織田家の嫡子~藤左衛門家の特異点   作:デトロ!開けろイト市警だ!

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017治部の鉄砲隊

俺は、布を外した。

 

作業台の上に置いた試作火縄銃が、昼の光を鈍く返す。

 

十兵衛が最初に目を細めた。

左近将監は、その半歩後ろで、銃全体の形を見た。

半兵衛は言葉より先に、横へ置いた革具の方へ目をやる。

慶次郎は面白そうに。

助右衛門は無言で。

 

いい。

全員、ちゃんと見る奴ばかりだ。

 

「治部様」

と十兵衛。

「また何か始められましたな」

 

「また、で片づけるなよ」

俺は銃床を軽く叩いた。

「今回はだいぶ真面目だぞ」

 

「前回までが不真面目だったようにも聞こえます」

と半兵衛。

 

「そこまで言ってない」

 

「治部殿」

と慶次郎が口元を上げる。

「面白ければだいたい真面目です」

 

「お前は黙ってろ」

 

左近将監が、ようやく口を開いた。

 

「銃床が長いですな」

 

「そこだ」

俺は頷いた。

「今の火縄銃、もちろん撃てないわけじゃない」

 

「はい」

「だが、構えが安定しにくい」

「……」

「どうせならもっと肩へ当てて固定したい」

 

俺は銃を持ち上げ、右肩へ当てる形を見せた。

 

今の火縄銃は、頬付けや肩付けの概念が薄い。

当たらないわけじゃない。

だが、素人に持たせた時、腕と胴だけで支える形になるから、ぶれやすい。

 

「こうやって肩へ預ければ」

俺は言う。

「発射時の衝撃を腕だけじゃなく、体全体で支えられる」

 

「うむ」

左近将監が頷く。

「理にはかなう」

 

「ですが」

と十兵衛。

「今の足軽用の肩当てでは、邪魔になりますな」

 

「そう」

俺は横の革具を取った。

「だから、こっちも用意した」

 

慶次郎が身を乗り出す。

 

「革か」

 

「肩当てだ」

俺は示した。

「今までみたいに固く張り出させない。肩へ平たく当たるよう、ここの部分を革に置き換える」

 

「……」

「撃つ時に銃床が邪魔されにくい」

 

半兵衛が、その革具を手に取った。

 

「軽いですな」

「鎧そのものを全部変える気はない」

「はい」

「だが、鉄砲足軽だけは別にしていい」

「……」

「十人でも二十人でも、型が違えば結果も違う」

 

左近将監が、そこで銃の先を見た。

 

「こちらは」

 

「照星」

と俺。

「こっちは照門」

 

銃身の先。

その後ろ。

小さな出っ張りと切り欠き。

 

いわゆる狙いを付けるための目印だ。

現代じゃ当たり前すぎて空気みたいな部品だが、この時代の人間からすると、そこへ細工を入れる発想自体が少し外れている。

 

十兵衛が、今度は本当に黙った。

 

左近将監も無言だった。

 

その顔を見て、俺は少しだけ笑う。

 

「何だよ」

 

「いえ」

と十兵衛。

「鉄砲の素人が、そこへ気づくかと思いまして」

 

「左近将監も同じ顔してるぞ」

 

左近将監は、そこでようやく少しだけ口元を動かした。

 

「正直に申せば、はい」

「だろうな」

「銃床を伸ばし、肩へ預ける。照星と照門で、狙いを揃える」

「……」

「しかも、鎧の肩当てまで先に潰してくる」

「そこは邪魔だからな」

 

「そこまで先に考えるのが」

左近将監は低く言う。

「治部様らしい」

 

「褒めてるか?」

「かなり」

 

慶次郎が笑う。

 

「さすが主に選んだだけはある、って顔してるぞ、二人とも」

「お前、いちいち言葉にするなよ」

 

「だが、そうでしょう」

と半兵衛が静かに言う。

「鉄砲の形だけではなく」

 

「……」

「疑似撤退で敵を引き込み、その先で横から撃つ。さらに狙いが付けやすい型にする」

「……」

「そこまで一つに繋がっているなら、感心もします」

 

助右衛門が、短く言った。

 

「嫌な主だ」

「お前までそう言うか」

「だが、良い」

 

まあ、そう返ってくるなら悪くない。

 

「で」

と俺。

「試すぞ」

 

試射場は、光明寺城の外れにある空き地を簡単に整えたものだ。

大げさなものじゃない。

だが、今の段階で形を見るには十分だった。

 

最初に撃ったのは、十兵衛と左近将監だ。

 

この二人は、出来て当たり前の側の人間だ。

鉄砲そのものに慣れているし、腕もある。

だから、この二人だけで判断すると危ない。

 

それでもまずは、基準が要る。

 

十兵衛が撃つ。

左近将監が続く。

 

音が抜ける。

煙が広がる。

的板に当たる。

 

二人とも外さない。

 

「どうだ」

 

十兵衛が銃を一度見てから言う。

 

「狙いやすくはなりました」

 

「うむ」

左近将監も頷く。

「かなり」

 

