ようこそスタイリッシュ至上主義の教室へ   作:GC

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第13話「スタイリッシュ・ナイトサファリ」

南国の夜は、本来であれば恐怖と不快感の象徴である。

 得体の知れない虫の羽音、獣の気配、まとわりつくような湿気。無人島という過酷な環境は、文明の利器を奪われた高校生たちの精神を容赦なく削り取るはずだった。

 

だが、現在オレの目の前に広がっている光景は、狂気としか形容できないほどの『安らぎ』に満ちていた。

 坂本が日中のうちに編み上げたシダの葉と竹の特製ハンモックは、絶妙なテンションと黄金比に基づくたわみで張られており、微風に揺れるたびにまるでゆりかごのような心地よいリズムを刻んでいる。さらに、彼が拠点周辺の特定の樹木に塗布した『秘技:虫除けの香(シトロネラ・アロマ・結界)』――無人島に自生するハーブ類を石で擦り潰し、絶妙な配合で調合した樹液――の恩恵により、蚊の一匹すらこのヴィラには侵入できていない。

 

「ふわぁ……。なんかもう、一生ここにいてもいい気がしてきたぜ……」

 

ハンモックに揺られながら、須藤がだらしなく口を開けている。

 その隣では、池と山内がすでに規則正しい寝息を立てていた。彼らの顔にサバイバルの疲労は微塵もなく、ただ高級リゾートで遊び疲れた子供のような無邪気さだけが浮かんでいる。

 

「……本当に、信じられないわね」

 

オレの隣のハンモックから、堀北が小さく呟いた。

 彼女は、竹筒に注がれたデトックスウォーター(坂本特製、月明かりで冷やされたミントと柑橘のブレンド)を両手で持ちながら、星空を見上げている。

 

「何がだ」

 

「すべてよ。無人島での特別試験。ポイントの枯渇。他クラスからのスパイ工作。そのすべてが、たった一人の人間の『おもてなし』によって、無意味なバカンスへと変貌してしまった。……私は、自分の常識が音を立てて崩れていくのを感じているわ」

 

「奇遇だな。オレも胃の粘膜が音を立てて削れていくのを感じている」

 

「あなたはずっと胃薬を飲んでいるわね」

 

 

堀北の視線の先には、Cクラスからスパイとして送り込まれたはずの伊吹澪の姿があった。

 彼女は櫛田や佐倉たちと一緒に、坂本が竹の繊維から抽出した謎の成分で作った『特製・オーガニック保湿クリーム』を顔に塗り合いながら、恋バナめいた女子特有の会話に花を咲かせている。

 

「ねえねえ伊吹ちゃん、Cクラスの男子ってどんな感じなの?」

「え、あー……バカばっかりよ。龍園とか、いつも偉そうにしてるし……。でも、今日食べたお魚、すっごく美味しかった……」

「でしょでしょ! 坂本くんのお料理、最高なんだから!」

 

完全に毒が抜かれている。

 龍園が彼女にどのような指示を与えたのかは定かではないが、少なくともDクラスを内側から崩壊させるという目的は、露天風呂と極上のディナー、そして美肌ケアという物理的・精神的な接待の前に完全に沈黙した。スパイは今や、このリゾートの優良顧客へと成り下がっている。

 

「……綾小路くん。これ、私たちのクラスは『勝って』いるのかしら」

 

堀北が、核心を突くような問いを投げかけてきた。

 

「どうだろうな」

 

オレはハンモックの上で寝返りを打ちながら答えた。

「ポイントの消費はゼロだ。サバイバルにおける体力の消耗もゼロ。他クラスへの情報漏洩の危険性は、相手が勝手に顧客化することで無効化されている。……ルール上は、圧倒的に有利な立場にいると言える」

 

「だけど、私たちがやっているのは『サバイバル試験』よ。ポイントをどう節約し、どう切り抜けるかを試されているはずなのに。これではただの……」

 

「ただの、スタイリッシュな日常だな」

 

オレの言葉に、堀北は深くため息をつき、デトックスウォーターを飲み干した。

 

