東京・某所。光の一切を拒絶するような、重苦しい静寂に包まれた広間。
そこには、呪術界の最上層部に君臨する老人たちの姿はなく、ただ幾重にも立てられた「障子」と、その向こう側に揺れる不気味な「声」だけがあった。
「……英集少年院の一件、報告書通りであるか」
嗄れた声が、湿り気を帯びた空気の中に響く。
「肯定だ。一年生、九条湊。彼が産み出した呪霊は、もはや既存の『式神』や『呪霊操術』の枠組みを逸脱している。……宿儺の指を取り込み、あまつさえ特級呪霊を素材として『羽化』させた」
別の、冷徹な声が続く。
「**『万生配合術』**。……本来なら、情報の統合による安定を目的とした術式のはず。だが、あの少年が行っているのは、この世の理を解体し、己の望むままに歪めて繋ぎ合わせる、神への冒涜に他ならぬ」
障子の向こう側で、老人たちの焦燥が、負の呪力となって揺らめく。
彼らが何よりも恐れるのは、制御不能な「異物」の誕生だ。
「黒龍――『黄泉』。報告によれば、その鱗に触れるもの全てを、最小単位まで分解し、無へと帰す特性を持つという。五条悟の『無限』が不干渉の盾ならば、九条湊のそれは、世界の形そのものを否定する矛だ」
「さらに危険なのは、彼の肉体そのものだ。術式反転――**『分解』**の負荷により、脳が焼き付くほどのダメージを受けながらも、彼はそれを『進化の過程』として受け入れている。……あれは、人間としての矜持をとうに捨てている」
沈黙が広間を支配する。
やがて、最も奥に座す権威ある声が、処刑宣告にも似た言葉を紡ぎ出した。
「九条湊は、虎杖悠仁と同等、あるいはそれ以上の危険因子であると認定する。呪術界の調和を保つため、秘匿死刑の検討を開始せよ。……だが、五条悟が背後にいる以上、表立っては動けぬ」
「……ならば、京都校との交流会を、その『清算』の場とする。楽巌寺に伝えよ。九条湊という不純物を、この世のパズルから除けと」
その頃。
高専の寮の屋上で、湊は夜風に吹かれながら、自身の右腕を見つめていた。
皮膚の下で、龍の鱗を思わせる黒い紋様が、ゆっくりと、しかし確実に広がっている。
「……あはは。影が騒がしいや。……上層部のじいさんたち、僕をどんな『味』で見てるのかな。……苦いのは、嫌いなんだけどな」
湊の足元から、黒龍『黄泉』が音もなく首をもたげる。
三対の眼が、闇の向こう側にある「呪術界の腐敗」を、空腹の獣のように見据えていた。
湊の周囲に、静かに、しかし冷酷な包囲網が築かれようとしていた。
上層部による湊への警戒と、交流会編での「暗殺計画」への伏線回です。
湊の術式が、単なる強さではなく「世界の形を書き換える」という本質的な恐怖として、老人たちに伝わっています。
次回、第8話。漏瑚の急襲。上層部が恐れる「分解」と「配合」が、特級の火力を前にさらなる進化を遂げます。