黒龍は白に溶ける。   作:dai1228

3 / 19
## 第三話:毒と大蛇、器の少年

 東京都立呪術高等専門学校。

 結界に守られたその山懐へ足を踏み入れた湊は、周囲に立ち込める「蓄積された呪い」の芳醇な匂いに、かつてない高揚感を覚えていた。

 

 「ここ、すごいね。何百年前の残穢まで層になって重なってる」

 「趣味の悪いソムリエみたいな感想はやめてよね」

 

 五条に連れられ、湊が向かった先。そこには、二人の先客がいた。

 一人は、重い宿命を背負ったような冷徹な瞳の少年、伏黒恵。

 そしてもう一人は、快活な笑みを浮かべ、その腹の中に「呪いの王」を飼う少年、虎杖悠仁。

 

 湊の視線は、一瞬で虎杖に固定された。

 正確には、虎杖という「肉体の檻」の中に閉じ込められた、あまりに苛烈で、あまりに濃密な**両面宿儺の魂**へと。

 

 「(……あぁ、なんて美しい。千年もかけて熟成された、最上の『猛毒』)」

 

 湊の指先が、無意識に法界定印を結ぼうと動く。その配合師としての本能が、虎杖を解体し、その毒を自らの大蛇に注ぎ込みたいと叫んでいた。

 

 「……おい、お前。何見てんだよ」

 「あ、ごめん。……君、いい匂いがするから」

 

 湊の言葉に、虎杖は怪訝そうに首を傾げたが、隣にいた伏黒は即座に術式を構えた。

 伏黒の「十種影法術」が、湊の影から漏れ出す「異質すぎる気配」に激しく反応していたからだ。

 

 「五条先生、この男……影の中に何を隠しているんですか。俺の玉犬がこれほど怯えるのは、宿儺以来だ」

 

 「おっと、恵。初日から喧嘩はなしだよ。彼は九条湊。……ちょっとばかり『混ぜる』のが得意な、僕の秘蔵っ子だ」

 

 五条が軽く場をなだめた瞬間、湊の背後の影が大きくうねり、巨大な質量が床を叩いた。

 それは、母の命から始まり、数多の呪いを喰らって進化した漆黒の大蛇。**『黄泉』**。

 かつての蛇の面影はなく、その巨躯は理科室を埋め尽くさんばかりの威圧感を放ち、虎杖に向かって鎌首をもたげた。

 

 「『黄泉』、ダメだよ。挨拶は丁寧にしなきゃ」

 

 湊がそう嗜めると、大蛇は不満げに鼻を鳴らし、再び湊の影へと溶け込んでいく。

 その一連の動作を見た五条は、目隠しの下で口角を上げた。

 

 「湊、今日から君の任務は彼らと一緒だ。

  悠仁、恵。湊の術式は便利だけど、絶対に背中は見せないように。

  気づいたら君たちの腕と呪霊の首が**『万生配合術』**で繋がってるかもしれないからね」

 

 冗談とも本気ともつかない五条の言葉に、高専の空気が一気に張り詰める。

 湊は、自分の白い掌を見つめた。

 宿儺の指、伏黒の式神。この学校には、素晴らしい素材が溢れている。

 

 「……先生、楽しみだよ。この学校のすべてを使い切れば、僕は……」

 神にさえ届くかもしれない。

 

 湊は言葉を飲み込み、虎杖に右手を差し出した。

 「よろしく、悠仁。……いつか、君の中にある『毒』、少しだけ分けてね」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。