「……そうね。もう、深く考えるのはやめるわ。明日の最終日、他クラスのリーダー当てさえ乗り切れば、私たちの勝利は揺るがないのだから」

 

彼女が論理的思考を放棄し、安らかな眠りにつこうとしたその時。

 

ザッ、ザッ……。

 

静寂に包まれたジャングルの奥から、不規則な足音が近づいてくるのが聞こえた。

 オレは即座に意識を覚醒させ、気配を探った。

 足音は一つではない。複数。しかも、夜のジャングルを歩き慣れていない、苛立ちと焦りに満ちた乱暴な足取りだ。

 

「……誰か来るわね」

 

堀北も気づいたようだ。彼女は身を固くし、ハンモックから降りる準備をした。

 月明かりに照らされたヴィラの入り口。

 そこに姿を現したのは、Cクラスのリーダー・龍園翔と、その取り巻きである石崎、アルベルトたちの姿だった。

 

彼らの身なりは、悲惨の一言に尽きた。制服は泥と木の枝で汚れ、顔には過酷なサバイバルによる疲労と、思い通りにいかない盤面への苛立ちが色濃く浮かんでいる。

 

「おい……Dクラスの連中。起きてるか」

 

龍園は、蛇のように冷たい声でヴィラに向かって呼びかけた。

 その声に、寝ていた須藤たちが跳ね起きる。

 

「りゅ、龍園……!? てめえ、こんな夜中に何の用だ!」

 

龍園はニヤリと笑いながらも、その額には濃い汗が浮かんでいた。彼の視線は、目の前にそびえ立つ完璧な通気性を誇る南国風ヴィラ、清涼な水が流れるバンブー・ウォーター・ガーデン、そして星空を優雅に眺めるためのハンモックへと向けられている。

 

 今朝、この拠点を破壊しに来た際、圧倒的なまでのホスピタリティで迎え撃たれ、手作りの極上スープを振る舞われて撤退を余儀なくされた、あの忌まわしい記憶。彼が夜襲をかけたのは、伊吹からの連絡が途絶えた焦りだけでなく、朝の敗北を力で上書きし、己の暴君としての尊厳を取り戻すためだ。

 しかし、夜の帳の中で発光キノコの柔らかな光に照らされたこのヴィラは、朝以上に狂気的な完成度を誇っており、さらに――。

 

「伊吹……テメェ、何してやがる……!!」

 

龍園の怒声がジャングルに響き渡った。

 彼が送り込んだはずの最強のスパイ・伊吹澪が、櫛田たちと仲良くオーガニック保湿クリームを塗り合って「きゃっ、龍園来たの? 今良いところなんだけど」といった迷惑そうな顔を向けていたからだ。

 

「裏切りやがったのか、伊吹! 俺の計画をDクラスに売り渡し、あまつさえこんなところで優雅に寝こけてやがったのか!!」

 

龍園は激昂し、伊吹に向かって歩み寄ろうとした。その後ろで、巨漢のアルベルトが威圧的に拳を鳴らす。

 

 だが。

 暴力の気配がヴィラを包み込もうとした、その瞬間。

 

「――お静かに。他のお客様の迷惑になります」

 

スッ、と。

 まるで夜風が実体を持ったかのように、龍園の目の前に一人の男が立ちはだかった。

 

 坂本だ。

 

 彼はバナナの葉を完璧な比率で折り畳んだ『特製・ナイトキャップ』を頭に被り、右手には竹で作られたランタンを持っていた。

 

「さ、坂本……テメェ……!!」

 

その瞬間、龍園の顔色から血の気が引いたのをオレは確かに見た。

 単なる驚きではない。それは、魂の根底に刻まれた恐怖と屈辱、そして認めたくない快感が複雑に絡み合った、極めて歪な表情だった。

 

無理もない。龍園翔にとって、坂本という男はただの同級生ではない。

 学校での日常、Dクラスを威圧しようとしたあの時。龍園は坂本によって、無料の白米を極限まで研ぎ澄まされた割り箸で提供されるという『秘技:純白のフルコース』の餌食となった。暴力で支配するはずの自分が、あろうことか敵の目前で「あーん」をされ、しかもその白米が悔しいほどに美味かったという認知不協和。

