All or Nothing   作:真の柿の種(偽)

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The war begins in secret.
困難というのは、次の新しい世界を発見する扉である


 櫛田が無邪気を装った顔で、青春を全開で満喫しているのが見える。顔が良いものだからとにかく華になる絵面だ。魅了されている男子も多いのではなかろうか。現にウチのクラスのアホ3人衆である池、山内、須藤は目を奪われて鼻の下を伸ばしていた。……あ、綾小路もちょびっとまんざらでもない感じだ?

 華やかな水飛沫が煌めく、そんな中心から離れた端の方で、乃亜はボケっとした顔でチルしている。

 性格終わってる幼児体型女子ではあれども、顔は良いなぁとか、将来は美魔女になるのかなぁとか、でも高校生でこの背丈だと将来は絶望的だなぁとか、そんなこんなを考えていた。

 ここはクルーズ船内の施設の一つでもある屋外プール。

 乃亜がのんびり思考で見守る中、坂柳は浮き輪に乗って水面をスイーッと漂っていた。

 

「日差し強いな、水はこまめに飲めよ」

「ふふふ……お心遣いありがとうございます。危なくなったら口移しでお願い致しますね」

「親切に挑発で返すなや」

 

 麦わら帽子に乃亜から追いはぎしたラッシュガード、追加でサングラスというふざけた常夏スタイルの、フリル付スイムウェア版坂柳がいた。彼女は大きな浮き輪の穴に嵌りながら、プカーっと乃亜の視界を横切っていく。ブルーハワイドリンクでも啜っていれば完璧か、注文すれば届けてくれるかしら。

 川や海なら目を離した途端に彼方へ漂流していそうなくらい、警戒心のけの字も抱いていなかった。乃亜が目を離したらどうするつもりなのか。

 

「今日はとっても調子が良いんです。傍に居てくれる人のおかげでしょうか」

「ハッ! 性格悪ぃ皮肉だな、いっそオモロイ」

「乃亜君に楽しんで頂けているのなら、それが何よりです」

「バーカバーカアホ女ー。俺よかお前が楽しめ」

 

 坂柳の為に500万ポイントも使ったのだ、本人が楽しんでくれなくては払った甲斐というものが無くなってしまう。

 ───1日の宿泊に5万、施設使い放題料1日10万、1日でざっくり15万。滞在期間は多めに見積もって3週間。15万×21日間=約315万という大まかな計算はしていた。

 かなり大袈裟に勘定してた予想額を更に超えて約6割増し。クルーズ船旅行の権利をこの額で買えたのは果たして安上がりなのか、或いは高くついたのか。

 いやまあ、船の内装やら、調度品やら、お高そうな感じはあったが。どうせこの船だって使い回しだろう、一年生のこのバカンスのためだけに買ったとかなら確かに頷けるが……まさかそんな訳ないよね? 乃亜は嫌である、恩人でもある坂柳の親父さんに『アホ』認定するのは。

 

「綺麗な空……ふふっ、潮風も心地良いですね」

「あー……まあ安いか」

「?」

 

 多分、確実にボッタくられている、そもそも時価なのかもしれないが、1ポイントが1円換算ならキレてもいい。そりゃ学生の身分からすればとんでもない贅沢を満喫している訳だが、正直500万円分相当のサービスを受けられているかと言えばそうとも思えない。少なくとも自室なんかはもっと豪勢でもいいと思うのだ。

 だが、まあ、良いかなと思った。

 お得だ、少なくとも乃亜はそう信じられた。人間、自らの目で見た光景になら納得できるものだから。

 

「乃亜君……? ……成程、今、私に見惚れてしまっていたようですね」

「うん」

「っ、そ、そうですか、そうなんですか……まあ乃亜君が選んでくれた水着なのですから、乃亜君の好みに合ってることでしょうし? …………えへっ」

 

 小学女児が粋がってるみたいで可愛いなー、とか考えていれば、何やら都合の良い想像をしてくれたようだ。ラッキー。

 ()()()()()()()()()()()()()という話を聞いてから、身体を動かす形での『何か』が待ち受けているのは把握していた。しかしだ、ここで納得がいかなかったのは、どうして坂柳は留守番をさせられなけりゃならないのかだ。

 ノリとしては修学旅行や林間学校やらと似た雰囲気だろうに、途中の旅行タイムを満喫出来ないのはどうなのかと。

 そんなこんなで茶柱を通して坂柳の親父さんへと談判してみたら、500万出せとのお達しである。支払いへ至るまでの決断はノータイムだった。茶柱とAクラス担任の真島は「こいつマジか」と目で語っていた。マジだよなんか文句あんのかよ。

 

「私があらぬ方へ流されないよう、ちゃんと手綱を握っていてくださいね」

 

 返事の代わりに、手に握られた紐を引っ張って答える乃亜。

 すると乃亜の方へ水上を滑って引き寄せられる坂柳。浮き輪がプールの際にぶつかり、跳ね返った浮き輪は坂柳を揺らしながら、やはり漂っている。

 何だか乃亜は、引っ張って飛ばすゲームを思い出していた。

 

「犬みたいで可愛い坂柳チャン」

「本当に繋がれているのは果たしてどちらなのでしょうか」

「お前」

「……即答するほど、わ、私に……首輪を着けたい、と」

「会話のドッチボールと思ったら鉛玉が飛んできたぜ」

 

 夏の熱気とは別の理由で頬を赤らめる坂柳へ戦慄する乃亜。しかし軽口を叩こうとも、浮き輪から伸びた紐を手放す気はサラサラ無かった。

 ヘヴィーな雰囲気を醸そうとする幼馴染をガン無視しながら、周囲の様子を伺っていく。

 ちょっと楽しそうな色が見えた。Dクラスが誇るアホ3人衆+綾小路の集団だ。夏のプリンスなるモノを自らの意思で名乗るアイツも加入したのなら、それはもう3人衆ではなく四天王だ。

 

「お、告白っぽい決意の色が見えるな。櫛田は……難易度高いだろうに……漢だね、池は」

 

 その手の気合い入った展開は好きである、頑張って欲しいものだ。後ほどに綾小路から顛末でも聞こう。望み薄かもしれないが、物事に不可能なんて話は無いのである。後でどんなセリフを使って傷心を抉り……塩を塗って……どうやら乃亜は、未だに先日の盗撮未遂事件を許せてはいないらしい。

 人とは、かくも難しい生き物だと悟っていれば、呆れた声が水上の浮き輪から掛けられる。

 

「相変わらず出歯亀に最適な後遺症ですね」

「羨ましい特技だろ? やっぱみんな、一度くらいは強めに頭殴られとくべきだよ」

 

 こう、ガコーンと、バチコーンと、ドグシャァって感じで。コツは成人女性の力を乗せたフライパン剣技である。しかし残念なことに、相互対象の身長体重等の細かな条件が揃わなくては再現性には乏しいと思われる。うーむ、乃亜ってばつくづく奇跡の子供だったらしい、流石はNoahと名乗ってるだけはある。

 

「───……そんな機会は無いに越した事はありません。一生に一度でも多過ぎるくらいなんですから」

「ハッ! ごもっともなこって」

 

