ホビアニ風世界の死神ギフトデッキ使い   作:Atlantis

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22話

 

 

「『それではさようなら。製品版でまた会いましょう』……うん、良い感じだ。投稿っと」

 

 新作『アリスちゃんASMR』のサンプル版の最終確認を行った後、それを動画サイトに投稿する。

 

「おおっ、伸びてる伸びてる。SNSで宣伝した効果がでてるな」

 

 動画を投稿してから数十秒で再生回数が500を超えた。俺は伸びていく再生回数を見てにやける。

 

「今回も稼げそうだ。この調子で稼いでいけば、ミリカを助けることが出来るかもしれないな」

 

 とにかく金が必要だ。それも、生半可な額じゃない。より過激なASMRを作ってさらに稼ぐ必要がありそうだ。それくらいしなければ、ミリカを助けられない。

 

 ……お前と会う資格はない。だけど、罪滅ぼしはさせてくれ。オレはようやく手段を見つけたのだから。

 

 

 

「えー、サーチカードとドローカードを多めに組んだこのデッキでは、3ターン目『疾風のワイバーン』4ターン目『ハリケーンドラグーン』の強力な動きが88%の確率で成立します。テンポロスになるという理由であまり使われていないサーチカードですが、使い方次第では破格の性能を発揮するのです」

 

 「カードゲーム学」の授業をBGMに、新作ASMRの構想を練るオレ。

 

 カードゲームで強くなるためにかなり役に立つ事を話しているようだが、注意深く聞いている余裕はない。一刻も早く新作のアイデアを見つけて稼がなければ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 授業が終了し、10分休憩が始まった。

 

「なーに考えてるの、雨宮君」

 

 考え込んでいると、突然肩を叩かれる。驚いて振り返ると、そこには姉崎さんが立っていた。

 

「……ああ、姉崎さんか」

「うん、私だよ!」

 

 笑顔の姉崎さん。……正直気まずいな。

 

「もしかして、次の製品について考えているのかな?」

「……ああ、アイデアが思い浮かばなくてな」

 

 ……そう言った途端、姉崎さんの笑顔が強くなる。

 

「私のお姉ちゃんが雨宮君の作品の熱烈なファンなの。彼女と語り合えば、雨宮君のインスピレーションが刺激されるんじゃないかな」

「……え? 美奈さんがオレの作品を……」

 

 まさか、作品の購入者が身近にいたなんて…… 

 

 姉崎さんにASMR制作がバレたのも美奈さんを通じてなのかな? 

 

 ……いや、でも恥じらう必要はない。ミリカを救うためには沢山稼がなきゃいけないんだ。

 

「……確かに、ファンの直接の声を聞けば客が求めている物が分かるかも知れない」

「うん! 私のお姉ちゃんからきっと良いヒントが貰えるはずだよ。今度家に呼ぶね」

「ありがとう」

 

 姉崎さんは優しく俺に微笑んだ。

 

「その代わり、ちょっとお願いがあるの」

 

 姉崎さんは、少し申し訳なさそうな様子でそう言った。

 

 ……お願い? 一体なんだろう。

 

 俺は疑問に思いながらも彼女の話に耳を傾ける事にした。

 

「放課後、私と一緒に来てくれない?」

「……どこに?」

「内緒!」

 

 姉崎さんのお願いに俺は首を傾げたが、彼女はいたずらっぽく笑むだけで場所については一切教えてはくれなかった。

 

 正直あまり気が進まないな。今は少しでも時間が惜しい。

 

 ちょっと前なら喜んで付いていったかも知れないが、今のオレにはミリカを救う使命がある。

 

「悪いけど、今は制作に専念したいから無……いや、良いぞ。一緒に行こうか」

「良いの? ありがとう!」

 

 姉崎さんは嬉しそうに微笑む。……女の子からの、放課後お誘い。よく考えたらこの体験は、音声作品へ流用する事が出来るだろう。

 

 現実の体験を通してリアリティーのあるシーンを作る事が出来れば、傑作を仕上げることが出来るかも知れない。

 

 出した傑作がバズれば多くの人達がオレの作品を買い大きな利益をもたらす。……これは、金になるぞ。

 

「……雨宮君?」

「あ、すまない。それじゃ、今日の放課後よろしくな」

「うん!」

 

 俺がそう言うと、姉崎さんは安心しきったように笑顔を見せた。そして、教室から出ようとしたところでクラスの女子に捕まった。

 

