「お前の負けだ。カードを全てよこせ」
「うっ、うう……っ! い、いやです……っ」
「敗者に選択権なんてない。お前が弱いのがいけないんだ」
「う、うわぁぁぁん!!!」
学校内の空き教室をのぞいてみた所、勝負に負けた少女が目つきの悪い少年にカードを奪われようとしていた。そのあまりに一方的な展開に、オレは居ても立っても居られなくなって思わず男の前に飛び出した。
「その勝負、ちょっと待った!」
「なんだお前は」
「100戦連勝の雨宮だ。少女のカードをかけてオレとバトルしろ!」
「ふっ、いいだろう」
目つきの悪い少年がニヤリと笑う。……この世界はカードの勝敗がすべて。敗者は勝者に逆らえない。それは分かっているけれど、目の前であんな少女を泣かす展開を許すなんてオレにはできなかった。
『バトル・スタート』
オレ達の宣言と共に、バトルフィールドが展開される。
「では、先攻は俺が頂く。エネを2枚展開。ターン終了だ」
目つきの悪い少年は、カードを二枚ドローしそれらをエネエリアと呼ばれる場所へ置いた。
「それじゃ、次はオレのターン。後攻なので使い捨てエネを1展開。そして、引いた2枚の内1枚をエネに展開。2エネを使ってオレは『ハンティングウルフ』を召喚」
ハンティングウルフ
コスト2 パワー3000 風 獣
召喚時、後攻なら1枚ドロー
「ハンティングウルフの効果により、1枚ドローする。召喚したターンは攻撃できないので、ターンを終了。……どうだ、なかなかいい動きだろ」
オレは、ニヤリと笑い今後の展開への布石を打つ。手札と場が空の相手に対して、こっちはそこそこのモンスターが一体。手札だって一枚ある。圧倒的に優位な状態だ。相手のデッキタイプは分からないが、おそらく今のオレの動きについてこれるタイプではないだろう。
……しかし、オレの予想に反して男は余裕のある笑みを浮かべている。……なんだ? この余裕は……。
オレ
手札1枚
エナ1枚
ハンティングウルフ パワー3000 風
少年
手札0枚
エナ2枚
「俺のターン。2枚ドローし……よし来た。エナに一枚送る。そして、スペルカード『墓参り』発動。デッキの上からカードを3枚墓地へ送る。ターンエンドだ」
墓参り
コスト2 闇
デッキの上からカードを3枚墓地へ送る
その後、自身が後攻なら山札の上から1枚引く
「え?」
少年が出したスペルを見て、オレは困惑した。どうしてそんな訳の分からないカードを使ってきたのだろうか? 場にモンスターは増えないし、コストも増えないし。増えた墓地のカードは使用できないから、実質リソースを1枚失っただけ。……訳が分からない。
……まあいいや。相手が無駄行動しているうちに、こちらは盤面を整えてしまおう。
「オレのターン。引いた2枚をすべてエナに展開。3マナを使ってオレは『荒くれ者』を召喚」
荒くれ者
コスト3 パワー3500 地 人族
「さらに、ハンティングウルフで直接攻撃。3000のダメージを受けてもらう」
少年
ライフ20000→17000
これで少年のライフは17000。後攻であるのにもかかわらず、先にダメージを与えることが出来た。オレのデッキ構築が完璧だったからだ。後は、この優位な状況を維持したまま攻めればいい。
俺
手札0枚
エナ3枚
ハンティングウルフ パワー3000 風
荒くれ者 パワー3500 地
少年
手札0枚
エナ3枚
墓地4枚
「ふふふ、ははははっ!」
突然目の前の少年が笑い出した。
「なんだ? 何がおかしい」
「いや、なんでもないさ。ただ、お前のデッキが弱すぎてな」
「なに!?」
男の挑発に、オレは思わず声を上げた。……弱すぎる? オレが組んだデッキが弱いだって? そんなバカな。しかし、オレを見つめる少年の瞳は真剣そのもの。本当にそのように思っているようだ。
飛んだ勘違い野郎だな。この有利な状況は、確実に俺のデッキづくりのセンスが引き起こしたものだ。それなのにこの男は、オレのデッキが弱いと勘違いしている。
……まあいい。そのうちこのデッキの恐ろしさを知る事になるだろう。相手はエナ3枚手札0枚場のカード0枚。せいぜいコスト4のカード1枚を使うのがやっとのはず。……それではこの不利な状況を崩せない。
「俺のターン。カードを2枚引き……全てエナに送る」
……え?