 ヘラヘラと笑いながら、水上の坂柳を右へ左へ滑らして遊んでいた乃亜だった。

 


 

 浮き輪を返却した乃亜は、坂柳と一緒に食事処のエリアへと赴いていた。

 乃亜のラッシュガードを羽織ったグラサン坂柳は、頭に乗せられた麦わら帽子を機嫌良く揺らしながら、乃亜に右腕へ寄り添って、嫋やかな笑顔を浮かべて歩いている。

 そんな好機嫌に水を差す───乃亜の不粋な一言。

 

「俺、テーブルマナー知らん」

 

 瞬間、信じ難いものを見る目で乃亜を睨みつける、小さな天才少女。

 

「前に教えた筈なのですが」

「忘れたに決まってんだろ」

 

 根気良く、口うるさく、坂柳家でマンツーマン指導を受けた日々は覚えている。肝心の内容に関しては……忘れます、こればっかりはもう仕方ありません。興味が無かったのだもの。

 嬉しそうな色をして、ウキウキと説明をしていく姿は見ていて飽きなかった記憶がある。その記憶しか無いまである。

 

「なんか必死にやってんなー、とは思ってた」

「どうりで……覚える気が微塵も無いから大人しくしていた訳ですね。一緒にそういうお店に行くかもしれないって言ったのに……」

「そん時ゃそん時。お前に教えてもらいながら飯食えばいい」

「私を外付けハードディスクとでも勘違いしていますか?」

 

 言い得て妙である。確かに出先に連れてけば蘊蓄も語ってくれるし、歩く電子辞書や広辞苑みたいな認識は確かにしているかもしれない。居ると便利とは確かに思ってる。……ヤベェや、否定できんぜ。

 苦し紛れの口笛を吹いていると、右足の小指への刺突攻撃!

 

「そうですか思っているんですか」

「痛い痛いごめんて」

「この分なら私の頭脳を旅のガイドブック扱いにもしてそうですね」

 

 流石の坂柳だ、大正解、乃亜君ポイントを贈呈しよう。

 

「ハッ! ドヤ顔で観光名所を語るお前には5割増しの可愛げがあったぜ、綺麗な絶景よりも見る価値が有ったと思う」

「…………このっ、男はっ、ほんっとうに!」

「痛い痛い痛い痛い何でだよ褒めたろうが!」

 

 痣の上から畳み掛ける更なる一撃。ウィークポイントを自らの手で作り出し、脆くしたその部分を自らの手で再び穿つ。なんて理不尽なコンボなのだろうか、乃亜は憤りを感じざるを得ない。

 今2人が向かっているのはレストランである、だが───高級レストランでお上品に食べるより、観客席に座って怒号飛ばしながら焼き鳥に齧り付きたい、そんなお年頃が5歳の頃から今現在まで続いている。銀に輝くカトラリー? チマチマと一口ずつ食べる? 愚の骨頂である。竹串にブッ刺さった鶏肉を豪快にかっ喰らうのが一番美味いと信じる乃亜は競馬場育ちのアウトロー派閥なのだ。

 静かに厳かに食べるより、楽しく喋りながら食べる方がいい。きっと、そっちの方が楽しい。

 

「しっかし……その常夏スタイルでお高いレストランに入れるのかが疑問だな」

「品格とは隠そうとも内から放たれるものです。私なら何一つも問題にはならないでしょう」

「グラサンってスゲェな、説得力が塵と化してら」

 

 虚空にも等しい胸を張りながらのドヤ顔も空しく、水着の上にラッシュガードを羽織り、麦わら帽子にトドメにドデカサングラス、すごいな、どっからどう見てもアホの子だった。あの弁の立つ坂柳だろうとも、何を抜かしてもアホ発言にしか聞こえなかった。サングラス恐るべし。

 

「それに、乃亜君が選んでくれたこれは水着ではありますが、衆目へ晒すことも前提としたものですから」

「そうだな、アホだな」

「……聞いてますか?」

「そうだな、アホだな」

 

 だめだ、一言一句がアホアホしく聞こえすぎる。あの知的な坂柳がである、もう耐えられん。

 坂柳をアホの子へと変質させている一番の原因を、乃亜はヒョイっと奪い取る。不満そうな顔が隣に見えるが、無視して乃亜の装備とした。……視界が想像よりも暗かった、こんなん付けたまま杖で歩くって正気かコイツ。

 

「転ぶだろこれ、危ねーことしやがって」

「私を常に気遣ってくれる優しい人が居ますから、いかなる時だろうと安心してしまうのでしょうね」

 

 自らの意見を主張するように、掴まっていた乃亜の右腕を揺らす坂柳。

 そうか、ならしょうがないか───とはならないだろう。何をほざいているのだろうかこの女は。

 乃亜が買ったもので怪我でもされてはたまったものじゃない、こいつは没収である。……ちょっといいなグラサン、付けてるとテンション上がってきたかもしれない。

 

「神室さん達は先に食べ始めてるようです、私達も合流しましょう」

「DクラスよりもAクラスの方が友達多そうな気がしてきた」

「いずれ加入させますから、早いか遅いかの違いですよ。むしろ今のうちに親しくなっておきましょう」

「ハッ! お前のクラスにだけは入る気ゼロなんだぜ」

 

 クラス移動が可能であることを当然のように知っている坂柳。原因は乃亜だった。坂柳と一緒に居ると気が抜けてポロッと失言してしまうのだ。Dクラスを裏切るような情報は喋ってない、乃亜はそう信じたい、信じる、大事。

 クラス移動代2000万の半分を達成した身からすれば、Aクラスへの飛び級のハードルが、周りの生徒に比べてかなり下がっていることだろう。2年3年をターゲットに賭けポーカーで稼ぎ続け、ついでに坂柳とそのオトモからもポイントを徴収すれば、学年が上がる前には2000万の到達も夢ではないと予想している。

 デリシャスレアエネミーの南雲先輩もいるのだ、あのはぐれメタルを欠かさず狩り続ければ、二学期以内に2000万到達だって夢ではない。あのカモ金払い良いから仲良くしたいカモだ。

 

「現状で移動するなら……龍園んとこでアウトロー戦術を極めるか、一之瀬んとこでクラスの雰囲気グチャグチャにしながら上に行くか……かな。お前んとこ入ったら綾小路のいるD以外がヌルゲーになるじゃん」

 

 龍園と一緒にグレーゾーンすれすれを全力疾走しながら駆け抜ける三年間、うん、楽しそうで困る。一之瀬のクラスに無理やり乗り込んで敵愾心を向けられながらも圧倒的な結果を出して情緒をグチャらせながら進む学校生活、うん、これも中々に楽しそうだ。

 坂柳クラス? ヌルゲーです。綾小路も坂柳と葛城がいるなら封殺できそうな気がしないでもない。堀北も完全体へ移行する前に封殺すりゃよし。

 ───乃亜の知らない間に知り合っていた綾小路と坂柳の2人。経緯は詳しくは聞いてもいないし興味も無いが、ちょこちょこ連絡を取っているような話題は、両者と話していると散見される。陰口とか叩かれてたらどうしましょう、キレようかな、いや無理か、口喧嘩も肉体言語も勝てる気がしないペアだった。

 

