西東京市、英集少年院。
未完成の領域展開。その異様な空間の中で、一年生三人は圧倒的な絶望に直面していた。
目の前の特級呪霊が放つ、密度の高い呪力。伏黒が脱出を促し、虎杖が時間を稼ごうと前に出るが、湊だけは一歩も引かなかった。
「……見つけた。これほど純粋で、荒々しい『質量』。黄泉の進化に欠かせない、最高のパーツだ」
湊が法界定印を結ぶ。影から溢れ出した漆黒の大蛇・黄泉が、特級呪霊に向かって地を這う。
しかし、相手は特級だ。黄泉の鱗は呪霊の不可視の攻撃で弾け飛び、漆黒の血が舞う。だが、湊は狂気じみた笑みを崩さない。
「逃がさないよ。……『分解』で座標を固定する。……行け、黄泉!」
湊が**『術式反転・分解』**を微弱に展開し、呪霊の機動力を削ぐ。その隙を突き、黄泉はその巨躯を特級呪霊に幾重にも巻き付けた。骨が砕けるような音が響き、黄泉は自らの肉体を楔として呪霊を縛り上げる。
湊は、その結合点へ手を突き立てた。
「**『万生配合術』――強制接続**」
その瞬間、湊の表情が凍りついた。
特級呪霊の体内。そこには、この呪霊を特級たらしめている「核」があった。呪霊が取り込んでいた**『宿儺の指』**。
当初の予定にはなかった「神の毒」の混入。
「(……宿儺の指!? まずい、情報の密度が……ッ!!)」
中断はできない。湊は呪霊と指、その両方をまとめて黄泉へと流し込む決断をした。
凄まじい負荷が湊の脳を直撃する。
鼻から、目から、鮮血が溢れ出した。脳細胞が一本ずつ焼き切れるような感覚。情報の奔流が、湊の自我を内側から食い破ろうとする。
「あ、が……あああああああああッ!!」
視界が真っ赤に染まり、神経が焼き付く。特級呪霊の「怨念」と、宿儺の「絶対悪」。その二つを大蛇の細い回路に強引に流し込む作業は、まさに針の穴に象を通すような暴挙だった。
「……屈服、しろ……。僕が……主だ……混ぜるんだ……全部……ッ!!」
湊が自身の魂を燃料にして呪力を絞り出すと、暴走寸前だった黄泉の肉体が、光を吸い込むような黒色へと変質し始めた。鱗は甲殻へと硬化し、背中を突き破って漆黒の翼が広がる。這いずる腹からは鋭い鉤爪が芽生え、大蛇は苦悶の咆哮を上げながら、一頭の**『龍』**へと新生した。
静寂。
特級呪霊は跡形もなく消え去り、そこには湊の足元に跪く、三対の眼を持つ黒龍がいた。
湊は震える手で龍の顎に触れ、満足げに微笑む。
「……あはは。出来たよ、お母さん。……これが、僕の龍だ」
脳が焼き切れる寸前の代償を払い、少年は呪いの王の一部をその身に宿した「合成特級呪霊」を手に入れた。しかし、その代償は重く、湊の意識はそのまま深い闇へと落ちていった。