「リナちゃん、雨宮君と良い感じだねー」

「えへへ、そんなんじゃないよー」

「雨宮君、カードも強いしいいんじゃないかな?」

「え、そうかな?」

「そうだよー」

「リナちゃん、頑張ってね」

「そういうのじゃ無いけど……頑張るよ」

「リナちゃん、大チャンスだよ! ちゃんとモノにしなよ!」

「……まあ、チャンスといえばチャンス、なのかな?」

 

 姉崎さんは女子の集団に捕まり、楽しそうにおしゃべりを始めた。

 

 ……それは、とても素敵な光景だ。恋の話で笑顔を輝かせる女の子達。その様子には、青春が詰まっている。

 

 当たり前で、ありふれた体験だ。だけど、ミリカはその当たり前の体験が出来ない。

 

 理不尽によってミリカは青春を奪われた。……取り戻せるのなら取り戻してやりたい。

 

 

 

 

 

 

 

「さあ、行きますわよ雨宮君」

「黒塗りの高級車!?」

 

 放課後、姉崎さんに連れられてた来た場所には、有栖川さんと黒塗りの高級車が待ち受けていた。

 

「例の場所までお願いしますわ」

「了解ですニャ」

 

 既に車に乗っていた使用人らしき女性に命令して車を走らせる有栖川さん。……どこに連れて行かれるのだろうか?

 

 

 

 

「着きましたわ」

「ここは、病院?」

 

 車に揺られること数十分。オレ達は大きな病院へと辿り着いた。

 

 この、病院は……

 

 

 

 足が震え、なかなか足が動かない。この場所は、ミリカの……

 

 オレの様子を察してか、姉崎さんは優しくオレの手を取った。

 

「大丈夫、雨宮君?」

「……どうして、どうしてこの病院なんだ?」

「雨宮君」

 

 オレの問いかけに対し、真剣な眼差しでこちらを見つめる姉崎さん。

 

「ごめんね。聞いちゃったんだミリカちゃんのことを」

「……そうか」

 

 姉崎さんがミリカの事を知った。……ということは。

 

「じゃあ、オレの情けない所も知っちゃったって事か」

「ううん、詳しくは知らない」

「……そうか。じゃ話してやるよ」

 

 今までのことを話せば、きっと姉崎さんはオレに失望する。……だけど、それでいいのだ。

 

「今はいいよ。ミリカちゃんのいるところで、全てを話して欲しいの」

 

 姉崎さんの言葉を聞き、オレは固まった。ミリカと会って、全部話す? ……出来るわけがない。

 

 ミリカはオレなんかと顔を合わせたくないはずだし、そもそもオレにミリカと会う資格はない。

 

「……すまないが、ミリカと会う事は出来ない。悪いが、伝言を頼めるか」

 

 オレの言葉に、姉崎さんは困った表情を浮かべた。オレは彼女から目をそらし、彼女の言葉を待った。

 

 だが、聞こえてきたのは有栖川さんの声。

 

「ミリカさんとの対面を拒否する。……そうきましたか」

「えっ」

 

 オレは驚き、有栖川さんの方を見た。彼女は怪しい笑みを浮かべながらオレを見つめ返す。

 

「ですが、その可能性も考慮していましたわ」

「どういう、ことだ」

 

オレは有栖川さんに尋ねる。彼女はニヤリと笑って言った。

 

「こちらの動画をご覧なさい」

 

 有栖川さんの言葉とともに、一人の少女が画面に映る。……ミリカだ。

 

「お兄ちゃん、久しぶりだね」

「ミリカ!?」

 

 動画の中のミリカはぎこちない笑顔を見せていた。

 

「会いたいな、お兄ちゃん」

 

 儚い泣き顔に、オレは胸が張り裂けそうになった。……そうか、彼女はずっとオレを待ち続けていたんだ。

 

 オレは、ミリカの気持ちを全く考えていなかった。その事実に、オレは酷い罪悪感を覚えた。……彼女と、会わなくちゃ。

 

「その表情。どうやら決心がついたようですわね。……さあ、行きますわよ」

 

 有栖川さんに連れられ、オレはミリカが待つ病室へと向かう。

 

「……お兄ちゃん!」

「ミリカっ!」

 

 病室へ通された直後、オレに向かって涙を流しながら駆けてくるミリカ。オレは彼女を抱き止め、そして抱き締めた。

 

「……どうして、会ってくれなかったの」

「すまない。……お前に合わせる顔がなかったんだ」

「合わせる顔がなかった?」

 

ミリカはオレの言葉に疑問を抱いて質問をする。

 

「ああ。最初はお前の病気を治すためのお金を稼ぐ為にバイトを頑張っていたんだ。でも、途中で嫌になって辞めちゃった。だから、お前に会う資格はないと思ってたんだ」

 