「……でも同じクラスになりたいでしょう? 私ですよ? 授業中にも同じ空間に居られるんですよ?」

「あー、別にいいかな、ぶっちゃけガキの頃に見飽きた。今更お前と毎日顔合わせても食傷気味ぃっっっったあああい!!!???」

 

 そろそろ小指の神経が死んで痛みすら感じなくなると思う乃亜なのだ。

 

「……あー?」

 

 片足を庇いながら歩いていると、怒鳴り声にも思える喧騒が、乃亜と坂柳の耳へと届いた。

 場所はおそらく、2人が向かっている目的地のレストランではなかろうか。お高い場所とは聞いていた、だから怒声が響き渡るようなイメージは無かったのだが、存外アウトローギッシリな空間なのだろうか、乃亜はちょっとワクワクしていた。

 近づくほどに荒事の気配がする。……いいね、穏やかなクルージングだけじゃ物足りない、このイかれた学校はこうでなくっちゃ。

 

「騒がしいですね。揉め事でも起こっているのでしょうか」

「かもな。───ハッ! 前哨戦って事かよ? 悪かねぇ、楽しいバカンスになってきやがったな」

 


 

「クズにはジャンクがお似合いだ、ハンバーガーでも食ってろ」

 

 レストランへ到着した瞬間聞こえたその声、須藤と、その席に座っているDクラスの池と山内と綾小路へ向けられた言葉には、嘲りと侮りがあった。

 そして乃亜は、その言葉を聞き逃さない。

 

「──────あの野郎、ジャンクフードをコケにしやがったか」

「そっちなのですね」

 

 というのは冗談です、ええ、もちろん、だからそんな目で見ないでください坂柳さん。

 こじんまりとした坂柳からの呆れた視線を頑張って無視しながら、戸塚の様子を見かねた葛城を見つけて、乃亜は胸をなでおろす。間に合ってよかった、ああ、本当に。

 

「弥彦「まあ待てよ葛城」

 

 これ以上無い程の弱みを晒してくれたのだ、引っ込ませるにはまだ早い。───つーか、普通にちょっと苛ついてはいる。だってこれ、駆け引きもクソも無いじゃないか。ソレには意図が無かった、()()しかなかった。策謀の気配がとんとしなかった。じゃあいいだろ。

 乃亜の右腕に掴まっている坂柳は、口を挟んではこなかった。チラリと表情を伺うと、半ば諦めたような顔で乃亜を見つめ返す。……了解、イイお薬の役割を期待されているのなら、存分に薬効を示そうじゃないか。

 これで改善されるのなら短期間の不安定は許容範囲、すなわちWin-Winだと、少なくとも坂柳はそう判断した。

 遠慮はまあ、ウチのクラスメイトに喧嘩売ってくれたワケだし、ナシでいいか。

 

「構いやしねぇ、言わせたけりゃ言わせとけ。なんつったってそのアホの言葉はビックリするくらいに無価値なんだからよ」

「っ! なんだと?! もう一度言ってみろ!」

「アホだっつったんだよ。あー、アホじゃなけりゃ間抜けか? バカか? ゴミかカスかどれだろうな? 別に呼び方なんざなんでも良いけど、要するにテメェは考え無しの能無しって訳だが」

 

 好戦的な笑みを浮かべながら、へらへらと神経を逆なでるような声を心がけた。

 ()()()()()のには、コレがよく効くんだ、例えば───コイツみたいのとか。

 

「なあ、お前、何でAクラスに入れたの?」

「……何、言ってんだ」

「いやー、葛城の株を楽しそうに下げてっからさ、そんなんがAクラスになれるってのは疑問だなーって」

 

 戸塚は何かを言いかけたが、すぐ悔しそうに歯を食いしばる。

 自覚はアリ、自分でも思う所はアリ、でも、けれど、どうしようもないんだよね、そりゃお前だって人間だものね。

 人間って、感情が絡むと、行動が雁字搦めになっちゃうよねェ。

 

「右腕気取るテメェが軽率なお陰で、葛城の評価がダダ下がり! ナポレオンはやっぱ偉大だねェ! 有能な敵よりも、無能な敵よりも、真に恐るべきはやっぱり無能な身内ってね!!」

 

 戸塚の顔が歪んでいく。裏切りを受けたような色も見えるが、仮に乃亜がAクラスを贔屓していたとしても───その理屈は、既に、戸塚の今回の挑発行動によって破綻した訳だが。

 やっぱりアホだったか、それとも乃亜がAクラスに入り浸りすぎて警戒もしてなかったか。坂柳は注意喚起もしていなかったのか? ……ああ、そうか───耳を貸してなかったんだろうなァ、プライド高そうだもんなァ、テメェ。

 バカだなァ。この程度で済ませてやるわけが無いだろうがァ。

 もう、大きな枠でのゲームはとっくに始まっているんだ。

 小競り合い一つだろうと、弱みを振り回せる状況を作り出しちゃァ、ダメじゃないかよ。

 

「ハッ! 焦ってんだろ? なんせ坂柳の手持ちポケモンは個体値も種族値も良い。鬼頭は動けるガリ、橋本は普通に優秀でコミュ力も高ェ、神室は坂柳が信頼するってのが優秀さの太鼓判だ、そして……あー……───まあとりあえずはそんくらいか……んで? お前は? なんか取り柄あんの? お勉強か? Dクラスの俺以下の頭の出来でそれって取り柄って言えんの?」

 

『Dクラスの平均値みたいな顔をするな』みたいな気配の電波を感じた。主に坂柳とか綾小路とか葛城とか。別にいいだろう、人に貴賎はないのだぜ?

 平均といえば、ふと聞いてみよう。

 

「そいや中間テストの結果が出回ってたけど、見た?」

「見、た……見たぞ! お前は全教科50点だろうが! 偉そうな口を叩きやがって!!」

「見ていてその感想ならマジで雑魚じゃんお前」

 

 拍子抜けの答えだった。これで葛城の右腕ってマジ? 彼には人を見る目が不足しているのだろうな。坂柳のお目付役も兼任してもいるのだ、これからの苦労が偲ばれる、乃亜は彼をとても応援している。

 まあ、潰せる機会があるのなら、遠慮無くいたぶるけどね!

