ハイスクール・フリート Cross World War 作:冬吉
厳重なゲートをいくつか通り抜け、基地の奥深くへと進んだマイクロバスが、静かにエンジン音を落として停車した。
「到着しました。降りてください」
内閣情報調査室の刈谷に促され、明乃たちはバスのステップを降りた。
目の前にそびえ立っていたのは、コンクリート造りの無機質だが、清潔感のある巨大なマンションのような建物だった。規則正しく並んだ窓からは、温かみのあるオレンジ色の明かりが漏れている。
「ここは……?」
**ましろ(シロ)**が、腕の中の多聞丸をあやしながら尋ねる。
「海上自衛隊の横須賀基地内にある、隊員宿舎です」
刈谷がバスから降り立ち、建物を見上げながら説明した。
「当初、政府内では皆さんをここから離れた『防衛大学校』――我々の世界の幹部自衛官を養成する機関の施設へ移送し、隔離する案が出されていました。設備も整っており、警備面でも都合が良かったからです」
「防衛大学校……わしらの世界でいう、エリートの養成機関じゃな」
**ミーナ**が腕を組みながら呟く。
「ええ。ですが……」
刈谷は、不安そうに身を寄せ合う晴風の乗員たちに視線を移した。
「見知らぬ世界の、さらに見知らぬ山上の施設へと押し込められれば、皆さんの不安はより一層募るだろうと、我々のチームで判断しました。ここ基地内の隊員宿舎であれば、窓から港の海も見えますし、何より皆さんの『晴風』と同じ敷地内に留まることができますから」
刈谷のその言葉には、冷徹な政府の役人というだけではない、彼女たちへの確かな配慮が滲んでいた。
「刈谷さん……」
**明乃(ミケ)**は、肩の五十六を撫でながら、パァッと明るい笑顔を浮かべた。
「ありがとうございます! 海が近くて、晴風と同じ場所にいられるなら、みんなも安心できます!」
「……フッ、冷酷なる政府の狗(いぬ)かと思いきや、案外血の通った采配をするではないか。ならばこの『横須賀・仮設ベースキャンプ』、ありがたく使わせてもらうとしよう……!」
**ココ(納沙幸子)**がタブレットを掲げてポーズを取る。
「ココちゃん、役人さんに向かって狗とか言っちゃダメですぅ!」
**リン(知床鈴)**が慌ててココの口を塞ぐ。
「わぁ、すごく綺麗な建物! お風呂とかすっごく広いのかなー!?」
**メイ(西崎芽依)**が宿舎を見上げて目を輝かせる。
「うぃ。早く、ベッドで横になりたい」
**タマ(立石志摩)**も、重い荷物を持ち直しながら小さくあくびをした。
「ほら、あまりはしゃぐな。ここは自衛隊の施設だぞ」
ましろが副長として皆をたしなめるが、防衛大学校への移送という最悪の隔離を免れたことで、彼女の表情も先ほどよりずっと和らいでいた。
「では、中へ案内します。皆さんが使用するフロアは、他の自衛隊員からは完全に隔離して貸し切り状態にしています。日用品や着替えのジャージ、それに……」
刈谷は、明乃とましろが抱いている二匹の猫をチラリと見て、少しだけ口元を緩めた。
「猫用のトイレとキャットフードも、急ぎで調達させておきました」
「本当ですか!? さすが刈谷さん、気が利くー!」
主計科の**ミミちゃん(等松美海)**や**みなみさん(鏑木美波)**たちが、ぱっと顔を輝かせる。
「てやんでえ! 役人のおっさんも、案外いいとこあるじゃねえか!」
機関長の**マロン(柳原麻論)**が親指を立てて笑うと、幼馴染の**クロちゃん(黒木洋美)**が「もう、麻論ったら失礼だよ!」と慌ててその腕を引いた。
「……まりこー、ほら、行こう」
「ええ、かよちゃん、りっちゃん。未来の軍隊の宿舎……少しだけ、興味がありますわ」
水雷員の**かよちゃん(姫路果代子)**と**りっちゃん(松永理都子)**に挟まれながら、**まりこうじさん(万里小路楓)**も優雅に微笑んで歩き出す。
「さあみんな、今日はいっぱいお風呂に入って、美味しいご飯を食べて、ゆっくり休もう! 明日のことは、明日また考えればいいよ!」
明乃の元気な号令で、晴風の乗員31名とミーナ、そして二匹の猫は、案内されるがままに海上自衛隊の隊員宿舎へと足を踏み入れた。
未知の未来、異世界での初めての夜。
大きな不安と少しの安堵を抱えながら、少女たちはこの「2026年の横須賀」で、静かに羽根を休めるのだった。