「だが」

と十兵衛。

「腕の良し悪しで、どこまで変わるかは正直まだ分かりませぬ」

 

「左近将監も?」

「同じにございます」

 

慶次郎が、その横で笑った。

 

「そりゃそうだろ」

「何が」

「二人とも、出来て当たり前だからなあ」

「……」

「名手に“当たりますか”って聞いても、そりゃ“当たる”としか言わん」

 

たしかにその通りだ。

 

俺もそこは最初から分かっていた。

だから、本命は次だ。

 

「じゃあ、素人でやる」

 

十兵衛と左近将監が、そこで揃ってこっちを見た。

 

「素人」

 

「そう」

俺は頷く。

「そこが知りたいんだろ」

 

「……」

「当たって当たり前の名手が当てやすい、じゃ足りない」

「……」

「腕のない足軽が、どこまで当てやすくなるかが要る」

 

半兵衛が、小さく息を吐いた。

 

「やはり、そこへ行かれますか」

「行くよ」

 

「そうでなくては」

と左近将監。

 

そこで、鉄砲持ちに上げるにはまだ少し早い、訓練中の足軽を三人出させた。

 

みんな、慣れてはいない。

手もぎこちない。

火縄を扱うのもまだ少し怖がっている。

だが、それでいい。

今、見たいのはそういう手だ。

 

まずは従来の型。

次に改造後。

 

同じ距離。

同じ的。

 

最初の何発かで、空気が変わった。

 

十兵衛が黙る。

左近将監も黙る。

半兵衛まで目を細めたまま口を閉じる。

慶次郎は、途中から笑いを引っ込めた。

助右衛門だけが最初から最後まで同じ顔だが、あいつはあれでちゃんと見てる。

 

素人の弾が、前よりまとまって的へ入る。

 

劇的、とまでは言わない。

火縄銃だ。

天候もある。

火薬の癖もある。

それでも、違いは誰の目にも分かった。

 

「……かなり」

と十兵衛が、ぽつりと言った。

 

左近将監が続く。

「命中率が、目に見えて違いますな」

 

「だろ」

 

「ええ」

左近将監は、そこで銃床へ指を当てた。

「肩へ預ける。照星と照門で、見る場所を一つにする」

 

「……」

「素人でも、やるべきことが分かりやすい」

 

十兵衛が頷く。

 

「当たる理屈が、型になる」

 

「そう」

と俺。

「そこが欲しかった」

 

半兵衛が、静かに言った。

 

「訓練も揃えやすいですな」

「うん」

「教える言葉が減る」

「それもある」

 

「それは大きい」

と十兵衛。

「出来る者の勘に頼らず、“この形で持て”“この二つを揃えろ”で済む」

 

慶次郎が、そこでようやく笑い直した。

 

「決まりだな」

「何が」

「治部家の火縄銃の形だよ」

 

助右衛門が、短く言う。

 

「良い」

「お前、そればっかりだな」

「良いものは良い」

 

左近将監が、改めて俺へ向き直った。

 

「治部様」

「何だ」

「これを正式に」

 

「採る」

俺は即答した。

「治部家の火縄銃はこの形で行く」

 

「承知しました」

 

十兵衛も深く頷いた。

 

「鉄砲隊の育成も、この型に合わせて進めます」

「頼む」

「は」

 

その瞬間だった。

 

大げさな軍議でもない。

上総介兄上の前で置かれた裁定でもない。

ただ、試射場で、煙の向こうに的板が残っていて、素人足軽の弾が前よりずっと集まった。

 

それだけだ。

 

だが、それで十分だった。

 

治部家の火縄銃の、正式採用の形が決まった瞬間だった。

 

俺は、作業台の上の一挺をもう一度見た。

 

銃床を伸ばす。

肩へ預ける。

肩当ては革にする。

照星と照門を付ける。

 

後の世から見れば、当たり前みたいな話だ。

だが、当たり前は、今この時代ではまだ当たり前じゃない。

 

その差を埋めるだけで、戦は少し変わる。

 

「よし」

 

そう言うと、慶次郎がすぐ口元を上げた。

 

「また匂ってきたな」

「何がだよ」

「手柄首だよ」

「お前、本当にそれしか言わねえな」

「だが、当たる鉄砲は良い」

「さっき助右衛門が言ってたぞ」

「なら、良い言葉なんだろ」

 

十兵衛が小さく息を吐く。

左近将監は、ほんの少しだけ笑った。

半兵衛は、次の必要数をもう頭の中で数えている顔だ。

助右衛門は黙っていたが、悪くない顔だった。

 

火縄の煙はまだ少し残っていた。

その薄い煙の向こうで、俺は思った。

 

悪くない。

いや、かなりいい。

 

戦の形ってのは、評定だけで変わるわけじゃない。

こういう、小さな改造と、それを当てる足軽の手で変わる。

 

そして、そういう変わり方は、たぶん思っている以上に強い。

 

 

俺が清州城へ上がった時点で、たぶん半分ぐらいは見世物だった。

 

悪い意味じゃない。

むしろ上総介兄上がそういう場を嫌がらない以上、良い意味だ。

 

