「たのもー」
オレは強くなるために、カードバトルの道場に入門することにした。
「……あれ? 雨宮君?」
道場にいたのは、以前漆黒にカードを奪われそうになっていた少女だった。
「ああ。昨日ぶり、だな」
「うん。……あ、雨宮君もカードバトルを習いに来たの?」
「ああ。漆黒の奴を倒せる程強くなりたいと思ってな。……お前はこの道場に通っているのか?」
「うん。もう大切な物を奪われ無いように、もっと強くなりたいから」
その少女の瞳には強い決意の光が宿っていた。
「……あ、ごめん。名乗ってなかったね。私は姉崎 梨李。雨宮君は?」
「雨宮 遊也だ」
「遊也君……か、よろしくね」
「ああ、よろしく」
姉崎さんはそう言って、手を差し出してきたので、オレはその手を握り返した。
「そういえば、この道場ではどんな訓練をするんだ?」
「師範代との模擬戦だよ。戦った後にフィードバックもくれるし、アドバイスもしてくれるの。だから、少しずつ改善していけば、強くなれるんだ」
「なるほど」
「あ、そろそろ来ると思うよ。あ、ほら」
道場の入り口を見ていると、一人の女性がやって来た。……彼女が、師範代?
端整な顔立ちに、理想的なスタイル。輝く金髪を縦にクルクルと巻いた、高貴な雰囲気の美人であり、とても道場の師範代には見えない。
「……ってあれ、有栖川生徒会長? どうしてこんな所に?」
「あら? 姉崎さん。奇遇ですわね」
どうやら二人は知り合いらしい。……この道場の師範代は生徒会長?
「今回は臨時でこの道場の師範代をしていますの」
「……どうして?」
有栖川さんの言葉に、姉崎さんは微妙そうな表情を見せる。
「おーっほっほっほ。気まぐれですわ~」
「……怪しい」
高笑いで誤魔化す有栖川さんに対して、姉崎さんの瞳は半眼になっていた。
「……ですわ口調、何だかお嬢様みたいだな」
「え、知らなかったの?有栖川さんは有栖川家の令嬢なんだよ」
「……は? 有栖川……ってあの有栖川財閥の?」
「うん」
「そうですわ! わたくしは、有栖川家のご令嬢ですわ~!」
姉崎さんの言葉に頷く有栖川さん。
……そうか。生徒会長が有栖川さんで、有栖川さんはお嬢様。つまり、生徒会長はお嬢様ということか。
「……ということは、つまり」
「うん。きっと金の力で自分をこの道場の師範代にねじ込んだんだ。何らかの目的のために」
「筒抜けですわ~!?」
姉崎さんの言葉に、有栖川さんがショックを受けたような表情になる。
だが、しばらく落ち込んだ後、有栖川さんは気を取り直す。
「バレてしまっては仕方ないですわね。……単刀直入に言います」
有栖川さんはそう言って、オレに向かって指を突きつける。
「雨宮遊也。わたくしと結婚してください」
私と雨宮君の前に、突然現れた有栖川生徒会長。彼女は雨宮君に告白して、いきなり結婚を申し込んできた。
「……は?」
思わず、私の口から低い声が漏れた。……何? 今、なんて言ったのこの人。
「……聞こえなかったのですか? ではもう一度言いますわ。わたくしと結婚してくださいませ」
有栖川さんは再び求婚をした。……聞き間違いじゃないみたい。雨宮君は呆気に取られて硬直しているし、私は状況を呑み込めない。
恋人どころか、出会ったばかりの関係性だと言うのに結婚って、どう言うこと? 理解が出来ない。
……え? もしかしてこの人、雨宮君に一目惚れして結婚したくなったのかな? ……いや、さすがにそれは無いか。確かに雨宮君は格好いいけれど、有栖川家の令嬢として軽率な行動は出来ないはず。……流石に彼女もそこまで馬鹿じゃないよね? そもそも恋人を飛ばして夫婦になろうとするなんて、発想がぶっ飛びすぎている。
……それに、有栖川さんの目を見てみれば分かる。雨宮君を見る彼女の目は恋する乙女のような目じゃない。むしろもっと打算的な何かを感じさせるような瞳だ。
さすがに、雨宮君もこんなに怪しい誘いには乗らないだろう。いくら有栖川さんが才色兼備なお嬢様だとしても、こんな怪しい方法で結婚を迫られたら、断るに決まっている。
それに、こんな急に将来を左右するような決断なんか出来ないはずだ。仮に雨宮君が有栖川さんに気があったとしても、ここですぐに答えなんか出せるわけ……
「結婚か、いいなそれ。しよう」
「は?」
有栖川さんの言葉に頷いた雨宮君は、そのまま有栖川さんに近付いていく。そして、彼女の手を取った。
……ちょっと待って。本当になに言ってるのこの人!? どうしていきなり結婚にOKしてるの!? どうしてこんなにすんなり受け入れてるのよ!