吸血幼女の食事係   作:桃羽玉箱

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案の定4−5話のサブタイは消滅しました。いいのうかばねーかなー


6話 『風枝大和』

 

 旅館とかの慣れない布団で目が覚める時の感覚、僕は割と好きだ。屋敷で生活をさせてもらってからまだ三日ほど、今朝は未だ慣れぬ枕の心地にはちょっとした興奮がふかふかしていた気がする。

 そして今、同じ枕のはずなのに興奮が薄い。どうやら僕はもう慣れてしまったらしい。そんな顔見知りとなった枕を感じることができるということは、僕は寝ていたのだろう。

 いつから寝ていたのだろうか。今日は昨日と同じように起きて、軽い検査を受けてから朝食、時間が経ったら血を抜いて、自由時間だから勉強とかして……あ、小さな女の子。

 僕はあの化け物みたいな娘に血をあげたのだ。そして、気を失った。

 

「死んで……ないな」

 

 安堵と喜びの混じった息を吐きのそりと体を起こすと、こちらを見る女の子と目があった。あ、化け物だ。横にはヒソラさんとミアカに、医務室の人まで。

 

「……目を、覚ましましたか?」

「ああ、うん。おはよう」

「傷口は魔法にて治しましたが、失った血液までは増えませんので。気分が悪かったり、お辛ければ体を寝かしてください」

 

 言葉に甘え、布団にとんぼ返り。

 この様子だと、想定通りヒソラさんに助けてもらったのだろう。窓から入り込む陽の光は赤ばんでいる。夕方の四時か五時くらいだろうか。

 

「まず……申し訳ございません」

「ああ、えっと、うん。正直……何が何だかわからないからさ……謝られても、ねえ……?」

 

 ヒソラさんは非常に難しい面持ちでぺこりと頭を下げてくるのだが、当のやらかした幼女本人はぽけーっとした虚無顔で僕を見つめている。もちろん幼い子供の責任は保護者にもあると思うけれど、だとしても悪いは子供の方じゃなかろうか。謝るのならやらかした本人もすべきだと思うのだが、全くその素振りも見えてこない。教えはどうなってるんだ。

 

「……シロさんは当家、風枝についてどれほど記憶に残っていますか?」

 

 彼女の問い方は、まさしく記憶喪失者に対する物言い。間違ってはいないが、僕に対してこれは完全な正解とは言い難い。しかし、それもそのはず。僕は僕以外の誰にも自分が五百年前の物と思わしき記憶があることは言っていないのだから。言うつもりもないけれど。

 妄想だ狂人だと言われたら面倒だし、ただでさえ魔人計画なんてよくわからない物に巻き込まれているらしいので誰を信じて良いかもわからない。ならば、一つでも隠し武器は持っておきたかった。現状、僕の好感度レースはヒソラさんとミアカの二人旅状態であるが、これは僕が関わった人間が少なすぎることに由来しており、別に二人に対する絶対の信頼がある訳ではない。二人とも別嬪さんなので下心はあるが。

 自分の名前などを覚えていないのだから、記憶喪失なのは間違いない。だから、何度かヒソラさんから妙な言い回しの質問を受けた時に、おそらくは嘘か本当か見抜く魔法でも使われたのだろうが、記憶喪失が盾となり『五百年前の記憶』はバレていないはず。催眠とか読心の魔法でも使われていたら……存在するかどうかも置いといて、どうしようもないが、それは本当にどうしようもないので考慮外とする。

 

 僕が持っている記憶は、『五百年前を生きた朧げな記憶』と『暗夜の世界を生きる三日ほどの記憶』だけ。魔法少女、風枝なる存在を含めこの五百年の間のことは全く以て記憶にないのだ。

 

「……昨日、ミアカから聞いた歴史とか蔵書で見たくらい。ほとんど、全く知らないかな」

「それで、はお話しさせてもらいます」

 

 拒否は許さない──そんな気迫を感じさせる語気から、ヒソラの話は始まった。

 

 

 + + + + + 

 

 

 主な始まりは宵の時代、そこで活躍した有力な魔法少女の元には他の魔法少女やその庇護を求める多くのヒトが集まり、一つの大きな集団となった。

 『開闢の魔法少女』による魔法具の発明及び『大結界』の展開以降、飛躍的に復興や生産活動が進んで行くと同時に、その集団は村となり町なり、集団の代表であった魔法少女はその土地の主となる。日本国再建に伴いそういった事情のある土地も整理され、正式な法の下に認められた地主となった。

 そうして始まったのが現代の『名家』という機構。

 現代では更に増え、別れ、細分化しているのが。

 

 その名家の中でも最も大きな力を持つ一族、それこそが『風枝家』。

 最古にして最高と呼ばれているその始まりはおよそ五百年前、宵の時代。

 『風枝大和』、という名前の一人の魔法少女から始まった。

 

