「うん、カードバトルで勝負だよ、お兄ちゃん」
ミリカは、オレを真っ直ぐ見つめてそう言った。
「カードバトル、か。オレに不利だから避けたい所だが、ミリカが望むなら受けて立とう」
デッキを握り、気合いを入れる。今まで温存していたカードバトルのエネルギーを絞り出し、身体にまとわせた。
「雨宮君、ダメだよそれは。命に関わるし、仮に生きてバトルを終えたとしても、1年間はまともに勝てなくなってしまうよ!」
姉崎さんの指摘する通り、体内のカードエネルギーを無理やり引き出す行為は良くない行いである。
生きるため、そして勝利していくために必要なカードバトルエネルギーを大きく消費して、一時的な強さを得る。まさに諸刃の剣である。
大きなリスク。だけどこのリスクを背負ってでも、ミリカを納得させなきゃいけないんだ。
「私を甘く見ないで、お兄ちゃん。これから私が使うのは、さっきとは比べものにならないほど強いデッキだから」
ミリカがもう一つのデッキを取り出し、そう宣言する。
「雨宮君、使うデッキは前と同じですの?」
「ああ、これがオレの中の1番だからな」
有栖川さんが質問してきたのでそれに答える。すると彼女はいくつかのカードを手渡してきた
「それじゃ情報アドバンテージで不利になってしまいますわ。……公平を保つためにとっておきのをお貸ししますわ。デッキに混ぜてお使いなさい」
「ありがとう、有栖川さん。……うおっ!」
彼女から渡されたカードを見て、驚く。それらは全部、欲しかったけれど高すぎて買えなかったカード達だ。早速オレはデッキを編集する
「ちょっと、有栖川さん! 雨宮君のデッキを強くしてどうするの! 彼が勝ったら全ておしまいなのに……」
「視野が狭いですわね。ここで大事なのは勝ち負けではありませんわ。勝ち負けよりも大切な物がこのバトルにはありますの」
熱くなる姉崎さんに対し、有栖川さんは冷静に言い放つ。しかし、姉崎さんは納得していないようだ。
「そもそも、こんな戦いは止めるべきだよ。どっちが勝っても雨宮君はまともにバトルが出来なくなっちゃうよ」
姉崎さんはオレを心配して、そう言葉をかけてくれた。だが、オレはその提案を受け入れることは出来ない。
「ありがとう、姉崎さん。だけど、ここは譲れないんだ。……オレはこの勝負でミリカを納得させる!」
「お兄ちゃん……」
オレの覚悟の言葉を聞いたミリカは、小さく言葉を吐いた。
「バトル開始だよ、お兄ちゃん。私から行くね」
ミリカは早々にターンを開始しる。
「私のターンドロー、1枚をエネに送ります。1コストで『魔法の記憶』発動です!」
魔法の記憶
コスト1 スペル 光
①手札を1枚捨て、山札から2枚カードをドローする
②①の効果で引いたスペルのコストを全てー1する
③ターン終了時①の効果で手札に加えたカードがある場合、全て墓地へ送る
「カードの効果で私は2枚ドローします」
手札
1→0→2
使用可能エネ
1→0
「そして、『マジックゴーレム精製』を0コストで発動します」
マジックゴーレム精製
コスト4 スペル 光
①『マジックゴーレム』をデッキ外から1体特殊召喚し、山札の上から1枚引く
②以前の自分ターンにモンスターを通常召喚していなければ、このスペル発動に必要なコストは3少なくなる
③自身が後攻の時、このスペル発動に必要なコストは1少なくなる
「スペルの効果により、『マジックゴーレム』を召喚。さらに、山札からカードを1枚引きます」
手札2→1→2
マジックゴーレム
パワー3000
被ダメージー1000
直接攻撃出来ない
「さらに0コストでスペル『防衛指令』を発動です。手札を1枚捨ててモンスターをパワーアップです!」
防衛指令
コスト1 スペル 地
手札を1枚捨て、場のモンスター1体のパワーを+2000し、『ガード』と『このモンスターは攻撃できない』と『自身は次のターン相手モンスターの効果を受けない』を付与する
手札
2→0
マジックゴーレム
パワー3000→5000
「『防衛指令』の効果で墓地に送られた『死者への供物』の効果を発動。カードを2枚引きます」
手札
0→2
死者への供物
コスト0 スペル 闇
①ライフを1000回復する
②手札のこのカードが墓地へ送られたとき、山札からカードを2枚引く
「これで私の番は終了。次はお兄ちゃんの番だよ」
ミリカ
手札2
最大エネ1
マジックゴーレム