 さらに今朝、無人島で彼に突きつけられたデトックスウォーターと朝食のスープ。

 怒り、屈辱、そして謎の美味さへの困惑。それらの記憶が、無人島という過酷な環境で極限まで張り詰めていた彼の脳髄に、フラッシュバックとして鮮烈に蘇ったのである。

 

「夜分遅くのご到着、誠にお疲れ様です。Cクラスの皆様。しかし、当リゾートは現在『ナイト・クワイエット・タイム』に入っております。大きな声での会話や、暴力的な振る舞いは固くお断りさせていただいております」

 

「ふざけんな! ふざけるなァァッ!!」

 

龍園は、過去のトラウマを振り払うかのように絶叫した。彼の声には、いつもの底冷えするような余裕は一切なく、ただ必死に己のアイデンティティを保とうとする焦燥が滲み出ていた。

 

「俺は……俺は二度とテメェのペースには乗らねえ!! あの時の……あの白米の屈辱も、今朝のスープの借り返しも終わってねえんだよ! ここで俺がテメェを完全に叩き潰してやる!! おい、アルベルト! 石崎! やれ!! このイカれた家も、このメガネも全部ぶっ壊せ!!」

 

「坂本さん、すみません!!」

「YES, BOSS!」

 

石崎とアルベルトが、坂本に向かって突進した。

 巨漢のアルベルトの丸太のような腕が、坂本の華奢な身体を捉えようと迫る。

 オレは、暴力沙汰によるペナルティを想定し、密かに動く準備をした。

 

しかし、坂本は微動だにしない。

 彼はただ、左手でメガネのブリッジを優雅に押し上げ、右手の竹のランタンを軽く振った。

 

――秘技:蛍火のワルツ(ファイヤーフライ・イリュージョン)。

 

フワッ、と。

 ランタンの中から、無数の光の粒が舞い散った。

 いや、それは光の粒ではない。坂本が日中のうちに集め、ランタンの中に一時的に保護していた無人島の蛍たちだ。

 坂本の絶妙な手首のスナップと、ランタンに空けられた計算し尽くされた空気穴から放たれた蛍たちは、まるで意思を持った光の帯のように、アルベルトと石崎の周囲を螺旋状に飛び交った。

 

「うおっ!? な、なんだこれ!?」

「OH... BEAUTIFUL...」

 

突如として目の前に広がった幻想的な光景。

 暴力に特化した彼らの脳は、この圧倒的な美の暴力の前にフリーズした。アルベルトの振り上げた拳は行き場を失い、彼はただうっとりと光の帯を見つめている。石崎に至っては、蛍を捕まえようと子供のように手を伸ばし始めていた。

 

「て、テメェら! 何やってんだ! 惑わされるな、攻撃しろ!!」

 

龍園が焦燥の声を上げるが、配下たちの戦意はすでに『ナイトサファリツアー』の観客のそれへと変貌していた。

 

「暴力は、美しい夜の静寂には似合いません」

 

坂本は静かに龍園に歩み寄る。

 

「龍園様。あなたも、この島の過酷な環境で肩に力が入っていらっしゃる。リーダーとしての重圧、クラスを率いる責任。……その過労が、あなたの心をささくれ立たせ、過去の些細な食事の記憶にまで囚われる原因となっているのですね」

 

「なっ……! テメェ、俺を哀れんでるのか……!」

 

「哀れみではありません。当リゾートの総支配人としての、純粋な『おもてなし』の心です」

 

坂本は、流れるような動作で背後に隠し持っていた竹のトレーを差し出した。

 そこに乗っていたのは、湯気を立てる琥珀色の液体が入った竹のカップ。

 

「夜の安らぎを提供する、特製・カモミール&アイランドハーブティーです。神経を鎮め、深い眠りへと誘う効果があります。どうぞ、お召し上がりください」

 

「……誰が、そんな怪しいモン飲むかよ!! 俺は……俺は二度とテメェから施しは受けねえ!!」

 

