ハイスクール・フリート Cross World War   作:冬吉

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第10話 護衛艦乗員達の困惑

**護衛艦「きりしま」 艦橋**

 

立入検査隊のヘルメットに装着されたカメラからのライブ映像と音声は、データリンクを通じて直ちに「きりしま」のCIC(戦闘指揮所)、そして艦橋の大型モニターへと共有されていた。

 

『は、はい! 私が、横須賀女子海洋学校所属、航洋艦「晴風」艦長の、岬明乃です!』

 

モニター越しに映し出された、緊張で身を強張らせながらも一生懸命に敬礼をする少女。その後ろで怯えたように身を寄せ合うセーラー服姿の乗員たち。

そのあまりにも非現実的で、かつ純粋な光景を前に、「きりしま」艦橋を包んでいた張り詰めた戦闘態勢の空気は、困惑と脱力へと変わっていた。

 

「……本当に、ただの少女たち、なのか……?」

 

艦長の**佐伯1佐**は、モニターを見つめたまま低く唸るように呟いた。長年の海上勤務で数々の修羅場を経験してきた彼でさえ、目の前の映像には頭を抱えたくなるようなシュールさを感じていた。

 

「ええ……。どう見ても、訓練を受けたテロリストや他国の工作員には見えません」

副長の**一ノ瀬2佐**も、信じられないというようにため息をこぼした。

「女性隊員を先行させたのは正解でしたね。あの怯え方……もし男性隊員がフル装備で怒鳴り込んでいれば、パニックを起こして怪我人が出ていたかもしれません」

 

その横で、砲雷長の**松下2尉**が、兵器の専門家としての視点から映像を食い入るように分析していた。

「艦長、副長。信じがたいことですが……あの艦(ふね)、映画のセットや張りぼてではありません。装甲の質感、リベットの打ち方、そして何より12.7センチ連装砲(?)の砲身……全て実弾を撃てる『本物の兵器』です。しかも、信じられないくらい手入れが行き届いています」

 

「本物の陽炎型駆逐艦を、あの中高生のような少女たちが運用していると言うのか? この令和の時代に……」

航海長の**佐藤3佐**が、海図台に手をつきながら頭を振る。

「気象庁の予報にもなかったあの異常な嵐。そして、どこにも存在しない『横須賀女子海洋学校』という所属……。艦長、これは一体どういうことでしょうか」

 

「私に聞かれても困るが……一つだけ確かなことがある」

佐伯はモニターから視線を外し、前方の海面に浮かぶ「晴風」のシルエットを睨み据えた。

「彼女たちが何者であれ、敵意がないことだけは証明された。防衛省や海幕(海上幕僚監部)への報告書はどう書くべきか頭が痛いが……まずは彼女たちを保護するのが先決だ」

 

***

 

**護衛艦「むらさめ」 艦橋**

 

「きりしま」からわずかに離れた海域で警戒にあたる「むらさめ」の艦橋でも、データリンクを通じて送られてくる映像に、艦長の**遠藤拓海2佐(43歳)**が呆気にとられていた。

 

「おいおい……冗談だろう? あの艦、本当に蒸気タービンで動いているのか? 煙突からの排熱、スクリューの推進力……旧海軍の艦そのものじゃないか」

遠藤は双眼鏡を覗き込みながら、苦笑いを浮かべた。

「しかも乗っているのはセーラー服のお嬢ちゃんたちだ。自衛隊の広報映画でも、こんなぶっ飛んだ脚本は書かないぞ。『きりしま』の佐伯艦長も、さぞかし頭を抱えているだろうな」

 

「艦長、周辺海域のレーダーおよびソナー、引き続きクリアです。他国の潜水艦や航空機の反応はありません」

「むらさめ」の部下が報告する。

「よし、警戒は怠るな。だが、あの嬢ちゃんたちにこれ以上のプレッシャーはかけなくていい。砲の指向は外しておけ」

 

***

 

**護衛艦「おおなみ」 艦橋**

 

さらに後方につく「おおなみ」の艦橋。

女性艦長である**新藤エリカ2佐(41歳)**は、モニターに映る神崎3尉の冷静な対応を見て、ふっと安堵の息を漏らした。

 

「神崎3尉、上手くやってくれているわね。彼女たちが完全に武装解除の意思を見せている以上、これ以上の強硬策は不要よ」

 

新藤は、モニターに映る「晴風」の艦長、岬明乃の姿に目を細めた。

「『横須賀女子海洋学校』……。あんなに小さな肩で、本物の軍艦の艦長を任されているなんて。彼女たち、あの嵐の中でどれほど心細かったことか」

 

「きりしま」「むらさめ」「おおなみ」の3隻、そして海中の「とうりゅう」。

第8水上戦隊の全ての目が「晴風」に注がれる中、事態は「交戦」という最悪のシナリオを回避し、「保護」と「対話」という未知のフェーズへと移行しつつあった。

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