「……というわけで、はい、カツラ!」
「なんであるんだよ……」
姉崎さん家。なぜか家にあったカツラを手渡される。
赤いストレートヘアのカツラ。なぜ家にある?
「これを被れば、アリスちゃんの髪を再現できるよ」
「そ、そうか……」
……これを被るのか?
「そして、これがアリスちゃんの衣装。ちょっとデザインが違うけどまあ良いかな?」
「なんでドレスまであるんだよ……」
タンスから取り出された物を見て、ため息。
……これも着るのか?
姉川さんの指示通り装備を整えた。……鏡で確認したところ、見事な不審者が完成していた。
これで外歩いたら通報されるんじゃないか、そんな不安に駆られる。
「完成したぜ。……でも、こんな姿見せちゃ美奈さんの男性恐怖症が悪化しちまうんじゃないか?」
「何で? 可愛いじゃん」
「どこがだよ……」
今のオレの姿は可愛いはずがないのだが、姉崎さんさんはご満悦だ。……女ってのはよく分からないぜ。
「さあ、仕上げをするよ!」
「仕上げって?」
オレは今、カツラも被ってるし、ドレスだって着ている。これ以上何をするのだろう。
「仕上げって言ったら決まってるじゃん。……メイクだよ!」
「……本当に、やるのか?」
「うん、勿論」
「……やっぱり、辞めて良いか?」
「……駄目」
……そうだ、オレはやるって決めたんだ。美奈さんを、救わないと。姉を想う姉崎さんを見て、オレは決意したんだ。
姉崎さんを真っ直ぐ見つめ、思いをぶつける。
「情けねえ事言っちまってすまねぇな。予定通り頼む」
「うん、任せて!」
笑顔の姉崎さん。……その笑顔は、とても眩しかった。
……それからは、非常に苦しい時間だった。だが、その成果はしっかりと出た。
「闇に溢れた道。照らすは深紅の少女なり。その瞳は、全てを見通して。その耳は、全てを聞いて。そのドレスは、全てを包み込む」
「……姉崎さん?」
様子がおかしくなった姉崎さん。
……どうしたんだ、急に?
「最っ高よ、雨宮君! 思った通り、いやそれ以上の出来だよ!」
興奮した様子の姉崎さん。
鏡を見ると、そこには確かにアリスが写っている。……いや、これは本当にオレなのか? そう思ってしまうほど、完璧な出来栄えだ。
姉崎さんの様子がおかしくなるのも分からなくもない。
……それにしても、あんな不審者スタイルからここまで変えられるなんて。最近の技術は凄いな。
「早速お姉ちゃんのところへ行こう!」
「お、おう」
ハイテンションな姉崎さんに連れられ、美奈さんの部屋へ向かう。
姉崎さんがドアを開けたとたん、鼻を刺激するのは強いアルコールの香り。
部屋の中には無数のビンや缶(開封済み)が転がっている。
酒だけではなく、汁の少し残ったカップ麺や惣菜の空パックまで転がっている。
壁には美少女ポスターが所狭しと貼られており、沢山の美少女フィギュアが飾られている。…相変わらず、凄い部屋だ。
「お姉ちゃん、来たよ」
「……」
姉崎さんが元気よく声をかけるが、反応はない。
「お姉ちゃん?」
姉崎さんが美奈さんの肩に手を置き、軽く揺する。
「また、いつもの男を連れてきたの?」
虚ろな目、そして生気のない声。……美奈さんの様子はいつにも増して酷い。
「いつもの男じゃなくて、雨宮君!」
「……」
姉崎さんの言葉に、美奈さんは反応しない。
「ねえ、お姉ちゃん」
「……何よ」
姉崎さんの声に、かすかに反応する美奈さん。……だが、その目は虚ろだ。まるで生気が感じられない。
「確かに雨宮君を連れてきたよ。……でも、今日の雨宮君は雨宮君であって雨宮君じゃない雨宮君なの」
「……何言ってるの、あんた」
「なんと……今日の雨宮君は、アリスちゃんなの! よく見て? どう? びっくりしたでしょ?」
「……」
姉崎さんの言葉につられ、こちらをジッと見つめる美奈さん。そして、その虚ろな目に光が宿る。
……まるで憑き物がとれかのように、生気が感じられる目だ。
「アリスちゃん、アリスちゃん、アリスちゃん! ……ここは、夢じゃない?」
「うん、現実だよ!」
「本当に本当?」
「うん! お姉ちゃんの闇を祓いに来てくれたんだよ」
「ファンサまでしてくれるの!?」
美奈さん、まさかオレを本物のアリスだと思いこんでいるんじゃないだろうな……
そんなことを考えていると、姉崎さんが小声で話しかけてきた。
(……雨宮君、雨宮君)
(どうした?)
