五条悟が放つ、絶対的な虚空の威圧感。その前に立ち尽くす湊の体は、すでに限界をとうに超えていた。
脳は焼け焦げ、視界は反転し、肺に吸い込む空気すらも「分解」の対象として喉を焼き切ろうとしている。
「……湊。これが最後だ。術式を解きなさい」
五条の指が、**術式順転「蒼」**の予備動作に入る。その一撃で湊の影にある龍を強制的に霧散させ、彼を物理的に気絶させるつもりだった。
だが、湊は笑った。血に染まった歯を見せ、自身の胸骨に右手の指を突き立てる。
「……先生。さっき言ったよね。僕は、自分自身すらも『素材』だって」
「――ッ!?」
五条の「六眼」が、ありえない情報の変節を捉えた。
湊は、自身の生得術式である**『万生配合術』**の対象を、自分と黒龍『黄泉』に固定したのだ。
「**『万生配合術』――最終工程『人龍一体(じんりゅういったい)』**」
湊の叫びと共に、背後の龍が咆哮し、主の背中へと食らいついた。
龍の肉体が液状化し、湊の脊髄、筋肉、そして魂そのものへと流れ込んでいく。
分解。再構築。そして結合。
湊の肉体は一度分子レベルでバラバラに崩れ、その欠片が龍の組織と交互に編み上げられていく。
バキ、バキ、と骨が組み換わる不快な音が響く。
湊の背中からは漆黒の翼が生え、その肌はダイヤモンドよりも硬い黒龍の鱗に覆われた。指先は「分解」の権能を常時纏った鉤爪へと変わり、六つの眼が五条を捉える。
「……あはは。見える。先生の『無限』の継ぎ目が……」
人でも呪霊でもない、その「究極の個体」が放つ呪力は、森の結界を容易に食い破り、高専全域にまで到達した。
「……困ったね。君は本当に、僕の手の届かないところへ行こうとしている」
五条の声に、わずかな憂いと、そして期待が混じる。
湊は、新生した漆黒の翼を広げ、一瞬で五条との距離をゼロにした。その鉤爪が、五条の「無限」に触れる。
「**『分解』**」
触れた瞬間に「無下限呪術」の情報そのものを分解し、無理やり突破しようとする湊。
対する五条は、初めて「防御」ではなく「迎撃」のためにその右手を構えた。
「いいだろう。九条湊――いや、**『配合の王』**。君が望むなら、その存在の深淵まで、僕が叩き込んであげるよ」
黒き龍人(りゅうじん)と、白銀の最強。
互いの術式が重なり合い、森そのものが「分解」と「無限」の狭間で消滅を開始した。
禁忌中の禁忌、「人龍一体」。
自分という存在を捨ててまで強さを求めた湊の姿は、もはや術師のそれではありません。
次回、第13話。五条戦激化。五条悟遂に領域展開を解放する。