ハイスクール・フリート Cross World War   作:冬吉

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第14話 それぞれの代表者達

「失礼します!」

 

明乃の元気な声と共に重厚な扉が開かれると、三人は「きりしま」の士官室へと足を踏み入れた。

 

室内は、先ほどまでの無機質な通路とは打って変わり、落ち着いた木目調の壁面と、中央に鎮座する大きな会議用テーブルが目を引く空間だった。壁には「きりしま」の航跡を描いた絵画や、表彰状のような額縁がいくつか飾られている。かすかに漂うのは、淹れたてのコーヒーの香りだ。

 

そしてテーブルの奥には、二人の人物が待ち受けていた。

 

一人は、がっしりとした体格に、短く刈り込んだ白髪交じりの髪。威厳と落ち着きを漂わせる壮年の男性幹部。

もう一人は、一つに結んだ黒髪と理知的な眼差しが印象的な、凛とした佇まいの女性幹部。

 

二人とも、案内役の高橋2曹と同じく青と灰色のデジタル迷彩服を着ており、その襟元には桜星と桜葉を組み合わせた階級章が鈍く光っている。

 

「よく来てくれた」

 

男性幹部が低い、しかしよく響く声で応じ、ゆっくりと立ち上がった。それに合わせて隣の女性幹部も起立する。

 

「私が、海上自衛隊 第8水上戦隊 護衛艦『きりしま』艦長の、**佐伯健二郎(さえき けんじろう)**だ。階級は1等海佐」

佐伯はそう名乗ると、隣の女性を手で示した。

「そしてこちらが、本艦の副長を務める**一ノ瀬理沙(いちのせ りさ)**2等海佐だ」

 

「一ノ瀬です。ご足労いただき、感謝します」

一ノ瀬が軽く会釈をする。その鋭い視線は、明乃たちのセーラー服、そしてそれぞれの立ち振る舞いを静かに、しかし逃さず観察していた。

 

相手が名乗りを終えたのを受け、**明乃(ミケ)**は背筋をピンと伸ばし、右手を左胸に当てるブルーマーメイドの敬礼をピシッと決めた。

 

「横須賀女子海洋学校所属、陽炎型航洋艦『晴風』艦長の、**岬明乃**です! こちらは……」

「副長の**宗谷ましろ**だ」

ましろも明乃に倣い、凛とした態度で敬礼をする。

「そしてわしが、アドミラル・シュペー副長、**ヴィルヘルミーナ・ブラウンシュヴァイク・インゲノール・フリーデブルク**じゃ! オブザーバーとして同行させてもらった!」

ミーナも胸を張り、堂々と名乗った。

 

「岬艦長。宗谷副長。そして、ヴィルヘルミーナ副長だな」

佐伯は三人の名前を反芻するように静かに頷くと、手でテーブルの対面にある椅子を勧めた。

 

「まずは座ってくれ。紅茶でいいかな? 艦内で淹れたものだが、冷えた体には温かいものが必要だろう」

 

一ノ瀬の合図で、部屋の隅に控えていた給仕係の隊員が、湯気を立てるティーカップを三人の前に静かに置いていく。

 

「あ、ありがとうございます……!」

明乃は少しホッとした表情を見せ、椅子にちょこんと腰掛けた。ましろとミーナも、警戒を解ききってはいないものの、勧められるままに着席する。

 

テーブルを挟んで対峙する、二つの世界の海を生きる者たち。

 

佐伯は席につくと、手元のマグカップに視線を落とし、それからゆっくりと明乃たちを見据えた。

 

「さて……。先ほどの通信でも伝えた通り、我々は現在、非常に混乱している。君たちのような年端もいかない少女たちが、実働状態の旧式駆逐艦を運用し、しかも我々の全く知らない『横須賀女子海洋学校』という組織を名乗っているからだ」

 

佐伯の真っ直ぐな言葉に、明乃はカップの縁から顔を上げ、しっかりと相手の目を見つめ返した。

 

「私たちも、同じです。佐伯艦長」

明乃のその声に、怯えはなかった。

 

「私たちも、さっきまで太平洋で通信が途絶えた仲間の船を探していました。でも、急にものすごい嵐に巻き込まれて、気がついたらここにいたんです。レーダーの計器も狂っちゃうし、周りに知ってる船はいないし……それに」

 

明乃は言葉を区切り、真剣な表情で佐伯と一ノ瀬を見た。

 

「佐伯艦長たちは、『カイジョウジエイタイ』と名乗りましたよね? この海を守っているのは、『ブルーマーメイド』のはずです。日本の国土の大部分が海に沈んでから、海の安全を守り続けてきたブルーマーメイドを……どうして皆さんは知らないんですか?」

 

明乃の口から飛び出した「国土の大部分が海に沈んだ」という言葉に、佐伯と一ノ瀬はハッと息を呑み、わずかに顔を見合わせた。

 

「……日本の国土が、海に沈んだ、だと?」

一ノ瀬が、信じられないというように呟く。

 

「はい。およそ100年前の、メタンハイドレートの採掘の影響で……。だから、海運都市がたくさん作られて、航路を守るブルーマーメイドが必要になったって、学校で習いました」

 

明乃のその説明は、佐伯や一ノ瀬が生きる2026年の常識とは、根本から断絶していた。

 

士官室の空気が、さらに一段と張り詰める。

世界の違いを決定づけるパズルのピースが、今、テーブルの上に並べられようとしていた。

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