杜王町での任務を終え、湊が東京へ戻る帰路のことだった。
人里離れた山間部、静寂を切り裂くように周囲の温度が跳ね上がる。アスファルトが飴細工のように溶け、街路樹が一瞬で炭化して崩れ落ちた。
「……熱いね。でも、この熱量は嫌いじゃないよ」
湊は汗一つかかず、立ち上る陽炎の向こう側を見据えた。そこにいたのは、頭頂部が火山の形をした異形の呪霊。特級呪霊、**漏瑚(じょうご)**。
「人間め、臆さぬか。……お前が、五条悟が目をかけているという『継ぎ接ぎ小僧』か。上層部が怯えるほどの異形、どれほどのものか拝ませてもらおう」
「君が誰かは知らないけど……その頭の火山、すごくいい。大地の怒りの結晶だね。純度が極めて高い。僕の龍には、まだ『体温』が足りないんだ」
湊の瞳に、久々に強い「食欲」が宿った。
母の命から作った『黄泉』。少年院の特級と宿儺の指を得て進化した『龍』。それらをさらに一段上のステージへ引き上げるために必要な「熱量(エネルギー)」が、向こうから歩いてきたのだ。
「抜かせ。塵も残さず焼き尽くしてくれるわ!」
漏瑚が指を弾くと、湊の足元から巨大な火柱が噴き上がった。だが、炎が晴れた後、そこに立っていたのは、右腕を漆黒の鱗で覆った湊だった。
「**術式反転――『分解』**」
湊は自身の周囲の空間を「熱」という情報から切り離し、分子運動を強制停止させていた。それどころか、彼はその炎の残滓を掌に集め、小さな火球へと圧縮してみせる。
「いい熱だ……。これを『黄泉』の心臓に配合すれば、僕の龍は、空を焼く火龍になれる」
「……貴様、ワシの術式を『素材』扱いするか!!」
激昂した漏瑚が、極の番『隕』を形成しようとする。しかし、湊の動きの方が速かった。
湊は法界定印を結び、影から黒龍『黄泉』を全開放する。
「おいで、黄泉。……今日は『焼き肉』だよ」
黒龍が咆哮し、漏瑚の炎の海へと飛び込む。龍が触れる炎は次々と粒子へと「分解」され、そのエネルギーは龍の肉体へと逆流していく。龍の鱗は湊の『分解』によって耐熱処理を施され、漏瑚の熱を喰らえば喰らうほど、その身を赤黒く輝かせていく。
「な、なんだこの化け物は……!? ワシの呪力が、吸い込まれていく……!?」
「君は強い。でも、君は『個』でしかない。……僕は『全』を混ぜ合わせる。君の大地の怒り、僕の龍の血肉。……さぁ、一つになろう」
湊が漏瑚の胸元に指を突き立てる。
殺すのではない。湊は漏瑚の莫大な呪力の一部を、強引に「解体」し、自身の影の中へと引きずり込み始めた。
漏瑚は本能的な恐怖――「自分が概念ごと喰われる」という予感――を感じ、捨て身の爆発を起こしてその場を離脱する。
「……逃げられた。でも、十分だよ。情報の片鱗(データ)は貰った」
湊の影の中で、黄泉の咆哮が地鳴りのように響く。漆黒だった龍の瞳に、漏瑚と同じ灼熱の赤が混ざり合った。
湊は口元の血を拭い、満足げに微笑む。
呪術界という「既存の理」を素材に変え、彼は着実に自分だけの神話を紡ぎ始めていた。
漏瑚との初接触。
原作の五条vs漏瑚とは異なり、湊にとっては「絶好のエネルギー源」との出会いでした。
漏瑚の誇りを真っ向から踏みにじり、その力の一部を「略奪」して自分の龍に配合する。
次回、交流会編。上層部が仕掛けた暗殺計画と、湊の「異質すぎる正義」が激突します。