少年院での激闘から数日。
湊は高専の医務室で、真っ白な天井を見上げていた。
脳に刻まれた「宿儺の指」と「特級呪霊」の二重奏は、彼の精神をボロボロに引き裂いていた。家入硝子の反転術式をもってしても、脳の奥底に焼き付いた「情報の焦げ付き」までは拭い去れない。
「……湊、起きたか。無理すんなって。お前、鼻からだけじゃなくて耳からも血が出てたんだぞ」
見舞いに来た虎杖が、心配そうに顔を覗き込む。その後ろには伏黒の姿もあった。
「……あはは。悠仁、心配してくれてありがとう。でも大丈夫、脳が少し『新しくなった』だけだよ」
湊は力なく笑ったが、その瞳の奥には昏い光が宿っていた。
彼は眠っている間、ずっと自分の影の中でうねる「新しい黄泉」と対話していたのだ。宿儺の毒を喰らい、龍へと進化した黄泉。その代償として、湊自身の肉体もまた、人間離れした変質を始めていた。
「(分解と配合……。僕はもう、自分自身すらも『素材』としてしか見ていないんだね)」
数日後、リハビリと称して森へ出た湊の前に、五条悟がひょいと現れた。
「やあ湊。脳みそ、まだ煮えてる? 君が産み出したあの『龍』、上層部がめちゃくちゃビビっちゃってさ。即刻死刑にしろって騒いでるよ」
「……先生。死刑にするには、僕を『解体』しなきゃいけない。でも、僕を分解できるのは、僕だけだよ」
湊が指をパチンと鳴らす。
瞬間、彼の影から黒い霧が立ち上がり、三対の眼を持つ黒龍『黄泉』がその首をもたげた。龍が触れる周囲の木々が、音もなく灰のような粒子に分解されていく。
「……ほう。完全に自分のものにしたわけだ。宿儺の指のエネルギーを、あの大蛇の枠組みを壊して『龍』という新しい器に再構築した。君の**『万生配合術』**、僕が思っていたよりずっと『最悪』で『最高』だ」
「先生。僕はもっと混ぜたい。もっと強い呪い、もっと古い血、もっと高い理……。全部を僕の皿に載せて、一つにしたいんだ」
湊の言葉に、五条は目隠しの奥で目を細めた。
この少年は、正義のために呪いを祓っているのではない。
世界という巨大なパズルを、一度バラバラにして自分好みに組み替えようとしている。
「……いいよ。なら、次の『素材』を紹介してあげる。
呪霊たちのリーダー格。大地や森、火山の呪い……。彼らなら、君の食欲を満たしてくれるかもね」
湊は、黒龍の冷たい鱗を撫でながら、遠くの空を見つめた。
脳の痛みはもう消えていた。代わりに、かつてないほどの空腹感が、彼の魂を突き動かしていた。
「……待ってるよ、火山の君。僕の龍を、もっと熱くして」
## 湊の足跡は、止まることを知らない。
次なる標的は、大地の怒りを司る特級呪霊――漏瑚。
少年院編の事後処理と、龍へと進化した『黄泉』の完全な制御。
湊の精神性が「自分すらも素材」という極地へ到達しました。
次回、いよいよ漏瑚との遭遇。火山のエネルギーという強烈な素材を前に、湊の『万生配合術』が火を吹きます。