 

「坂柳派は個性豊かな有能揃い。なら葛城は? 特筆するようなのがいる訳? 右腕気取りのテメェが没個性だってのに? 即答できるか? 気合いがありますでも、真面目ですだろうが、何かしらすぐに言葉に出来るか? ──────お前の焦りはそれだ」

 

 心臓へ直接触れるように、内臓へ針を刺しこむように、心を土足で荒らし回るように。

 プライドという名の虚勢を、じっくりと、丁寧に、解体するようにつまびらかにしていく。

 

「焦ること自体はアリだ、焦燥ってのは人間に備わった立派なガソリンだからね、向上心に繋がる事が出来りゃ最高効率で成長できるだろうよ。でもお前は違うもんなァ、その感情を独り善がりの一人相撲で発散しているだけだ。感情で動く事は否定しねぇけどな、お前のソレには何一つとして衝動に見合うだけのナニカが無い。頭の回転が良い訳じゃねェ、突飛な発想力もねェ、人を動かすだけの熱意も皆無、成し遂げてやろうという気概も無ければ、目的達成の努力すら不足してるとくらぁなァ──────ぜェーーんぶ、テメェも自覚してるんだろォ?」

 

 戸塚が無意識のうちに奥底に秘めていた澱みを、乃亜は笑って抉り出す。

 これは膿の摘出だ、荒療治だ、正当な応報だ、全ての因果は戸塚が自らの言動で紡いでいたのだ。自業自得だ、自分で腹を晒した、見せちゃいけない相手だったのにね、じゃあテメェの責任だよねェ。

 このオモチャは壊しても怒られない、心を捥ぎ取ろう、心を剝ぎ取ろう、大丈夫、怒られない、コイツは体裁の良いサンドバッグ。……マズイかも、これはちょっと たのしくなってきた

 

「──────ハッ! みんなが言い辛そうなら俺からズバッと言ってやんよ! 戸塚クゥン、テメェの胸の中でメラメラ燃えてるその対抗心には1ミリだって意味がねェ!! みんなで一つに纏まろうって空気が広がっていく中で、未だに坂柳との派閥争いを再燃させようとするテメェは間違いなく癌だぜ!! 言ってステージⅡくらいか!? 早めの切除をお勧めするぜみなさんよォ!! 有能なのが羨ましいか!? 自分じゃ出来ない事をやってのけるのが悔しいか!? ゴミカスみてぇなプライドが作り出した偉大な対抗心すら見透かされている哀れな自分に酔ってもいるなァ!? 悲劇のヒーローお疲れ様ァ!! だーれも求めてないありがた迷惑なヒーローサマだけどネ!! 坂柳達から相手にすらされてねぇ自分が不甲斐なくって情けねぇなァ!!?? 今んところ何に貢献したのか元気よく言えるかなァーッ!? 本当に相応しい居場所に自分がいるって言い切れるのかァーーッッ!!??」

 

 人の心を引き裂いていくのが ちょっとだけ。

 人のナカミを殺していくのが ちょっとだけ。

 ちょっと? うーむ どうだろうなァ ふむ これ けっこう たのしいかも

 底で蠢く自分を自覚する、深い笑みを浮かべたがっている自分を自覚する、悦に浸りたがる自分を自覚する、自分の本懐を自覚する、昔の自分を──────坂柳が、乃亜の右手を強く握った。

 ゆっくりと一呼吸してから、自分の中身を落ち着かせる。

 

「………………あー……もう一度聞くけどよ」

 

 そして乃亜は、最後に核心を抉り取る。

 乃亜が植え付け、乃亜が煽って育て、乃亜が引き摺り出す。

 戸塚の弱みに、その一言は大きく爪を立てるだろう。

 坂柳がもう一度、強く乃亜の手を握った。……分かっている、もう自分は大丈夫、これで〆だから。

 

「お前、何でAクラスに入れたの?」

 

 感情を囃し立てるような声色はいつの間にか潜んでいた。

 心底から、本当に疑問を呈していた、嘲りも侮りも悪意も無い、ただ一言の問いかけ。

 ()()()()()、心は悲鳴を上げると乃亜は知っている。

 青褪めた色の表情は、今にも胃の中身をぶちまけそうにも思えるほど歪んでいた。唇がガタガタと震えて、しかし意味のある響きを紡ぐには至らない。

 戸塚からの否定の言葉は、ついに出なかった。

 

「……壊しても良いと許可を出した覚えはありません」

「ハッ! 人間がこの程度で壊れっかよ」

 

 昔の坂柳へ与えた罰ゲームやらに比べれば、これっぽっちで人間がぶっ壊れるなどとは到底思えない。だって坂柳なら大して効かないし。何なら反撃しようとする気概があるし、というか本人が言ってたし、「叛逆されたくないのなら、それなりのクオリティにしてくださいね」とか。

 ……乃亜は思い出す、目隠しに手枷を付けて放置するという罰ゲームを。謎に期待の色を醸していた坂柳を放置して、乃亜はパチンコへウキウキと出掛けていた。閉店ギリギリまで粘ったが、ボロ負けした乃亜が仕方なく帰宅した次の日の朝の学校で、出会い頭の坂柳から恐ろしく説教されたではないか。『内容がシンプル過ぎる』という謎めいた説教にムカついたから、猿轡を噛ませて給食の時間までを過ごさせてやったのだ。……満足そうにしていたのはめちゃ怖かった。

 ともあれ、人間はその程度の責苦なら耐え切れるという実証データがあるのだ。精神肉体と色々虐めた坂柳が壊れてないんだし、精神を削っただけの戸塚も多分大丈夫だろう。

 

「言っておきますが、砕いて溶かして型に流して固めるのを繰り返したようなものですので、私は乃亜君のモデルケースには入らないと思いますよ」

「……人間だけが神を持つ、今を超える力、可能性という名の内なる神を」

「意味が分かりません」

 

 戸塚クンを信じよう、きっと彼の中の可能性なら、きっと、たぶん、うん、立ち直れると信じたいけど、坂柳基準で詰めてたからどうだろうなぁ。

 庇った筈のDの男子共はドン引きしたご様子だった。なんじゃいなんじゃい、精神に爪立てて筋繊維を引き摺り出しただけじゃないの、これが後々の布石になるかもしれないんだからもっと感謝して欲しい乃亜なのだ。

 葛城が強めに睨んでくる。やりすぎたかもしれない乃亜に対して、流石にご立腹の御様子。葛城のような善人に嫌われるのは忍びない、弁明しておこう。

 

「あー、別に誰かれ構わず傷を抉ってる訳じゃ無いけど……今の時代は暴言一つで人が死ぬ。友人が言われっぱなしで大人しくしとけってのは無理だ」

「お前の言葉で今にも弥彦が死にそうだぞ」

「…………に、人間だけが神を持つから」

「さっきから意味が分からないが」

 

 人の可能性を信じようねって事だろうに! 彼は些か真面目が過ぎる、もっと柔軟な発想を持ってほしい。そうすれば乃亜の行いも許容できる───いやなんかそんな葛城は嫌だな。

 

「……分かったよ。じゃあ最後に一つだけ」

「まだ責め立てるつもりですか……?」

「ちげーわ。励ますだけよ」

 

 やりすぎは良くない、加減、とても大事、なのでちょっと控えめに。

 

「1秒でも早く手柄を立ててみんなから認めてもらわないとだね! いつ来るか分かんないその時に備えて捨てられないように頑張らないとだね!!」

「「「「……」」」」

 

 総スカンの雰囲気が何重にも乃亜へとぶつけられる、何だろうこの圧倒的解せぬ感じは。

 

「乃亜君」

「いやだから励ましただけじゃん」

「乃亜君」

「いやだから」

「乃亜君」

「ごめんなさい」

 

 ちょっと急かしただけでこの圧力。乃亜クンバカだからよくわかんない。

 


 

 戸塚の心が偉大なる犠牲となった翌日。

 乃亜は朝食後にしばらくしてから、船内に用意された自室へクラスメイトを招いて、おしゃべりに洒落こもうとしていた矢先だった。

 そこそこ真面目なお話をさあ始めましょうとした、その瞬間だった。

 

