ハイスクール・フリート Cross World War   作:冬吉

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第20話 ”赤坂”の影

**神奈川県横須賀市・在日米海軍横須賀基地(CFAY)**

**第7艦隊司令部 作戦会議室**

 

日本政府が極秘裏に「晴風」の受け入れ準備を進めていたのと全く同時刻。

フェンスを一枚隔てた隣の敷地――在日米海軍の心臓部である第7艦隊司令部の地下、堅牢な防音扉に守られたSCIF(機密情報隔離施設)でも、緊迫した空気が張り詰めていた。

 

薄暗い室内の中央には、西太平洋から日本列島周辺を映し出す巨大な戦術モニターが青白い光を放っている。テーブルを囲むのは、カーキ色の夏服(サービス・カーキ)や迷彩服(NWU)に身を包んだ、米海軍の将官および高級将校たちだった。

 

「……冗談だろう、サラ。今日はハロウィンでもなければ、ハリウッドの映画監督が撮影許可を取りに来たという報告も受けていないぞ」

 

第7艦隊司令官の**トーマス・ヴァンス中将(VADM)**が、テーブルに放り出された数枚の高解像度写真を見て、呆れたようにこめかみを揉んだ。

写真には、旧日本海軍の陽炎型駆逐艦が、波を蹴立てて航行する姿が鮮明に写し出されていた。

 

「残念ながら、これはフェイク画像ではありません、司令官(アドミラル)」

第7艦隊情報部長(N2)の**サラ・ジェンキンス少将(RADM)**が、レーザーポインターをモニターに向けながら冷静に答えた。

 

「本日の午前10時30分頃、伊豆大島東方沖において、我が方の早期警戒衛星が突発的かつ極めて局地的な『強烈な電磁気嵐(EMPスパイク)』を探知しました。ほぼ同時刻、当該空域をパトロール中だった自衛隊のP-1哨戒機、および第8水上戦隊が、突如として出現したこの『正体不明艦』と接触しています」

 

「突如として出現、だと?」

作戦部長の**デイヴィッド・ミラー大佐(CAPT)**が眉をひそめる。

「レーダー網を潜り抜けたステルス艦というわけでもあるまい。こんな時代遅れの鉄の塊が、どこから湧いて出たと言うんだ?」

 

「それが最大の謎です」

ジェンキンス少将は手元のタブレットを操作し、さらに詳細な赤外線(IR)映像を表示させた。

「熱源探知の結果、この艦は間違いなく自力で航行しています。しかも、動力は現代のガスタービンでもディーゼルでもなく、蒸気タービンの可能性が高い。さらに奇妙なことに……」

 

ジェンキンスが画像を拡大すると、そこには「晴風」のマストが映し出された。

 

「船体こそ1940年代の代物ですが、マストには自衛隊が使用している水上捜索レーダー(OPS-28)に極めて酷似したアンテナが確認されました。また、通信傍受局(SIGINT)の報告によれば、この艦は自衛隊の護衛艦『きりしま』に対し、国際VHFで音声通信を行っています」

 

「音声通信? 暗号化されていないオープンチャンネルでか?」

ヴァンス中将が身を乗り出す。

 

「はい。しかも声の主は、十代の少女と思しき若い女性でした。自らを『ヨコスカ・ジョシ・カイヨウ・ガッコウ』の所属だと名乗ったそうです。……我々のデータベースには、そのような組織は存在しません」

 

作戦会議室に、異様な沈黙が降りた。

第二次大戦時の駆逐艦。現代のレーダー。謎の所属。そして少女の声。

どれもが現実離れしており、パズルのピースとして全く噛み合わない。しかし、米軍の強力な情報収集能力は、それが「紛れもない事実」であることを突きつけていた。

 

「……海上自衛隊の連中はどう動いている?」

ヴァンス中将が低い声で尋ねた。

 

「現在、第8水上戦隊が当該艦をエスコートし、ここ横須賀基地へ向かっています。間もなく日没と共に、一般の目から完全に隠れる吉倉桟橋の最奥部へ接岸する模様です。さらに……」

ミラー大佐が、忌々しそうに報告を継ぐ。

「先ほどから、市ヶ谷(防衛省)と自衛艦隊司令部の間のデータリンクが、最高レベルの暗号化に切り替わりました。日本政府は、この件に関して完全に『貝』になるつもりのようです」

 

「チッ……」

ヴァンス中将は舌打ちをし、腕を深く組んだ。

 

「台湾海峡では人民解放軍が空母打撃群を展開して演習を繰り返し、中東ではイランの核施設への軍事行動が秒読みの段階に入っている。第7艦隊(我々)の空母ジョージ・ワシントンも、対応のために西太平洋に釘付けだ。……こんなクソ忙しいタイミングで、同盟国(日本)が裏庭で秘密のオモチャ遊びをしているとはな」

 

将官たちの脳裏には、最悪の疑念が渦巻いていた。

日本は日米安保条約の枠組みを無視し、秘密裏に未知の技術体系を持つ実験艦を建造していたのではないか? 旧式の船体は、高度なステルス技術や新兵器を偽装するためのダミーではないのか?

 

「司令官。日本政府が我々に情報を隠匿し、単独でこの未知の艦艇(テクノロジー)を独占しようとしているのであれば、由々しき事態です」

ジェンキンス少将が冷徹な声で進言する。

 

「ああ、分かっている」

ヴァンス中将は立ち上がり、モニターに映る「晴風」と、それを囲む海自の護衛艦の映像を睨み据えた。

 

「この第7艦隊の作戦海域(AOR)において、アメリカの目と耳から逃れられる秘密など存在しない。ただちにペンタゴン(米国防総省)と駐日アメリカ大使にホットラインを繋げ。そして、自衛艦隊司令部の松永司令官に直接会談を申し入れろ」

 

ヴァンス中将の眼光が、猛禽類のように鋭く光る。

 

「日本政府が何を隠そうとしているのか、そのベールを引っぺがしてやる。場合によっては、日米地位協定と安保条約を盾に、あの艦への米軍調査団の立ち入り――『事実上の接収』を要求する。極東のパワーバランスを揺るがすジョーカーを、彼ら単独に握らせておくわけにはいかんからな」

 

2026年、横須賀。

時空を超えてやってきた少女たち「晴風」を巡り、水面下で大国同士の冷酷な情報戦と外交カードの切り合いが、今まさに火蓋を切ろうとしていた。

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