ケーキ屋!!?」
団員三人が示した画用紙には児童が描いたかのような絵。これが世界征服に対してのモチベーション向上の為の時間と言うのは分かったがあまりに自由すぎる発表に乙骨は思わず素っ頓狂な声をあげた。そんな状態の乙骨を気にした様子も無く総統は団員に声をかける。
「尚、本日は社会科見学として乙骨憂太くんもいらっしゃるので、特別ゲストとして彼にも意見を聞いてみようと思う」
「ええ!?・・・でも僕は呪詛師ではないですよ」
「立場とかは関係ねえよ。自分が呪術師を続けて最終的にどの様になりたいか、自分の夢を発表すれば良いんだよ」
吉田のこの言葉と共に菩薩峠は乙骨にクレヨンを差し出した。子供から渡されたものを突き返すことは出来ず乙骨はクレヨンを受け取ると円卓に着き目の前に画用紙が配られた。そして乙骨は呪術界をどの様にしたいのかを思考する。
(・・・・僕の呪術師としての夢・・・・)
乙骨が呪術師になった理由は秘匿死刑を回避する為に五条悟が取り計らった結果である。自分の意思で呪術師を選んだ訳では無い。呪術界において自分の欲望に近い夢というのは乙骨の中に持ち合わせていなかった。乙骨の顔は強ばり、瞳は遠くを見るかのように重みが増していく。
思い悩んだ表情をしていることに気付いた吉田は乙骨に声をかけた。
「なあ乙骨。お前本当に呪術師をやりたいのか?」
「え?」
吉田の発言に乙骨は目を見開く。
「ただ自分の願望とかを描けば良いだけなのに凄い困った顔してるし。お前さその里香ちゃんってのに呪われるまで一般人やってたんだろ?なし崩し的に呪術師してるだけで本当に呪術師やりたいのか?」
ある種、乙骨が今悩んでいることを代弁されてしまう。呪術師をする理由なら乙骨も持ち合わせている。それは誰かに必要とされたいという気持ちからだ。しかしこの世の中どんな仕事でも誰かに必要とされる大切な仕事だ。本質的に心から呪術師を選んだわけでは無い。
乙骨には呪術師をやる理由はあるが自ら選んだ選んだ理由は無かったのだ。
「総統。何か乙骨って僕らが思っている以上に背負い込んでいるみたいですよ」
「うむう・・・」
総統は思い悩む乙骨を見て深く唸る。
「乙骨くん。君は自分の呪術師の立場に凝り固まってしまっているようじゃ。別に呪術師を軸に行動を決めなくても良いとわしは思う」
「え?」
「わし等にとって悪の呪術結社などただの手段でしか無い。わし等は世界中の人達が幸せにすることを目標にしている。その目標達成の為の一番の近道として呪詛師を選んだのじゃ」
総統は乙骨に対し軽く頭を下げる。そして自分達、呪詛師としての在り方について語る。
「別に将来的な目標が無くたって構わないとわしは思う。任務でも、自己満足でも、今自分のやるべき小さな目標を本質的に見据えれば大きな目標が後から生まれることもある。しかし絶対に手段と目標を逆転させてはいかん。手段を先行していては自分の意志や夢を捨てているのと同義じゃ」
「総統さん・・・」
「乙骨くん。君の今やるべきことは何かあるのかね?」
この一言で乙骨は自分が今するべき事を思い出す。そして自分が薬指に着けている指輪に目を向けた。特級過呪怨霊の折特里香と自分を繋ぐ指輪。
「僕はまず里香ちゃんの呪いを解きたいです。その為に高専の先生からはまず呪いを刀に込めて支配をするようにと言われています」
「そうか。じゃあ今は何よりもそのことを軸にしろ。そしてその為に何をするべきか見極めるんじゃ」
総統のその言葉を聞き乙骨の目には再び光が戻る。呪術師として何をするべきかじゃない。自分が今やるべき事のために呪術師と言う立場を利用する。背負っている刀を降ろすと鞘から静かに刀を引き抜いた。
「呪術高専一年乙骨憂太。呪術師として貴方たち呪詛師を・・・倒させていただきます!!」
刀を構え里香の呪いを刀に流し込む。先程までオドオドとしていた自信が無さそうな少年の姿はそこにはもうなかった。乙骨は一切の迷い無く強大な呪力を帯びた刀を鷹の爪団に向けて構え、一気に踏み込む。
(ありがとうございます。鷹の爪団の皆さん、僕はもう悩みません)
(ああ頑張れよ乙骨くん)
強大な呪力を帯びた一撃が鷹の爪団に襲い掛かる。
ドーーーーーーン
朗らかな笑顔をした鷹の爪団の五人は静かに空を舞った。
基本鷹の爪団が呪術キャラと絡むと泣き喚きがデフォルトになりそうで難しいです。