ホビアニ風世界の死神ギフトデッキ使い   作:Atlantis

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隠遁の年長者

 

 

 

「お姉ちゃん、この人とカードバトルして?」

「どうも、雨宮です」

「いやっ、男! こわい! リナちゃんのお願いでも無理!」

 

 

 ……オレは、初対面の女性から強く拒絶された。

 

 ……彼女は姉崎さんのお姉さん。名前は、姉崎美奈さんというらしい。姉崎さんがオレと戦って欲しいという人物である。

 

 彼女と戦うためにはるばる姉崎さんの家までやって来たのはいいが、当の本人から拒絶されてしまった。

 

 ……どうすりゃいいんだ、これ?

 

「ごめん、お姉ちゃん。ちょっと考えが足りなった」

 

 姉崎さんは、お姉さんに頭を下げる。

 

 ……どうやら、彼女にはなにか事情があるようだ。 

 

 オレ達は家を離れ、近くのカフェで話し合いをする事になった。

 

「お前のお姉ちゃん、男性恐怖症なのか?」

「……そうだね。最近、お姉ちゃんは男性をすごく怖がるの。……昔はそんなこと無かったんだけど」

 

 姉崎さんは暗い表情で俯く。

 

「そっか。……そういえば、彼女の闇を祓って欲しいんだよな? ……美奈さんにはどういう闇があるんだ?」

 

 オレは気になっていたことを質問する。有栖川さんの話では、闇化した人間を正常化するのがオレの役目らしい。だとしたら、まず彼女の事情を知る必要があるだろう。

 

 ……さっきは拒絶されてしまったけれど、このままじゃ埒が明かないしな。

 

 そう思い彼女からの返答を待っていたのだが、姉崎さんは俯いて黙り込むだけで何も答えようとはしない。

 

 どうしたのだろうか?と疑問に思っていると彼女はゆっくりと口を開いた。

 

「お姉ちゃん、引きこもりなんだ」

「引きこもり?」

 

 予想外の言葉に、思わず聞き返してしまう。

 

「うん。もう半年以上……かな。自分の部屋からほとんど出てこないの」

 

 姉崎さんはゆっくりとした口調でそう説明する。オレはそんな彼女の言葉に耳を傾けていた。

 

「お姉さんはなんで引きこもってるんだ? いや、聞くべきことじゃないかもしれないが……」

「……ごめん、言えない」

「そうか。……ごめん」

 

 彼女の様子から、話したくないことなんだろう。オレは素直に謝罪する。

 

 ……しかし、そうなると困ったな。詳細が分からない以上オレに出来ることはカードバトルをする事だけ。でも、オレは男だという理由で彼女に拒絶されている。

 

「ああ、困ったな」

「ごめんなさい。私がちゃんと説得できていれば……」

 

 姉崎さんは申し訳無さそうに俯く。……彼女のせいではないだろう。けれど、このままではどうしようもないのも事実だ。

 

「説得、かぁ。相手にそれなりのメリットを提示出来れば、説得に応じて貰える可能性があるかもな」

「本当!?」

 

 オレは適当に思いついたことを口に出してみる。だが、姉崎さんにとっては救いの手だったようだ。彼女は目を輝かせる。

 

 ……自分で言っておいてなんだが、本当に成功するのだろうか? 相手は本格的な男性恐怖症だ。かなり成功確率は低いだろう。……でもま、ダメ元でやってみるか。

 

「美奈さんの好きな物とか、興味のあるものって分かるか?」

「えっと、お姉ちゃんは最近アニメにはまっているよ」

 

 アニメ、か。レアグッズを入手出来れば交渉材料になるかもしれない。

 

「どんなアニメを好んでいるんだ?」

「どんなアニメか、ねぇ。お姉ちゃんは色々なジャンルを嗜んでいるかなぁ」

「なるほど。……じゃあ、一番好きなジャンルは?」

「ジャンルにこだわりはないかな。こだわってるのはキャラクターだよ」

「キャラクター?」

 

 姉崎さんは頷く。そして、そのまま説明を続ける。

 

「気が強くて、ツンツンとした態度のヒロインが、主人公に対してデレる姿にキュンとするんだって」

「へぇ……」

 

 ……恐らく、美奈さんはツンデレヒロインを好んでいるんだろう。

 

 確かにそういうキャラは可愛いかもしれないな。

 

「じゃあ、美奈さんはどのキャラが一番好きなんだ?」

「『闇払いの英雄少女』っていう作品に出てくる、『アリス』ってキャラだよ」

 

 姉崎さんはニッコリと微笑む。……しかし、アリスか。どこかのお嬢様を連想させる名前だな。ちょっと気になってきた。

 

「アリスってどんな子なんだ?」

「赤髪で、ちょっと気が強くてツンツンとした態度のお嬢様。でも根は優しくて良い子だよ」

 

 なるほど、やっぱりそういうキャラクターか。

 

「つり目で、負けん気が強くて、でも優しくて……何だか雨宮くんみたい」

「お、オレみたい?」

 

 姉崎さんから予想外の言葉が飛び出し、驚く。……まさか、ツンデレ少女がオレに似ているとは。

 

「アリスちゃんのお願いならお姉ちゃんもカードバトル為てくれるかも……あっ!?」

 

 姉崎さんは何かに気づいように目を見開く。そして、すぐに顔を赤くしながら口を噤んだ。

 

