ハイスクール・フリート Cross World War 作:冬吉
**神奈川県横須賀市・海上自衛隊横須賀基地**
**自衛艦隊司令部**
かつて「鎮守府」が置かれた歴史ある地、横須賀。その中心に位置する自衛艦隊司令部の幕僚室は、かつてない緊張感に包まれていた。
壁一面に設置された大型モニターには、伊豆大島沖を展開する第8水上戦隊のプロット図が表示されているが、今、全幕僚の視線はその隣のモニターに釘付けになっていた。
「……信じられん。これは本当に、今日撮られた映像なのか?」
低く重厚な声を発したのは、自衛艦隊司令官の**松永 正弘(まつなが まさひろ)海将(55歳)**だ。
彼の目の前には、厚木航空基地からデータリンクで転送されてきた、P-1哨戒機による最新の光学赤外線画像が映し出されていた。
「間違いありません、司令官。第3航空群のP-1が高度300から撮影したものです」
情報幕僚の**高城 2等海佐**が、震える指で画面の一部を拡大した。
「艦種は……陽炎型駆逐艦。1940年代に運用されていた旧日本海軍の艦艇と船体形状(ハル・フォーム)が完全に一致します。しかし、細部が……あまりにも異常です」
高城がポインターで示したのは、艦橋のすぐ脇だった。
「ご覧ください。艦橋左右のデッキに、小型の水上バイクが2機搭載されています。さらに、マスト上部……」
モニターがさらに拡大される。
「……これは、わが国の**OPS-20**、および**OPS-28**に酷似した水上レーダーです。アンテナの形状、回転数、掃引されている電波の特性も、我々が運用している航海レーダーや水上捜索レーダーのプロトタイプ、あるいは派生型に近い。旧世紀の船体に、現代の……それも海自の技術に酷似したセンサーが『接ぎ木』されている……」
「『きりしま』からの緊急電も、同様の内容を伝えています」
幕僚長が、手元の電文を読み上げた。
「『目標艦、艦名を「晴風(はれかぜ)」と自称。所属は「横須賀女子海洋学校」。艦長は岬明乃と名乗る未成年の少女。敵対意思は確認できず、現在、本職の管理下において横須賀へ回航中』……とのことです」
「横須賀女子海洋学校……そんな学校、文科省のリストにも、教育委員会の名簿にも存在しないぞ」
松永司令官は眉をひそめ、腕を組んだ。
「司令官、これを見てください」
情報幕僚が、別の資料をモニターに映し出す。それは、"2016年に放送されていたアニメ作品"や、それに関連する架空の艦艇データだった。
「……我々の世界の『創作物』の中に、これと酷似した設定が存在します。しかし、目の前に浮かんでいるのは、全長118メートル、排水量2,000トンを超える『実在する鉄の塊』です。幻覚でも、CGでもない」
「きりしま」から送られてきた赤外線探知データ(IRST)や、P-1が測定したレーダー反射面積(RCS)は、その艦が紛れもない「実体」であることを証明していた。
「もしこれが……佐伯艦長が報告しているように『パラレルワールド』からの来訪者だとしたら、これは防衛省だけの問題ではないぞ」
松永は窓の外、自衛艦隊の護衛艦が並ぶ横須賀の港を見つめた。
「『永田町(首相官邸)』には連絡したか?」
「現在、防衛省の『市ヶ谷』経由で報告中です。おそらく、もうすぐ国家安全保障会議(NSC)が招集されるでしょう。……同時に、横須賀に母港を置くアメリカ海軍第7艦隊も、この異常な電波源とP-1の動きを察知しています」
「……だろうな。米軍が黙っているはずがない」
松永司令官は、決然とした口調で命じた。
「第8水上戦隊に対し、入港までの警備を最優先させろ。横須賀基地内、および周辺海域には報道陣も含め、一切の接近を許すな。入港先は、一般の目が届かない吉倉桟橋の最奥、あるいは米軍管轄エリアに近い場所を調整しろ」
司令官の脳裏には、数時間後にこの横須賀へ入港してくる「異世界の少女たち」と、それを待ち受ける「現実世界の冷徹な政治」が激突する光景が浮かんでいた。
「……岬明乃、と言ったか。かわいそうに。君たちが迷い込んだのは、君たちのいた世界ほど優しくはないかもしれないぞ」
松永の独り言は、騒然とする幕僚室の喧騒にかき消された。
2026年、横須賀。
かつてない「未知との遭遇」を前に、現代日本の防衛中枢は激しく揺れ動いていた。