パワー5000 ガード
被ダメージー1000
攻撃できない
地震は次のターンまで相手モンスターの効果を受けない
ようやくミリカがターンを終えた。たった1ターンでここまで動くことが出来るなんて、さすがはミリカだ。……でも、こっちだって負けてられない。
「先行1ターン目に、パワー5000のガード持ち!? その上手札が2枚もあるなんて……」
「凄いですわね。ですが、雨宮君のデッキなら何とかなるかもしれませんわ」
「雨宮君の引き次第だね……」
姉崎さんと有栖川さんが今後の展開について話し合う。……確かにパワー5000のガードはキツい。けれど攻撃できないならまだ可能性はある。
「オレのターンドロー。1枚エネチャージして、『死神派遣隊長』を召喚」
死神派遣隊長
コスト1 パワー3000 闇 死神
自身のターン終了後、自分のデッキから死神カードを一枚選び相手の場に召喚する。出来なかった場合、自分の手札、もしくはエネルギーゾーンのカードを1枚墓地へ送る
「これでオレはターンエンド。派遣隊長のターン終了時効果により、オレはデッキから『死神突撃部隊隊長』を相手の場に召喚。今度こそターンエンドだ」
死神突撃部隊隊長
コスト2 パワー4000 与ダメージ-4000 闇 死神
このカードは、自分のターンに必ず攻撃しなければならない。
召喚時&攻撃時、望むなら山札の上から3枚を確認し、その中の死神カードの数×1000のダメージを相手の場に好きなように与える。
オレ
手札0
エネ1+使い捨てエネ1
死神派遣隊長
コスト1 パワー3000 闇
ミリカ
手札2
最大エネ1
マジックゴーレム
パワー5000 ガード 地
被ダメージー1000
攻撃できない
次のターンまで相手モンスターの効果を受けない
死神突撃部隊隊長
コスト2 パワー4000 与ダメージ-4000 闇
ミリカの動きは驚異的だった。だけど、まだ何とかなる。
ミリカはスペルを多く使用していた。ということは、姉崎さんのようなスペルデッキなのかも知れない。
妨害を通すためにも、死神派遣隊長が次のターンも生き残ってくれると良いのだが……
「雨宮君!」
色々と考えていたところ、姉崎さんに話しかけられた。
「どうしたんだ、姉崎さん?」
「ミリカちゃんを助けてあげたいって気持ちは分かるよ。ミリカちゃんのためにお金を稼ぎたいのも。……でも、カードゲームの熱意まで捨てるべきじゃないんじゃないかな?」
姉崎さんは優しい口調で語りかけてくる。……熱意か、確かに姉崎さんの言うとおりだ。
カードゲームに対する情熱、出来るならそれを失なわない方が良い。……だけど、その考えは甘いんだ。
「急がなくちゃいけないんだ」
「……どうして?」
「ミリカは今、中学3年生。……来年には高校生になる。ミリカに高校3年間の思い出を残させるためには、今年中に退院させる必要がある。カードゲームに熱中している余裕はないんだ」
オレは思っている事を伝える。すると、ミリカが反応してきた。
「今さら学校なんて、意味ないよ。経験のない私にはクラスで上手くやっていくことは出来ない」
「いいや、上手くやっていけるね。ミリカは可愛いし、頭も良くてカードがとても強い。クラスの人気者間違い無しだよ」
ミリカの卑下をオレは全力で否定する。もしクラスにミリカがいたら、確実に人気者になるだろう。
「お兄ちゃんは私を贔屓しすぎ。私はそんな優れた人間じゃないよ。もっと私を見て、お兄ちゃん」
「ちゃんと見てるよ、ミリカ」
「お兄ちゃんは私の事をを見てない! 見ているんだったらこんなに私を傷つけないよ!」
ミリカは叫ぶ。その叫びには、悲しみと怒りが入り交じっているように感じた。
「私のターンドロー。引いた2枚のカードを全てエネチャージ。オブジェクトカード『魔界の花畑』を3エネ支払って使用!」
手札
2→1
使用可能エネ
3→0
魔界の花畑
コスト3 オブジェクト 闇
①設置時相手モンスター1体に1000ダメージを与える
②ターン終了時、下記の効果を上から順番に全て発動する
・相手モンスター1体、もしくは相手プレイヤーに1000ダメージを与える
・使用可能エネが1以上の時、お互いのプレイヤーはカードを1枚引きその後手札から1枚選んで墓地へ送る
・使用可能エネが2以上の時、フィールドのモンスターを1体選びパワー+2000する