俺は彼の選択に驚いた。手札が0枚の状況で手札補充なし? この不利な状況でオレにターンを渡してくれるというのか? オレはかなり困惑した。
「……そして、墓地から『死霊の嵐』を発動」
死霊の嵐
コスト5 闇
カードを1枚引く。そして、墓地のカードの数だけ1000ダメージを相手の場のモンスターへ好きにばら撒く。このカードは墓地からでも使用可能で、墓地から使用した場合はこのカードを除外する。
「死霊の嵐の効果によりカードを1枚ドロー。そして、お前の場に4000ダメージをばら撒く。ハンティングウルフを破壊。荒くれ者に1000ダメージだ。これで俺はターンエンド」
ハンティングウルフ 破壊
荒くれ者 パワー3500→2500
「なるほど。墓地から発動するカードを上手く使って、アドバンテージを稼いだのか。少しは不利な状況を挽回出来たようだな。……だが、お前の場にはモンスターはいない。オレの有利は揺らがないぜ」
「くっくっく、まだ分かっていないようだな」
「分かってないのはお前じゃないのか?」
不利な状況なのにも相変わらず、相変わらず余裕そうな少年。……だが、次のオレのターンが終わるころにはその余裕もなくなっているだろう。
「オレのターン。2枚ドローし……来たっ! オレの切り札、そして……この状況で最も輝くカードが!」
引いたカードを見て、オレは思わずにやけてしまう。
「1枚をエナに送り、俺は『死神の王デス・オール』を召喚。本来は6コスト必要だが、幸運なことにお前の墓地には死神族のモンスターが2体いる。デス・オールの効果により2コスト軽減の4コストで召喚だ」
死神の王デス・オール
コスト6 パワー7000 闇 死神
お互いの墓地の死神族モンスター1体につき召喚に必要なコストをー1にする(最大2コストまで)
召喚時、望むなら自分の墓地の死神族モンスターを2体まで蘇生し、蘇生させた数だけ1枚づつカードを引く
攻撃時、追加ダメージ3000
「さらに荒くれ者で直接攻撃。ターン終了」
少年
ライフ17000→14500
「どうだ、たった4コストでパワー7000、さらに攻撃時追加ダメージを持つモンスターを召喚してやったぞ。運がいい時のデス・オールは最強だぜ」
「……はあ、まだ気づかないのか」
「はっ、負け惜しみだな」
相変わらずあきれた様子の少年。……なんで、そんな余裕そうなんだ?
俺
手札0枚
エナ4枚
荒くれ者 パワー2500 地
死神の王デス・オール パワー7000 闇
少年
手札1枚
エナ5枚
墓地3枚
「俺のターン。カードを2枚引き、全てエナに送る。コスト3を使用して、死神の祝福を発動。 カードを2枚ドローし、山札の上から2枚カードを墓地へ送る」
死神の祝福
コスト3 闇
①エネゾーンのカードが全て死神カードのときのみ使用可能。
②墓地にある死神カードの種類×1枚山札の上からカードを引く。(最大3枚)
③②の効果でカードを引いた分だけ山札の上からカードを墓地へ送る
「さらに、残りのコストで死神の王デス・オールを召喚する」
「な、お前もデス・オール使いなのか?」
彼の召喚したカードを見て、オレは思わず声を上げた。それに対し、少年はやれやれと言った様子。
オレと同じカードを使う、デス・オール使いの少年。……ただ、彼のデス・オールは、オレのデス・オールにはない動きを持っていた。
「俺はデス・オールの効果により、墓地から『最速の仕事人』と『暗黒の処刑人』を特殊召喚し、2枚ドロー」
「な、一気に3体のモンスターを!?」
「お前のものとは格が違うんだよ」
挑発するかのように、彼は笑った。……確かに彼のデス・オールは強い。でも、オレの場にだってデス・オールは存在している。状況はまだ五分五分のはずだ。……そう、思っていたのだが。
「『最速の仕事人』は速攻持ちで、場に出たターンから攻撃が可能。荒くれ者に攻撃して同士討ち。俺はターンを終了する」
少年がターン終了を宣言した。荒くれ者がやられてしまったのは痛いが、まだまだ取り返せる範囲内だ。このターンで更に強力なモンスターを召喚できれば……
「ターンを終了したことにより暗黒の処刑人の効果発動。相手は自分のモンスターを1体選んで破壊する」
「え?」
オレの場のモンスターはデス・オールのみ。つまり、それを破壊せざるを得ない。そして、デス・オールが破壊されればオレの場はがら空き。少年の場にいるカードは2体。そのうちの1体はデス・オール。
……これってやばいんじゃ?
