黒龍は白に溶ける。   作:dai1228

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## 第五話:咆哮と深淵、王の対峙

 少年院を包んでいた帳が剥がれ落ちる。

 だが、その静寂は救いではなかった。

 

 伏黒が外で待機する中、意識を失った湊の傍らで、虎杖悠仁の肉体は変質していた。現れたのは、呪いの王――**両面宿儺**。

 

「……ケヒッ。ようやく代わったか。さて、まずはどこから――」

 

 宿儺の言葉が止まる。その四つの瞳が、湊の影から立ち昇る「異質」を捉えたからだ。

 そこには、脳を焼き切られ膝をつく湊を守るように、漆黒の龍が鎮座していた。宿儺の指を取り込み、特級呪霊を素材として羽化したばかりの合成特級呪霊。

 

「ほう。これは驚いた。人間が、俺の『欠片』をこれほどまで醜く、そして貪欲に捏ねくり回したか」

 

 宿儺は愉悦に口角を吊り上げ、龍を見下ろした。

 龍――『黄泉』は、宿儺という絶対的な強者を前に、本能的な咆哮を上げる。同時に、龍の周囲の空間が、まるで見えない刃で刻まれるように細かく震え、触れた地面や大気が次々と砂のように崩れ去っていった。

 

「(……この龍、触れるものすべてを『分解』しているのか。九条湊の術式特性を、そのまま生命として体現したというわけだ)」

 

 宿儺は龍が持つ、その**「強制解体」**の権能に興味を惹かれた。

 

「……あ、あはは……。起きてたんだ、王様」

 

 血を吐きながら、湊が薄く目を開ける。脳への過負荷で焦点は定まっていないが、その瞳には依然として、素材を求める飢餓感が宿っていた。

 

「小僧。これが貴様の術式か。情報の継ぎ接ぎ。吐き気がするほどに不純だが、その執着だけは評価してやろう」

 

「……不純、かな。……全部混ぜれば、最後には……『純粋な一(ひとつ)』になるんだよ」

 

 宿儺が嘲笑い、一瞬で間を詰め、湊の喉を掴もうと手を伸ばす。

 だが、その指先が龍の鱗に触れる寸前、宿儺の呪力が目に見えて「解体」され、霧散した。

 

「ほう……。俺の呪力を『素材』としてバラバラにするか」

 

「**術式反転――『分解』**」

 

 湊の呟きに合わせ、龍が呼応する。龍の尾が宿儺を薙ぎ払うが、その一撃は打撃ではなく、触れた部分の存在を消滅させる「分解の波動」だった。宿儺はそれを紙一重でかわし、空中に「解(カイ)」を放つ。

 

 龍の鱗が斬撃を喰らい、火花を散らす。

 

「ハハッ! 良い、殺してやろう!」

 

 宿儺の斬撃と、龍の分解が正面から激突する。

 爆煙の中、湊は確信していた。今はまだ、この男を素材にすることはできない。だが、一度その牙に触れたことで、湊の「配合皿」には、呪いの王という史上最高の情報の残滓(データ)が刻み込まれた。

 

 最強の毒をその身に宿したまま、湊の意識は再び混濁していく。

 それは、世界を混ぜ合わせる術師が、真の覚醒を遂げるための深い、深い眠りだった。

 

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