「佐々木、暇か? オレは暇だ、すぐに開けろ、遊べ」

 

 コンコン? ゴンゴン? 否、流石にホワイトルーム出身だぜ、彼は一味違ったのだ。正解はガゴンガゴンである。

 偉そうが過ぎるセリフを携えてマイフレンドはやってきた。ノックの威力が強過ぎてビックリする、蹴りでも入れてるのかと疑う音がしていた。事前の連絡も無しとはコイツ暇なのか、思い立ったら吉日が魂に刻まれてんのか。

 眉を顰めた乃亜は、ゆっくりと扉を開けながら下手人を睨みつける。

 

「……夏休みのガキ大将かよテメェは」

「どうせ暇だろ」

「只今絶賛首脳会談中なんだが?」

 

 暇と断定するだけの材料も無いくせになんだコイツは。堀北を弄って遊んでいればいいのに……そういえば、体調が悪そうな色をしていたから彼女の自室へ放りこんだのだったか。

 だからこんなにも不遜なモンスターが誕生してしまった訳だ。

 

「坂柳が取り巻きと歩いていたから、お前は暇だと思ってた」

「あいつと俺をセット扱いしてんじゃねぇぶっ飛ばすぞ」

「お? やるか? いいぞ、9年ぶりにやろう」

 

 勝手に盛り上がってシャドーボクシングを始めるバカ1匹を発見した。

 戦闘民族みたいな思考回路をしているバカへ呆れた無言をぶつけていれば、乃亜の部屋の中から、2人がひょっこりと綾小路の視界へ顔を覗かせた。

 

「こんにちは綾小路君!」

「やあ、綾小路君も佐々木君に呼ばれた……って訳じゃなさそうだね」

「櫛田に平田か、佐々木との組み合わせは珍しいな」

 

 首脳会談というのは冗句の類でもなく、本当にマジの話だった。

 櫛田と平田、現段階に於けるDクラスの中心人物だ。軽井沢? クラスの中心を気取ってるだけな、中身スカスカのメンタル麩菓子女子はちょっとお呼びじゃないっていうか……。

 

「オレが聞いていい話じゃなさそうだな」

「いや、問題無し。要はクラスの指揮権を寄越せって話だかんね」

「本当に聞いてもいい話か、それ」

「いいよ。お前口固いし、漏らしたらお前の社会的立場ズタボロにしてやるから」

「ならいいか」

「「(いいんだ)」」

 

「抵抗できるし」とか考えているんだろうな、乃亜としてもまさかの形で綾小路と敵対する形になったら楽しそうではあるので、それはそれで喜びながら潰しに掛かると思うのだ。

 シュンとした顔が、一瞬でおめめキラキラ綾小路くんへと変貌する。子供かな?

 ともあれ、追加で綾小路も仲間に入れて、再び乃亜の部屋の中心へと適当に腰かけてもらう。

 そして乃亜は、改めてお話合いを始めた。

 

「あー……『指揮権寄越せ』、これが2人を呼んだ理由、質問が無ければ『何故指揮権が欲しいのか』って部分に進むけど?」

「そうだね……どうして僕たちが呼ばれたのか、かな」

「クラスで目立つ人ってことなら、それこそ軽井沢さんや堀北さんもいたと思うんだ」

「軽井沢は平田抑えりゃどうとでもなるから、あと口軽そう、イマイチ信用に欠ける」

 

 彼氏役を全うしている平田だが、反対意見は出しづらそうに口をもごつかせている。櫛田もそれには同意している色を見せてはいたが、平田がいる手前か、苦笑いだけで茶を濁していた。

 アレはヤマアラシのジレンマにも似た性質を抱えた、うん、まあ、言葉を選ばずに言ってしまえば地雷女だ。傷つくことを恐れているから高圧的に、それでいて高い地位へ自らを置こうと必死だ。だが逆に言えば、傷を極度に嫌がるのは、傷の痛みを()()()()()が故だ。だから守ってくれそうな相手に取り入っている───地雷処理係平田君なのであった。

 葛城といい平田といい、善人はとにもかくにも損を背負い込む立場へと追いやられてしまうらしい。この世全ての善人が大好きな乃亜としては、彼らには強く生きて欲しいものだ。

 

「堀北は口は固いだろうがさ……あいつ、発言力あんの?」

「無いことも……無いんじゃ、ないかな」

「あ、あはは……うーん……えっと……」

「ある訳が無いぞ」

 

 いい断言をする綾小路だった。全力で同意するぞ!

 

「そうだ、()()あの女には発言力というのが無い。全くない。大抵は美人なら言葉に力が宿るもんだがあいつにはクラスに介入し切るだけの力は無い。胸はそこそこあるのに発言力は無い。あいつ1人で引っ張れるような力は無い。哀れな堀北だぜ」

「ああ、()()()()()()協調性も皆無だ。集団生活には致命的に向いていないな。刺してくるし、人の痛みが分からないような言動も目立つな、刺してくるし、定食で騙してくるし」

「「(そんなに言うんだ)」」

 

 迷うことなくボロクソに言ってのける乃亜と綾小路へ、ちょっと引き気味に顔を引きつらせる櫛田と平田。いいじゃないの、別に本人がいたところで普通に言えるし、陰口とするにはまだ優しい方だ。

 普段一緒にいる2人から扱き下ろされている堀北へ、こっそりとほくそ笑んでいる女子も一名いるが、乃亜は全く興味が無かった。だってこの時限爆弾、リミット猶予がかなりあるもの。成長過程の堀北に処理させるつもりの乃亜からすれば、櫛田の話はまだ先の話だった。

 

「僕らを選んでくれた理由は分かったよ。でも佐々木君の今の言い分だと、秘密にしたいってことだよね?」

「ああ、少なくともこのバカンス中に起こるであろう特別試験までは、だな」

「───佐々木君も、やっぱりそう思ってたんだね」

「その物言い……ハッ! いいね、話が早くなりそうで助かった」

 

 平田もクルーズ船のきな臭さには気づいていたようだった。本当は面と向かって会談するのが嫌だった乃亜からすれば、早めに切り上げられるのは非常に助かる。だって長引かせて「あれ? 平田と櫛田と佐々木がいなくねー?」とかなれば作戦会議開いていたのがバレバレになっちゃうし。

「佐々木君も」という点については、この間の中間テストでの乃亜の行動に当たりを付けていたところだろうか。高円寺とも思わせ振りに喋ってもいた、気づく連中はそれで気が付くだろう。

 平田洋介───いや本当に何でこいつDなの? 性格良し、成績良し、運動良し、彼女持ち。完璧超人過ぎないか? 善性の高さのあまり搦手には弱そうという印象もあるにはあるが、それ以上の長所が多すぎる。

 乃亜は彼を結構気に入っていたが、一周回って逆にムカついてきたな。何なんだ健全な男子高生送りやがって。乃亜を見ろ、何故か壊れてる白い妖精さんの囁きに堕とされそうになったり、絶対悪の幼馴染から足の小指を執拗に潰されかけたり、ずるいぞどっちかと交換しやがれ。……軽井沢か……やっぱ軽井沢はいらねーや。

 