「ハイオークとブルースライム召喚!」
「デス・オールでブルースライムを破壊! 暗黒の処刑人の効果でハイオークを破壊!」
「うわぁぁぁぁ!」
「残虐なる執行者、殺戮の案内人、漆黒の処刑人召喚!」
「ぐはぁぁあぁぁ!」
デス・オールをだされてから、一向に良い展開ができない。相手のターンが終わる頃には自分の場にモンスターがほとんど残らない。一方でこちらは相手のモンスターをほとんど処理できないままターンを返される。
目の前が、真っ暗になった。目の前の相手に、自分の実力が全く通用していない。こんなに惨めなことはあるのだろうか。
「これでとどめだ。暗黒の処刑人で攻撃」
「どりぎゃぁぁぁ!」
ライフ 2000→0
「う、うぅ……」
「俺の勝ちだな。……お前、弱いな」
「……っ!」
オレは何も言い返すことが出来なかった。ただ黙ってうつむくだけ。
そんなオレを彼は嘲笑った。
「何が100戦連勝だ。そんなデッキでそれをなせるはずが無いだろう。寝言は寝て言うんだな」
「く、そっ……!」
オレはデッキを片付ながら悔しさをにじませる。……確かに、彼のデッキの方が強かったかもしれない。彼のデッキにはオレには無い強みがあった。だが、だからといってそれが負けてもいい理由にはならない。
「うう、すまねえ。お前の大切なカード、取り戻せなかった」
オレは勝負の行方を見守っていた少女に謝罪する。
「大丈夫です。取り戻そうとしてくれただけでもうれしいです」
彼女は優しい言葉をかけてくれたが、オレは自分の不甲斐なさに涙が止まらなかった。
「でも、大切なカードなんだろ?」
「うん。だから、もっと強くなって取り戻すんだ」
「……その必要は無いぞ」
少女との話に、少年が割り込んできた。彼はいつの間にか、彼女のカードを握っている。
「これ、返す。俺のデッキには合わないから不要だ」
「……え?」
「……気が変わったんだ」
「え、でも……」
彼女は困惑している。……確かに彼の態度の変化は唐突だ。困惑するのも無理はない。
「それじゃ、オレのカードも……」
「それはもっと不要だ」
「え?」
彼は少女だけではなく、オレのカードも奪わないようだ。
「……おいおい、どういうことだ? お前」
彼の心境の変化に、思わずオレは問いかける。
すると彼は、頭を掻きながら答えた。
「低レベルな戦いに付き合わされて、興が冷めた。おかげで冷静になれたよ」
彼は、俺を見下ろしながら答える。……くそっ!
結果的に少女の大切なカードを取り戻すことができたし、オレのカードも奪われずにすんだ。……だけど、オレは何か大切な物を奪われてしまったような気がした。
「……名前、を」
「どうした?」
「お前の名前を教えてくれ」
オレの問いに、彼は表情を変えずに答えた。
「俺は、漆黒暴虐。覚えておけ」
彼はそう名乗り、颯爽と去っていった。
オレは、その姿が見えなくなるまで彼の背中を見つめ続けた。
……漆黒暴虐、か。強くなって、いつか倒してやる。オレはそう胸に誓う。
「あのお方、素晴らしいですわね。闇化した漆黒暴虐を、カードバトルにより正常化させるなんて」
「もしかしたら、彼は伝説の『闇払人』かも知れないニャね」
「その可能性は高いでしょうね。私の『パーフェクトアイ』が、彼の秘めた力を見抜いているもの」
「ニャンと! それじゃやっぱり……」
「何としてでも彼を私の物にします」
バトルを誰かに見られていたことに、オレは気づかなかった。