黒龍は白に溶ける。   作:dai1228

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### 第十四話:在庫の檻、受肉体・龍人

 混濁した意識の底。湊を待っていたのは、安らかな死ではなく、身体の芯まで凍てつかせるような呪術的封印だった。

 

「――目覚めたか。受肉体・龍人、九条湊」

 

 暗闇の向こう、蔑むような上層部の声が響く。五条悟に敗北し、拘束された湊に与えられたのは、人間としての名前ではなく、忌まわしき「個体識別名」だった。

 

 湊の全身を縛り上げるのは、特級呪具**『骸縛の鎖(むくろばりのくさり)』**。

 その冷たい鎖は、湊の肉体に刻まれた龍の鱗を強引に圧壊し、呪力の拍動を強制的に抑え込んでいる。自由を奪われたその姿は、誇り高き龍人ではなく、ただの「危険な在庫」そのものだった。

 

「五条の温情により死刑こそ免れたが、貴様はもはや人ではない。これより、高専最深部にて永劫の封印に処す。……そこがお似合いだ、化け物め」

 

 重厚な鉄扉が閉ざされ、湊は光の一片すら届かない「檻」へと沈んでいく。

 

 鎖に繋がれたまま、湊はひとり、光の消えた空間に取り残された。

 全身を苛む呪具の痛み。だが、脳に焼き付いた無限の残響は、皮肉にも外の世界のノイズを遮断し、彼を純粋な内省へと導いていく。

 

(……龍人。受肉体。……在庫。みんな、好き勝手に呼ぶな)

 

 これまでの自分は、誰かと混ざり、何かに成ることでしか居場所を作れなかった。母の命を、龍の力を、そして自らの肉体すら「素材」として使い潰し、異形へと成り果てることで最強に挑んだ。

 だが、その果てに辿り着いたのは、何も無い闇だった。

 闇に慣れた瞳が、内なる黒龍『黄泉』を捉える。

 湊は破壊のためでも、逃避のためでもなく、ただ一人の人間として、己の魂を「調律」し直すために術を編んだ。

 

「**術式精錬――『解離』**」

 

 それは、支配という名の結合を解く、最も優しい分解。

 湊の肉体から黒い霧が剥がれ落ち、実体を持った黒龍が牢獄の闇に現れる。主人の支配から解放された黄泉は、一頭の独立した特級呪霊として、湊の前に跪いた。

 湊の肉体から黒い鱗が剥がれ落ち、鋭い鉤爪は柔らかな指先へと戻っていく。

 翼は消え、眼は混じり気のない二つの瞳へと回帰した。

 

 そこには「龍人」という名の受肉体ではなく、ただの、あまりにひ弱な一人の青年が座り込んでいた。

 

「……あはは。体が、軽いよ」

 

 狂気は消え、瞳には鋭利な理性が宿る。一人の呪術師・九条湊としての回帰。その静寂を破ったのは、軽やかな足音だった。

 鉄扉が開く。逆光の中に立つ、目隠しの男。

 

「やあ、いい顔になったね。湊」

 

 五条悟は、鎖に繋がれたままの湊に歩み寄り、その頭にポンと手を置いた。

 

「『在庫』のままにしておくには、君は少し惜しすぎる。……行こうか。**不協和音を正しに**」

 

 最強の師が、一人の呪術師を迎えに来た。

 暗闇から差し伸べられたその手を取り、九条湊の本当の物語が、今ここから動き出す。

 




第一部・完

暴走し禁忌を犯した配合師、九条湊の封印と回帰。これにて一部完結です。
今日の12時、第二部スタートします。今後ともよろしくお願いします!

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