(ちょっとお願いなんだけどさ。アリスちゃんの声で、アリスちゃんの口調でしゃべってくれないかな?)
(…………は?)
(アリスちゃんから男の声がしたら、お姉ちゃん夢から覚めちゃう。カードバトルもしてくれなくなっちゃうかも)
(それは困るな。……上手くいくとは思えないが、ダメ元でやってみるか)
(ありがとう!)
オレの答えに対して、眩しい笑顔を向けてくる姉崎さん。
正直、自信はない。きっとうまくいかないだろう。……だが、やるしかないんだ。今までの苦労を無駄にしないためにも。
これから演じるアリスの事を考える。普段はつんつんした彼女だが、その心の中は誰よりも優しく、綺麗な心を持っている少女。思いやりに溢れ、いつも誰かを想っている。そんな少女だ。
そんな彼女に美奈さんは心を奪われた。アリスに一目惚れしたのだ。……なら、彼女が実際に目の前にいて応援してくれる。そう思わすことができれば、きっと美奈さんは頑張れるようになるはずだ!
二人が見守る中、机から椅子を取り出し美奈さんの前に置く。そして優雅に、そこに腰を掛けた。
「ふふふっ、相変わらず汚い部屋ね。まるであなたの心の中のよう」
裏声を駆使してアリス風に話す。
……その瞬間、この場にいる全員が驚愕した。
目を大きく開き、オレを凝視す姉崎さんと美奈さん。
「あ、雨宮君!? 凄い、凄いよ! その声、その息遣い、その草。……完全にアリスちゃんだよ! 」
「……」
姉崎さんは声を出して大はしゃぎだが、美奈さんは口を動かさない。
……驚愕したのは彼女達だけではなくオレ自身もだった。
なんで、オレからあんな声が出るんだ? 女声どころか、もはやアニメ声だ。それも、人気声優になれるレベルの。
才能を与える相手を完全に間違えているぞ、神様め……
……そんなことを考えているときだった。
「アリスちゃんが、私を認知している……。……夢じゃないよね?」
キラキラと目を輝かせた美奈さんが、そんなことを呟いたのだ。
「夢じゃないよ!」
「……本当に?」
「うん!」
姉崎さんは自信たっぷりに答える。……確かに夢ではないな、夢では。
……とにかく、アリスを演じ続けないと。姉崎さんとカードバトルするためにも。
「……当然あなたを認知しているわよ」
「っ! アリスちゃん、やっぱり私を認知してくれているんだね!?」
机から身を乗り出す美奈さん。その目はもはやキラキラなんてレベルじゃない。……ギラギラだ。
「あなたの妹さんとカードバトルをして思ったの。強い妹さんの姉ならば、更に良いバトルが出来るんじゃないかって。……だから、あなたと会うことにしたのよ」
オレの言葉を聞いた美奈さんは、少し間を置いてから口を開いた。
「アリスちゃんが私を評価してくれている! これは夢じゃないよね?」
「ええ、現実よ。……さあ、カードバトルをしましょう? あなたの実力を見せて頂戴」
「……分かった!」
そう言って美奈さんは、机から自分のデッキを取り出す。
……よし、ようやくバトルする気になってくれた。体を張ったかいがあった。
先行の姉崎さんは、2枚カードを引く。
「ど、ドローします。 1枚をエネルギーに置きます。もう一枚で『マナチャージ』を発動します。ターン終了です!」
カードを1枚プレイしてターンを終える美奈さん。
マナチャージ
コスト1 光
山札から1枚エネルギーに送る。この試合中スペル使用回数5回以上の時追加でもう一枚をエネルギーに送る。このカードの効果で増やしたエネルギーはこのターン使用不可能
……以前戦った姉崎さんと、同じ動き。きっとスペルを主軸とした戦いを得意としているのだろう。
なら、前と同じように死神姫で決めに行くか……
「アリスちゃん!」
戦略を考えていると、美奈さんの方から声がかかる。
「アリスちゃんらしい、容赦ない戦いを期待してます!」
期待の眼差しでオレを見つめてくる。……彼女は、戦い方にもアリスを求めてくるのか。
今回の話はよかったですか?
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はい
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いいえ