ハイスクール・フリート Cross World War   作:冬吉

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第17話 晴風全乗員への

護衛艦「きりしま」から発進した複合型ゴムボートが、再び陽炎型航洋艦「晴風」の右舷に横付けされた。

「艦長! 副長! ミーナさん!」

甲板で固唾を飲んで待ち構えていた乗員たちが、舷梯を降りてくる三人へ一斉に駆け寄る。

留守を任され、半泣きになっていた航海長の**知床鈴(リン)**が、**岬明乃(ミケ)**のセーラー服にすがりついた。

「よ、よかったぁ……! 拷問されて塩漬けにされちゃったかと思いましたよぉ!」

「フッ……無事に生還したか、我が艦長。敵の基地(ダンジョン)から無傷で帰還するとは、さすが晴風が誇る勇者だ……」

記録員の**納沙幸子(ココ)**がタブレットを抱えながら大げさなポーズを取る。

「心配かけてごめんね、みんな。……あのね、みんなに、すごく大事なお話があるの」

明乃はリンの頭を優しく撫でると、艦内放送のマイクを握るため、足早に艦橋へと向かった。

**宗谷ましろ(シロ)**と**ヴィルヘルミーナ(ミーナ)**も、沈痛な面持ちで後に続く。そのただならぬ雰囲気に、甲板にいた乗員たちもざわめきながら配置へと戻り、スピーカーに耳を傾けた。

### **【晴風 艦内放送】**

『あー、あー。……晴風のみんな、艦長の岬明乃です』

艦内に響き渡る明乃の声は、いつもの明るさの中に、隠しきれない緊張を含んでいた。

『今から話すことは、すごく信じられないかもしれないけど……全部、本当のことです。落ち着いて聞いてね』

明乃は一つ深呼吸をして、ゆっくりと語り始めた。

『さっきの嵐で、私たちは……違う世界の、未来に飛ばされちゃったみたいなんだ。ここは、私たちがいた2016年から10年後の、2026年の世界です』

その言葉に、艦内の各科から「えっ?」「未来!?」という驚きの声が漏れる。

『……艦長に代わって、副長の宗谷ましろが説明する』

マイクがましろへと渡された。彼女の声は硬く、冷徹な事実を告げる。

『信じがたいだろうが、この世界では、100年前のプレート変動も、メタンハイドレートによる国土の水没も起きていない。日本は巨大な陸地を保ったままだ。……したがって、海の安全を守る「ブルーマーメイド」も、この世界には存在しない』

「ブルーマーメイドが、ない……?」

艦橋で聞いていた水雷長の**西崎芽依(メイ)**が、信じられないというように目を丸くする。

『ブルーマーメイドの代わりにこの海を守っているのが、さっき通信してきた「海上自衛隊」という国家の防衛組織だ。彼らは警察ではなく、"本物の軍隊"だ。……そして、今、彼らの周辺国は一触即発の戦争状態にあるらしい』

『ドイツもじゃ!』

横からマイクを奪い取るようにして、ミーナが声を張り上げた。

『この世界には海洋学校なんて存在せんし、わしの……アドミラル・シュペーは、80年以上前の昔の戦争で、沈んでしもうとるんじゃ! ぶち信じられんじゃろ!?』

艦内は、水を打ったような静寂に包まれた。

「パラレルワールド」や「タイムスリップ」。アニメや小説の中だけの話だと思っていたことが、自分たちの身に起きている。帰るべき世界が、もうどこにもないかもしれないという絶望的な事実。

『うぅ....私たち、これからどうなるの?』

砲術長の**立石志摩(タマ)**が、コンパスを撫でながらポツリと呟いた。その声は、全乗員の不安を代弁していた。

マイクが再び、明乃の手に戻る。

『これから私たちは、海上自衛隊の人たちの案内で、母港の横須賀に向かいます。でも……そこは、私たちの知ってる「横須賀女子海洋学校」じゃありません。自衛隊と、アメリカの軍隊がいる、本当の軍事基地なんだって』

「ぐ、軍事基地ぃ!?」

リンが再び頭を抱えてしゃがみ込む。

「だめだめだめ! そんなところに行ったら、今度こそ大砲の撃ち合いに巻き込まれて沈められちゃいますぅ!」

『てやんでえ!』

伝声管から、機関長の**柳原麻論(マロン)**の怒鳴り声が響いた。

『未来だか異世界だか知らねえが、晴風の機関は絶好調だ! 逃げるなら今すぐ全速力でぶっちぎってやるぜ、艦長!』

「ううん、逃げないよ、マロンちゃん」

明乃は、マイクを両手でしっかりと握りしめ、力強く宣言した。

『この世界のこと、私たちにはまだ全然わからない。でも、あの「きりしま」の佐伯艦長さんは、私たちの話をちゃんと聞いてくれた。傷つけないって、約束してくれた。だから、今は彼らを信じて、横須賀に行くのが一番だと思う』

明乃は艦橋の窓から、前方を航行する巨大なイージス艦「きりしま」を見つめた。

『横須賀に着いたら、船を降りて保護されることになると思う。でも……絶対に、みんな離れ離れにはならない! 私が、艦長として、晴風の家族(みんな)を絶対に守るから! だから、もう少しだけ……一緒に頑張ろう!』

その真っ直ぐで温かい声は、乗員たちの冷え切った心を少しだけ溶かした。

泣きべそをかいていたリンも、小さく「はい」と頷いて操舵輪を握り直す。

「……フッ、我ら晴風の絆は、時空の壁をも越えるということか。望むところだ……!」

ココが眼鏡をクイッと押し上げる。

「よーし! じゃあ軍事基地に着いたら、未来のすごい武器とか見学できるかな!? 楽しみになってきたー!」

メイがコロッと態度を変えて目を輝かせた。

「お前は少し緊張感を持て……」

ましろが頭痛を堪えるようにこめかみを揉むが、その口元にはほんの僅かに安堵の笑みが浮かんでいた。

「きりしま」から発光信号が送られてくる。

『ワレニツヅケ』

明乃は艦長席の前に立ち、前方を指差した。

「リンちゃん、微速前進! 『きりしま』の航跡に続いて!」

「は、はいぃ! 両舷前進・微速!」

「機関、両舷前進微速! ヨーソロ!」

重々しいタービンの唸り音と共に、晴風のスクリューが再び海水を蹴り始める。

晴風の左舷前方には護衛艦「むらさめ」が、右舷後方には「おおなみ」がピタリと追従し、完璧なエスコート陣形が組まれた。さらに前方の海中には潜水艦「とうりゅう」が潜み、遥か上空からはP-1哨戒機が見守っている。

異世界の迷い子となった陽炎型航洋艦「晴風」は、現代の海上自衛隊第8水上戦隊と共に、見知らぬ未来の「横須賀」へ向けて、その歩みを進めていくのだった。

 

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