「……どうした?」

「雨宮君がアリスちゃんになれば、お姉ちゃんとカードバトル出来るかなって……ごめんね雨宮君!変だよね、こんな考え!」

 

 姉崎さんは慌てて両手を振る。どうやら彼女は、オレをアリスに見立てようとしたらしい。確かに、美奈さんがオレをアリスだと思ってくれれば一緒にカードバトル出来そうだ。……まぁ、無理だろうけどな。

 

「オレはアリスになんかなれないぜ。それなら姉崎さんが闇払人に目覚める方が現実的だ」

 

 オレは呆れながら断言する。……すると、彼女は目を鋭くさせた。

 

「……そんなことないよ。雨宮くん、顔整ってるし、ツンとした目つきがアリスちゃんそっくりだよ」

「いや、そんなわけないだろ」

 

 オレは思わず苦笑する。……しかし彼女は真剣な様子でこちらをを見つめてくるのだった。

 

「ねぇ、雨宮君。アリスちゃんになってお姉ちゃんのカードバトルに付き合ってみない? もしかしたら、何かが変わるかもしれないよ?」

 

 姉崎さんは真剣な表情でそう提案してくる。その目は真剣そのもので、冗談を言っているようには見えない。……どうやら、本気のようだ。

 

「……悪いが、オレはアリスにはなれない」

「どうして?」

「……オレは男だ。可愛い女の子を演じられる自信はない。それに、他人の事情にそこまで体を張るつもりも無い」

 

 オレはキッパリと断る。……確かに、姉崎さんに協力したい気持ちはある。だが、その為に恥ずかしい格好になれるかと言えば、首を傾けざるを得ない。

 

「そっか……」

 

 姉崎さんはシュンとした様子で肩を落とす。そんな彼女の姿を見て、少し罪悪感が芽生えるのを感じた。

 

「……美奈さんがカードバトルをしてくれるようにほかの方法を試そうぜ」

「そうだね。……ごめんね、雨宮君」

 

 姉崎さんは申し訳なさそうに謝罪する。

 

 

 

 

 

 

 それから、オレたちは何度も挑戦した。美奈さんが喜ぶプレゼントを用意してみたり、男性恐怖症を克服するためにカウンセリングを受けるよう提案してみたり、色々してみたが、どれも良い結果は得られなかった。

 

「……あれから、もう一週間か」

「ごめんね。雨宮君、こんな長い間付き合って貰って」

 

 申し訳なさそうに謝る姉崎さんを見て、オレは慌てて手を振る。

 

「姉崎さんは何も悪くないよ。兄弟を救いたいって気持ちは当然だろう?オレは協力したい」

「雨宮君……」

「それに、こうして姉崎さんと一緒に行動するのも悪くないしな」

 

 オレがそう言うと、彼女は顔を赤くしながら俯く。そして、小さな声で呟いた。

 

「……ありがと」

 

 どうやら、少しは元気が出たらしい。……だけど、彼女の表情には暗い色が残っている。

 

「美奈さんとはどんな関係だったんだ?」

 

 ふと気になったことを聞いてみる。彼女たちがどんな関係だったのかを知りたくなったのだ。

 

「……お姉ちゃんは私よりずっと前に生まれたの。だから、お姉ちゃんはお姉ちゃんで、お姉さんだった。私ね、昔から気が弱くて泣き虫で……いつもお姉ちゃんに助けて貰ってたの」

 

 姉崎さんは懐かしそうに目を細めながら、過去を語り始める。

 

「お姉ちゃんは、すごく大きな夢を持っていた。そして、それを達成したんだ。夢を実現したお姉ちゃんの存在は、私にすごい勇気をくれた。お姉ちゃんがいたからこそ、気が弱くて泣き虫な私を卒業する事が出来た」

 

 姉崎さんは涙を流しながら、語り続ける。美奈さんがどれだけ姉崎さんにとって大事な存在だったのかが伝わってくる。

 

「かけがえのないお姉ちゃんだったんだな」

「うん。でもね、お姉ちゃんは変わってしまったの。……あの時を境に」

 

 姉崎さんは悲しげに目を伏せた。その瞳からは涙がポロポロとこぼれている。

 

「……それでも私は諦められない。もう一度、お姉ちゃんが笑ってくれる姿が見たいんだ」

 

 彼女は涙を拭いながらそう呟いた。その目は決意に満ち溢れており、強い意志を感じさせるものだった。

 

 だが、その肩は震えていて、悲壮感が漂っているように見える。オレはそんな彼女を見て決意した。

 

「……気が変わった。姉崎さん、オレがアリスになれるって冗談じゃないよな?」

「雨宮君!?」

 

 オレの発言に姉崎さんは驚きの声を上げる。

 

「……うん、冗談じゃないよ。雨宮君はほとんどアリスちゃんなんだから。……でも、どうして急に?」

「お姉さんが、大切なんだろ?」

「うん。大切だよ」

「じゃあ、やるしかないな。恥でも何でもかいてやるよ」

 

 オレは笑みを浮かべて宣言する。姉崎さんは戸惑いながらも嬉しさを隠せない様子だった。

 

「……雨宮君、ありがとう!」

 

 姉崎さんはオレをぎゅっと抱きしめる。彼女の柔らかな感触にドキッとしたが、平静を装ってオレは答える。

「い、いいんだよ」

「本当に、本当にありがとうね!」

 

 彼女は満面の笑みを浮かべる。その笑顔を見ていると不思議と力が湧いてくるのだった。

 

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