 端的に言えば、彼女は突出して強かった。

 荒れ果てた当時の時代において強さとは正義であり、弱者は強者の庇護がなければ瞬く間に死ぬ。故に、彼女こそ時代の正義であった。

 

 そんな彼女は凄まじい活躍をして見せた。

 北の地を統べたという土地の大きさ、全国の有力な魔法少女を従わせた武力、領民からの信頼は篤く信仰心すら集めていた。加えて、国家再建の際には臨時政府から助力を要請される形で協力したことから、一応は一国民であるものの国すら風枝の顔色を裏切れない。

 

 実質、国の最高権力者とも呼べるほどの力。武力、権力、財力、全てにおいて。

 余りにも強大過ぎる。

 だが、これらはあくまでも、当主『風枝大和』という圧倒的カリスマによって成り立っていたのだ。

 土地は全て『風枝大和』が中心となって奪還したし、有力な魔法少女を打倒し従わせたのは『風枝大和』だし、領民たちだって『風枝大和』が自分たちを救ってくれたから従っていた。

 

 しかし、唐突に問題が起きてしまった。

 大英雄、まさかの引退宣言である。

 詳しい情報は残っていないが、彼女は当時およそ10〜30代だと残されており、まだまだ現役だろう年齢。むしろ、家を纏め上げる統率者としては脂が乗り始める頃合い。にも関わらず、本人が本気で拒絶したので誰もが受け入れざるを得なかった。下手なことを言うと信者に燃やされるから。

 曰く、『そもそも頑張りたくないけど頑張らないと死んじゃうから頑張ってた。もうヤなの。ずっと寝てたいの。みんなが勝手に集まっただけでしょ。私、知らないもん』、と。偉大なるカリスマの御言葉である

 

 

 すったもんだは置いといて。

 当然の問題が起きた。

 

  ────誰が風枝を継ぐ?──── 

 

 当人が権力を放棄しようが、それはチカラの喪失を意味しない。頭を失くした怪物が鎮座するのみ。

 当時、まだまだ何もかもが荒れていた時代。良くも悪くも強力な風枝という怪物を捨て置けるほど誰も余裕はないし、もしも悪用されたのならばどんな災害へと至ることか。誰かが頭となり、この怪物を操る必要があった。

 しかし、一体誰がかの大英雄の後を継げようか、いや居まい。

 欲に目が眩み、挑む者。燃やされた。

 腕自慢が名乗り上げ、頭の悪さ故に拒まれた。

 知恵者が口を出し、弱さ故に嘗められた。

 そうして、頭を失くした怪物の庇護を失った国が荒廃を増し始めた頃──ついに、一人の少女が手を挙げた。

 

 大英雄『風枝大和』の親戚であり、『風枝大和』が認めた人物であり、頭脳実力共にそれなりの魔法少女であった。

 彼女は『風枝大和』本人に色々と言わせて風枝を半ば強制的に引き継ぐと、最初に述べた。『名を捨てる』、と。

 以降、彼女は『二代目風枝大和』を名乗り始める。

 

 誰もが最初は疑念と嫌悪を抱き、しかし段々と認めさせられた。

 初代と比べようものならば、それは哀れなほどに見劣りするけれど、しかし最低限の実力はあったことと、やる気が人の何倍もあったからこそ現場から段々と認められたのが大きかったのだろう。彼女に着いていけば、時々ではあるが妹分の様子を見るということで『風枝大和』が顔を出したことも多少はあると思われるが。

 『風枝大和』の親戚であるという血筋、実力、熱意、そして結果を出したことで、『二代目風枝大和』は遂に正統後継者であると周囲に認められるに至る。

 

 そして二代目は最後に残した言葉。それは事実上『当主を定めること』を禁ずることであった。

 

 風枝大和は絶対の存在である。風枝家とは風枝大和そのものである。故に、当主たる者は『風枝大和』の名を継承し、それに相応しい者であり、相応しい在り方でなくてはならない。

 

 だがしかし、一体誰が風枝大和の名に相応しく在れようか。

 そこで、二代目は『当主代行』という制度を考案した。

 それは、あくまでも風枝家の頂点は『風枝大和』であり、『風枝大和』に相応しい人物が存在しない間は他の者が臨時的に『当主代行』としてその業務を行うというもの。

 誰でもわかる通り、当主と当主代行に違いなんてなく、詭弁に過ぎない内容ではある。だが、誰もが、誰かしらが風枝を引き継がなくてはならないことだけは理解していた。だからこそ、この内容はその心理的ハードルを下げることが狙いであり、機能性はどうでもよかったのだ。

 