新しく拾った人間。

新しく形にした武具。

それを一門の若が「こう使えます」と持ってくる。

上総介兄上が面白がらないはずがない。

 

広間へ入ると、上総介兄上と勘十郎兄上が並んでいた。

 

この二人が並んでいると、今の織田がただの寄せ集めじゃないとよく分かる。

片方だけなら尖りすぎる。

片方だけなら収まりすぎる。

だが、二人が並ぶと、ちょうどいい張りになる。

 

「治部大輔」

と上総介兄上。

 

「は」

 

「今日は人か」

兄上の目が、俺の後ろへ流れる。

「それとも物か」

 

「両方です」

 

その返しに、勘十郎兄上が少しだけ笑った。

 

「欲張ったな」

「欲張れるうちに欲張っておかぬと、家が痩せます」

 

「言うようになった」

と勘十郎兄上。

「で、まずは人か」

 

「はい」

 

俺は一歩退いて、後ろの三人へ目をやった。

 

十兵衛。

半兵衛。

左近将監。

 

慶次郎と助右衛門はもう別の意味で顔が通っている。

今日は新しく筋を通すべき三人を前に出す。

 

十兵衛が、最初に進み出た。

 

「明智十兵衛にございます」

 

礼が深い。

だが、媚びてはいない。

こいつはこういう男だ。

本家の広間へ出ても、最初から筋を通した形で立てる。

 

「治部大輔の側へ入るとのこと」

と上総介兄上。

 

「は」

十兵衛は静かに答える。

「治部様の打つ手は、戦と政を一つの流れにまとめておいでです」

 

「……」

「ならば、その流れを家の形へ落とす者が必要と考え、仕えることを決めました」

 

上総介兄上の口元が、ほんの少しだけ動いた。

 

面白がっている時の顔だ。

 

次に半兵衛。

 

「竹中半兵衛にございます」

 

こっちは十兵衛ほど表へは出ない。

だが、引いてるわけでもない。

必要なだけ前へ出て、余計なところは引く。

その引き算が上手い。

 

「お前は何を見た」

と勘十郎兄上が問う。

 

「築く方にございます」

と半兵衛。

「壊すだけなら、武辺は多い」

 

「……」

「ですが、治部様は壊した後に何を置くかまで先に考えておいでだった」

「……」

「墨俣もそうです。ならば、働くに値します」

 

勘十郎兄上は、それに頷いただけだった。

だが、頷き方が悪くない。

 

最後に左近将監。

 

「滝川左近将監一益にございます」

 

左近将監が座を打った瞬間、広間の空気が少しだけ変わった。

知っている者は知っている。

知らぬ者でも、座り方で分かる。

 

浪人をして、一族ごと抱え、なお崩れずにここへ来た男だ。

 

「左近将監」

と上総介兄上。

「一人ではなく、一族ごと入ったそうだな」

 

「は」

「苦しかろう」

 

左近将監は、そこで少しだけ口元を動かした。

 

「苦しくないと申せば嘘になります」

「……」

「されど、治部様はそれを承知で抱えてくださいました」

「……」

「その裁量に恥じぬよう働きます」

 

「よい」

と上総介兄上。

 

短い。

だが、それで十分だった。

 

勘十郎兄上が、その横で言う。

 

「なかなか濃い顔ぶれだな」

 

「ありがたいことに」

と俺。

 

「ありがたいで済ませるな」

と兄上は笑う。

「お前の周りだけ、だんだん別の城みたいになってきておる」

 

「別の城にする気はありません」

「だが、別の色にはなる」

「それは否定しません」

 

そこで上総介兄上が、視線を少し横へやった。

 

「で、物の方は」

「こちらです」

 

合図すると、運ばせていた火縄銃と足軽鎧を前へ出す。

 

布を外した瞬間、勘十郎兄上の目が先に動いた。

 

「長いな」

 

「銃床です」

と俺。

「伸ばしました」

 

「肩へ当てるためか」

「はい」

 

やっぱり早い。

勘十郎兄上は、こういう物の理屈も飲み込むのが早い。

 

俺はそのまま、一挺を持ち上げて見せた。

 

「今の火縄銃でも当たらぬわけではありません」

「うむ」

「ですが、腕だけで支える形になりやすい」

「……」

「そこで、右肩へ預ける。体全体で固定する。そうすると、ぶれが減る」

 

「なら、鎧が邪魔だな」

と上総介兄上。

 

「そこも潰しました」

俺は横の足軽鎧を示した。

「肩当てを革へ置き換えています。固く張り出させず、平たく肩へ当てる。これなら銃床が逃げにくい」

 

勘十郎兄上が、鎧を見て頷いた。

 

「なるほど。鉄砲足軽だけは分けるわけか」

「はい」

「全員の鎧を変える必要はありません。撃つ者だけでいい」

 

上総介兄上は、そこで火縄銃の先と後ろを見た。

 

「これは何だ」

「照星と照門です」

 

一瞬、広間が少し静かになった。

 

