花御(はなみ)が放つ「種子」と「樹木」の奔流。それは呪霊としての慈愛と怒りが混ざり合った、圧倒的な生命の暴力だった。
だが、湊はその中心で、恍惚とした表情で両腕を広げていた。
「……いいね、この密度。漏瑚君の『破壊』とは違う、終わりなき『再生』の呪力だ」
湊の影から現れた黒龍『黄泉』が、迫りくる巨大な根をその顎で噛み砕く。龍が触れた箇所から、花御の植物たちはパズルのピースが崩れるように粒子化し、湊の術式によって「純粋な生命エネルギー」へと精製されていく。
「……(私の植物が、吸い込まれる……? この少年、私を『祓う』のではなく、私という存在を『分解』し、奪おうとしているのか)」
花御は本能的な恐怖を覚え、呪言にも似た意思を湊の脳内に直接響かせる。
しかし、湊はそれを嘲笑うように法界定印を結び直した。
「**『万生配合術』――第二工程『連環(れんかん)』**」
湊は、漏瑚から奪った「火山の熱」と、今まさに花御から引き抜いている「森の生命力」を、黒龍の肉体の中で強引に衝突させた。
相反する二つの特級の属性。本来なら龍そのものが内側から爆発するはずの暴挙。湊の脳裏に、再び焼き付くような激痛が走り、両目から血が伝う。
「……が、あぁ……ッ!! 混ぜろ……! 燃えながら芽吹け……死にながら生きろ!!」
湊が自身の魂を「触媒」として注ぎ込むと、黒龍の姿がさらに変貌を遂げた。
赤黒く光る鱗の間から、瑞々しい「呪いの若葉」が芽吹き、その葉が瞬時に燃え上がりながらも枯れることなく再生し続ける。破壊と再生の無限ループ。
それは、触れたものを分解するだけでなく、**「触れた瞬間に強制的に急成長させ、そのまま自壊(分解)させる」**という、時間の概念すら歪めた特級の権能だった。
「……あはは! 凄いよ黄泉! 君は今、この森そのものになったんだ!」
龍が咆哮すると、花御が展開した広大な森が一瞬にして「秋」を通り越し、灰へと還元された。特級呪霊である花御ですら、その「過剰な再生と分解」の余波に耐えられず、半身を消失させて後退する。
「九条湊……!!」
遠巻きに見ていた京都校の加茂や東堂は、その光景に言葉を失っていた。
もはやそれは、呪術師の戦いではない。
一人の少年が、世界という素材を調理し、自分だけの神を創り上げようとする「儀式」だった。
湊はふらつきながらも、消えかかった花御の残穢を愛おしそうに指でなぞる。
「……足りない。まだ、足りないよ。……次は、誰を混ぜれば……僕は完成するのかな?」
血まみれの笑顔。
高専の森を沈黙させたのは、特級呪霊の襲来ではなく、それを「食糧」として笑う一人の少年の存在だった。
花御の生命力を取り込んだことで、黄泉は「火」と「森」の属性を内包する異形へと進化しました。
湊の脳への負荷は限界に近いですが、その狂気は加速する一方です。
次回、第11話。五条悟が「教え子」のあまりの暴走に、ついに真剣な眼差しを向けます。
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