・使用可能エネが3以上の時、相手モンスター1体、もしくは相手プレイヤにダメージ軽減を無視して2000のダメージを与える
・使用可能エネが4以上の時、山札からカードを1枚引く。それがスペルならさらにもう1枚引く
・使用可能エネが5以上の時、手札のカードを1枚選びコストをー2する
「『魔界の花畑』の設置時効果を発動。死神派遣隊長に1000のダメージ」
死神派遣隊長
パワー3000→2000
「突撃部隊隊長で派遣隊長を攻撃」
死神突撃部隊隊長
パワー4000→2000
死神派遣隊長
パワー2000→2000
「私はこれでターン終了。そして『魔界の花畑』の終了時効果を発動。死神派遣隊長にさらに1000ダメージ」
死神派遣隊長
パワー2000→1000
「これでお兄ちゃんのモンスターの残りパワーは1000。次のターンの効果ダメージ1000で破壊してあげる」
「そうはさせないぜ。オレのターンドロー」
ミリカが怪しげな笑みを見せる。……確かに状況は不利だ。盤面で負けている上、ミリカの場には強力なオブジェクトがある。5コスト残してターン終了するだけで5つもの効果を使えるのだ。
だが、状況はまだ絶望的じゃない。相手の場は防御面こそ強力なものの、まだまともに攻撃出来るカードが無い。それにオレのライフだってフルで残っている。ミリカの最大エネを制限する事が出来れば、勝つことが出来るはずだ。
「1枚エネに送り、2コストの『禁じられた回復術』を発動」
使用可能エネ
2→0
禁じられた回復術
コスト2 闇
後攻ならカードを1枚引く。そして、場のモンスターを1体選び回復(減少分のパワーをプラス)してから相手の場に複製する。このターン、選択されたモンスターは攻撃できない
「後攻なのでカードを1枚ドロー!」
手札0→1
「さらに、ダメージを受けた派遣隊長のパワーを回復する」
死神派遣隊長
パワー1000→3000
「これで派遣隊長は効果ダメージ1000では倒れなくなったぜ。……さらに、相手の場に派遣隊長を複製」
死神派遣隊長
コスト1 パワー3000 闇 死神
自身のターン終了後、自分のデッキから死神カードを一枚選び相手の場に召喚する。出来なかった場合、自分の手札、もしくはエネルギーゾーンのカードを1枚墓地へ送る
スペルの効果でミリカの場に派遣隊長を複製する。パワー3000なのが痛いが上手くいけば妨害に繋がる。
「派遣隊長の終了時効果で相手の場に『死神軍部隊長』を特殊召喚」
死神軍部隊長
コスト3 パワー1000 闇 死神 2回攻撃
1ターンに1度ダメージを無効化する
攻撃時と被ダメージ時、山札の上から2枚確認する。その中の死神カードの数×1000パワー上昇する。
「これでオレのターンは終了だ」
オレ
手札1
エネ2+使い捨てエネ1
死神派遣隊長
コスト1 パワー3000 闇
ミリカ
手札1
最大エネ3
マジックゴーレム
パワー5000 ガード 地
被ダメージー1000
攻撃できない
死神突撃部隊隊長
コスト2 パワー2000 与ダメージ-4000 闇
死神派遣隊長
コスト1 パワー3000 闇 死神
死神軍部隊長
コスト3 パワー1000 闇 死神 2回攻撃 ダメージ無効化1
魔界の花畑
コスト3 オブジェクト 闇
盤面で大きく負けている。特にパワー5000の壁が厄介だ。あれをどうにかしない限りこちらの攻撃を通すことが出来ない。しかし、こちらから対処できる手段は限られている。しばらく放置せざるを得ないな。……でも大丈夫。このデッキならこの状況を打破できる。
「お兄ちゃん、そのデッキならこの状況を打開出来ると思ってる?」
ミリカはオレの考えを読み取ったのか、そう語りかけてきた。
「さあな。どう思ってもらっても構わないぜ」
「ポーカーフェイスが下手だな、お兄ちゃんは。表情で丸わかりだよ。……じゃあさ、見せてよお兄ちゃん。お兄ちゃんの本気って奴を」
ミリカはオレの考えを見透かしたような事を言ってくる。……流石だな。
「ねえねえ、お兄ちゃん」
「何だ?」
「熱くならない?」
突然ミリカが笑みを浮かべる。……何を言っているんだろうか、ミリカは。オレは勝ってミリカのために金を稼がなきゃいけないんだ。熱くなる余裕なんてない。
「特に何も感じないな」
「嘘。やっぱりお兄ちゃんは隠すの下手だね」
ミリカは笑みを浮かべる。……一体何を考えているんだ?