 そう説明すると、ミリカは笑った。……その笑みは、どこか寂しげなものだったが。

 

「真面目過ぎるんだよ、お兄ちゃんは」

「え?」

「お兄ちゃんは、私の病気を治す為に頑張ってくれたんだよね。……ありがとう。でも、お兄ちゃんはいてくれるだけで充分なんだよ」

 

 

 ミリカはそう言ってオレの胸に顔を埋めた。彼女の言葉に、オレは思わず涙腺が緩んだ。

 

「ミリカ、ありがとう」

 

 オレはそう言って彼女をさらに強く抱き締めた。

 

「これにて一件落着、だね!」

「……そうだと良いのですけれど」

 

 喜ぶ姉崎さんと、何かを疑うように呟く有栖川さん。

 

「何か気になることでもあるの?」

姉崎さんは有栖川さんに尋ねる。

「いえ、何でもありませんわ」

 

 有栖川さん言葉を聞き、姉崎さんは不思議そうに首を傾げた。……一体どうしたのだろうか?

 

「お兄ちゃん」

「なに、ミリカ?」

「一緒にカードゲーム、しよ?」

「おう、分かったぜ」

 

 ミリカからのカードゲームのお誘い。俺はそれを快諾した。

 

 ミリカは凄くカードが強い。この勝負は彼女が勝つだろう。彼女には気分良く勝ってもらおう。

 

 

 

 

「オレのターンドロー。引いた2枚をエネチャージしてターン終了!」

「私のターン。2枚エネチャージしてターン終了です」

 

 最初のターンはどちらもエネチャージで終了。動きが始まるのは次のターンからだな。

 

「1エネチャージして、『死神突撃部隊隊長』を召喚。山札の上から3枚を参照とした効果ダメージを与える」

「1エネチャージします。そしてモンスター召喚。召喚時効果で特定のカードを1枚サーチです」

 

 このターンはお互いにモンスターを召喚し、効果を発動した。……ここまでは互角。

 

「1エネチャージして、『デスサイス』を突撃隊長に使用。そいつで直接攻撃し、さらに効果ダメージを与える」

「1エネチャージします。そして3コストで『マジカルアロー』発動して隊長を破壊します。更にモンスターで直接攻撃です」

 

 パワーアップしたモンスターを破壊され、ミリカの場にだけモンスターがいる状態に。

 

「『デスオール』召喚。カードを1枚引き突撃隊長を墓地から蘇生」

「なら、私はモンスターを召喚し召喚時効果で『デスオール』を破壊します。破壊が発生したことによりモンスター効果を発動です。このターン中のモンスターへ与えるダメージを+3000。モンスターで突撃隊長を攻撃して破壊です」

 

 2体のモンスターを持つミリカに対してモンスターを残せていないオレ。ターンが経過するほど盤面の差が広がっていく。ミリカは強いなぁ。

 

 

 ……

 

 

 

「5体のモンスターで直接攻撃。これでトドメだよ、お兄ちゃん」

「うう、参った!」

 

 勝利した瞬間、ミリカは優しく笑った。その笑顔に、オレも嬉しくなった。

 

 ……だか、ミリカの笑みは突然崩れ、不機嫌さをあらわにした。

 

「つまらない」

「……そうか」

 

 ミリカの言葉に、オレは少しがっかりした。

 

「すまんな、ミリカ。オレじゃ実力が足りなかったようだな」

 

 オレの実力ではミリカを満足させることは出来なかった。やはり、一般のカードゲーマではミリカを満足させることは出来ないようだ。ミリカのカードゲームに関しては……

 

「実力の問題じゃないよ!」

 

  色々と考え込んでいたオレの耳に、ミリカの怒りの声が飛び込んできた。

 

「今のお兄ちゃんからはバトルスピリットを感じられない!」

 

 真剣な眼差しで、ミリカはオレを見つめる。……バトルスピリット。それは、カードバトルへの強い思い。その思いを感じられないということは、すなわちカードゲームへの情熱が無いということ。……ミリカはそう言いたいのだろう。

 

「カードへの情熱が無い相手とバトルしてもつまらないということか?