「このクルーズ船旅行中には十中八九で特別な形式の試験が待ってる。根拠は……細かい色々はあるが、分かりやすいのは坂柳の存在だ」

「坂柳さんが?」

 

 やはり坂柳不在という情報は出回っていないようだった。各クラスに情報網を広げている櫛田も初耳という反応をしたあたり、坂柳は乃亜にしか打ち明けていないようだった。ラッキー、他クラスも知らん情報独占だぜ。ありがたく使お。

 

「あいつ、元々この旅行には不参加だって学校側が決めてたけど、俺が旅行だけには参加させた」

「それは……どうして?」

「好きな奴がいないとつまんねーだろ」

「わあ……すごいね、佐々木君……そんな堂々と言っちゃうんだね」

「隠してるつもりも無いし」

「……相変わらず分からないやつだな」

 

 平田の疑問へ即答すれば、櫛田は興味津々に反応を示している。綾小路は知らぬ、色がとっちらかっていて判別が出来なかった、本人も答えが出ている思案でもないのだろう。

 野次馬根性丸出しな櫛田を無視しながら、乃亜は話を先へと進めていく。

 

「坂柳オンリーが不参加とされた理由だけど、あいつの体、弱いんだ」

「話は聞いてたけど……そんなひどいんだ」

「だからそんな坂柳が不参加って時点で、体を動かす系の何かしらが行われるのはほぼ確定。んで俺が先輩共から引っこ抜いてきた諸々の情報と照らし合わせると、夏休み中にクラスポイントが変動する何かしらがあるってのも推測できる」

「引っこ抜いてきた……?」

「ん。ポーカーで情報を報酬にしてな」

 

 怪訝な顔をしている平田へ答え合わせをして、乃亜は一呼吸置いた。これでようやく前置きは終わった。面倒だった、これが坂柳なら会話して2分経たずくらいで結論を出すかどうかへ至るだろう。だが、これは必要な儀式だ、大切なことだ、仲間への根回しとはチーム戦に於いては欠かしてはならない。

 勝つための尽力なら、面倒ではあるが、苦にはならないのだと乃亜は今知れた。

 乃亜はそして、本題をぶち上げる。

 

「もう結論から言うと、試験の内容次第では──────8()()()()()()仕込みがある」

「……8割、かい? ……正直、信じ難い話だけど」

「内容もまだ分からないのに、そんなに自信があるの……?」

「いや、ここは断言させてもらう。8()()()()()()()()()()。だから特別試験が始まってから判断して、必要ならお前ら2人の口添えが欲しいって訳なんだが」

 

 半信半疑、その四文字が2人の中で巡っていた。

 信用は薄いだろう。噂で通っている『賭博プリンス』の評判は、決してプラスイメージである訳が無い。ハッタリ虚言妄言大デマを駆使して、2年や3年を相手に大立ち回りはした。大笑いしながら敵から毟り取っていった記憶はある、めっちゃある、泣かせてた人も居たし、泣き顔を指さしながらゲラゲラ笑っていたかもしれない。……話だけで聞けば悍ましすぎるのではないか。

 ちょっと心配になってきた、果たして乃亜君は協力を取り付けられるかしら。

 

「勿論、理路整然とした説明をして、どれだけの勝率がどんな根拠で成り立っているかも説明し尽くすつもりだ。でも人間ってのは感情優先だかんね、言葉の意味じゃなく、言った人間が誰かに注目したがる面倒なイキモノなんだ。だからお前ら2人が認めたっていう称号が欲しい」

 

 見える色は2つ。

 優越感。乃亜と仲の良い堀北を押しのけて自分が選ばれたという、承認欲求。

 懐疑感。中身の見えないまま勝ち馬に乗れと提案する乃亜への、疑問と不安視。

 櫛田は問題ないだろう。

 平田は……流石に言い包むための材料が必要か。

 

「櫛田はどうだ、この話に乗れるか」

「……うん、分かった、佐々木君は須藤君の件にも協力してくれたもん! 私にできることなら協力させてほしいな!」

「オーライ、よろしく櫛田。───で、平田は?」

「……佐々木君の言う、『仕込み』の内容が聞きたいな」

「言えない。代わりの説得力なら見せれる」

 

 待ってましたとばかりに、乃亜は携帯端末を操作する。

 そして、平田の顔の前に乃亜の端末が翳されて、彼は動きを止めた。止めざるを得なかった。

 

「ごっ、ごひゃ、っっく……!?」

「うそ……なんで、どうやって……?」

 

 驚愕した平田の瞳の中には、乃亜の所持しているプライベートポイントが表示されている。横からのぞき込んできた櫛田も、遅れて驚愕を口から漏らしている。

 その額は──────5011988p──────約5()0()0()()()()()()()()()()()()

 ……こんなことが前にもあったような。

 

「今は500万ちょっとだが、坂柳をこの船に乗せる権利を買うのに500万使った。要は俺は、入学から3ヶ月ほどで1000万を貯めれるだけの実力があるって訳だ」

「自分で言うんだな」

「1000万貯めておいて謙遜でもしてみろ、キモすぎだろ」

「…………これは、本当に佐々木君のポイントなのかい?」

 

 平田の問いに、乃亜は不敵に笑ってみせる。

 ───はい確定路線の質問いただき。協力はほぼ取り付けたと乃亜はそう判断した。

 

「ハッ! んだよ平田、ビックリして頭回ってねぇのか? 確かにこれが『ポイントを使おう』って話なら事実確認は重要だろうよ。でもな、今回に限って言えば嘘でも借りたでも単なるハッタリだとしても問題が無い、違うか?」

 

 言われた平田が、すぐに頭を回し始める。櫛田も同様に、乃亜の発言の意味を考えていた。

 そして2人とも同様に、一つの結論に至るのだろう。

 

「大事なのは、俺が一瞬でも1000万という数字を現実の物として扱えている事実だ」

 

 ポイントの移行履歴を表示させてもいい、それで1000万の莫大な看板を、乃亜は確かなモノとして手にしていたという事実を確固たるものにできるだろう。そも、ただでさえ500万ポイントの時点であまりにも膨大だ。

 ───クラス移動の情報も同時に開示して、『佐々木乃亜が1000万を貯められる』という意味の価値を更に上げても良い、が……流石にまだ伏せるべきカードと判断する。

 そして乃亜は再度、2人へ、初めと同じ問いを投げかけた。

 

「次の試験、Dクラスの指揮権を俺に寄越せ」

 

 今度は、『何故』は一つも出ない。

 平田と櫛田は、無言で首を縦に振るだけだった。

 


 

 クルーズ船内カジノルームにて。

 一匹のギャンブラーは、雄たけびを上げていた。

 

「ウッヒョォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!」

 

 ジャラララ、ジャララン、ジャランジャラン、メダルをドンドン吐き出していく一つの筐体。

 メダルが大量に流れ出る音を、まさか再び耳にする事が出来るとは思いもよらなかったのだ。半ば諦めていた、あのジャラジャラ音を、学校の外でしか聞けていなかった甘美なる響き!

 まさか、学校行事の船の中に、伝説的名機が、回胴式遊技機があるなんて!

 三つ首わんわん! 女神さま! そして冥王さまに再び会えるなんて!

