ハイスクール・フリート Cross World War   作:冬吉

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第19話 永田町の苦悩

**東京都千代田区・永田町 首相官邸**

**地下 危機管理センター**

 

日本の政治と危機管理の中枢である官邸地下。強固な電磁シールドと分厚いコンクリートに守られた会議室に、国のトップたちが急遽招集されていた。

事態の異常性を鑑み、正規の国家安全保障会議(NSC)ではなく、総理、官房長官、防衛大臣、外務大臣、そして自衛隊トップの統合幕僚長のみという、極秘の「四大臣会合」形式が取られている。

 

巨大なモニターには、厚木基地から転送されてきたP-1哨戒機の映像と、護衛艦「きりしま」の立入検査隊が撮影した「晴風」甲板の映像が並んで映し出されていた。

セーラー服姿で怯える少女たちと、旧海軍の陽炎型駆逐艦。

 

重苦しい沈黙が会議室を支配する中、**高瀬(たかせ)内閣総理大臣**が、疲労の色が濃い顔を両手で覆い、深いため息を吐き出した。

 

「……神谷(かみや)防衛大臣。今日はエイプリルフールではないぞ。それに、我々は今、台湾海峡の緊張と中東情勢の対応で一分一秒を争っているんだ。防衛省と海自は、総理大臣をからかって遊んでいるのか?」

 

「総理、お気持ちは痛いほど分かりますが、これは正真正銘の『現実(リアル)』です」

**神谷防衛大臣**が、苦渋の表情で答えた。

「映像は未加工。各種センサーのデータも改ざんは不可能です。現在、伊豆大島沖にて第8水上戦隊が、この所属不明の武装艦――自称、横須賀女子海洋学校所属『晴風』を保護し、横須賀へ向けて護送中です」

 

「……平行世界(パラレルワールド)、だと?」

**菅野(すがの)内閣官房長官**が、手元の紙資料をペラペラと捲りながら信じられないというように呟いた。

「しかも、相手の歴史では日本は海に沈んでおり、あの未成年の少女たちが実弾を積んだ軍艦を運用している? アニメや漫画の企画書でも、もう少しマシな嘘をつくぞ」

 

「ですが、長官。現実に彼女たちは、我が国の汎用護衛艦や哨戒機に搭載されている水上レーダー(OPS-20/28)に極めて酷似した機器を装備しています。技術的にも、単なるレプリカではあり得ません」

制服組のトップである**黒川統合幕僚長**が、冷静に事実を突きつける。

 

「総理、事態は我々が『信じるか信じないか』というフェーズをとうに過ぎています。問題は、この『劇薬』をどう処理するかです」

 

黒川統幕長は、手元の端末を操作し、別の海図をモニターに表示させた。

横須賀周辺の海域図と、そこに点在する米軍艦艇のシンボルだ。

 

「現在、横須賀を母港とする米海軍第7艦隊は、台湾情勢を睨んで西太平洋へ展開中ですが、横須賀基地内や周辺海域には依然として強力な情報収集網が敷かれています。当然、伊豆大島沖での局地的な磁気嵐と、P-1や『きりしま』の不自然な動きは、すでに米軍の知るところとなっています」

 

「……アメリカは、我々が『隠し持っていた新型兵器』、あるいは『得体の知れないテクノロジー』を回収したと疑うだろうな」

高瀬総理が険しい顔で腕を組んだ。

 

「その通りです」

外務大臣が身を乗り出す。

「もし、あの艦が『異世界から来たオーバーテクノロジーの塊』、あるいは『未知の次元転移技術の産物』だとアメリカが知れば、日米安保条約を盾に、機体の共同調査――事実上の接収を強硬に要求してくるはずです。今の逼迫した国際情勢において、アメリカはそのようなジョーカーを他国に独占させるほど甘くはありません」

 

「中国やロシアの諜報機関に嗅ぎつけられるのも最悪のシナリオだ。日本の海自が、条約の網を潜り抜けて秘密裏に武装艦を建造していたなどと言いがかりをつけられかねん」

 

菅野官房長官の指摘に、会議室の空気はさらに重くなった。

 

少女たちを救った「晴風」の奇跡の生還は、現実世界(こちら)の日本政府にとっては、国家の存亡や外交バランスを根底から覆しかねない「最悪の時限爆弾」であった。

 

高瀬総理はしばらく目を閉じて沈思黙考した後、鋭い眼光を放って決断を下した。

 

「……菅野長官。本件に関するすべての情報を、『特定秘密保護法』に基づく『特定秘密』に指定する。防衛省、海自司令部、および接触した第8水上戦隊の乗員には最高レベルの箝口令(かんこうれい)を敷け」

 

「承知いたしました」

 

「黒川統幕長。第8水上戦隊には、予定通り横須賀へ入港させろ。ただし、白昼堂々の入港は避けるんだ。日没を待って、基地の最奥、民間や米軍の目が行き届かないエリアへ極秘裏に接岸させろ。上空のP-1や護衛艦のレーダー情報も、全てダミーデータで上書き偽装を行え」

 

「ハッ。直ちに手配します」

 

「それから、神谷大臣」

総理は、画面に映る明乃たち――不安そうに身を寄せ合う少女たちの姿を見つめた。

 

「相手は実弾を持った軍艦とはいえ、乗っているのは我々の国の子供たちと変わらない年齢の少女たちだ。強制的な拿捕や、人権を無視したような真似は絶対に許さん。丁重に保護し、万全のケアを用意しろ。……彼女たちから直接事情を聞くための、専門の『特命チーム』を直ちに編成するんだ」

 

「総理、特命チームの責任者はどうされますか?」

神谷防衛大臣の問いに、高瀬総理は少し考えた後、答えた。

 

「内閣情報調査室(内調)と、防衛省の情報本部から信頼できる人間を人選しろ。……我々は、あの少女たちが持ってきた『真実』と、正面から向き合わねばならん」

 

2026年の日本政府が、国家の威信と安全保障を懸けて動き出した。

日没の横須賀基地に向け、かつてない極秘ミッションの幕が上がる。

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