先日試射場で、十兵衛と左近将監がしたのと同じ顔を、兄上たちもした。

つまり、鉄砲の素人がそこに気づくか、の顔だ。

 

「先と後ろで、見る場所を揃えます」

と俺。

「撃つ時に、どこを見ればいいかが分かりやすい」

 

「……」

「名手なら勘でやれます。ですが、欲しいのは素人足軽でも当てやすい形です」

 

そこで、半兵衛が一歩前へ出た。

 

「上総介様、勘十郎様」

「うむ」

「比較の結果を申し上げます」

 

来たな、と思った。

 

こういう場で、俺が全部を言い切るより、半兵衛が数字と結果を持って出た方が筋がいい。

それを分かってるから、あいつを連れてきた。

 

「従来型と新型で、試し撃ちをしました。名手である十兵衛殿と左近将監殿では、“狙いやすくはなったが、腕の良し悪しでどこまで変わるかはまだ分からぬ”との見立てでした」

「うむ」

 

上総介兄上は、それだけで半分読んだ顔をした。

 

「つまり」

と勘十郎兄上。

「出来て当たり前の者では、差が測りにくい」

 

「その通りにございます」

と半兵衛。

「そこで、訓練中の足軽に撃たせました」

 

「……」

「結果、新型の方が命中率はかなり上がっております」

 

「かなり、か」

と上総介兄上。

 

「はい」

半兵衛は静かに続ける。

「劇的というには火縄銃そのものの限界もございます。ですが、教える言葉が減る。持つ形が揃う。見る場所が揃う。そのため、素人ほど結果が安定しました」

 

十兵衛が、そこで一言添えた。

 

「勘に頼る武器から、型へ寄せられます」

 

左近将監も頷く。

 

「数が少ない今のうちに、型を作るには良い形かと」

 

上総介兄上は、そこでようやく笑った。

 

「なるほどな」

 

短いが、これも悪くない時の笑いだ。

 

勘十郎兄上が、俺を見る。

 

「治部大輔」

「は」

「お前、これを自分の家だけで済ませる気ではあるまい」

「ありません」

「だろうな」

 

俺は素直に答えた。

 

「治部家でまず型を作ります」

「……」

「ですが、効くと分かったものは、本家でも徐々に採っていただきたい。鉄砲足軽用として、まず少数から」

 

上総介兄上は、火縄銃を手に取り、肩へ当てる形を少しだけ試した。

 

その姿が妙に似合う。

似合うというか、こういう新しいものを試してる時の兄上は、やっぱり兄上だと思う。

 

「勘十郎」

「は」

「急には広げぬ」

「はい」

「だが、広げぬ理由もない」

「……」

「本家でも、徐々に採るぞ」

 

そこで広間の空気が、少しだけ変わった。

 

決まった。

 

いきなり全軍じゃない。

だが、そういう決め方の方がむしろ良い。

本家で漸次採用。

つまり、奇策ではなく標準へ近づく。

 

「鉄砲隊はまだ少ない」

と勘十郎兄上。

「なら、なおさらだ」

 

「はい」

「少ないうちに型を叩き込め。その上で、出来た者から増やす」

「……」

「治部大輔、お前の側でまず育てろ」

「はっ」

 

十兵衛が静かに頭を下げる。

 

「承知しました」

 

左近将監も続いた。

 

「治部様の側で、まず芯を作ります」

 

上総介兄上は、それを聞いてから俺を見た。

 

「人も拾う。物も変える。しかも、拾った人間へちゃんと役を振る」

「……」

「面白いな、お前は」

 

それは褒め言葉だ。

この兄上の口から出る時は、だいたいそうだ。

 

「ありがたきことにございます」

 

「ありがたがるだけで終わるな」

と勘十郎兄上。

「もっと働け」

 

「そのつもりです」

 

「よろしい」

と上総介兄上。

 

そこで話は決まった。

 

新しく入った三人は、正式に本家の前で顔が通った。

新型火縄銃と新型足軽鎧も、本家の前で形と理屈が通った。

そして、治部家だけの思いつきではなく、織田本家でも徐々に採ると決まった。

 

悪くない。

いや、かなりいい。

 

広間を出る時、慶次郎が横で小さく言った。

 

「治部殿」

「何だ」

「また匂ってきたな」

「何がだよ」

「手柄首だよ。しかも、今度は鉄砲の匂いが混じってる」

「お前は本当にそれしか言わねえな」

 

「だが、当たる鉄砲はいい」

と助右衛門。

 

「それもさっき聞いた」

 

半兵衛はもう次の数を頭の中で数えてる顔だった。

十兵衛は、どこで誰へ見せるかまで考えてる顔。

左近将監は、育てる足軽の肩と手の形を思い描いてる顔だ。

 

そういう顔が並んでいるのを見ると、思う。

 

やっぱり、悪くない。

人を拾って終わりじゃない。

形を作って終わりでもない。

それが本家の前で筋になった時、初めて家の力になる。

 

今回は、そこまで行けた。

 

 

火縄の音が、乾いて抜けた。

 

