ハイスクール・フリート Cross World War   作:冬吉

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第11話 状況把握の為に

護衛艦「きりしま」からやってきた立入検査隊の神崎3尉と向き合いながら、**岬明乃(ミケ)**は必死に頭を回転させていた。

 

(この人たち、横須賀女子海洋学校を知らない……それに、ブルーマーメイドじゃなくて『カイジョウジエイタイ』って名乗ってる。海の安全を守る組織なら、私たち学生の事を知らないなんて絶対におかしい。それに……)

 

明乃の脳裏に、先ほどの通信で「きりしま」の艦長が放った言葉が蘇る。

 

『……現在、日本国内に可動状態の同型艦は存在しないはずだ。』

『……貴艦は現在、日本国の領海付近を航行中であり……』

 

この世界では、日本国土の大半は海に沈んでなどいないのだろうか。

そして、この「晴風」を、学生が乗る航洋艦(教育艦)ではなく、過去の遺物である『駆逐艦』だと呼んだ。

 

(お互いが持ってる『当たり前』が、全然違うんだ……。このままここで通信越しや、神崎さんたちとお話ししてても、きっと平行線のままだよ。だったら……!)

 

明乃は、特有の直感と持ち前の行動力で、一つの決断を下した。

彼女は真っ直ぐに神崎3尉の目を見つめ、キリッとした表情で口を開く。

 

「神崎さん。私たちも、皆さんがどうして私たちの事を知らないのか、ここがどこなのか分からなくて、すごく戸惑ってます。このままじゃ、お互いに誤解したままになっちゃうと思うんです」

 

「岬艦長……?」

神崎が、明乃の真剣な眼差しに僅かに目を見張る。

 

明乃は大きく息を吸い込み、はっきりとした声で宣言した。

 

「だから、お願いがあります! 私を、皆さんの代表……あの『きりしま』の艦長さんのところへ連れて行ってくれませんか! 直接お会いして、目を見て、きちんとお話ししたいんです!」

 

その爆弾発言に、真っ先に反応したのは副長の**宗谷ましろ(シロ)**だった。

 

「なっ……!? か、艦長!自分が何を言っているのか分かっているのか!?」

ましろが血相を変えて明乃の肩を掴む。

「相手の素性も、あの巨大な艦の中がどうなっているかも分からないんだぞ! もし捕虜にでもされたらどうする気だ! 艦長であるお前が敵の手に落ちれば、晴風は終わりなんだぞ!」

 

「ぶち馬鹿なこと言うんじゃないわ、明乃!」

オブザーバーの**ヴィルヘルミーナ(ミーナ)**も、顔を真っ赤にして広島弁で猛反対する。

「わざわざ敵のど真ん中に乗り込むなんて、飛んで火に入る夏の虫じゃ! どうしても行くって言うんなら、わしも付いていくけぇ!」

 

「うぃ……ミケちゃん、心配」

砲術長の**タマ(立石志摩)**も、不安そうに明乃の袖をギュッと握りしめた。

 

「シロちゃん、ミーちゃん、タマちゃん。心配かけてごめんね」

明乃は、みんなを安心させるように、にへらっと柔らかい笑顔を向けた。

「でも、あの人たちは最初に銃を下ろして、私たちに怪我がないか聞いてくれたよ。だから、悪い人たちじゃないって、私の直感が言ってるの! ピンチはチャンス! ここは、海の仲間としてしっかり挨拶してこなきゃ!」

 

明乃の決して揺らがない、太陽のような明るさと決意。

それは、これまで幾度となく晴風の危機を救ってきた彼女の「艦長としての資質」そのものだった。ましろは何か言い返そうと口を開いたが、明乃の真っ直ぐな瞳を見て、深いため息と同時に引き下がった。

 

「……はぁ。お前のその直感と無鉄砲には、本当に振り回されっぱなしだ。……分かった。だが、絶対にお前一人では行かせない。副長である私も同行する。」

「あ、それなら私も行くー! あの灰色の大きな船、中がどうなってるか見てみたいし!」

水雷長の**西崎芽依(メイ)**が元気に手を挙げる。

 

「私も行きます! シュペーの副長として、明乃に何かあったら黙ってはおらんけぇね!」

ミーナも胸を張って一歩前に出た。

 

そのやり取りを静かに見守っていた神崎3尉は、胸元の無線機(インカム)のスイッチを入れた。

 

「……こちら神崎。艦長、現在の状況はモニタリングされている通りです。先方の岬艦長より、本艦の佐伯艦長との直接対談の申し入れがありました。同行者は副長を含む数名……いかがなさいますか?」

 

***

 

**護衛艦「きりしま」 艦橋**

 

モニター越しに少女たちのやり取りを見ていた「きりしま」艦橋は、明乃の予想外の提案にどよめいていた。

 

「敵(?)の旗艦に自ら乗り込んでくるとは……肝が座っているというか、無知ゆえの無謀というか……」

**一ノ瀬2佐**が、呆れたような、しかしどこか感心したような息を漏らす。

 

しかし、**佐伯1佐**の表情は晴れやかだった。

「いや、賢明な判断だ。無線や下っ端の隊員を通じて探り合うより、トップ同士が顔を突き合わせて腹を割って話す。これが最も早く、確実な解決策だ」

 

佐伯はマイクを手に取り、神崎へと指示を飛ばした。

 

「神崎、先方の申し入れを受諾する。岬艦長と、その随伴者の本艦への移乗を許可する。丁重にエスコートし、艦橋下の士官室へ案内しろ。……決して、乱暴に扱うなよ」

 

『了解しました』

 

***

 

「晴風」の甲板。

神崎3尉はインカムから手を離すと、明乃たちに向かって柔らかく微笑み、道を開けるように一歩下がった。

 

「岬艦長。我が『きりしま』の佐伯艦長が、あなた方の訪問を歓迎するとのことです。ボートの定員もありますので、岬艦長、宗谷副長、そしてそちらの……」

 

「ヴィルヘルミーナ・ブラウンシュヴァイク・インゲノール・フリーデブルクじゃ! アドミラル・シュペー副長を務めておる!」

ミーナが堂々と名乗りを上げる。

 

「……ヴィルヘルミーナ副長ですね。では、お三方を『きりしま』へご案内します。足元に気をつけて、ボートへ移ってください」

 

「はいっ! シロちゃん、ミーちゃん、行こう!」

「艦を空けるぞ! 航海長、私と艦長が戻るまで、お前が指揮を執れ!」

「えええええっ!? わ、私がですかぁ!? む、無理ですぅ……!」

泣き叫ぶ**リン(知床鈴)**と、それを慰める晴風の乗員たちに見送られながら。

 

岬明乃、宗谷ましろ、ヴィルヘルミーナの3名は、海上自衛隊の複合型ゴムボートへと乗り込んだ。

目指すは、現代日本の防空の要・イージス護衛艦「きりしま」。

二つの異なる世界線が、ついに一つのテーブルで交わろうとしていた。

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