「いくよ、私のターン。引いた2枚のカードを全てエネゾーンへ」
エネ3→5
「0コストでスペル『採掘チャンス』発動」
採掘チャンス
スペル コスト0 地
①手札を1枚捨て、山札から1枚ドローする
②このターン、自分の場に①の効果で手札に加わったモンスターがいるときに発動する。そのモンスターに2000のダメージをX回与え、与えた回数分山札からカードを1枚引く(X=そのモンスターの元々のコスト)(最大3回まで)
③3枚のカードを②の効果で引いたときに発動できる。このターンのみ使用可能なエネを1精製する
「採掘チャンスは手札の1枚のカードを墓地に送って発動するカード。でも、今は手札がないからタダで使用するよ」
ミリカは山札からカードを1枚引き、ニヤリと笑った。
「手札から『地道に命を削る死神』を特殊召喚。手札枚数の条件を満たしているから0コストで召喚するよ」
地道に命を削る死神
コスト4 パワー1000 被ダメージー2000 地 死神
①手札がこのカード1枚の時、コストを支払わずに特殊召喚する事が出来る
②1ターンに一度相手プレイヤーに2500のダメージを与える
③このモンスターの攻撃時、相手は手札を1枚選んで墓地へ送る
④特殊召喚に成功した次のター
ン、1度だけモンスターからのダメージを無効化する
⑤最大エネルギーが3以下の場合、②と③の効果は発動できない
「モンスターを召喚したことで、『採掘チャンス』の効果発動。出したモンスターにコスト×2000のダメージ。『地道に命を削る死神』のコスト4は最大回数の3以上だから、2000ダメージを3回与えるよ」
地道に命を削る死神
パワー1000→1000
パワー1000→1000
パワー1000→1000
「『地道に命を削る死神』は被ダメージー2000を持つからノーダメージ。3回ダメージが発生したから3枚ドローして、このターンのみ使用可能エネを1増やすよ」
ミリカ
手札0→3
使用可能エネ
5→6
「さらに、『地道に命を削る死神』の効果を発動。1ターンに1度相手ライフに2500のダメージ」
オレ
ライフ20000→17500
「死神軍部隊長で2回直接攻撃」
オレ
ライフ17500→16500→15500
「死神突撃部隊隊長と死神派遣隊長でお兄ちゃんの死神派遣隊長を攻撃。全部破壊だよ」
死神突撃部隊隊長
パワー2000→0
死神派遣隊長×2
パワー3000→0
「『魔界の花畑』の効果を発動するよ。5エネ以上残しているから、全部の効果を発動。まずは1000ダメージを受けてもらうよ」
オレ
ライフ15500→14500
「そして、お互いのプレイヤーはカードを1枚引きその後手札から1枚選んで墓地へ送るよ」
ミリカは山札から1枚引き、1枚カードを墓地へ送った。……この効果はお互いのプレイヤーが対象だからオレもカードを引こう。
……引いたカードは、『あわてんぼうのドジっ娘死神』か。そのまま墓地へ送ろう。
「エネが2以上残っているからモンスター1体のパワーを2000アップ。対象に『死神軍部隊長』を選択するよ」
死神軍部隊長
パワー1000→3000
「エネが3以上残っているから2000ダメージを与えるよ。ライフで受けてもらうね」
オレ
ライフ14500→12500
「エネが4以上残っているからカードを1枚引くよ。さらにエネが5以上残っているから手札1枚のコストをー2するね」
ミリカ
手札3→4
「これで私のターンはおしまい。さあ、次はお兄ちゃんの番だよ」
ミリカは余裕の態度を崩さない。
ミリカ
手札4
エネ5
マジックゴーレム
パワー5000 ガード 地
被ダメージー1000
攻撃できない
死神軍部隊長
コスト3 パワー3000 闇 死神 2回攻撃 ダメージ無効化1
地道に命を削る死神
コスト4 パワー1000 被ダメージー2000 地 死神 戦闘ダメージ無効化1(次ターンのみ)
魔界の花畑
コスト3 オブジェクト 闇
「ミリカちゃん、凄く強い……」
「ええ。処理が必要な厄介なモンスターを出した上で、5エネを余らせて『魔界の花畑』の効果を全て発動させるのは見事な動きですわ」
「しかも、手札の補充と盤面の強化を高いレベルで行うことが出来ている。これは、手強いね」
姉崎さんと有栖川さんが感想を言い合う。
確かに状況はミリカが圧倒的に有利。オレの場にはモンスターは無く、ライフは半分とちょっとしか残っていない。だが、まだ勝負は分からない。
「オレのターンドロー。1枚エネにチャージ」
手札1→2
エネ2→3
「オレは1コストを支払い『死神派遣隊長』を召喚」
死神派遣隊長
コスト1 パワー3000 闇 死神