数はまだ少ない。

十人にも届かないくらいだ。

撃って、火を継いで、また構える。その動きもまだぎこちない。

だが、前より形になっている。肩へ預ける持ち方も、見る場所も、少しずつ揃ってきた。

 

俺は、小田井の城近くの訓練場で、その様子を見ていた。

 

後ろには、十兵衛。

左近将監。

半兵衛。

慶次郎。

助右衛門。

 

今の俺の手元で、武と知の骨になる連中だ。

 

「まだ少ないですな」

と左近将監が言った。

 

「少ない」

俺は素直に頷く。

「少ないが、少ないからこそ型を仕込める」

 

十兵衛が、その横で静かに足軽たちを見る。

 

「撃てる者、ではなく、撃ち方を揃えた者、ですな」

 

「そう」

俺は言う。

「そこが欲しい」

 

半兵衛は、少し引いた位置から訓練場全体を見ていた。

あいつは、人より先に流れを見る。

誰が火を継ぐのが遅いか。

誰が構え直しで迷うか。

どこで列が詰まるか。

そういうのを、たぶんもう数えてる。

 

慶次郎は、そういう細かいところは左近将監ほど見ていない。

だが、別の意味でよく見ている。

 

「治部殿」

「何だ」

「今でも十分に面白い」

「そりゃどうも」

 

「だが」

慶次郎は口元を上げた。

「その顔は、まだ先を見てる顔だな」

 

助右衛門は何も言わなかった。

言わなかったが、こっちを見る。

 

あいつはあれで、こういう時は本当に黙って待つ。

こっちが何を言うか。

何を背負わせる気か。

そこを聞く顔だ。

 

俺は、もう一度訓練場を見た。

 

火縄。

煙。

ぎこちない足。

けれど、前よりはずっとましな構え。

 

その景色を見ていると、今の十人の向こうに、自然と次の形が見える。

 

「なあ」

俺が言うと、五人とも少しだけこっちへ意識を寄せた。

「今はまだ十人にも届かない」

 

「はい」

と十兵衛。

 

「だが、いずれ千人規模で持ちたい」

 

そこで、まず反応したのは慶次郎だった。

 

「千」

「そう」

「ずいぶん景気のいい話だ」

「景気よくないと、わざわざこんなことしないだろ」

 

左近将監は、笑わなかった。

こいつはそこを冗談として受けない。

 

「千で何をなさるおつもりで」

「まずは、交代撃ちだ」

 

左近将監の目が、少しだけ細くなる。

十兵衛も同じだった。

 

俺は、地面へ足先で軽く線を引いた。

 

「一列が撃つ、下がって弾を込める、後ろが出る、また撃つ、それを回す」

「……」

「雑賀衆や根来みたいに、撃って終わりじゃなく、撃ち続ける隊にする」

 

左近将監が、そこでようやく低く言った。

 

「なるほど」

 

「今でも一発は怖い」

俺は続ける。

「だが、一発で終わるから、まだ突っ込める」

 

「……」

「こっちが途切れず撃てるなら、相手の怖さはだいぶ変わる」

 

半兵衛が、そこで小さく頷いた。

 

「兵站が重くなりますな」

「なる」

 

「火薬、弾、火縄、整備、全部増えます。だが」

半兵衛は続ける。

「回るなら強い」

 

「だろ」

「はい」

「千人規模なら、かなり景色が変わる」

 

十兵衛が静かに言う。

 

「ただ撃つ兵を千集めるのではない」

「……」

「撃つ、下がる、出る、火を継ぐ。その型を千にまで揃えるわけですな」

 

「そう」

俺は頷いた。

「だから今の十人が大事なんだ」

 

慶次郎が、そこで笑いを引っ込めた。

 

「そこへ繋がるのか」

「繋げる」

「千人の鉄砲、しかも交代撃ち」

「……」

「手柄首の匂いどころではないな」

「お前は結局そこなんだな」

「武辺だからな」

 

左近将監は、少し考えてから言った。

 

「雑賀衆や根来のように、でございますか」

「そういう到達点の一つだ」

「ただ、あそこはあそこで、土地も人も積み重ねもあります」

 

「分かってる」

俺は言う。

「いきなり真似できるとは思ってない」

 

「……」

 

「だが、目指すなら高い方がいい。その方が」

俺は少しだけ笑った。

「退屈しないだろ」

 

左近将監の口元が、そこでわずかに動いた。

珍しく、はっきり面白がった顔だった。

 

「たしかに」

 

助右衛門が、その時初めて口を開いた。

 

「千いるなら」

「うん?」

「その前に、寄せる必要がある」

「何を」

「敵をだ」

 

やっぱりこいつは地に足が着いてる。

 

夢を言ってる時に、まず“どう殺すか”の形へ下ろしてくる。

だから助かる。

 

「その通り」

と俺は頷いた。

「撃つ隊だけあっても、相手が散れば意味がない」

 

「……」

「だから、先日話した疑似撤退からの誘因が効く」

 

十兵衛と左近将監が、そこでまたこちらを見る。

 

「崩れたように見せる」

「追わせる」

「伸びたところで左右から撃つ」

「……」

「十字砲火だ」

 