 果たして、これはうまく行った。

 初代に倣って若くして当主を降りた二代目は、当主代行がそれなりに軌道に乗ったのを見届けた後、隠居。

 以降の風枝家は『風枝大和』を神のように信仰し、当主代行は宗教団体の代表のような形として運営され、最大の勢力を持つ名家として在り続けた。

 

 

 それから二百年ほどが経った頃。

 

 それ(・・)は唐突に生まれた。

 魔法少女の力の源、魔力器官に異常を持って生まれた魔法少女。

 前触れはなく、予感もなく、川のせせらぎの如く静かに爆誕した──最強(・・)

 

 魔法少女の強さは魔力の才能に依存する。

 その点、彼女の魔力は他全ての魔法少女の魔力を束ねて(・・・)尚、届かず。

 拳は山を砕き、駆ければ一日で列島を横断できる。

 魔法少女ですらないヒトなんて彼女からすれば脆弱過ぎて近づくだけで息絶えた。一般の魔法少女ですら手足が砕けた。強者ですら蛇に睨まれた蛙の如く動けなくなった。

 

 八つの頭、八つの尾、山の如き巨体に、毒と呪いの魔法を宿した幻想の魔獣──『贋作・八岐大蛇』。

 彼女は単独でこれの討伐を果たすこととなる。故に、『蛇切り将軍』。

 

 誰もが認めるしかなかった。

 彼女こそが武そのもの。風枝の象徴。最強の魔法少女。国防の神風、その化身。

 『三代目風枝大和』であると!!!

 

 

 それから更に、およそ百年後。

 同じく魔力器官にそれ(・・)と同じような異常を持った魔法少女が生まれた。

 彼女もまた、最強(・・)であった。

 ただ在るだけで周囲を焼き、暗夜の霧を蹴散らし、大津波すら瞬く間に蒸発させた日輪の化身。

 『四代目風枝大和』。

 

 

 この不思議な魔力器官の異常は風枝の血筋以外には確認されていない。

 それによって、これは風枝の血筋にのみ宿る遺伝子異常ではないかと考えられている。元より、風枝家の魔法少女は強力な者が生まれ易かったので考察の下地はあったからであろう。

 

 そしてこの最強(・・)であるが、余りにも無法であった。

 最強という言葉では収まらないほどに最強。

 どんな戦場であっても『風枝大和』を投じれば一瞬で終わった。どんな敵、悪辣な策であろうと『風枝大和』は正面から破壊した。

 例えるのなら、遊戯盤を引っくり返すが如し。

 他の数多は駒に過ぎず、『風枝大和』は指先で摘み、弄び、砕き、放り捨てることを許された盤外の存在。強い弱いというのはあくまでも、比較できるから決定できるのであって『風枝大和』はそういう次元ではなかったのだ。

 

 

 そして現代。

 四代目の頃からちょうど百年が経過した。だが、最強は生まれなかった。

 風枝本家は特に慌てていなかった。待てばいつか生まれるという確信(・・)はあったし、待てるだけの余裕もある。しかし、風枝は風枝でも弱小な『風枝の枝葉(ぶんけ)』たちはそうもいられなかった。

 

 何故なら、普通に滅びかけていたからである。

 

 諸行無常の理、風枝家は長い年月を経て段々とその勢力を衰えさせていた。いや、本来在るべき位置へと降りてきたというべきか。

 どんな境界であれ、絶対の一強が長引けば停滞となり、衰退を齎す。実際に、『風枝大和』が君臨していた時代は緩やかに魔法少女全体の実力が低下していた記録が残っている。だからこそ、国防の神風が吹いていない間に他の名家たちは必死に実力を積み重ねるのだ。次の時代で淘汰されない為に。

 逆に、『風枝大和』さえ生まれれば自動的に絶頂を迎える風枝では、誇りある者たちはしっかりと鍛錬するのだが、そうでない者たちは手を抜いていた。特に、小さな分家はそれに見合った実力と熱意の所が多かった。『頑張らなくても何とかなる』──そんな歴史を先祖から受け継いでしまった悪癖だ。

 

 取らぬ狸の皮算用。『風枝大和』を期待して手を抜いていたのに、それが生まれてこないせいで風枝の地位は下がる一方。そして、待っていられるだけの余裕もない。根拠のない占いを信じて散財した愚者みたいに『これでは我々は滅びてしまう!』と、自業自得の叫びと文句を枝葉の一部が本家へと上げ始めたのだ。無論、本家からは『何してんだこいつ?』という目を向けられたが。

 

 そして、愚か者はいつだって、悪い者に悪用されるものだ。 

 最強の遺伝子たる風枝の血、それを欲した悪い奴ら──『魔人計画』。

 分家の一部は自分たちの血液と利用価値のない子女を、『魔人計画』の実験の素材として提供したのだ。

 その見返りとして、金銭、成果(・・)の一部を譲り渡すという条件で。

 

