対象は笑っている。
だが、その意味は不明。
何かが足りない。
それは直感であって、確信では無い。
言い切れる。
そう思った瞬間、
翠はもうその考えを忘れていた。
「頭痛いなー、でも今日はお祭りだし!」
ファウストの町の空は晴れていて、人の声はやけに軽い。
レンガ造りの家からはカラフルな飾り。決して大きくは無い町、狭い路地のような場所をコツコツと進む1人。
理由なんてなくても、
全部が楽しいで済む。
「今日のお祭り楽しみだな、ラー♪」
誰に言うでもない声を癖のように口ずさみながら、翠は歩く。
そのときだった。
「……見えた」
低い声。人には決して見えない速さ
振り向くと、少女が一人立っていた。
周囲と明らかに“色の濃さ”が違う。
歪んだ色。
「アンタ、それ」 少女は翠を指差す。
「感情、欠けてる」
「え? なになに!」
翠はその言葉を無意識に揉み消し笑う。
軽いまま。何も気にせず。 だが少女の目は笑っていない。
朱と呼ばれるその存在は、色を見る能力を持っていた。
「また始まったのか、」
「こういう“欠け方”は前にも見た、広がる…」
人の感情は、彼女には“色の層”として見える。
だが目の前の少女は違う。
「アンタ、……壊れてる」
「えー、ひどくない?今度新しい服屋さんに行くんだ♩」
翠は笑う。
違和感のない笑顔。
それが逆に異常だった。
朱は一歩踏み出す。
「私は朱、色を見て、異常を正す、」
「お前明らかに異常だろ、違和感無いわけ?」
「私は異常じゃない、だって楽しいもん!」
翠は無理やり表情を作っているように見えた。
5mぐらいだろうか朱は近ずいたそして、
手を上げた。
その瞬間、
空気が“破れる”。周りの色を剥ぎ取るように翠目掛けて走る。
A4のチラシを思い切り破り捨てるように。
翠は避ける。
「ええっ凄!どうやってやるのー私もやるー!」
朱の目が揺れた。 (……反応がずれている)
普通なら恐怖するはずだった。
だがこの少女は“楽しんでいる”。
翠が笑うたびに、周囲にある飾りが色を失っていく
きっと無色になるまで続けるのだろう。
早く決めなければ、朱の経験だ。
翠の動きは素人丸出し、きっと戦う事も欠けている、が。
「なんで一撃で決まらないの!」
攻撃を続けるたびに、運良く逃げられる、翠は笑う。
「そろそろ出ろや!」
朱が両手いっぱいに握り破る。
爆音がなった、朱の渾身の一撃
翠は衝撃で受け身を取る
その時朱は希望が見えた、
翠の中に微かに生まれる色を。
黄。
しかしそれはすぐに消える。
まるで何かに押し潰されるように。
「アンタみたいなのは、時間が経つほど“周りの色”を壊すっ!だから!」
戦いの中で朱は理解する。 これは戦闘ではない。
“修復”だ。
壊れているのは世界ではない。 この少女だ。
「おいっ、お前は何を失った!」
朱の問いに、翠は理解出来ていない。
「失うって何?」
その瞬間、朱は確信する。
この少女は“欠けていることにすら気づいていない”。
「ここから直せるのか…」
朱の攻撃が一瞬だけ止まる。
「いや、治す!」
朱は破った色を槍のように刺す。
力の差は誰が見ようと歴然だ、
翠の中に“赤”が生まれる。
「痛いんだけど!楽くない!」
ふと翠は立ち止まり自分の手を見る。
手が痺れて震える。
初めて“知らない感情”を見た。
朱は一息付いた後に静かに言う。
「それがアンタの一部」
「取り戻せるかは……アンタ次第だ」
朱は背を向ける。 が戦いは終わっていない。
これは破壊ではなく、
回収の始まりだった。
朱の姿が、雑踏の向こうに消えていく。
残されたのは、いつもの祭りの音だった。
少し遠くから太鼓、笑い声、屋台の呼び込み。
全部が、さっきと同じはずなのに。
――少しだけ、違っていた。
「……なんかさ」
翠はぽつりと呟く。 手のひらを見る。
さっきまでそこにあった“赤”はもう薄れている。
けれど、
消えたわけじゃない気がした。 「なに、今の」
分からない。 楽しいはずの空気なのに、どこか引っかかる。
さっき朱に言われた言葉が、頭の端に残っている。
──感情、欠けてる。
──壊れてる。
「いやいや、失礼すぎでしょ」
そう言って笑おうとしたのに、 口元が少しだけ遅れた。
笑えているはずなのに、さっきみたいに自然じゃない。
その違和感に気づいた瞬間──
また、考えが途切れた。
「ま、いっか」 そう言いかけて、 止まる。
(……“ま、いっか”って、何に対してだっけ)
分からない。 でも、さっきまでの自分と何かが違う気がする。
翠は一歩、屋台の方へ歩き出す。
でもその足は、いつもより少しだけ重い。
誰もいない空に向かって、声が漏れた。
「さっきの、なに?」
答えは返ってこない。
ただ祭りの音だけが、変わらず流れている。
けれど翠には、その音の中に“ほんの小さなズレ”がある気がした。
まるで、
世界が少しだけ遅れているみたいに。
「……気のせい、だよね」
そう言って笑う。
今度は、ちゃんと笑えた。
でも、その笑顔の奥で。 さっき生まれた“赤”だけが、
消えずに残っていた。
⸻その瞬間だった。 翠はまだ知らない。
この違和感に最初に気づける存在は、自分しかいないということを。 そして、今さっき生まれた“感情”が── 世界の歪みを見抜く唯一の鍵になることを。
この物語は、もともとゲームとして構想していたものを、小説として再構築したものです。
初めての試みではありますが、少しでもこの世界を楽しんでいただけたなら嬉しいです。
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