左近将監が、短く息を吐いた。

 

「嫌な主ですな」

「褒め言葉として受け取る」

 

「褒めております」

と十兵衛が静かに言う。

「しかも、その嫌らしさが、一つの勝ち筋として綺麗につながっている」

 

「ただ撃つのではない」

半兵衛も続けた。

「追わせる、伸ばす、崩れたところへ横から火を浴びせる」

 

「……」

「兵站と訓練が間に合うなら、かなり厄介です」

 

慶次郎が鼻を鳴らす。

 

「かなり、で済ませるか?」

 

「あまり大げさに言っても」

と半兵衛。

「まだ十人です」

 

「それはそうだ」

と俺。

「今はまだ、夢を口にしてるだけだ」

 

「だが」

と十兵衛。

「口にした夢が、治部様の場合はそのまま型になりかねない」

 

「評価が高いな」

「事実です」

 

そこまで来てから、俺は少し間を置いた。

 

まだある。

まだ先がある。

 

今の千人規模の鉄砲隊ですら、たぶん周りから見れば十分に大きな話だ。

だが、俺の頭の中ではもう一つ先がちらつく。

 

馬だ。

 

鉄砲と馬。

今の時代の常識からすれば、やりづらい。

やりづらいが、だから面白い。

 

「それで」

と俺。

 

五人とも、またこっちを見る。

 

「さらにその先だ」

 

慶次郎が笑う。

 

「まだあるのか」

「ある」

「言ってみろ」

「騎馬鉄砲隊」

 

そこで、今度はさすがに全員が少し黙った。

 

風が吹く。

訓練場の端で、火縄の匂いが流れる。

足軽の一人が撃って、少し遅れて音が抜けた。

 

その音のあとで、左近将監が最初に口を開いた。

 

「馬上で、ですか」

「馬上で」

「……」

「難しい」

「難しいよ」

「かなり」

「かなりな」

 

「だが」

俺は笑った。

「今目指せる到達点の一つとしては、面白いだろ?」

 

慶次郎が先に吹いた。

 

「はっ。ああ、面白い。馬で寄って、撃って、また離れる。そういうことか。まだ雑だが、絵としては最高だな」

「お前はまず絵で見るからな」

「絵にならぬ戦は、だいたいどこか面白くない」

 

助右衛門が、低く言う。

 

「面白い」

「お」

「だが、まずは足だ」

「うん」

「地で撃てる者を作る」

「そのあとだ」

 

「その通り」

と俺は頷く。

「いきなり馬へ乗せる気はない」

 

十兵衛は、少し考えてから言った。

 

「騎馬鉄砲そのものより」

「……」

「そこまで見ている、ということが大きい」

「どういう意味だ」

 

「治部様は」

十兵衛は訓練場を見た。

「十人の訓練を見ながら、千人の型を考え、その先に、さらに別の運用まで見ておいでだ」

 

「……」

「それを最初から家中へ示しておく意味は大きい」

 

半兵衛も頷いた。

 

「今やることが、どこへ繋がるか分かりますからな。火縄、火薬、馬、飼葉、必要な物の見方が変わる」

「……」

「先の絵があると、裏方も動きやすい」

 

左近将監は、そこでようやく笑った。

 

「なるほど」

「何だ」

「雑賀衆や根来のように、まではまだ遠い」

「はい」

「ですが、その遠さを笑わずに言える主なら」

「……」

「そこへ寄る価値はあります」

 

その言い方が、左近将監らしかった。

 

夢を持ち上げすぎない。

だが、遠いからといって捨てもしない。

現実の足で測った上で、それでも寄る価値があると言う。

 

「治部殿」

と慶次郎。

 

「何だ」

「やっぱり、お前の側は退屈しないな」

「今さらか」

 

「今さらだ」

慶次郎は笑う。

「だが、良い。千人の鉄砲隊、疑似撤退からの誘い込み、十字砲火、その先に騎馬鉄砲」

 

「……」

「一番槍だけでは足りなくなる」

 

助右衛門が、その横で短く言った。

 

「足りぬ方が良い」

「お前らは本当に前向きだな」

 

「治部様が前を見ておられるので」

と十兵衛。

 

「我らも見るしかありませぬ」

と半兵衛。

 

左近将監は、訓練を続ける足軽たちへ目をやった。

 

「まずは、この十人ですな」

 

「そう」

俺は頷く。

「まずは十人。だが、十人を十人で終わらせる気はない」

 

火縄の音が、また乾いて抜けた。

 

少ない。

まだ全然少ない。

けれど、少ないからこそ、先の形がよく見える。

 

今目の前にあるのは、ぎこちない足軽と、新しく長くした銃床と、揃いきらない動きだ。

だが、その向こうには、撃って、下がって、また撃つ千人の列が見える。

追わせて、伸ばして、横から撃ち抜く形も見える。

さらにその先で、馬上から火を吐く景色まで、うっすら見える。

 

夢みたいな話だ。

だが、戦国で一番面白いのは、夢がたまに現実へ寄ってくるところだ。

 

