ハイスクール・フリート Cross World War 作:冬吉
カレーのおかわりも落ち着き、食後の温かいお茶(と、ミーナにはコーヒー)が配られて、食堂がすっかりくつろいだ空気に包まれた頃。
橘3曹が、ふと思い立ったように楽しげな声を上げた。
「ところで皆さん。今日、皆さんが最初に会った護衛艦『きりしま』ですが……あんなに大きな船に、何人の乗員が乗っていると思いますか?」
唐突なクイズに、晴風の乗員たちは顔を見合わせた。
「うーん……」
艦長の**明乃(ミケ)**が腕を組んで天井を見上げる。
「晴風は私たち32人(現時点でミーナを含め)(と猫2匹)だから……あんなに大きなお城みたいな船だし、倍くらいかな? 50人!」
「未来の船ですから、機械が全部やってくれるんじゃないですか?」
主計長の**等松(ミミちゃん)**が首を傾げる。
「うぃ。ボタン一つで動く。だから、意外と少なくて40人」
砲術長の**タマ(立石志摩)**も同調する。
「武蔵のような超大型直接教育艦でも、高度な自動化のおかげで運用人数は極限まで絞られているからな」
副長の**ましろ(シロ)**が、ブルーマーメイドの常識に照らし合わせて推論を立てる。
「ましてや10年後の未来の艦だ。いくら巨体とはいえ、無人化技術が進んでいるはず。多く見積もっても……80人といったところではないか?」
『てやんでえ! いくら機械が凄くたって、あのデカさのタービンを動かすなら人手は要るぜ! アタシは100人だ!』
機関長の**マロン(柳原麻論)**がドンッと机を叩いて自信満々に答える。
少女たちの解答が出揃ったところで、水瀬1曹がクスッと笑い、ゆっくりと首を横に振った。
「皆さん、残念。正解を言いますね」
水瀬は姿勢を正し、ハッキリとした声で告げた。
「護衛艦『きりしま』には、佐伯艦長を含め、**300名**の隊員が乗艦しています」
「「「「「さ、さんびゃくにんぇぇぇっ!?」」」」」
食堂中に、晴風乗員たちの素っ頓狂な叫び声が響き渡った。
明乃は目を丸くして口をポカンと開け、リンは驚きのあまり椅子から転げ落ちそうになっている。
「さ、300人!? 晴風の10倍じゃん!」
水雷長の**メイ(西崎芽依)**が指を折って数えようとしてパニックになる。
「ちなみに」と、水瀬がさらに追い打ちをかけるように微笑んだ。
「海上自衛隊最大の護衛艦である『いずも』型護衛艦となると……航空機の整備員や司令部要員を含めれば、最大で**520名**になる事もあります」
「ご、ごひゃく……」
ましろが頭を抱えてテーブルに突っ伏した。
「信じられない……。私たちの世界では、艦艇の自動化が極限まで進められていて、晴風のような陽炎型でも30名のクラス単位で完全運用が可能なシステムになっているというのに……。未来の……いや、この世界の軍艦は、どうしてそれほどまでに大量の人員を必要とするんだ?」
ましろの的確な疑問に、水瀬1曹は真剣な表情で答えた。
「宗谷副長の言う通り、現代の自衛艦もシステム面では高度に自動化されています。ですが、我々の艦は『戦闘』を前提としています。万が一ミサイルや魚雷を被弾した時、機械は火を消せませんし、浸水も食い止められません。ダメージコントロール(応急修理)を行いながら戦い続けるには、どうしても『人の手』と『数』が必要なんです」
「……応急修理。そっか、だから300人も……」
応急長の**和住(ひめちゃん)**が深く頷いた。
「それに、24時間体制でレーダーを監視し、ソナーの音を聞き分け、機関を維持するためには、交代要員も不可欠ですからね」
橘3曹が補足する。
「……フッ。たった30名で荒波を乗り越えてきた我ら晴風の乙女たちは、この世界基準で言えば、一騎当千のスーパーエリート部隊ということか……!」
記録員の**ココ(納沙幸子)**が、タブレットの光を顔に当ててドヤ顔を決めた。
「そういう見方もできますね。事実、皆さんの年齢であの船を動かしている映像を見た時、我々自衛官は全員、目を疑いましたから」
水瀬が感心したように明乃たちを見渡す。
「300人の家族……」
明乃は、自分の肩で丸くなっている五十六を撫でながら、ポツリと呟いた。
「艦長さんは、300人全員の顔と名前、覚えてるのかな。……すごいなぁ、佐伯艦長さん」
同じ海を走る船でも、世界が違えばその運用思想も、乗っている人数も全く違う。
驚きと共に、明乃たちは「2026年の現実(リアル)」の重みとスケールの大きさを、また一つ肌で感じるのだった。