ハイスクール・フリート Cross World War   作:冬吉

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第24話 今後の晴風

全員がスモークガラスの貼られた大型マイクロバスに乗り込むと、低いディーゼルエンジンの駆動音が響き、車体はゆっくりと夜の横須賀基地内を走り始めた。

 

車内は、ブルーマーメイドの指定ジャージやセーラー服に身を包んだ少女たちの熱気と、先ほどまで海の上にいたことによる微かな潮の香りで満たされていた。

**明乃(ミケ)**の膝の上では**五十六**が「ぬぅ」と丸くなり、隣に座る**ましろ(シロ)**の腕の中では、子猫の**多聞丸**が安心したようにスースーと寝息を立てている。

 

バスの最前列、運転手のすぐ横の席に座っていたスーツ姿の男性が、静かに立ち上がり、乗客である少女たちの方へと向き直った。

 

「申し遅れました。私は内閣情報調査室の**刈谷(かりや)**と申します。皆様の保護と、本件の調査を担当する特命チームの責任者です」

 

冷徹で感情の読めない顔つきだが、その声はなるべく彼女たちを威圧しないよう、穏やかなトーンに調整されていた。

 

「皆さんが乗っていた『晴風』ですが……」

 

刈谷がその名前を出した瞬間、車内の空気がピリッと張り詰めた。

機関長の**マロン(柳原麻論)**が身を乗り出し、水雷長の**メイ(西崎芽依)**や砲術長の**タマ(立石志摩)**も、不安そうに刈谷の口元を見つめる。

 

「安心してください。我々も、決してあの艦を解体しようとは考えていません」

 

その言葉に、車内に小さく「ふぅっ……」という安堵の吐息が広がった。

 

「ただし」と、刈谷はメガネのブリッジを中指で押し上げながら言葉を続ける。

「あの艦の存在は、現在の日本政府……いえ、国際社会において、あまりにも特異すぎます。万が一、外国の諜報機関やメディアに嗅ぎつけられれば、取り返しのつかない国際問題に発展しかねません。したがって、晴風は一旦、政府が管轄する完全非公開のドックへと入渠(にゅうきょ)させ、世間の目から完全に隠します」

 

「世間の目から隠す……。つまり、我々は艦(ふね)を取り上げられるということか」

ましろが、多聞丸を撫でる手を止め、鋭い視線を刈谷に向けた。

 

「一時的な措置です、宗谷副長。艦への立ち入りや整備が必要であれば、我々の監視下という条件付きで許可を出すよう手配しましょう。……現在、日本政府内では、今回の事案――つまり、異なる歴史を歩んだ世界からの来訪者である皆さんを、どう対処すべきか、最高レベルでの検討が重ねられています」

 

「……」

明乃は、五十六の背中を撫でながら、じっと刈谷の言葉に耳を傾けていた。

 

「皆さんの身元保証、生活環境の整備、そして何より……皆さんが元の世界へ帰る方法が存在するのかどうか。我々政府も、各分野の専門家を総動員して調査に当たります。ですから、今はどうか我々を信用し、指示に従ってください」

 

刈谷の言葉は事務的であったが、それでも「帰る方法を調査する」という一言は、不安のどん底にいた晴風の乗員たちにとって、暗闇に差し込んだ一筋の光だった。

 

「……刈谷さん」

明乃が、真っ直ぐな瞳でスーツ姿の男を見据えて口を開いた。

 

「ありがとうございます。晴風は、私たちの大切な家族で、家なんです。だから、壊さないって言ってくれて、本当に嬉しいです」

 

「……」

刈谷は、予想外に素直で礼儀正しい明乃の言葉に、ほんの少しだけ目を見張り、そして小さく頷いた。

 

「岬艦長……岬さん。我々も、皆さんのような未来ある学生に、これ以上の過酷な運命を背負わせるつもりはありません。本日は、基地内に用意した専用の宿泊施設へご案内します。温かい食事とベッドを用意してありますから、まずはゆっくり休んでください」

 

バスは、巨大な護衛艦群が並ぶ吉倉桟橋を後にして、厳重な警備が敷かれた基地のさらに奥深くへと進んでいく。

窓の外には、サーチライトに照らされた高いフェンスと、自動小銃を携行した警務官たちの姿が等間隔で並んでいた。

 

「……フッ、ついに我々は、国家の最深部たる『鳥籠』へと収容されるのだな。だが、この籠の中でただ大人しくしている私たちではない……! いつか必ず、元の海へ還るための反撃の狼煙(のろし)を上げるのだ!」

記録員の**ココ(納沙幸子)**が、タブレットを抱きしめながら小声で一人芝居を呟く。

 

「ココちゃん、今は反撃とか言っちゃダメだってばぁ……また怒られちゃいますぅ……」

航海長の**リン(知床鈴)**が涙目でココの袖を引っ張った。

 

「ぶち心細いのは皆同じじゃ。じゃが、シュペーの誇りに懸けて、わしらは負けんけぇね!」

オブザーバーの**ミーナ(ヴィルヘルミーナ)**が、腕を組んで力強く頷く。

 

「……艦長。私たち、本当にこれからどうなるんだろうな」

ましろが、隣の明乃にだけ聞こえるような小さな声でこぼした。

 

明乃は、ましろの肩にコテンと自分の頭を乗せ、柔らかく微笑んだ。

「大丈夫だよ、シロちゃん。みんな一緒だもん。それに……明けない夜はないって、言うでしょ?」

 

2026年の横須賀。

日本政府の「保護」という名の隔離下に置かれた、31名の少女たちと1人の留学生、そして2匹の猫。

彼女たちの、全く新しい世界での過酷なサバイバルと、帰還への長く険しい道のりが、今ここに幕を開けた。

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