だから俺は、もう一度笑った。

 

「今目指せる到達点の一つとしては、面白いだろ?」

 

今度は、五人とも否定しなかった。

 

 

火縄の乾いた音の脇に、俺は別のものを積ませていた。

 

短い槍だ。

 

いや、槍と言い切るには少し雑かもしれない。

まっすぐか、まっすぐに近い木を選び、先を削って尖らせ、その少し下へ鉄を巻く。

立派な穂先を付けるわけじゃない。

刺して貫くためじゃなく、重さを前へ持たせて、当たった時に鈍く崩すための形だ。

 

その束と、横へ置いた木の道具を見て、慶次郎が先に笑った。

 

「治部殿」

「何だ」

「今度は何を投げる気だ」

 

「その通り」

俺は頷いた。

「投げる」

 

左近将監が、その木具を手に取った。

 

弓ほど大げさではない。

ただの木の腕だ。

投げる時に腕を延ばすように使う、簡素な投射具。

 

左近将監は、しばらく黙ってそれを見た。

 

「なるほど」

 

「早いな」

と俺。

 

「分かりやすいですから」

「……」

「腕を少し長く使うためのものですな」

「そう」

「手で投げるより、少し先まで飛ばしやすい」

「うむ」

 

十兵衛が、その横から短槍束の方を見る。

 

「これは鉄砲までの谷を埋めるためのものですか」

 

「そう」

俺は頷いた。

「鉄砲隊が揃う前の飛び道具だ。弓ではなく、弓は弓で要る。だが、今欲しいのは別だ」

 

「……」

「これはあくまで貫通じゃない。重さで崩す」

 

そこで、助右衛門が短く言った。

 

「相手の陣形か」

「そう。人を一人仕留めるより、槍先の向き、足並み、馬の顔、前列の肩並び、そこを乱したい」

 

半兵衛が、その短槍を一本持ち上げて重さを確かめた。

 

「軽くはないですな」

 

「軽くない方がいい」

俺は言う。

「そして、深く刺さらなくていい」

 

「……」

「まともに飛んできた重い棒が、先頭何列かへまとめて入るだけで、隊列は嫌がる。馬に当たれば馬は暴れる」

「なるほど」

「その一瞬の乱れが欲しい」

 

慶次郎が、そこで笑いを少し引っ込めた。

 

「治部殿」

「何だ」

「殺す武器ではないな」

「そうだよ」

「崩す武器だ」

 

「いいな」

と慶次郎は口元を上げる。

「崩れたところへ、こっちが入れる」

 

「お前はそこしか見てねえな」

「武辺だからな」

 

左近将監は、木具をまだ見ていた。

 

「歩きで使うなら」

「うん」

「それなりに飛ぶでしょう」

「だろうな」

 

「だが」

左近将監は、そこで俺を見る。

「治部様の目は、そこではありますまい」

 

「さすが」

俺は笑った。

「そこじゃない」

 

「騎馬ですか」

と十兵衛。

 

「騎馬だ」

 

そこで、五人の目が少しだけ揃った。

 

俺は短槍を一本取り、手の中で転がした。

 

「軽装にした騎馬へ、これを持たせる」

「……」

「五本か、十本か、まずはそのくらい」

「……」

「鉄砲や弓ほどの精密さはいらない。寄って、投げて、乱して、そのまま抜けるか、別働が食う。五段ぐらいの波状攻撃だ」

 

助右衛門が、そこで初めて少し長く口を開いた。

 

「馬が怖がる」

「そこは慣らす」

「……」

「投げる時に手綱が死ぬ」

「だから軽装だ」

「……」

「日本の鐙なら、踏ん張りは利く。体も残せる。槍で突くのとは違うが、投げる時の支えにはなる」

 

左近将監が、小さく頷いた。

 

「それは、たしかに、完全に不可能ではない」

「うん」

「騎馬で移動しながら、質量武器を撃ち込める利はある」

 

半兵衛は、少し眉を寄せたまま言う。

 

「ただ」

「うん」

「主兵器にはなりませぬな」

 

「ならない」

と俺は即答した。

「そこは最初から分かってる」

 

「……」

「初見か、せいぜい三、四度、そこで相手は警戒する。その後は効きが落ちる」

 

「なら」

半兵衛は淡々と続ける。

「使いどころが全てです」

 

「その通り。初撃、あるいは中盤の一手、そこへ切るなら価値はある」

 

十兵衛が、そこで静かに言った。

 

「つまり、常の武器ではなく、流れを変えるための一手、ですな」

 

「そう」

俺は頷いた。

「崩し札だ。鉄砲隊が揃うまでの谷を埋める札。しかも、鉄砲とは別の崩し方をする」

 

十兵衛の目が、少しだけ細くなる。

 

「面白い」

「お、乗るか」

 

「発想としては」

十兵衛はきっちり言葉を分けた。

「ただし、型に出来るかが肝です」

 

「……」

「誰でも同じように投げられず、誰でも同じように馬上で扱えぬなら、ただの見世物で終わる」

 

「だろうな」

 