龍園は、学校での『純白のフルコース』のトラウマ――抗いがたい美味さと、それ以上の屈辱――を思い出し、恐怖にも似た拒絶反応を示した。彼は怒りに任せて、その竹のカップを払い除けようと右手を力任せに振り抜いた。

 熱いお茶が坂本にかかる、そう誰もが思った瞬間。

 

――秘技:無重力空間(ゼロ・グラビティ・ホールド)――ティー・パーティ・エディション。

 

クルッ。

 坂本の手首が、物理法則を無視した奇妙な軌道を描いた。

 遠心力と向心力を完全にコントロールしたその動きにより、竹のカップは空中で一回転しながらも、中の液体を一滴たりともこぼすことなく、龍園の腕の軌道を滑るように回避し、再び坂本の手のひらにふわりと着地したのだ。

 

「おっと。貴重な大地の恵みです。粗末にするのはお控えください」

 

坂本は全く表情を変えることなく、そのまま竹のカップを龍園の唇へと押し当てた。

 

「なっ……ぐむっ……!」

 

強制的な『あーん』の夜バージョンである。

 学校での悪夢が、場所を無人島に変えて再び実行されたのだ。

 龍園の喉仏が動き、琥珀色の液体が彼の体内に流し込まれていく。

 その瞬間。

 

「……っ……!!」

 

龍園の瞳孔が、限界まで見開かれた。

 カモミールの優しい香り。無人島特有のハーブの爽やかな後味。そして、絶妙な温度が、彼の極度に張り詰めていた神経を、暴力的なまでの優しさで解きほぐしていく。

 それは、ただの茶ではない。坂本が完璧な温度管理と抽出時間で淹れた、魂を浄化するエリクサーだった。

 

(……まただ。また俺は、こいつの味に敗北するのか……!!)

 

龍園の脳内で、学校で食べたあの白米の甘味と、今朝のスープの旨味、そして今口の中に広がるハーブティーの香りが完璧なマリアージュを引き起こした。

 彼の中にあった暴力への衝動、Dクラスを支配してやろうという野心、伊吹への怒り。そのすべてが、どうでもいいことへと変換されていく。

 

「……あ……あぁ……」

 

龍園の膝から、スッと力が抜けた。

 彼はその場にへたり込み、呆然と星空を見上げた。

 学校での認知不協和に、無人島での究極のリラクゼーションが完全に上書きされた結果、彼の精神はもはや抗うという選択肢を完全に喪失したのだ。

 

「ご理解いただけましたか。夜は、休むための時間です」

 

坂本は優しく微笑み、腑抜けとなった暴君の肩に手を置いた。

 

「当リゾートでは、飛び込みのお客様も歓迎しております。今なら、特設の『満天の星空・VIPハンモック』が空いております。石崎様、アルベルト様もご一緒にいかがですか?」

 

「は、はい……ありがとうございます、坂本さん。じゃあ、俺も一杯もらおうかな……」

「YES, MASTER SAKAMOTO.」

 

もはや抵抗する気力すら失い、リーダーの完全敗北を目の当たりにしたCクラスの面々は、坂本に誘導されるがまま、ヴィラの外れに設置されたゲスト用のハンモックへと吸い込まれていった。

 スパイとして潜入していた伊吹は、その光景を遠くから見つめながら、小さく呟いた。

 

「……私のクラス、完全に終わったわね」

 

その言葉には、悲壮感よりもむしろ、清々しいほどの諦観が漂っていた。

 こうして、無人島サバイバル特別試験の最終日前夜は、他クラスの夜襲という最大のイベントを過去のトラウマを刺激した上での徹底的な接客対応という形でスタイリッシュに消化し、深い眠りへと沈んでいったのだった。

 

翌朝。

 特別試験、最終日。

 

オレは、ヴィラの裏手で胃薬を水で流し込みながら、目の前の惨状――いや、あまりにも平和すぎる地獄――を眺めていた。

 

「おはようございます、龍園様。昨夜はよく眠れましたか?」

 

「あ、ああ……。なんか、生まれて初めて熟睡できた気がする……。おい、石崎、あの特製朝食のスープ、まだ残ってるか?」

 

