ハイスクール・フリート Cross World War 作:冬吉
2026年4月26日 10時30分
太平洋・伊豆大島東方沖
春の柔らかな日差しが、紺碧の海面に反射してキラキラと輝いている。
横須賀を母港とする海上自衛隊、最新の部隊改編によって産声を上げた第2水上戦群・第8水上戦隊は、この日、対潜戦を主眼とした艦隊訓練の真っ只中にあった。
艦隊の先頭を行くのは、その威容を誇る旗艦、イージス護衛艦**「きりしま(DDG-174)」。
その背後には、汎用護衛艦「むらさめ(DD-101)」と「おおなみ(DD-111)」が、波を切り裂きながら整然と追従している。さらにその数海里先では、最新鋭のそうりゅう型潜水艦「とうりゅう(SS-512)」**が、訓練のために浮上航行を行っていた。
「きりしま」の広大な艦橋。そこには、張り詰めた緊張感と、規律正しい自衛官たちの声が響いていた。
「右10度、戻せ。艦隊速力20ノットを維持」
落ち着いた、しかし重みのある声を出したのは、艦長の**佐伯 健二郎(さえき けんじろう)1等海佐(48歳)**だ。
「右10度、戻せ。速力20ノット維持、了解」
操舵員の復唱が響く。
佐伯の隣では、副長の**一ノ瀬 理沙(いちのせ りさ)2等海佐(40歳)**が、コンソールに表示されるデータに鋭い視線を送っていた。
「艦長、『とうりゅう』より入電。予定通りポイント・アルファにて潜航開始、これより対潜訓練第2フェーズへ移行します」
「よろしい。各艦に通達。ソナー感度を最大に、パッシブ・アクティブを併用して『とうりゅう』を追い詰めろ」
第8水上戦隊の面々は、まさに現代の海における「プロフェッショナル」の集まりであった。
【護衛艦「きりしま」主要幹部】
艦長:佐伯 健二郎 1等海佐(48歳)……冷静沈着なベテラン。部下からの信頼も厚い。
副長:一ノ瀬 理沙 2等海佐(40歳)……女性幹部の先駆け。緻密な状況判断に定評がある。
航海長:佐藤 弘樹 3等海佐(32歳)……気鋭の若手。艦の運用に関しては妥協を許さない。
砲雷長:松下 結衣 2等尉(27歳)……若くしてイージス艦の武器システムを任される才女。
【随伴艦・潜水艦 艦長】
「むらさめ」艦長:遠藤 拓海 2等海佐(43歳)
「おおなみ」艦長:新藤 エリカ 2等海佐(41歳)
「とうりゅう」艦長:梶 真之介 2等海佐(44歳)
その時、「きりしま」のCIC(戦闘指揮所)から、砲雷長の松下の緊迫した声が艦橋へ届いた。
『艦橋、こちらCIC! 異常事態発生! 方位1-8-0、距離12海里付近に、突如として強力な大気乱れを検知! 磁気嵐、および局所的な気圧低下が発生しています!』
「何だと? 気象庁の予報にはなかったはずだが」
佐伯が眉をひそめる。
「艦長! SPY-1D(レーダー)にノイズが混入。GPSの測位精度が急激に低下しています。これは……ただの嵐ではありません!」
航海長の佐藤が、狂い始めた計器を凝視しながら叫んだ。
さっきまで快晴だった南の空が、みるみるうちに不気味な紫色に変色していく。
「一ノ瀬、直ちに艦隊訓練を中止。各艦に警戒態勢を命じろ。特に『とうりゅう』には直ちに浮上を続けさせ……」
佐伯の指示が終わるより早く、海面が猛烈に盛り上がり、巨大な水柱が上がった。
――ゴォォォォォ……ッ!!
それは、2016年の海で「晴風」を飲み込んだものと同じ、時空を歪める「謎の嵐」だった。
「……ッ、総員衝撃に備え! 第1種戦闘配置!」
佐伯の声が響く。
だが、イージス艦「きりしま」の計器もまた、ハイフリの世界と同じように、狂った羅針盤のように回り始めていた。
「きりしま」の強力なレーダーが、一瞬だけ、その嵐の中心に「あるはずのない影」を捉えた。
「艦長! 嵐の中に船舶影を確認! ――これは……陽炎型駆逐艦!? なぜ、こんなところに……!?」
現代の水上艦隊が、かつての時代の名残を留める「晴風」と邂逅するまで、あとわずか。
2016年と2026年、二つの時空が伊豆大島沖で激突しようとしていた。