 

「これだよこれぇ!! 2400枚なんざ軽々と飛び越えるこの爆発力! 6号以降共じゃ真似すらできねぇこの満足感! やっぱスロットはこうでなくっちゃなぁ!!!!」

 

 レバーを叩き、画面の指示通りの順番でボタンを押していく。

 タタタッと、年齢を鑑みればあまりにも手慣れた速度だった。コツは親指の柔軟性と振動である、せせらぎの清き川が如く流れるような動きである。けれどスライド打ちは順番を外す可能性もあるので、初心者はジックリ一つずつ押した方が損はしないかもだぞ!

 ともあれ、乃亜は最高潮クラスに盛り上がっていた。龍園とのコイントスの2歩手前くらいには大歓喜していた。

 

「交換のレートって幾つなんだろうなぁ……あはぁ……最高…………ッ!!??」

 

 前兆を通してリールに突如として並ぶ、3つの禍々しくも荘厳な兜。

 弱かったと思ってたのに、当たる流れじゃない雑魚前兆だったのに──────なんてこったい、学校行事の最中にこんな射倖心に恵まれるなんて。

 まったく、高度育成高等学校は最高だぜ!! ここに来てよかった! 愛してる高育! なんか地べたに落ちた生ゴミを見るような眼をしていた坂柳が呆れてどっか行っちゃった気もするけど気のせいだ!

 

「冥王揃いきちゃぁぁぁーーッッッ!!! ──────JUDGEMENT」

 

 久しくその勇姿を見る事が叶わなかった乃亜は、その雄々しい御姿に涙が止まりません。鎧カッケェ……兜カッケェ……禍々しくてカッケェ……。

 本機最大の見せ場となる特化ゾーンへ手を出す前に、トイレのために席を立つ乃亜。これより行われるのは聖戦に他ならない。手をしっかりと清めてから、穢れなき打法を披露しなければ、冥 王はガチ恋距離(赤カットイン)まで迫ってきてはくれないのだ。

 気色の悪いにやつきが止まらない乃亜は、この気持ちをおすそ分けしようと、たった今隣に座ったマイフレンドの方を見た。

 なんか、画面が消えてた…………!!!!????

 

「? 佐々木、これは故障か? レバーを押したら画面が消えたんだが」

「まだ一回転だろうがテメェやりやがったなぁ!!??」

 

 ゴトでもやりやがったのかと胸倉を思わず掴んでしまった乃亜。でも即座に手首を強めに掴まれてめちゃ痛かった。ごめんて。

 

「──────ぎゃああぁぁぁぁぁぁぁぁ1500Gぅぅぅぅぅぅ!!??!?!?」

 

 人生で一度も見たことの無い上乗せに狂喜乱舞する姿のせいか、その日のカジノルームには誰一人も近づかなかったという。そして乃亜は冥王神を信仰することに決めたという、後日坂柳へ旨を熱く語ると、何も言わずに汚物を見る目で睨まれるだけだった。

 ……………………そして22時50分ピッタリに、乃亜は時計も見ずに「もう閉店かー」とか言い始める。

 危ない人がいるとでも通報を受けたのか、乃亜を監視していた茶柱。

 そして乃亜は、完全に癖で、後ろに控えていた茶柱がてっきりメダルの交換に来ていたのかと勘違いしていた。でもウキウキだったので何一つも気が付いていなかったのだ。

 絶望が待ち受けていることを、ウッキウキのワクテカ少年は気が付かなかった。

 

「えっへへ〜! せんせいっ、せんせいっ! 見てくださいなこのドル箱を!! すっごいっすよね~! 万枚には届かなかったっすけど、でも…………あはぁ…………新記録っすよ新記録! 冥王さまでは新記録なんすよ!! ……ふぅ……それでそれでっ? 交換レートはおいくつでーすかっ!!」

「交換など無いが」

「高育ゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 乃亜はこの日、人生初の台パンを覚えた。

 


 

 乃亜は朝早くから、船上デッキの柵へ肘を掛けながら、大海原を無感動に眺めていた。

 景色を見るだけじゃつまらない。乃亜はやっぱり大自然には圧倒されなかった。人の意思が作り出した建造物なんかの方が見応えがある。……特に競馬場とか競艇場とか競輪場とかね!

 ボートを走らせたら楽しいのかなとか、自分なら海をどう楽しむのか思いを馳せていれば、隣から嫋やかな声が掛けられる。

 

「何か見えますか?」

「島」

 

 ひよりに柔らかく問われて、端的に返した。

 あれは無人島、だろうか? 生憎ながら乃亜に判断はつかない。なにせそういった建築やら地学的観点やらを持ち合わせていない。ドデカい灯台でもあれば分かりやすいというのに、坂柳から借りた本は大抵が冒険譚やらの男子ワクワク系だったのが悔やまれる。

 無知の乃亜には専門知識など無い、が───無知な乃亜にだって直感というものがある。

 

「手入れされてそーな島、見っけたー」

「手入れ……ですか」

 

 草木の生え方、浜の漂流物、岩壁の壊れ方───とか?

 

「直感だけどな、細かい部分に色の名残りみたいなのが見える」

「なる、ほど……?」

「あー、人工物っぽいのあんじゃん」

「……あの、乃亜君、少し聞きたいことが」

 

 ひよりが乃亜へ何かを聞こうとしていた時、船内全体に響き渡る一つの報せ。

 やたらと音の大きなそのアナウンスは、各生徒の自室でも鳴らされているんじゃないか、そんな色がしている。目覚ましの意味合いもあるのだろうか。

 

『生徒の皆様にお知らせします。お時間がありましたら、ぜひデッキにお集まりください』

「だってさ」

「そうですね」

 

 ひよりと顔を見合わせながら、2人で静かにアナウンスの続きへと耳を傾ける。

 

『間もなく島が見えて参ります。暫くの間、非常に意義ある景色をご覧頂けるでしょう』

「だってさ」

「そうですね」

 

 全く同じ会話を繰り返したのがちょっとだけ楽しくて、2人で小さく微笑み合った。

 潮風が吹いて、ひよりの白い絹糸のような長髪が、乃亜の頬に触れる。

 乱れていく白髪に思わず目を瞑ってしまったひよりを見て、慌てたような様子が微笑ましく感じた乃亜は、咄嗟に左手で彼女の髪を受け止めた──────そのまま、ひよりの頬へと寄せてあげた。

 ひよりは乃亜の手を取って、自らの頬へ押し付ける。

 白い肌と髪の隙間から覗けた嬉色が、彼女の心身には淡く灯っていた。

 

「ヘアゴムとか付けないんだ」

 

 首に少しだけ触れている左手の小指が、ひよりの小さな脈動を乃亜へと伝えてくる。

 くすぐったそうに笑う彼女が、背景の水平線よりも、綺麗なように思った。

 人間は自然に圧倒される。だが人間は人間へ、情熱を覚えるように設計されているのだと思う。

 ()は生きていることの証だ。ソレがあるからこそ、きっと、乃亜は人が好きなのだ。

 それが例え──────悪魔を笑わせようとする、壊れた女だったとしても。

 

「乃亜君は、髪を結んだ方が好きですか?」

「あー……考えたことも無かったな」

 

