ハイスクール・フリート Cross World War 作:冬吉
刈谷に案内され、晴風の乗員たちが隊員宿舎の広々としたロビーに足を踏み入れると、そこにはすでに二人の人物が直立不動で待機していた。
青色、灰色、黒色が複雑に混ざり合った海上自衛隊のデジタル迷彩服(作業服)に身を包んだ、20代の女性自衛官たちだ。足元は黒い半長靴(ブーツ)で固められており、左腕には階級章が縫い付けられている。
「刈谷室長、お疲れ様です」
少し背が高く、後ろで髪を一つに束ねた凜とした顔立ちの女性自衛官が、刈谷に向けて敬礼をした。隣に立つ、ショートヘアで少しあどけなさの残る若い女性自衛官もそれに倣ってピシッと敬礼する。
「ああ、待たせたな。彼女たちが、今回保護された『晴風』の乗員たちだ」
刈谷は敬礼を返し、明乃たちへと向き直った。
「皆さんのこの施設での生活全般の案内や、何かあった際の相談、そして我々特命チームへの報告連絡を専任で担当する二人です」
その紹介を受け、二人の女性自衛官は明乃たちに向き直り、今度は少し柔らかい表情で微笑んだ。
「初めまして! 横須賀地方総監部から皆さんのサポート役として派遣されました、**水瀬 遥(みなせ はるか)1等海曹**です。年齢は28歳、皆さんの少し年上のお姉さんだと思って、リラックスして接してくださいね」
「同じくサポートを担当します、**橘 琴音(たちばな ことね)3等海曹**、23歳です! お風呂の案内からパジャマのサイズ交換、ご飯のおかわりまで、生活の事なら何でも私たちに言ってください!」
重苦しい政府の役人や、先ほどの物々しい立入検査隊とは打って変わって、明るく親しみやすいお姉さんたちの登場に、晴風の乗員たちの間にホッとした空気が流れた。
「艦長、どうやら彼女たちが私たちの直接のお世話係になってくれるようだな」
副長の**ましろ(シロ)**が、腕の中の子猫・多聞丸を撫でながら、隣の明乃に小さく声をかける。
「うん! 水瀬さん、橘さん、よろしくお願いします! 私は艦長の岬明乃です!」
**明乃(ミケ)**は元気よくブルーマーメイドの敬礼をして、パァッと花が咲いたような笑顔を向けた。
その瞬間、橘3曹の視線が、明乃の肩で「ぬぅ」と鳴く五十六と、ましろの腕の中で丸くなる多聞丸に釘付けになった。
「わぁっ……! 刈谷さんから猫ちゃんも一緒だと聞いてはいましたけど、すっごく可愛いですね! こっちの大きい子はトラ柄で、小さい子は……」
橘3曹が目を輝かせて身を乗り出すと、水瀬1曹が「こら、橘。まずは皆さんを部屋に案内するのが先でしょ」と苦笑いしながら軽くたしなめる。
「あ、すみません! 猫、大好きなのでつい……!」
橘3曹が照れ笑いをして頭を掻くと、その親しみやすい空気に、警戒していた機関科の面々も少し表情を和らげた。
「なんだ、未来の軍隊のお姉さんたちも、普通の女の人なんだな。」
機関長の**柳原麻論(マロン)**が、腕を組んでフッと笑う。
「もう、麻論。失礼なこと言っちゃダメじゃない。」
幼馴染の**黒木洋美(クロちゃん)**が、麻論の背中を軽く突いた。
「まりこー、良かったね。優しそうな人たちで」
水雷員の**姫路(かよちゃん)**が安堵の息を漏らすと、**万里小路楓(まりこー)**はおっとりと微笑んで頷いた。
「ええ。ですが、あの迷彩服の着こなし……無駄のない動き。ただ優しいだけの方々ではなさそうですわ」
万里小路の言う通り、水瀬1曹と橘3曹は親しみやすい笑顔を浮かべてはいるが、その姿勢や身のこなしには、厳しい訓練を積み重ねてきた本物の自衛官としての芯の強さが現れていた。彼女たちはただの世話係ではなく、この異世界から来た少女たちを「護衛」し、同時に「監視」するプロフェッショナルでもあった。
「では、皆さんの部屋割りや、食堂、大浴場の場所を案内しますね」
水瀬1曹が、束ねた資料を手に取りながら優しく声をかけた。
「皆さんが使うフロアには、娯楽室や洗濯機もあります。生活に必要なアメニティや着替えはすでに各部屋に用意してあります。今日は色々と信じられないことが起きて、心も体もクタクタだと思います。まずは温かいお風呂に入って、ゆっくり休んでください」
「お風呂! やったー!」
水雷長の**西崎芽依(メイ)**が両手を上げて飛び跳ねる。
「うぃ。早く、お湯に浸かりたい……」
砲術長の**立石志摩(タマ)**も、目をこすりながら賛同した。
「わしら異世界の人間を、ここまで歓待してくれるとは。未来の日本も捨てたもんじゃないのう!」
オブザーバーの**ミーナ**が、満足げにふんぞり返る。
刈谷はそんな彼女たちの様子を無言で見届けると、「あとは頼む」と水瀬たちに告げて、夜の基地へと戻っていった。
「さあ、みんな! 水瀬さんと橘さんについていこう!」
明乃の号令で、晴風の乗員たちは二人の女性自衛官の後に続き、隊員宿舎の奥へと進んでいく。長い一日が、ようやく終わりを告げようとしていた。