「はい! 坂本さんが、Cクラスの分もって多めに作ってくれました!」

 

DクラスとCクラスの生徒たちが、一つの食卓(坂本が巨大な流木を削り出して作ったグランドテーブル)を囲み、和気藹々と朝食を楽しんでいる。

 

 もはやクラス間の抗争など存在しない。ここは国境もクラス分けも存在しない、完全なる平和特区と化していた。龍園はかつてのトラウマを完全に依存へと昇華させてしまったかのように、大人しくスープをすすっている。

 

さらに、昨日の日中に訪れていたBクラスの一之瀬帆波までもが、Bクラスの生徒たちを引き連れて「最後の記念に遊びに来ちゃった!」と笑顔で合流している。

 彼女たちの手には、Bクラスのポイントで購入した果物や保存食が握られており、それはリゾートへの差し入れという名目で坂本へと献上された。

 

「坂本くん、これ、Bクラスからの手土産だよ。良かったら、お料理に使って!」

 

「素晴らしい。皆様の心遣いに感謝いたします。では、これらを活用し、最終日のランチは『無人島・三大クラス合同フルーツバイキング』といたしましょう」

 

「「「わぁぁっ!!」」」

 

女子たちの歓声がジャングルに響く。

 Aクラスを除く三つのクラスが、坂本という唯一絶対の神(総支配人)の下に統合されようとしている。

 

オレは手元のタブレットを開いた。

 最終日の最大のイベントである『他クラスのリーダー当て』。

 各クラスは、相手のリーダーを当てることで50ポイントを獲得し、逆に当てられれば50ポイントを失う。

 

(……本来であれば、ここで高度な情報戦が行われるはずだった)

 

誰がリーダーのキーカードを持っているのか。誰がスポットを占有したのか。

 だが、現在の状況はどうだ。

 誰もリーダーが誰かなど探ろうとしていない。龍園も、一之瀬も、伊吹も、そんなポイントゲームよりも「坂本が次にどんなスタイリッシュな料理を作ってくれるのか」ということにしか興味がないのだ。

 

もし仮に、誰かが強いてDクラスのリーダーを推測しようとしたところで、答えは一つに行き着いてしまうだろう。

 この圧倒的な支配力、誰もがひれ伏すカリスマ性。

 他クラスの人間から見れば、Dクラスのリーダーは『坂本』以外にあり得ないのだ。

 

(しかし、実際のDクラスのリーダーは堀北だ。……つまり、他クラスがいくら『坂本』だと解答したところで、すべて不正解になる)

 

完全犯罪。いや、完全なる防御。

 坂本は、ただ「日常をスタイリッシュに過ごしている」だけで、学校側が用意した試験のルールそのものを無力化し、Dクラスに絶対的な勝利をもたらそうとしている。

 

「綾小路くん」

 

堀北が、フルーツバイキングの準備を手伝うふりをしながら、オレの横にやってきた。

 

「……もう、どうにでもなれって気分ね。私、彼がリーダーだと思われても訂正する気は一切ないわ」

 

「賢明な判断だ。これ以上、事態を複雑にする必要はない」

 

「ええ。それに……正直に言うと、彼の作ったフルーツポンチ、すごく美味しいのよ」

 

堀北は頬を少し赤らめながら、小さな声で告白した。

 彼女もまた、このリゾートの虜になってしまった一人なのだ。

 

試験終了の時刻を告げる船の汽笛が、遠くから聞こえてきた。

 一週間にわたる過酷な無人島サバイバルは、今ここに、一人の男の圧倒的な『おもてなし』によって幕を閉じる。

 

誰も傷つかず、誰も飢えず、ただ深い敗北感と、それ以上の満腹感を抱えて。

 オレは空を見上げ、深くため息をついた。

 

 

視線の先では、坂本が『秘技:風花の舞(シトラス・ハリケーン)』によって、オレンジの皮を一瞬で剥き、美しい花びらのように盛り付けていた。

 彼の日常は、無人島であろうと、どんなルールがあろうと、決して揺らぐことはないのだ。

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