 坂柳は結んでいたが───……痛ぇ、いやまったく痛くないけれど。

 

あに(なに)

「他の女の子を考えちゃ、めっ、ですよ」

 

 小さく笑って乃亜の頬をつまんで、笑みを浮かべながら可愛く睨みつけるなんて器用な真似を披露する。つか何でバレた。

 

「乃亜君の目の前にいるのは私なんですっ。坂柳さんじゃないんですよ?」

「……怖っ」

 

 いたいけな少女の表情を見せてくれるかと思えば、こちらの中身を見通すような聡明さを突然見せつけて、時として───壊れた色で乃亜を誘う。

 やっぱり椎名ひよりの考えていることは分からない。

 でも、とりあえず思うのは、一つ。

 

「ひよりは可愛いな」

「へっ──────…………ふ、不意打ちは……卑怯、ですよ」

 

 先程よりも濃い赤色を、ひよりが見せてくれている。口元がにやけようとするのを抑えようとして、両手で頬を必死に下げようと頑張る姿が、小動物のようでとっても可愛かった。

 この可愛い顔が見れるのなら、今の関係が続いてくれるのは、嬉しい乃亜だ。

 

「んで、ひよりは今回どうすんの」

「……そうですね……龍園君次第ですが、基本的には様子見に徹しようと思います」

 

 ひよりの色に嘘の気配は感じられない。龍園の差し金の探りの意図すらないのなら、ここらで少し距離を取っておいた方がいいだろう。アナウンスに起こされた生徒たちで船上デッキは溢れかえる、乃亜との逢瀬を目撃されるのは、彼女の立場に悪影響だ。

 

「それに、運動は苦手ですから」

「知ってる」

「……えっち」

「は? …………アホか! そういうんじゃねぇからね!」

 

 なんで乃亜が悪いみたいな顔をして、拗ねたように呟いているのかこいつは。

 人の気配が近づいてくる前に、そんな健全なのか不健全なのか分からない会話をして、ひよりから距離を取る。

 乃亜の推測が正しければ、まともに食べる機会は今の内だ。……いつもの人読みではないから、島に見えた()の精度に関しては普段よりも自信は無いが、状況を繋げていけば凡そは読めそうなもの。腹に何か軽食でもぶち込んでおこうと、乃亜は船内へ向かって歩いていく。

 ふと、今の自分を取り巻く状況を思い返す。

 

 ───……あれっ、今の俺、クソ親父の足跡辿ってね?

 

 女と賭け事に手を付けているが、いるのだが、えっと、うん、まああれだ。

 ……煙草と酒だけは絶対に避けておこう。燦燦とした太陽から逃げるように室内へと入っていく乃亜は、己へと肝に銘じたのだ。

 


 

「あー……──────これ勝った」

 

 Dクラスの面々が初期支給の品々を確認しているその後方。

 集団から少し離れたところで、茶柱へと何かしらのルール確認? をしていた佐々木は、オレの隣へ戻って来た瞬間、そう呟いていた。

 絶対など存在しない、確率がどれだけ低くても、確率がどれだけ高くても、0%と100%はあり得ないと以前どこかで佐々木は熱弁していた。大当たり濃厚は濃厚なだけで、虹が紫へ降格されることもあるとか、意味の不明なことを言っていた気がする。

 そんな佐々木が、()()()と述べていた。

 

「さて……この特別試験、賭博プリンスはどう動くつもりなんだ?」

「ハッ! 古い古い! 古臭くってカビだらけな二つ名だぜ!」

 

 ルールの説明を受けてから、佐々木は高い確率での勝利を確信していたように思う。

 このやたらと元気な賭博プリンスも把握しているとは思うが、Dクラスには、Cクラスに対して強い効力を発揮する仕込みがある。

 そしてこの試験では、学力ではなく、思考の機転力とも呼ぶべき部分が重視されるだろう。

 その手の土壇場アドリブ勝負など、この男が喜ばないわけが無い。説明中の時点で目に見えて楽しそうにしていた、走り出しかねないほどだった、というか数ミリくらいはジャンプしていた、あれだけにモチベーションが上がっている佐々木乃亜が全力で臨まないはずがない。

 

「時代はいつだって光の速度で移り変わる。それは人の価値観とて同様に。……俺もその一つなのさ」

「堀北、分かるか?」

「きっと同じ位階じゃないと通じない言葉なのよ」

「つ、ま、り、だ! ───この島にいる間に限り、俺を賭博プリンスとは呼んでくれるなよ」

 

 そして、たった今、茶柱へ確認した事実を以て照らし合わせてきたのだろう───勝ち確だと、顔が告げていた。もう佐々木は、このゲームの最終的な勝者がDクラスである事を確信していた。勝てるという見込みを得たのではなく、確定事項として宣言できるレベルでそう考えていた。

 ……圧勝の要素が揃い過ぎていて逆に怖くなってきたのか、不安そうな顔を急に覗かせる。佐々木曰く、投資1000で閉店までジャカポコ銀球を出し続けていた後は、理由の無い恐怖に襲われるらしい。謎に勝ち過ぎると「今日で俺は死ぬんじゃないか?」となる現象らしい。知らないが。

 

「バ……バカな……! お……おまえは賭博プリンスだろ!?」

 

 最近読んだ漫画のセリフを返せば、ノリの良い()()()()()()佐々木は、ニヤリと笑みを返した。

 その無言が答えだった……そうだろう、少年漫画が好きそうなお前が知らないとも思えないからな。

 

「ち……違うのか……!?」

「醜悪な茶番ね」

 

 堀北は無視だ。というよりお前も読んでおいた方がいい、アレは普通に面白すぎるぞ。

 日本男児の義務教育とも呼ばれる、少年漫画のレジェンドにして金字塔。……池に勧められたが、読んでいてよかった。ちょっとウキウキしてる自分を感じる気がする。セリフ再現とはこうも面白いのか。

 そして佐々木は、自信に満ちた笑みを浮かべ。

 自らを親指で示しながら、こう告げた。

 

「俺は──────投資プリンスだ」

 

 長期の仕込み、短期の仕込み、全てが偶然にも、そして芸術的なまでに噛み合った今こそ、Dクラスは大いなる追い上げを見せつける。

 今回は、ギリギリをせめぎ合う楽しさではないのだろう。

 今回は、全てを蹂躙する爽快な楽しさが待っているのだろう。

 その第一歩目に、佐々木は意気揚々とした声で高円寺を呼び掛けた。彼は佐々木の声を待っていたかのように、不敵に笑い、共犯の意を示してくれた。面倒な性質そうな高円寺の興味を引けるのなら、きっと佐々木の策には面白い過程と結果が待ち受けている筈だ。

 高円寺を伴って、佐々木が再び茶柱の元へと向かったその時──────

 


 

「先生、ちょっと内緒話気味でお願いしたいんすけど……」

 

 ──────俺の保留内のデュランダルは、変動を開始した。

 

「Dクラスの()()()()()()()()でやっちゃってくれません? ホラ早く! 誰かに気づかれる前に! 有無を言われる前に! やっちまえば文句が出てもどうとでもなるからぁ!!」




何故か置いてあるハーデスは坂柳父からの小さな感謝、的な。
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