「そうだよ。……お兄ちゃんは真摯にカードと向き合っているって、有栖川さんから聞いていたけれど、見当違いだったのかな? それとも私が相手だから手を抜いたの?」

 

 悲しそうな表情を浮かべながら言葉を続けるミリカ。

 

「手は抜いてない。ミリカが手を抜かれたくない事くらい知っているさ。出すカードだって手札の中から一番盤面を取れるのを選んで……」

「盤面で争うだけがカードゲームじゃないよ!」

 

 オレは、手を抜いていなかったことを伝えようとしたが、姉崎さんによって遮られてしまう。

 

「確かに展開力や除去能力で盤面を支配するデッキはあるよ。……でも、雨宮君のデッキはそうじゃないでしよ?」

 

 彼女の言葉に、オレは納得した。オレのデッキは盤面で有利を取り続けられるタイプではない。むしろ、負けている盤面をコンボでひっくり返すタイプのデッキだ。

 

 ……つまり、さっきの戦法ではこのデッキの強みを発揮できず、弱みをさらけ出してしまうことになる。

 

「言われてみれば、そうだな」

 

 オレは思わず笑った。あんな戦い方じゃ、誰にだって勝てはしない。

 

「あはははは」

「……何が面白いの、雨宮君?」

 

 オレの笑みに対し、姉崎さんは冷たい眼差しを向ける。

 

「自分のデッキの動かし方を忘れるなんて、明らかにおかしい。笑い事じゃないよ。……もしかして、お金稼ぎに執着してカードへの情熱を失ったのかな?」

 

 鋭い姉崎さんに、オレの心の内を見透かされているようだ。……その事実をオレは否定できない。

 

 今はカードよりもお金稼ぎの方が重要だ。稼げることが判明した以上、オレは金稼ぎに走らなければならない。

 

 ……大金を支払って『伝説のカードゲーマー』にミリカとの対決を依頼するのだ。

 

「お金稼ぎ?」

 

 ミリカが姉崎さんの言葉に首をかしげる。

 

「あっ! ……ミリカちゃん、今の気にしないでね」

 

 慌てて今の言葉を訂正しようとする姉崎さん。だか、ミリカの顔が曇ってしまう。

 

「……なんとなく分かったよ。お兄ちゃんがカードへの熱意を失った理由が」

 

 冷ややかな目でオレを見つめるミリカ。その瞳からは、オレに対する失望が読み取れる。

 

「お兄ちゃんがカードゲームに熱中している事を2人から聞いたんだ」

 

 ミリカはオレを冷たい目で見つめる。

 

「それを聞いて、私は嬉しかったんだ。お兄ちゃんがカードゲームに真剣になっているんだって」

 

 ミリカの目に涙が浮かび始めた。

 

「……その金稼ぎって、私のためなんだよね。可哀想な妹のために、カードへの熱を捨ててお金稼ぎに専念しなくっちゃって事だよね?」

「そ、それは……」

 

 オレは、何も答えることが出来なかった。そんなオレを見て、ミリカは更に泣いた。

 

「私を見くびらないでよ! お兄ちゃんが好きなことを諦めなくったって私は生きていける。それに、私は可哀想なんかじゃない!」

 

 泣きながら、彼女は叫んだ。

 

 自身が同情された事で、兄が好きなことを諦めた事実が気に入らなかったのだろう。ミリカは、心底悔しそうな顔でオレを見つめている。

 

 確かにそんな扱われ方をされたら嫌になるはずだ。……だが、それでもオレはやらなければいけない。

 

「すまないが、オレはミリカを学校に行かせたい。その為に、オレは金を稼がなきゃいけない」

 

 オレは、自分の思いを素直に伝えた。だが、ミリカは納得しない。

 

 ……それどころか、更に悲しみが深まったようだ。

 

「……お兄ちゃん、もういいよ」

 

 ミリカは涙を拭い、オレを真っ直ぐ見つめた。その瞳に宿るのは怒りと悲しみ。

 

「私を学校に行かせる? なんでそんなことのためにお兄ちゃんはカードゲーマーへの道を失うことになるの?」

「そんなことなんかじゃない! ミリカ、お前は普通の女の子達のように学校生活を楽しまなきゃいけないんだ!」

「私の未来を勝手に決めないでよ! 私はこの運命を受け入れているの。だから、もうこれ以上私に気を遣わないで!」

「オレはお前のためを思って……」

「私の為を思うなら、放っておいてよ。カードバトルを諦めないでよ……」

 

 ミリカは泣きながらオレに訴えかける。そして、そのまま言葉を続けた。

 

「お兄ちゃんから、強い決意を感じる。言い争っても話は平行線になるだけだね」

「そうだな。……じゃあ、これで話は終わりということか?」

「それじゃ納得できないよ。白黒つけないと」

「ということは、つまり……」

「うん、カードバトルで勝負だよ、お兄ちゃん」

 

 ミリカは、オレを真っ直ぐ見つめてそう言った。

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