「ねえ師匠」
「どうしたんだ?狗」
「もし、もしもだよ。僕がもっと強かったらさ」
「強かったら?」
「父さんと母さんは帰ってくるのかな?」
師匠から返事は無い。
ただただ悲しそうな目で、僕を見ていた。
「姉ちゃんだって、遠くに行ったりしなかったよね」
「………………」
「だからね、師匠。僕を、強くしてください」
「………狗。お前は正義の味方にでもなるつもりなのか」
「うーん、わかんないや。でもね、それだけ有名になったらさ、父さん達帰ってくるかな?」
師匠は少し考えた後、言葉を口にした。
「狗、お前を鍛えてやる。でもね、正義の味方に何かなれない。人には自分と、自分と関係のある人しか助けられないんだ」
悲しそうな顔をしていた。
まるで、自分がそうだったかのように、師匠は話した。
「狗、私がここにいるのは一ヶ月だけだ。その間にお前を出来る限り強くするつもりだ。その後は、自分一人で努力して強くなるんだ。良いな」
「うん。分かった」
「狗、お前は剣の才能がある。だからまずは剣術を鍛える。覚悟が決まったなら、この木刀を取るんだ」
師匠が何処からか取り出した木刀を、僕は、取った。
夢を見た。
懐かしい夢を。
俺に狗という名を与え、一ヶ月間鍛えてくれた人。
俺、織斑一夏が生まれて初めて師事した人。
最後まで本名は教えてくれなかったが、一ヶ月で強くしてくれた人物。
今の俺を見て、師匠はどう思うのだろうか。
強くなったと褒めるだろうか?
愚か者と罵るだろうか?
分からない。
分からないけど、この道は間違っていないと思いたい。
誰かに言えるような事じゃ無いけれど、誇りにもならないけど、この道は間違っていないと思いたい。
そんな事を考えながら、歩き出す。
身体が痛い。
コンクリートの上で寝たからだろうか。
まぁ仕方ないか、今回は数が多かったから疲れたんだ。
「………服、汚れてるな。落ちにくいから汚したくないけど、仕方ないか」
その場を後にする。
大勢の人が、血みどろで倒れている倉庫から出て行く。
「………今日は土曜日だからな。学校無いし、家に帰って洗濯して寝るか」
「千冬姉は何処で何してるか知らないけど、俺がこんな事してるの知ったらどんな反応するかな」
月に一度程度しか家に帰ってこない姉の事を考えたが、まぁそんな事どうでもいい。
姉は姉、俺は俺だ。
姉がISにハマったように、俺が闘いにハマっただけだ。
「………でも」
ちらと振り返る。
「流石にやりすぎたか」
時は2月中旬、
彼がISを動かす少し前の土曜日。
一夏、どうしてこうなった
では、プロローグはラストです。
明日か明後日に本編開始です。