「ですから」

十兵衛は続ける。

「試すなら、まず少数。歩きでも、騎馬でも、投げる間合い、投げた後の崩れ、次動作まで含めて型を見るべきです」

 

左近将監が、それを継いだ。

 

「騎馬に持たせるなら」

「……」

「討ち取るための槍と思わぬことです」

「うん」

「人を一人抜くつもりで使うと外す」

「……」

「前列を嫌がらせる。槍先を揺らす。馬を横へ逃がす。そのくらいのつもりで面へ打つ。それならかなり効く」

 

俺は、そこで笑った。

 

「やっぱりそだよな」

 

「そこです」

左近将監は即答した。

「質量で壊す。初見であれば、なおさら」

 

慶次郎が鼻を鳴らす。

 

「初見なら、なおさら派手に食えるな」

「お前はそこだろうと思った」

 

「いや、これは実際そうだぞ」

慶次郎は少しだけ身を乗り出した。

「騎馬が寄ってくる、槍を構える。だが、こっちが突く前に重い棒がまとめて飛んでくる」

 

「……」

「それで前列が一瞬でも崩れれば、もう十分だ」

「うん」

「その後は、食うだけだ」

 

助右衛門が、低く言う。

 

「良い」

「お前、賛成早いな」

「崩れるなら良い」

「単純だな」

「単純でよい」

「……」

「殺せぬなら駄目だが」

「乱せるなら使える」

「その後に斬ればよい」

 

半兵衛は、そこでようやく少しだけ息を吐いた。

 

「武辺は気楽でよろしいですな」

 

「気楽じゃない」

と助右衛門。

「崩れぬなら死ぬ」

 

「それはそうですが」

 

俺は、地面へ木の枝で簡単な線を描いた。

 

「こうだ」

「こっちが少し引く」

「追わせる」

「伸びる」

「そこへ、横から鉄砲」

「あるいは、その前に騎馬でこれを打ち込む」

「……」

「鉄砲がまだ薄いなら、先にこっちで崩してもいい」

「中盤の一手としても使える」

 

十兵衛が、その線を見る。

 

「疑似撤退からの誘い込みと」

「十字砲火の前段」

「あるいは補助、ですか」

「そう」

「全部をこれでやる気はない」

「……」

「だが、鉄砲隊が千に届くまでの間にも、勝ち筋は増やせる」

 

左近将監が、そこで笑った。

 

珍しく、はっきりと。

 

「治部様」

「何だ」

「やはり」

「何だよ」

「主に選んだだけはある」

「それ、この前も似たような顔してたぞ」

 

「今回もそうです」

左近将監は、木具を置いた。

 

「鉄砲の谷を、ただ耐えるのではなく、別の札で埋めようとなさる」

「……」

「嫌らしくて、非常によい」

「嫌らしいは褒め言葉だな」

「かなり」

 

半兵衛が、そこで現実へ戻すように言った。

 

「ただし」

「うん」

「鉄砲隊の育成を食うなら反対です」

「食わせない」

「火薬、鉄、木工、人足、全部、別勘定に出来ますか」

「ある程度は」

 

「なら」

半兵衛は頷く。

「少数の試験運用ならよろしいかと」

 

十兵衛も続く。

 

「歩兵用の木の投射具は、さらに安く試せます。騎馬用の重い投槍は」

「……」

「別に選んだ者へ持たせ、初撃と中盤の崩し札として試す。その結果を見る。それが筋でしょう」

 

慶次郎が笑う。

 

「結局、やるんじゃないか」

 

「やる」

と俺。

「やるが、少数でだ」

 

「それでいい」

慶次郎は肩を竦める。

「最初から大軍へ配る話でもあるまい」

 

「うん」

「当たって崩れるなら、あとで勝手に増える」

「雑だなお前は」

「だが間違ってないだろ」

 

そこは、たしかに間違っていない。

 

助右衛門が最後に一つだけ言った。

 

「馬を選ぶ」

「そこだな」

「怖がる馬では駄目だ。投げたあとも踏み込める馬。それが要る」

 

「分かった」

俺は頷いた。

「なら、人と馬、両方選ぶ。まず少数、鉄砲は本来のまま、その横で、この部隊を作る」

 

火縄の音が、また乾いて抜けた。

 

今の治部家の鉄砲隊は、まだ十人にも届かない。

その少なさは事実だ。

だが、少ないからといって、待つだけでいいとは思わない。

 

待つ間にも、出来ることはある。

鉄砲の先を見ながら、その谷を埋める札を作る。

そういうやり方は、たぶん俺の性に合っている。

 

「よし」

俺は短槍を束へ戻した。

「まずは少数でやる。歩きも、騎馬も、崩せる形だけを残す」

 

「治部殿」

と慶次郎。

 

「何だ」

「また匂ってきたな」

「何がだよ」

「手柄首だよ」

 

「あとは」

慶次郎は笑う。

「敵が嫌がる匂いだ」

 

それには、左近将監も、十兵衛も、半兵衛も、助右衛門も、もう否定しなかった。

 

 

 

 

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