 『魔人計画』とは、魔物と人間の混血児を作り出し魔法少女を超えた新人類たる『魔人』を生み出す研究。

 この『魔人計画』以前にも似たような研究は幾つもあったし、『魔人計画』もまた旧式から最新式に革新的な様々な方法を試していたが、一向に成功の道筋は見つかっていなかった。しかし、『変幻自在の魔女』と呼ばれる存在が計画に合流した結果、魔人とは行かずともそれに近く、しかし決して異なる存在──『魔人擬き』の作成に成功していたのだ。

 

 人間の子を孕んでいる魔法少女、その子に魔物の魔力を注入することによって人工的に作られる生命。

 魔法器官を持たず、魔物ではない。

 しかし、素材となった魔物の生態を受け継いだ非人間。

 

 魔人計画が風枝の枝葉に齎した成果(・・)とは、繁殖用(・・・)魔人擬きである。

 繁殖の為の生殖能力及び再生能力を高める為、そして人型で雌型の魔物──淫魔。

 幾度の出産に耐える為の治癒能力と野生の生存能力を下げる為の魔物──吸血鬼。

 反抗を防ぐ為に強い上下関係と従順性を持つ魔物──狼型。

 狼型の魔物は同種同士の魔力量を基準に群れを為し、厳しい上下関係があることがわかっている。それを利用して幼少期に躾けることで反抗を予防。

 吸血鬼に関しては、基本的には治癒能力が目的。ついでに、脱走しても吸血欲求から早期発見が可能、または餓死する可能性が高くなり、脱走抑制になる見込みもあった。

 淫魔は種付け役を興奮させる体質で仕込み(・・・)を加速させることと、魔人擬き本人の性的欲求を強くすることで行為を促進させることが狙い。

 

 全ては、風枝の血を持つ魔人擬きを風枝の血を持つ男が孕ませる為。

 魔人擬きは素早い間隔で多産が可能である、という見込みがあったので通常とは比べものにならない試行回数が稼げるはず。

 基本的には繁殖用だが、娯楽用としても十分以上に用いられるほどに容姿も整っている。

 

 名付けて、『鳶鷹(とんびたか)作戦』。

 『風枝大和』が生まれないことで困っているのならば、風枝の血を持つ魔人擬きに大量の子を産ませまくることで、『風枝大和』が生まれるまで試行回数を稼げばいいのだ。

 抽選だって当たるまで引けば実質当選確定なのだ。それと同じように──。

 

 

 しかし、想定外が起きた。

 

 ある意味では、失敗。ある意味では、成功。

 

 魔人擬きという鳶が、『風枝大和』という鷹を産むまで、子を産ませる。

 その為に、せこせこと魔物や売られた魔法少女たちを改造し、魔人擬きをしゅぽしゅぽと出産させていたある日。

 

 それ(・・)は唐突に生まれた。

 

 母体の腹を引き裂き、爆誕。

 その姿は魔物に似た獣の耳と翼に尾を備えた異形であり、魔法少女のそれと言うには異質な魔力。そして何より、信じられないほどの魔力を内包する──異常発達した魔力器官。

 

 鳶として生まれるはずの命は、穢れた鳳雛として生まれた。

 

 『五代目風枝大和』は、かくして魔人として生を受けた。

 

 

 + + + + + 

 

 

 途中から何の話をしているのだろうか、なんて思ったのだが、ここまでされれば僕でもわかる。

 

 僕から吸血したこの幼女。

 彼女こそが、『五代目風枝大和』。魔人計画によって生まれた人間でも、魔法少女でも、魔物でもなく、しかしそのどれでもある化け物──魔人。そして、この屋敷の主人であったのだ。

 

「……あの」

「なんでしょうか」

「これ……僕、っていうか……関係者以外が聞いても、良い話なの、かな?」

 

 風枝家……どうやら途轍もなくご立派なお家らしいのだけど、そんなお家のこんな事情、考えるまでもなく大事である。僕のような一般ピーボーが聞いてもいいのか? いや、報道とか既にされていて周知の事実ならいいのだけど。

 

「駄目ですね」

「あ……」

「はい」

 

 もう助からないぞ♡




メインヒロインが登場した次の回が全く別キャラの過去回想とかいうありえない展開が広がっていたので描き直したら遅れました。深夜テンションは怖いね。
言うてこれも説明会だが。

 それと、本作の第二主人公的な立ち位置にしてヒロインたる五代目はまだ幼い(1歳くらい?)ので言うほど強くありません。作中世界でトップ10以内くらいです。成長するまではギャグ漫画補正みたいな異常な再生能力があるくらいで常識の範疇に収まります。中盤辺りから本格的に最強になる………………………………はず。
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